議決権電子行使プラットフォーム等の運営

機関投資家のメリット

機関投資家の参加メリットとして、以下の4点が考えられます。

ポートフォリオの一元管理

プラットフォームに参加する機関投資家は、前述のとおり、専用の行使画面を利用して行使指図を行います。当該サイトは、1回のログインで機関投資家が保有するすべての参加発行会社の総会情報にアクセスでき、ログインとログアウトを繰り返す必要がありません。画面上には株式を保有する発行会社のみが一覧表示され、会社名をクリックすると発行会社の株主総会に係る保有口座ごとに権利株数の確認と行使指図ができます。

また、機関投資家は保有口座および権利株数の確認作業を前倒しして着手することが可能となります。従来、これらの確認作業は招集通知発送日の直前に行われていましたが、保有銘柄の基準日の概ね10日後からプラットフォームより提供されるCSVファイルによって進めることができ、作業負担の分散化が可能となりました。

STP実現による議案検討期間の拡大

プラットフォームでは、機関投資家は招集通知発送日の当日から指図を開始することができます。加えて、行使指図の結果は直接株主名簿管理人へ送信されるため、発行会社が定める行使締切日まで指図が可能です。したがって、機関投資家は従来に比べ、議案検討に十分な期間を確保できるようになります。

行使状況の確認機能

プラットフォームを経由する行使指図の内容は、すべてサイト上に記録されるため、機関投資家はいつでもその内容を確認することができます。また、送信状況についても正しくシステム処理されたかどうか随時確認できることから、従来の書面行使と比べて、特にトレーサビリティの面が大きく改善しました。

集計.レポート作成支援

機関投資家は行使指図した内容を、任意に設定した条件にそって集計することができます。このレポートはエクセル形式等の電子媒体としてダウンロードしたり、紙媒体に出力したりすることができます。

 

発行会社のメリット

一方、発行会社の主なメリットとしては、以下の4点が考えられます。

行使結果の早期把握

発行会社からみたプラットフォーム経由の機関投資家票の積み上がり方は発行会社の株主構成により違いはありますが、グラフ化すると概ね〔図表1〕のようになります。書面行使の場合、機関投資家票は総会直前の行使がほとんどで、発行会社が賛否動向を早期に把握するのは困難です。プラットフォームでは、株主名簿管理人に1日2回、行使指図の結果(経過)を送信するため、例えば同一株主名義の中でも日々行使個数が増えていく様子まで確認することができるなど、発行会社は行使結果を早期に把握することが可能になります。

プラットフォームは議決権行使結果を株主名簿管理人に送信する仕組みですが、多数の参加発行会社より、直接情報提供をして欲しいとの要望を受けていたことから、2008年3月総会より、プラットフォーム経由の議決権行使結果を独自加工したデータをもとに速報値として直接ウェブで提供する「ICJオンライン」を稼動させました。

当サイトでは、議案ごとや名義株主ごとの賛否動向の集計、議決権行使個数の推移状況等を1日2回提供しています。機関投資家に絞り込んだ議案ごとの賛否動向の把握がより簡単に行えるようになったことから、株主総会運営の効率化に役立っているとの評価を頂戴しています。

〔図表1〕プラットフォームにおける機関投資家票の推移のイメージ

〔図表1〕プラットフォームにおける機関投資家票の推移のイメージ
 

情報発信の充実

近年、発行会社が総会期間中にプラットフォームや自社のウェブサイト、あるいは証券取引所のTD-net等を通じて、招集通知の追加情報を掲載する事例がみられるようになりました(〔図表2〕)。
プラットフォームでは、発行会社が追加情報の掲載を希望する場合、追加文書を受領してから原則24時間以内に行使画面を通じて実質株主に伝達することが可能です。招集通知の訂正をウェブサイト上で連絡するウェブ修正を行う場合や、反対票に備えて法定外の補足説明資料を作成する場合など、情報を速く確実に実質株主に届けたい発行会社にとって、プラットフォームは最適な媒体といえます。

〔図表2〕主な追加情報の例

1 取締役選任議案に関する補足説明
2 役員退職慰労金廃止に伴う打ち切り支給に関する補足説明
3 助言会社の反対推奨に対する補足説明(監査役選任)
4 特定役員の再任反対表明に対する意見表明(取締役選任)
5 社外監査役候補者の独立性に関する補足説明
6 ストックオプションとして新株予約権を発行する件について
7 取締役の報酬枠改定の件
  • プラットフォーム取扱い分。各文書の表題は修正を加えています。
 

株主サービスの充実

機関投資家のメリットでも述べたとおり、プラットフォームは機関投資家にこれまで以上の議案の検討時間を提供します。いいかえれば、発行会社がプラットフォームに参加することで機関投資家の行使環境が改善されることから、株主サービスの充実を図る機会となります。

なお近年、機関投資家は賛成票を投じる際にも合理的な理由が求められるといわれています。議案検討に十分な時間と情報がない場合、反対票を投じざるを得ないケースが増えてきたとの指摘があります。
この傾向は、2010年からスタートした国内機関投資家による議決権行使指図結果の公表の影響もあって、今後ますます強まっていくと考えられます。その意味では、プラットフォーム参加を通じた株主サービスの充実は、発行会社にとっても、本来の議案の内容ではない、不本意な理由による反対票のリスクを軽減する取組みにもつながると考えられます。

 

電子投票の利用率の改善

わが国では、2002年より株主総会における電子投票制度がスタートしましたが、当該制度を採用する発行会社はプラットフォームが稼動を開始した2006年以降に大きく増えることとなりました。2011年6月時点のICJ集計では、電子投票制度(議決権行使のIT化)を採用する発行会社は国内全体では約640社程度とみられますが、そのうち約6割(390社)がプラットフォームとの併用です。

電子投票制度は、株主名簿上の株主に対してアクセス権が付与されるため、名義株主ではない機関投資家が利用することはできず、株主名簿管理人が運営する電子投票システムの利用者は個人株主が中心にならざるを得ませんでした。

しかし、機関投資家がプラットフォームを経由するかたちで電子投票システムを利用できるようになったことから、プラットフォーム採用会社においては議決権行使に占める電子投票の割合が飛躍的に向上することとなりました。