上場会社トップインタビュー「創」

「住宅もマーケティングの時代」を標榜し、上場でチャレンジを加速する!

株式会社TSON
百生 彰

住宅販売業の常識を破る

百生 彰(株式会社TSON)トップ画面

 従来、中小企業における住宅販売業は営業者の勘と経験で売買が行われてきた。分譲住宅でいえば、「この地区はよく知っている」という住宅販売会社の担当者が、「ここなら大丈夫だろう」という勘に基づいて用地を購入し、周りの物件情報を人手で集め、プランと価格を決めるという流れである。いわば、非常に主観的なビジネスが展開されてきたといえるだろう。

 この旧態然とした業界の慣行に異を唱え、データによるマーケティングを持ち込み、客観的な裏付けに基づいた住宅販売ビジネスを展開する会社が、愛知県名古屋市に本社を置くTSONである。同社のホームページには、「業界の当り前を変える」「変化に挑戦」などのフレーズが書かれ、まさに変革を起こそうというチャレンジャーの心意気が感じられる。東京証券取引所TOKYO PRO Marketに上場するTSONが展開しようとしている新しい住宅販売業の姿について同社代表取締役社長の百生彰(ももせあきら)さんにうかがった。

「リーマンショックを境にして、それまでまかり通ってきた『従来価格』というものが常識でなくなってきたという実感がありました。簡単にいえば『従来価格』で販売してもなかなか売れずに販売が長期化する、あるいは在庫となる物件が多くなったということです。また、購入者層もそれまでの主流であった30代のヤングファミリー(小学生の子供のいる家族)の反応が鈍化しました」

 そのように冷えて行った市場を前に、住宅の供給を行っていくには、従来の勘や経験を脱ぎ捨てて、新しい発想でお客さまを見つめ、お客さまが求めるプランをつくり、納得性の高い価格で提供していくことが必要となった。
 しかし、業界的にはそのような変化を試行する拠り所がない。多くの住宅販売会社は、勘と経験を捨てきれず、従来型の販売の中でまさに試行錯誤を繰り返すこととなった。
 そんな中でTSONは、いち早くマーケティング力を駆使した住宅販売を実践するという道を選択した。

「それまで、戸建住宅については着工件数が分かる程度でした。ある商圏で、『どれだけ売れたか、どれだけ在庫が残っているか』ということは、つぶさに把握している訳ではありませんでした。それでは、土地の仕入れ段階からある意味で“賭け”になってしまいます。だから、われわれは、自分たちが商圏として考える地域のどこについても半径2km以内での販売状況や在庫が即座にわかるマーケティングシステムをつくり、そのデータを拠り所にしてビジネスを展開しようと考えたのです」

 こうしてでき上がったのが、後述するTSONマーケティングシステムである。このマーケティングシステムを使うことによって、『従来価格』といわれてきた価格帯の80%程度のところに、ヤングファミリーとは違った20代夫婦や40代の一度は持ち家をあきらめた家族などのニーズがあることが見えてきた。

広告代理店業から住宅事業へ

百生 彰(株式会社TSON)トップ画面

 TSONは、一般的な住宅販売会社とはだいぶ違う設立・発展の経緯を持つ。2008年8月に、住宅関連に特化した広告代理店事業を行う会社として設立され、その後、自社でオリジナルの賃貸住宅のプラン『メゾネットパーク』を企画し、このプランを活用して住宅販売会社および不動産オーナー向けに(賃貸住宅運用)コンサルティングを行うようになった。そして2012年、『TSONマーケティングシステム』を開発し、これを柱にした広告企画事業、コンサルティング事業とならんで自らも住宅事業(分譲住宅)を開始する。

 前職で分譲住宅、とくに住宅企画やタウンプロジェクトの調整・管理などの仕事に25年のキャリアを持つ百生さんは、そのタイミングで入社し、社長に就くと短期間に住宅事業を主力事業に育て上げた。現在は売上げの7割を住宅事業が占め、会社をけん引する事業となっている。

「前職では、大きな組織の中で与えられた役割をこなしていたが、ここは規模も小さく、少数精鋭主義でやっています。私も、過去に培ってきた自分のノウハウをすべて活かして、内部のスタッフはもちろん外部のプロフェッショナルと、事業を生み出して育てることを楽しんでいます」

 TSONは、総人員16名という陣容ながら、それぞれの分野で経験を持った社員が持っている力を最大限に発揮して生産性を高め、収益を上げることを狙っている。

 その高パフォーマンスを生み出す際にも、独自のマーケティングデータが貢献している。前述したように住宅事業では、マーケティングデータを基にした販売計画によって「勘や経験」頼りの従来手法から脱却し、短い販売サイクルで、ニーズの高い住宅を供給することに成功した。コンサルティング事業では、賃貸住宅に投資するオーナーなどのために、マーケティングデータを使って投資効率の良い用地選定から運用計画などまで提案している。また、広告企画事業では、不動産案件に対して、効果的な訴求をするための広告投下エリアや広告手法の選定にマーケティングデータを活用しているのだ。

データが表す「立地天気図」

百生 彰(株式会社TSON)トップ画面

 では、TSONマーケティングシステムとはどのようなものなのか。

 まず、国勢調査や自治体の情報のほか、独自のウェブ調査などを行い、住宅購入の中心層である6歳未満の子供がいる世帯数、年収や住宅への好みを左右するホワイトカラー層とブルーカラー層の比率、新しく住宅を購入する可能性のある転入世帯数、借家を利用する比率などを県平均と比較してまとめている。

 これに、戸建住宅の販売・成約情報を重ねる。TSONが商圏とする愛知・岐阜・三重の3県で分譲住宅を販売する約200社のホームページから、毎月約7,000件程度の情報を独自に収集し、集計している。

 また、ウェブ調査では戸建住宅購入者(希望者)の購入動機や購入決定理由、住宅の好みなども調べて、商品企画や広告・販促に活かせるようにストックしている。

 このようにデータベースに集積したデータを使って、TSONは調べたい当該物件の半径2km圏内の競合物件状況、その圏内の需要状況(住み替え世帯数予測、購入可能性など)、ターゲットの把握(世代構成や年収など)などをわかりやすく整理した帳票で、個別にアウトプットすることができる。まさに「立地天気図」である。

「立地天気図は推測を含んだデータですが、それをもとに購入層を想定し、その住宅の内容と価格、販売についての仮説を立てることで、販売が成功する可能性を予測し、判断を客観的に行うことができます。
つまり、難しい物件を避け、良い条件の物件を、その地域にいるであろう潜在的なお客さまのニーズにあったスペック、間取りで提案できるのです」

 このマーケティングデータは蓄積していくことによって販売成功率が高まるので、データ収集を継続することが重要だ。「継続こそ力なり」であるが、百生さんは、さらに調査エリアを拡大し、TSONマーケティングシステムの広域化を図りたいという希望を持っている。

TOKYO PRO Market上場で“信用”を得る

百生 彰(株式会社TSON)トップ画面

 TSONが上場を意識し始めたのは、マーケティングを柱とした住宅事業を行うという発想を具体化するのとほぼ時を同じくしてのことである。「業界の当り前を変える」ためには生半可なチャレンジでは達成できない。何か自分たちの行動を後押ししてくれる、フォローの風が必要だと考えたのだ。

「私がこの会社に合流したときにはすでに、会社として上場を一つの選択肢として考えていました。
 
 ただし、マザーズなどに上場するとなると、そのための準備が非常に大変だという認識がありました。『上場に適格である』というところまで会社を成長させていき、そこから上場の準備を始めれば、上場まで2年くらいは必要ではないでしょうか。となれば、相当の時間が必要になります。それに対して、われわれが欲していたのは目の前のチャレンジを後押ししてくれる力でした。そういうときに、監査法人の方から『こういう市場もある』というお話をうかがったのです」

 それがTOKYO PRO Marketだった。同市場のメリットとデメリットを説明してもらい、社内でも検討を重ねた。

「一番のポイントは、(上位市場に上場する段階にはない)われわれでも上場することができるということです。しかも、会社の規模や成熟度にあわせて社内管理体制等を整備することが規則上認められているので期間的にも短くてすみ、自分たちが上場したい時期に合わせて、上場することができます。さらに、費用的にも(上位市場への上場と比較すると)かなり抑えられるということがわかりました。『それならば、行けるのではないか』とTOKYO PRO Marketへの上場準備に踏み切ったのです」

 そして、2015年3月23日、東京証券取引所のTOKYO PRO Marketに上場した。
 ところで、TSONが求めた上場によるフォローの風は具体的にどのようなことだったのか、百生さんにうかがった。

「われわれは会社としての知名度もそれほどありませんので、まずは信用をつけるということが大切です。住宅というのはお客さまにとって大きな買い物ですので、供給会社の信用というのは判断の一つになると思います。そのときに、自分から『信用できます』といっても意味がありません。やはり、客観的に評価された何かで、それを示す必要があるわけです。東証上場会社というのは、その意味で大きな信用をわれわれに与えてくれました。
 二つ目は人材の獲得です。われわれは少数精鋭主義でやっているだけに、やはり能力のある若い人材を集め、育成していく必要があります。その採用において、大きなアピールポイントになったと思います」

 実際に、TOKYO PRO Market上場は地元新聞で報じられただけでなく、意外に広い範囲に伝わり、とくにマーケティング分野で注目を浴びた。

 その現れの一つが、『日経ビッグデータ』の「データ活用先進企業ランキング」で開発部門の4位にランクされたことである。先進的な情報産業や資金・人材の豊富な大企業の中に、突然現れたヒーロー的な存在として注目された。また、矢野経済研究所が運営する未来予測サイト『未来創造』に、「TSON住宅データ室コーナー」が設けられ、毎月マーケティングデータを提供することになった。風が風を呼び、チャレンジのスピードは強まっているのである。

賃貸住宅+太陽光発電=「街中発電所」

百生 彰(株式会社TSON)トップ画面

 マーケティングを武器としているTSONであるが、住宅そのものの企画も独自の発想を活かしたものとなっている。分譲住宅では、家族の成長に合わせて間取りを変更できる「間取り自由の家」や、大容量の太陽光発電システムを採用して、売電代金によって住宅ローン返済をヘッジしようという「楽住の家」などがある。
 
 そのプランの原型となっているのが、賃貸住宅用に企画した「メゾネットパーク」である。メゾネットパークは、2×4工法を採用し、安全性では耐震技術、居住性では断熱技術を十分に取り入れ、なおかつコストパフォーマンスに優れた住まいを実現している。また、最新のモデルでは大容量の太陽光発電を搭載した「パワーメゾネットパーク」を主力商品として提案している。

「この『パワーメゾネットパーク』という商品は、賃貸住宅をお考えになるオーナーの方々にとって、賃貸収入と売電収入のダブル・インカムにより土地の潜在能力をフルに引き出すことを可能にしました」

 とにかく、住宅販売業界の常識にとらわれない発想でビジネスを生み出そうという姿勢が見て取れる。百生さんの話を聞くうちに、コンサバティブな体質であった住宅業界が実は可能性のたくさんある業界に見えてきた。
 最後に、この若い会社TSONについて、百生さんの将来展望を聞いてみた。

「この時代は、『変化が激しい』と言われていますが、住宅ももっと変化していくと思っています。そこで生き残っていくのは、世の中に必要とされた者だけだと思うのです。われわれは、お客さまに喜んでいただける新しい住宅、もっと言えば新しい価値観を生み出すことで世の中に必要な会社となっていきたいと思っています。
 そして、このTOKYO PRO Market上場をスタートとして、必ず上位市場にステップアップし、より大きな変化を住宅業界にもたらしたいと思います」

 可能性は誰かがつくってくれるものではない。それは自分がつくり、実証し、さらに広げていくものなのだ。

(文=志澤秀一 写真=高木志帆)2016/03/17

プロフィール

百生 彰(株式会社TSON)トップ画面
百生 彰
株式会社TSON 代表取締役社長
1964 年
富山県生まれ
1988 年
愛知県のハウスメーカーに入社 分譲住宅の企画・管理を担当
2012 年
株式会社TSON 取締役就任
2013 年
株式会社TSON 代表取締役就任
2015 年
TOKYO PRO Marketに株式上場

会社概要

ロゴマーク
株式会社TSON
  • コード:3456
  • 業種:不動産業
  • 上場日:2015/03/23