歯科技工市場の改革という夢の実現に向かって!

歯科技工市場の改革という夢の実現に向かって!

株式会社デンタス
島 文男

歯科技工産業の未来を創りたい

島 文男(株式会社デンタス)インタビュー写真

 人間の暮らしにとって不可欠な「食べる」ことや「話す」ことにおいて、歯が果たしている役割の大きさを感じる人は少なくないはずだ。虫歯や高齢で損なわれた歯の機能を健全に維持するために施されるクラウン(被せ物)や義歯(ブリッジ、入れ歯)は人間の重要な生命維持装置であるといっても過言ではない。

 現在、65歳以上の高齢者のほぼすべての人がクラウンや入れ歯など、何らかの歯科技工物を装着し、2015年の入れ歯人口は推定3,300万人、日本人の3人に1人が入れ歯を使用していると言われている。今後の高齢化を考慮するなら、歯科技工物の需要はますます高まることが予想される。

 一方で、歯科技工物の供給側はどうであろうか。需要の高まりとは別に、その生産プロセスは一人ひとりの歯科技工士の手作業に負うところが多く、零細かつ不利な作業環境下で長時間労働を余儀なくされることから、歯科技工士のなり手は減少の一途をたどっているという。

 こうした課題を打開するために、歯科技工業界のイノベーションを目指す企業が登場した。3Dスキャナーや3Dプリンター、CAD/CAMシステムなどの最新機器を備え、ここ数年、急速に頭角を現してきた株式会社デンタスだ。代表取締役の島文男さんはデンタスの目指す姿を次のように語る。
 「歯科技工工程の大幅な効率化を通して、歯科技工士の労働を軽減し、歯科技工市場の創造と活性化により、若い人たちが夢を持てる業界へと刷新していきたいと考えています」

 現在、同社が取り組んでいるのは、歯科技工物の自動化生産技術『デンタルラボシステム』の開発と普及だ。従来は、石膏による歯型模型から樹脂やクラウンの鋳造物の製作、さらに完成品の研磨まで、ほとんど歯科技工士の手作業に負っていた。この非常に手間も時間もかかる工程で、3Dスキャナーや3Dプリンター、CAD/CAM機器を駆使するというシステムだ。同社は、欧米のメーカーからこれらの機器の販売権を取得し、歯科技工所の用途やニーズに応じた機器の提案を進めている。

 「2010年には業界に先駆け、デンタルラボシステムのワークフローを実現する徳島プリントセンターを設立しました。インターネットを介してここを活用していただく歯科技工所には、作業効率アップだけでなく、安定した高品質の製品を供給しています」

 精妙複雑かつデリケートな歯科技工の世界だからこそ、熟練技工士の手作業に負わなければならず、それがデジタル化を遅らせていた要因でもあった。デンタスはデジタル化への突破口を切り開いたのである。

義歯の完全自動化生産システムの開発へ

島 文男(株式会社デンタス)インタビュー写真

 歯科技工の世界において、島さんご本人の経験は長い。歯科技術専門学校を卒業し、個人で創業したのが1975年、23歳のときだ。89年には法人化して小松島歯研(現・株式会社シケン)を設立した。

 「当時は入れ歯1本つくって1万2,000円くらいの収入になりました。とても収益性の高い仕事だと思いましたよ。三菱総研の会長だった故牧野昇さんは、日本で自動車産業の次に来るのは、入れ歯産業である……と、おっしゃられた。とても勇気づけられたことを覚えています。ただし、徳島だけではどうしても販売先が限られてしまう。そこで狙ったのが大都市圏です」
 新幹線沿いに次々に営業所を展開し、最終的には首都圏にも進出した。歯科医から患者の歯型「印象」を宅急便や航空便で送ってもらい、徳島の工場で技工作業をするという方法で、シケンの事業は飛躍的に拡大した。島さんが40代になったときは、社員は400人を超えていたという。

 地域雇用にも大きく貢献していたこともあり、島さんに対する地域の信頼は厚く、事業の一つひとつに対する地元大手企業の協力やアドバイスも多く得られた。そんな中で、「自らものをつくり、自ら値段を決めて売ることの大切さ」を説かれた島さんは、シケンの経営を後継者に託すこととし、歯科技工物の生産性向上を目指し、開発メーカーとしてのデンタス設立を決意する。

島 文男(株式会社デンタス)インタビュー写真

 当初は、一般ユーザー向けに入れ歯専用商品を提供していたが、デンタスとしての本格的活動を開始したのは7年前。
「お台場の展示場で、3Dプリンター関連機器を見たのが大きな出会いでした。歯というのは一人ひとり異なるので、これこそ入れ歯づくりに適しているのではないかと思い、すぐに徳島プリントセンターを立ち上げました。当初は赤字も出ましたが、技術も急速に進化し、この間ずっと歯科技工物の生産に応用するための研究開発を続けてきました」

 その成果のひとつが、デンタルラボシステムというわけだ。「大工がノミやカンナを使って家を建てていた時代から、工場のオートメーションで家を建てる時代への進化」に匹敵するという。

 さらに同社は次を目指す。現在、歯科技工物の中でも、クラウンなどの単一素材のものについては自動化が進みつつあるが、金属や樹脂など複数の素材を組み合わせる義歯については、まだ歯科技工士の手作業に大きく依存している。この工程も自動化し、義歯製作の全工程を完全自動化しようという試みだ。

 2014年から岡山大学、徳島大学、徳島県立工業技術センターとともに産官学連携によるプロジェクトを立ち上げ、異種歯科材料の高精度融合化技術の開発を進めてきた。これに成功すると、国内初の完全自動化生産システムが確立する。同社では、この完成に合わせて新工場の建設を予定。すでに土地は確保し、工場の設計図もできている。

TOKYO PRO Market上場で、提携企業が一気に増加

島 文男(株式会社デンタス)インタビュー写真

 島さんは若くして経営者としての道を歩み始めたときから、小さなベンチャー企業が株式を公開し、大きく成長していく姿に強い関心を持っていた。「自分の会社もいつかは」というのが夢だった。だから、株式会社OKINAWA J-AdviserからTOKYO PRO Marketの説明を受けたときには、上場を即断したという。

 「各都道府県にあるそれぞれの地域密着型の企業がTOKYO PRO Marketのような市場で成長し、それが地域経済の活性化にも好影響を与えていく。本来、企業とはそうあるべきだと思っていたので、OKINAWA J-Adviserの方の話には説得力がありました。歯科技工物の新しい素材の発掘や提供の仕方についても、新たな展開が期待できると確信しました」

 そして2015年9月、TOKYO PRO Marketに上場すると、すぐにその効果を実感することになる。以前から注目していた口腔内スキャナーの販売計画が、上場をきっかけにとんとん拍子で進んだのだ。

 従来、歯科医は患者の歯型「印象」をとって歯科技工所にそれを送付するが、口腔内スキャナーを用いれば口腔内の3Dデータを送信するだけで、後の工程へ進むことができる。患者負担を減らすだけでなく、歯科医や歯科技工所の大幅な作業効率化とコストダウンにつながるのだ。

 「歯科医は診療のスピードアップに加えて『印象』を送る手間や費用が不要になります。歯科技工所はこれまで歯科医へ頻繁に営業訪問していましたが、このシステムを活用することで歯科医と契約を結ぶことができるうえ、すべてデータでのやり取りになるので、歯型模型の在庫も不要となります。また歯型データを保存しておけば、患者さんに別の素材を使った入れ歯も提案できるようになります」

 つまり、これまで患者は歯科医だけとの付き合いだったが、歯科技工士が直接患者(エンドユーザー)にアプロ—チできる可能性も出てくるわけだ。新たな歯科治療あるいは義歯販売の流れが展開される可能性が生まれる。

 すでに口腔内スキャナーの販売はスタートしており、その他にも、薬剤メーカーや素材メーカー、ドラッグチェーンなどから提携の提案があるという。
「現在、入れ歯に使われている素材は、使い勝手や耐久性、品質の向上、人体への影響という観点から、まだまだ改良の余地があります。今回の上場で様々な企業とのコネクションが増えたことによって、入れ歯の新たな素材、新たな提供の仕方など、課題の突破口が一挙に見つかることになるでしょう。歯科技工の市場改革という夢実現へ向けて大きく前進しました」

 新たな人材採用にも取り組んでいる。徳島県に本社とプリントセンターを置いているが、TOKYO PRO Market上場をきっかけに東京都品川区に進出、営業拠点として東京本部を設置した。ここで数多くのスペシャリストを確保し、営業部門・管理部門を充実させている。上場前は全社で50人程度だった従業員数が、上場後の2016年3月現在、80人程度まで膨れ上がった。これもまた、上場の大きな効果だ。

入れ歯もファッションになるべきだ

島 文男(株式会社デンタス)インタビュー写真

 現在、進めている生産プロセスの革新は、歯科技工市場をさらに消費者本位のものへと変えていくことができる、と島さんは断言する。今の歯科技工物は、歯科医が提示した価格の中から選択して購入する。色や素材、品質を吟味したり、ブランドを選択したりする余地はない。

「患者さんのほとんどは一種類の入れ歯しか持っていません。食べるためだけではなく、きちんと発声するための入れ歯があってもいい。消化器疾患や高血圧など、それぞれの病に応じたものがあってもいいし、何種類かを持っていて、必要に応じて選択して使えるようになればもっといいでしょう」

 島さんが描いているビジョンは、消費者に自由に立ち寄ってもらい、材質や価格、用途や好みによって商品を選択して注文し、購入できる“入れ歯チェーンストア”を普及させることだ。メガネチェーンの入れ歯版である。

島 文男(株式会社デンタス)インタビュー写真

 「メガネやコンタクトはその機能性に加えてファッションとして成立しています。入れ歯もファッションになるべきです。消費者が自分に合った付加価値の高いものを手軽に安価に入手できるようになれば、日本の歯科技工産業も大きく変わるでしょう」

 こうして歯科技工産業、消費者市場の双方の課題をクリアしていけば、日本の歯科技工産業は強靭となり、国内だけでなく東南アジアや世界へ展開できるチャンスが生まれるという。
 すでに同社は、CAD/CAMシステムの導入を機に、歯科技工技術の海外移転にも取り組んできた。2011年、フィリピン・セブ島にデンタス子会社を設立、現地大学との連携を下に人材育成を開始し、13年には本格的に事業をスタートした。
 「東南アジアのほとんどの人々は、歯を抜いたらそれで終わりです。入れ歯を使って快適な暮らしを続けるという生活はまだ根付いていません。今後、アジアが経済成長を続けて、庶民の暮らしが豊かになってきたら、必ず入れ歯を使う習慣ができてくるでしょう。そのときのためにも、歯科技工工程の全自動化システムをアジアで展開していきたいと思っています」

 全自動化は視野に入ってきた。生産プロセスの革新を続けながら、一般の消費者市場へ打って出る課題のひとつとして、個人投資家を含んだ市場のステップアップも目指している。ここに至り、再び故牧野昇さんの言葉を振り返る。
 「日本国内で自動車産業の次に来るのは、入れ歯産業だ……という予測は、私の想いでもあり、それがようやく実現する日が近づいているのではないでしょうか。歯科技工業界に携わるすべての人たちに、われわれの産業は日本の基幹産業になり得るのだという自信を持って欲しいと思っています」
 島さんは力強いメッセージで結んだ。

(文=中田充樹 写真=髙橋慎一)2016/03/16

プロフィール

島 文男(株式会社デンタス)プロフィール
島 文男
株式会社デンタス 代表取締役
1953 年
徳島県生まれ
1974 年
香川県歯科技術専門学校卒業
1975 年
歯科技工所・個人創業
1989 年
有限会社小松島歯研(現・株式会社シケン)設立
1996 年
株式会社デンタス設立
2015 年
TOKYO PRO Market上場

会社概要

ロゴマーク
株式会社デンタス
  • コード:6174
  • 業種:サービス
  • 上場日:2015/09/11