上場会社トップインタビュー「創」

“勝てるビジネスモデル”をひっさげて 業界ナンバーワンを目指す

株式会社ウォーターダイレクト(2016年7月1日より株式会社プレミアムウォーターホールディングスに商号変更)
伊久間 努

家庭にターゲットを絞った宅配水で市場を開拓

伊久間 努(株式会社ウォーターダイレクト)インタビュー写真

 世界的に見て、日本は水道の水をそのまま飲用することのできる数少ない国のひとつだ。ひと昔前までは日本の水は安全で美味しく、無料で飲めるものだと誰もが思っていた。しかし時代が進むにつれ、水質汚染やカルキ臭への懸念からミネラルウォーターの需要が増加。2000年代に入ってからは据置型の給水装置=ウォーターサーバーも普及し始め、重い水を配送してもらえる、冷水と温水を瞬時に出せる、大量のペットゴミを出さずに済むなどの利便性から市場を広げている。そんななか創業から7年で業界4位にまで上り詰め、今年3月にマザーズ上場を果たしたのが株式会社ウォーターダイレクトだ。

「2006年当時の水市場規模は2500億円くらいで、小売店で売られるボトルドウォーターの市場はもう成熟期に入っていました、ただし宅配水の割合はまだ10%程度で業界にも絶対的な大手がいなかった。競合他社もほとんどがオフィスや公共施設などを中心に事業展開していたので、この分野なら家庭向けの市場を開拓していけるんじゃないか、勝てる可能性があるんじゃないかと思いました」

 代表取締役執行役員社長を務める伊久間努さんは、そう言って7年前を振り返った。宅配水ビジネスを始めるに当たり、まずは自宅にウォーターサーバーを入れてみたが「最初は家族に嫌がられた」と快活に笑う。

「こんな大きな物を置いてどうするの、と。一般的にも、当時はそれがウォーターサーバーに対する印象だったと思います。でも実際に使ってみると便利でお水は美味しい。子供たちも喜んで飲むようになって、冷蔵庫にあったジュース類が水へとシフトしていったんです。なるほど水というのは追加で買うものじゃなく、美味しければ他の飲料からシフトできるものなのか、これは面白いと思って、水を飲むことを習慣にできれば宅配水は高い継続率を維持できるんじゃないかと考えました。そこで、これをビジネスモデルの根幹に置くことにしたんです」

 当時、主なベンチャーキャピタリストからの出資を集め切った状態だったウォーターダイレクトは、足りない資金を調達するために説得力のある事業計画を立てる必要があった。伊久間さんは継続率に対するシミュレーションを繰り返し、宅配水ビジネスの顧客ストック力と成長力を算出していったという。

「もともと新たなビジネスモデルを考えたり、他業種の成功例を分析したりするのが好きなので苦にはなりませんでしたね。プランを立てていくうちに私自身のなかでも、これはうまくやればアジアナンバーワン、世界ナンバーワンを狙えるかもしれない、とどんどん意欲が湧いていきました」

弱点の克服とコストダウンを両立させた“ワンウェイ方式”

伊久間 努(株式会社ウォーターダイレクト)インタビュー写真

 ウォーターダイレクトが提供するのは、富士山麓の地下約200メートルからくみ上げた天然水『クリティア25*』だ。ミネラルバランスが良く味に癖のないアルカリ性の軟水で、これを自社工場で濾過殺菌し、12リットルのワンウェイボトルに詰めて宅配便で届けている。宅配水といえば固いポリカーボネート素材のボトルを繰り返し使うリターナブル方式が当たり前だった市場において、このシステムは画期的な試みだった。

「リターナブル方式にすると発送と回収にトラックとドライバーを用意しなければならず、全国を網羅する配送拠点と膨大な固定費が必要になります。当社のようなベンチャーがそれをやっていたら、競合他社に追いつくまでに何年もかかってしまう。でも宅配便を使えば配送にかかるコストを変動費化できるので、先行資金をもっと別の部分、他社との差別化を図るためのプラスアルファに当てることができます。そこでまずは使い切りで処分できるワンウェイボトルを作ろうと考え、素材にはポリエチレンテレフタレート、いわゆるペットを使うことにしました。そして大きなペットボトルを潰す負担をお客さまにかけずに済むよう、形状を水の減少とともに収縮する蛇腹型にして最後はぺしゃんこになるようにし、そのまま処分していただけるようにしました」

 さらにボトルをセットするウォーターサーバーも独自に開発。タンク内に細菌を繁殖させる元となる外気の侵入を防ぎ、常に清潔な状態を保てる構造にすることで訪問メンテナンスの必要性をも排除した。この技術において同社は特許を取得しているが、ここへ至るまでは試行錯誤の連続だったという。

「なにしろウォーターサーバーというのは海外で普及してきたものなので、国内には“その道のプロ”といえる技術者がほとんどいないんです。仕方がないので他業界のメカ技術者を集めてはみたものの、エアコンに強いからといってウォーターサーバーも作れるというわけにはいかない。素人集団も同然の状態でしたから本当に失敗続きで、約1億円を投じて開発を進めた案件が丸々無駄になったこともありました。その頃は、映画『がんばれ!ベアーズ』のようでしたよ(笑)」

伊久間 努(株式会社ウォーターダイレクト)インタビュー写真

 大変な苦労話をまるで他人事のように、カラカラと笑いながら話す伊久間さん。開発にかかる費用を思えば年に一度のメンテナンスくらいは妥協してしまいそうなものだが、実はこの徹底したワンウェイ方式にはもうひとつの理由があった。

「そもそもクリティアは水の非加熱殺菌にこだわっていて、大自然のなかで清流の水を飲んだときのような、生の天然水の美味しさをお届けしたいと思っているんです。このコンセプトを大切にするためにも、目の細かいフィルターで濾過したうえで菌の侵入を防ぐサーバーにセットするという2段階構造にし、水の鮮度をできるだけ劣化させないようにしています」

 3種類のフィルターで濾過する非加熱殺菌もまた、業界で主流の加熱殺菌に比べればコストも手間もかかる。徹底したワンウェイ方式で配送コストを最小限に抑えつつも高品質を叶えるためのコストは惜しまないというバランス感覚は“成功するビジネスモデル”として自社のサービスを構築しようと考える彼ならではのものだろう。これまで宅配水では、配送のたびに業者を家に入れることや空ボトルを回収まで取っておかねばならないことに不満を抱く利用者も少なくなかったが、ワンウェイ方式はそうしたデメリットをも解消し、高い顧客満足度を実現している。

顧客数を大幅に伸ばしたデモンストレーション販売

伊久間 努(株式会社ウォーターダイレクト)インタビュー写真

 創業当時は「先行資金との追いかけっこだった」というウォーターダイレクトが、業務を軌道に乗せるチャンスをつかんだのは2007年秋。顧客数拡大の最初のきっかけは、ヨドバシカメラでのデモンストレーション販売だった。

「初めは宅配水ビジネスの定石に習ってガス会社に代理店をお願いしていたんですが、それではガス契約者以外のお客さまにまで広めるのは難しい。そこでADSLのモデムを広めたときのソフトバンクのビジネスモデルを参考に、ヨドバシカメラで試飲販売を行いました。実際にウォーターサーバーを見てもらい、水を飲んでもらって、興味を持たれたお客さまには無償でサーバーを貸し出すという方法です。そうしたら、それまでは月に100〜200件の契約数だったのが初日の1日だけで70件取れた。これだ、もうこれしかないと、試飲販売を家電量販店から百貨店、ショッピングセンターへと広げていきました。いまはインターネットでお申し込みされるお客さまも増えていますが、やはり事前に実物を見て飲んでみて、ウォーターサーバーの大きさや水の美味しさに納得して契約していただく方が解約率が低くなるので、現在でも年間に延べ16300回の試飲販売を実施しています」

 そして次のブレイクポイントは、やはり2011年の東日本大震災だった。当時、上場へ向け準備を進めていた伊久間さんは「企業として、最初は生き残ることだけを考えようと思いました」と意外な言葉を口にした。

「世の中が一気に節約ムードになり、水は買うのではなく水道水で、という事態に陥ると思ったんですよ。だからどんどん解約が進むだろうと。何が上場だ、自分の給与も経費も全部カットして生き残ることだけ考えよう、そう思いました(笑)。それで役員会でもそういう話をしていたら、3月23日にすべてが変わった。福島での放射能汚染に続き都内の金町浄水場でも放射性物質が検出されたという報道があって、ものすごい数の電話がかかってきたんです。ほとんどが新規のお客さまでした。そのうちウォーターサーバーも足りなくなり、ウォーターサーバーのお届けが間に合わないお客さまには先に水だけをお届けする形で対応したりして、半年くらいは不眠不休の状態が続きましたね」

2020年までにアジアナンバーワンになる

  原子力事故以降、水道水に対する安全神話は完全に崩れ去り、自然災害が頻発する昨今では非常時への備えとしても安全な飲み水を確保しておかなければという意識が高まっている。そんななか「契約者の90%以上が個人宅」というウォーターダイレクトは現在、大きな2つの課題に取り組んでいる。

伊久間 努(株式会社ウォーターダイレクト)インタビュー写真

「いま当社では5種類のウォーターサーバーを揃えて細分化するニーズへの対応を図っていますが、今後は省電力化や静音化、軽量化などを進めて機能性を高め、より進化したサーバーを開発したいというのがひとつ。もうひとつは新たな水源の確保で、これは災害時などの不測の事態を念頭に置いています。当社のようなサービスはお客さまにとってのサブライフラインでもありますから、日本全体が麻痺するような事態に陥るならともかく、一時的に水源付近が駄目になって水を提供できなくなる、というパターンだけはなんとしても避けなければならない。そのためまずは西日本に一箇所、続いて九州に一箇所の水源を確保し、何かあってもきちんと代わりの水を提供できる体制を作りたいと考えています」

 新型サーバーの提供については来年をめどに、水源の確保についても1年以内には目星を付けたいと話す伊久間さんは、海外進出にも意欲的だ。社長室に飾られた中国全土の大地図には「2013」から「2017」までの数字が書かれた付箋が台湾、香港、上海などの地域に貼られ、「2020年までにアジアでナンバーワンになる」という目標を掲げている。

「具体的な目標を立てておかないと実現しませんからね。私は行動派で何でも着手するのは早いのですが、興味を失うとすぐ飽きてしまうところもあるんです。でも宅配水ビジネスにはまだまだ面白いことがたくさんある。アジア各国においては、まず“富士山の水”というブランドで入っていって、将来的には現地で水源を確保しセカンドブランドを立ち上げる、ということも考えています。ジョルジオ・アルマーニで知名度を上げてからエンポリオ・アルマーニを出す、というようなビジネスモデルですね (笑)」

 学生時代には海外で1年に及ぶバックパッキングをしたこともあるという旅好きの伊久間さん。しばらくの間、旅はアジア方面に集中しそうである。

伊久間 努(株式会社ウォーターダイレクト)インタビュー写真

(文=道行めぐ)2014/01/17

プロフィール

伊久間 努(株式会社ウォーターダイレクト)プロフィール写真
伊久間 努
株式会社ウォーターダイレクト(2016年7月1日より株式会社プレミアムウォーターホールディングスに商号変更)  代表取締役執行役員社長
1967 年
群馬県出身
1992 年
早稲田大学卒業 伊藤忠商事株式会社入社
2000 年
米国公認会計士資格取得
2003 年
デル株式会社入社
2005 年
株式会社リヴァンプ入社
2006 年
同社の新規事業部門として株式会社ウォーターダイレクト創業に携わり、翌年取締役に就任
2009 年
株式会社ウォーターダイレクト代表取締役社長就任
2013 年
東証マザーズ上場

会社概要

株式会社ウォーターダイレクト
株式会社ウォーターダイレクト(2016年7月1日より株式会社プレミアムウォーターホールディングスに商号変更)
  • コード:2588
  • 業種:食料品
  • 上場日:2013/03/15