上場会社トップインタビュー「創」

ミドリムシビジネスで 世界を救い、未来を変える

株式会社ユーグレナ
出雲 充

バングラデシュで見た“栄養失調”の実態

出雲 充(株式会社ユーグレナ)インタビュー写真

 体長約0.05mm。人類よりもはるか以前から地球上に存在し、酸素を作り出すとともに捕食の対象となることであらゆる生命の維持を支え続けてきた藻の一種----それが“ミドリムシ”である。自然界には大量に生息しているものの肉眼で姿を確認するのは難しく、私たちはこれまで、その存在に注意を払う機会をほとんど持たずにきた。そんなミドリムシがいま注目を集めている。立役者となったのは、昨年末に上場を果たしたバイオテクノロジー企業・株式会社ユーグレナの出雲充さんだ。

「ミドリムシと一口に言っても、100種類くらいの品種があるんですよ。プリッとしたのもいればドーンとしたのもいて。なかでも僕が特に好きなのはグラシリスという品種ですね。宝石のように綺麗な緑色をしていて、細身の美人。一番素敵です (笑)」

 と、冒頭から自らのマニアぶりを際立たせる出雲さんは、子供の頃から生物の繁殖や養殖に強い興味を抱いていたという。加えて「自然あふれる多摩ニュータウンでぽやーんと育った」という生い立ちが、その後の価値観を育んだ。

「世の中に対して妬みや憤りを抱くことがなかったので、ハングリー精神みたいなものも生まれませんでした。逆に、自分が満ち足りているからみんなにもそうなってほしい、周りの人たちに喜んでもらえる“サプライズ”を作り出したいと思いましたね。それもベンツやロマネコンティといった高級品をプレゼントするのではなく、これは僕が作ったスイカだよ、トマトだよ、すごく美味しいでしょ、という方向性。僕の世代には高級品をもらっても喜ぶ人は少ないですから。だから、へーこれ君が作ったの、すごいね、面白いね、と言われるようなことがしたかった」

 そんな出雲さんがミドリムシとの運命的な出会いを果たしたのは、東京大学農学部に在学中の頃だ。きっかけは、1998年に出向いたバングラデシュでの経験だった。

「当時、将来は国連に就職して世界の飢餓や貧困を解決する仕事をしたいと考えていた僕にとって、バングラデシュは“飢餓”というイメージと直結する国のひとつでした。ところが実際に行ってみると、本当に飢えている人なんてほとんどいない。けれど多くの人が栄養失調に陥っていました。つまり米などの炭水化物でお腹を満たすことはできても、野菜や果物といったものが手に入らないからビタミンやミネラルが全く足りていないんです。人間は、必須栄養素と呼ばれるビタミンやミネラル、アミノ酸などをバランスよく摂取しなければ健康に生きていくことはできません。そこで、これらの栄養素を一度に取ることのできる食材はないかと探し始め、最終的に辿り着いたのが“ミドリムシ”だったというわけです」

小さな身体に秘められた、恐るべきミドリムシパワー

出雲 充(株式会社ユーグレナ)インタビュー写真

 ミドリムシは「ムシ」と名が付いてはいるが昆虫ではない。体内の葉緑素で光合成を行う植物、大雑把にいえば藻の一種だが、一般の藻と異なる特徴は細胞を動かして自力で移動できること。つまり植物と動物の両方の性質を持つ単細胞生物で、そのため植物ならではの栄養素と動物ならではの栄養素の両方を持ち合わせている。たとえば野菜や果物に多く含まれるビタミンCは肉からは摂りにくいが、ミドリムシなら摂れる。魚が持つDHAやEPAは植物からは摂れないが、ミドリムシなら摂れる。出雲さんにとってミドリムシは、自らが皆に提供したいと思い続けてきた“サプライズ”そのものだった。

「その栄養素は、実に59種類。しかもミドリムシは水中の生物ですから、土壌の状態に関係なくプールで育てることができます。つまり水と日光さえあれば汚染された土地でも生産できるうえ、二酸化炭素を吸収して酸素に換える光合成能が非常に高いので大気汚染や温暖化の解消にも役立つんです。さらにミドリムシから絞った油は軽質なので、これでバイオ燃料を作れば環境を破壊することなくジェット機を飛ばすことだってできます。なんて素晴らしい生物なんだ!と思いました」

 世界が抱える大きな3つの問題を、ミドリムシで解決できるかもしれない。出雲さんはミドリムシに夢中になり、「僕はミドリムシで地球を救う!」と事業化への道を模索し始めた。が、物事はそううまくはいかない。ミドリムシビジネスの展望はすべて「安定的に大量培養できたら」が前提だが、2000年当時の培養実績は「がんばってひと月に耳かき1杯」が限界だった。なぜか。食物連鎖の最下層に位置するミドリムシは、培養液に他の微生物が混入したが最後、あっという間に食べ尽くされてしまうのである。国内外の研究者が約50年に渡ってぶつかり続けてきたこの壁を前に、出雲さんの計画も行き詰まった。

「培養を成功させるまでには、国内のあらゆる研究者に協力していただきました。もう無理だ、やめよう、と思ったことも何度もありましたが、いまやめたら長年の研究資料を提供してくださった先生方に顔向けが出来ない、ミドリムシが社会に貢献するチャンスはもう来ないかもしれない、という一心で頑張ってきた感じです」

出雲 充(株式会社ユーグレナ)インタビュー写真

 打開策へのきっかけは発想の転換だった。それまでの「異物が混入しないクリーンな環境をどう作るか」という試みを「ミドリムシにしか生存できない培養液を作ってみたらどうか」という方向へとシフトしたのである。狙いは見事にヒットし、2005年、出雲さんはついにミドリムシの屋外での大量培養に成功した。

「以来、現在までの培養合計は約11京(ケイ)匹。食品やサプリメントを作るには充分な量を生産できるようになり、石垣島の設備で収穫したミドリムシで『ユーグレナ・ファームの緑汁』や『石垣みどり米』といった商品を作っています。また『ミドリムシクッキー』や『みどりラーメン』など、他企業・団体との共同開発にも取り組んでいます」
(注)京は10の16乗の単位

 今年7月からは株式会社甘やとの共同開発により、ミドリムシを練り込んだ寒天やところてんを使った甘味メニューを『麻布茶房』など甘やが持つ国内全38店舗で提供開始。全国チェーン飲食店での定番メニューにミドリムシが進出するという快挙を果たした。

33歳、草食系社長のリーダーシップは“一貫性”

出雲 充(株式会社ユーグレナ)インタビュー写真

 ミドリムシの学名をそのまま社名にした出雲さんの会社、株式会社ユーグレナは現在、伊藤忠商事を初め日本コルマーやANAホールディングス、JX日鉱日石などと資本提携を結び、機能性食品や化粧品、バイオ燃料などにミドリムシを活用すべく事業展開を図っている。ほかにもさまざまな業種の企業からラブコールが相次いでいるそうだ。だが大量培養の成功からここへ至るまでの8年もまた、決して順風満帆な航路ではなかった。

 「培養に成功したときには、来年はミドリムシブームが来るぞ!と思いました。でもその1カ月後に当時オフィスを貸してくれていたライブドアに強制捜査の手が入り、それまでミドリムシに理解を示してくれていた企業全てから取引を断られた。映画だったらここであしながおじさんが現れてハッピーエンドになるところだけど、現実は厳しかったですね。2008年に伊藤忠商事からの賛助をいただくまで、3年かかりましたから」

 この間に出雲さんは日本中の企業を500社近く回ったという。起業前からのパートナーである研究開発担当の鈴木健吾さんとマーケティング担当の福本拓元さんは、ユーグレナという船でともに荒波を乗り越えてきた大切な仲間だ。

出雲 充(株式会社ユーグレナ)インタビュー写真

「もともと僕は生まれついてのリーダータイプではないし、卓越したリーダーシップで周りを引っ張っていく典型的な起業家タイプとも全然違う。そういうタイプの社長というのは『ドラゴンボール』の孫悟空みたいに、修行して強くなって敵を倒して、また修行して強くなって…と、自らの突出した能力とパワーで会社を大きくしていくんだと思うんです。でもユーグレナはドラゴンボールではなく『ワンピース』。船長のルフィがすべてで一番優れているのではなく、彼を支える船員たちが各々のスキルと経験を生かして戦うことでチームとしての強さを発揮していく。鈴木も福本も、研究の分野、販売の分野では僕よりはるかに優秀だし、ユーグレナに在籍する44名の社員たちも担当分野においては僕よりずっと優れています。ミドリムシのこの分野にかけては自分が一番だ、と言えるものを全員が持っている。じゃあ僕の一番は何か、といえば“一貫性”でしょうね。いつでもどこでも誰に対しても『僕はミドリムシで地球を救う会社をやっています』ということをブレずに言える。そう言い続けることで、わかった、じゃあ応援してあげよう、と言ってくれる人を集める、安心して集まってくることのできる環境を作る、それが僕の役割だと思っています」

5年後、航空機はミドリムシ燃料で飛ぶ

出雲 充(株式会社ユーグレナ)インタビュー写真

「ミドリムシで地球を救う」というスローガンを掲げるユーグレナの柱は、機能性食品とバイオ燃料、それに環境浄化技術の研究開発だ。まず機能性食品の販売を軌道に乗せたいま、出雲さんが次に見据えているのはバイオ燃料の実用化である。

「登山に例えると、いま6合目あたりでしょうか。まずは2018年にジェット燃料を作る技術を確立して航空機への導入を2020年には実現させたいと考えています。すでに石油由来のものと同質の燃料を作る研究は一段落つきましたから、残る課題はコストの問題ですね。これをクリアできたら、近い将来ミドリムシでジェット機が飛ぶようになって、その後ガソリンスタンドでもレギュラーとハイオクの隣に“ミドリムシ”というのが並ぶようになるかもしれません。早く培養量を増やしてコストを下げ、ガソリンスタンドで普通に『今日はレギュラーですか、ミドリムシですか』という会話を聞けるようにしていきたいですね」

 取材スタッフが「いいですねぇ、それ」と笑うと、出雲さんは「必ずそうなりますよ」と真顔で言った。ミドリムシと出会った大学時代から一貫して「僕はミドリムシで地球を救う」と言い続けてきた彼の、ミドリムシへの愛情にはただならぬものがある。では、出雲さんにとってミドリムシとは、いったいどんな存在なのだろうか。

「娘、かな。可愛い娘をデビューさせて、どんどん人気者にしていくという感覚。微生物の培養、つまり発酵技術においては日本は世界一ですから、最終的にはミドリムシをヤクルトの乳酸菌や味の素のアミノ酸に続くスターにしたいと思っています。ただ、いまはまだミドリムシを青虫や芋虫の一種だと誤解している人も多いので、認知度を上げていくことが先決ですね。やっぱり、ミドリムシのよさを理解してくれた人に『ミドリムシ、いいね』と言われると嬉しいですよ。世界のイケメン企業から『ぜひ、うちのお嫁さんに』と言われると、もっと嬉しい。でしょ?だからそう言ったでしょ?と思います(笑)」

 上場後、ついに念願だったバングラデシュへの食料支援事業にも取り組み始めた出雲さん。彼を乗せたユーグレナ号はいま、ミドリムシを動力に大きく帆を広げている。

(文=道行めぐ)2013/07/31

プロフィール

出雲 充(株式会社ユーグレナ)プロフィール写真
出雲 充
株式会社ユーグレナ  代表取締役社長
1980 年
広島県生まれ
2002 年
東京大学農学部卒業、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行
2005 年
株式会社ユーグレナ創業、ミドリムシの屋外大量培養に世界で初めて成功
2012 年
東証マザーズへ上場

会社概要

株式会社ユーグレナ
株式会社ユーグレナ
  • コード:2931
  • 業種:食料品
  • 上場日:2012/12/20