上場会社社長インタビュー「創」

独自の温熱療法機器開発によってがんの治療に新しい道を拓く

株式会社アドメテック
中住 慎一

愛媛大学発の医工連携ベンチャー

中住 慎一(株式会社アドメテック)インタビュー写真

 日本人の死亡原因の1位は悪性新生物、いわゆる「がん」である。 最近では、全体の30%程度を占め、2位の心疾患、3位の脳血管疾患を合わせた数を上回っている。
 がんの対策としては、一般に言われるように「早期診断・早期発見」が重要だが、患者本人が気付かぬうちにがんが増殖・転移してしまい、治療が後手に回るケースが少なくない。がんの治療法として主なものは、①外科手術 ②放射線治療 ③抗がん剤治療が挙げられるが、いずれも患者の身体への負担が大きい。早期発見で効果的な治療ができた場合は良いが、再発すると治療の選択肢はだんだん狭まってしまうという傾向がある。
 このがん治療に新しい道を拓く方法の一つとして、がん化した細胞を熱によって焼灼する温熱療法がある。アドメテックは、この分野において独自の治療方法を研究・開発し、がん治療に有効な医療機器を製造・販売するベンチャー企業として、2003年に愛媛大学医学部と工学部の研究者らによって設立された。
 
 現在、アドメテックの経営を一身に背負う中住慎一さんは、その当時、民間企業で熱関係のエンジニアとして培ったキャリアを見込まれ、愛媛大学の客員教授に就いていた。アドメテック設立には直接関係していなかったが、1年後に「研究者ばかりでは会社経営ができない」と判断した設立メンバーに乞われる形で経営を引き受けた。

「最初は断ろうと思いました。ビジネスリスクが高いと思ったのです。悩んで、いろんな人に相談しましたが、『資金は膨大にかかるだろうし、成功する確率だって高くない。やめた方が良い』という声が多かったですね。最後に、創業した先生方のところに行って意見を聞こうと考えました。そうすると『自分たちはこの技術を確立して患者さんを救いたいのだけれど、ビジネスや、会社経営の経験がないので上手くできない。頼むから受けてください』と頼まれたのです。その先生方の熱意に『よし!やろう』と決心しました」

 社名のアドメテックは、「Advanced / Medical / Technology」の略で、「一歩進んだ医工連携」を意味している。まだインキュベータの中で、産まれたばかりの小さな会社だったが、志を大きく持って中住さんは歩み始めた。

「交流磁場誘導焼灼療法」の開発に取り組む

中住 慎一(株式会社アドメテック)インタビュー写真

 温熱療法は、①ヒトの細胞が42~43℃以上に温度が上がると急速に死んでしまう ②がん細胞は正常な細胞に比べて熱に弱いという性質を利用して、がん細胞を選択的に熱して死滅させるという治療法である。1960年代から本格的な研究が行われているが、現時点で標準化された治療法はまだない。
 アドメテックは、これまでほとんど利用されてこなかった温度帯(50℃前後~60℃前後)の熱をゆっくり患部へ浸透させる治療法に狙いを定めた。
 そして、対極板を用いて体内に高周波を直接流す従来のラジオ波治療法ではなく、 針状の磁性体を直接患部に刺し(あるいは、粉末の磁性体をカテーテルで投与し)、磁性体に交流磁場を与えて、患部を50~60℃に温度制御するという「低温焼灼療法」の開発に取り組んだ。この方法は、体内に高周波電流を流すことで生じる思わぬ方向への通電による障害や、温度制御が困難なことによる周辺組織の熱障害などがなく、安全で精密な温度制御を可能にするものだった。

「50~60℃の温度帯を使った事例はそれまでなかったので、基礎的な動物実験から行う必要がありました。これを愛媛大学でやっていただいて、結果を積み重ねました。細胞に50~60℃の熱を加えると、たんぱく質は変成します。簡単な例えで言えば、生卵がゆで卵になってしまうわけです。では変成した細胞はどうなるのか? がん細胞だけが変成するのではなく、正常な細胞も変成してしまいますから、それが悪影響を及ぼさないかどうかも調べなければなりません。医療では、常に効果と安全の両面を満足させることが求められます。ラットを使った実験では、入熱によってがん細胞の増殖が完全に抑えられ、1月ほどで組織は自己再生しました」

 マウスによる動物実験の結果を踏まえ、中住さんは次の段階へ向かう決心をする。がんを患ったペットの治療を目的とした低温焼灼療法の機器開発である。基礎実験はマウスにがんを移植して行うが、ペットのがんは自然発生したものであり、その臨床からよりヒト(人間)のがん治療に近いデータが得られると考えたのだ。
 ペット用の医療機器の所轄は農林水産省である。そこで、低温焼灼の原理を実現するペット用医療機器「ATMC200」の製造販売について、2008年に農林水産省に届け出て、受理された。以後、臨床現場では線維性組織球腫、メラノーマ、血管周皮腫、肛門周囲腫瘍などの多くの症例に適用されている。

「3年で150台ほどを販売しました。新規に発売したペット向けの医療機器としてはまあまあの数字だと思っています。症例は1,000件を超えたと思います。写真のワンちゃんは、口の中の下あごのところにがんが発生して、一度手術して切除したのですが再発したものです。もう一度手術をするとなると下あごを全切除と言うことにもなりかねません。そうなると食べ物も食べられないので、待っているのは悲惨な結末です。
 私たちの機器で治療したところ、40日後にはどこに腫瘍があったのかわからないくらいになりました。その後も再発を繰り返しましたが、この治療法は何度でも試みることができるので、治療を繰り返しました。発症時、すでに高齢だったので16歳くらいで亡くなりましたが、死因はがん死ではなく心疾患で、穏やかな最期だったようです。そういうことで、飼い主さんの満足度は高かったと聞いています」

 ペットの治療ではあるが自然発生したがんの治療に有効であるという結果は、アドメテック社内に明るい希望をもたらした。

ヒトの再発進行がんの臨床研究に着手

中住 慎一(株式会社アドメテック)インタビュー写真

 研究・開発はさらに続き、次のステップではついにヒトを対象とした治験に至った。
 2010年、経済産業省の委託事業採択を得て、子宮頸がんになる一歩手前の高度異形成に対する機器を開発し、これを使った治験が愛媛大学医学部産婦人科で行われた。すでに学会等において報告されているが、アドメテック製機器によって60℃、10分間の加熱治療によって全例で高度異形成の消失が認められ、同じく全例で患者への明らかな有害事象は認められなかった。

 前がん病変の治験に自信を得て、アドメテックはヒトの再発進行がん(ステージ4相当)に対して低温焼灼療法を行う医療機器の開発に取り組んだ。ステージ4の再発進行がん患者は、すでに標準的治療を行った上での再発であり、体力的にも減退し、治療の選択肢が少なくなっている場合が多い。

「手術をするにも限界があり、臓器の機能が失われるようでは意味がありません。放射線を何回も繰り返せば、線量の限界がやってきます。抗がん剤は副作用がきつかったり、がん細胞が耐性を獲得してくるので、それに応じて投与する抗がん剤を変えなければならず、やがては使える抗がん剤がなくなってしまいます。
 そういう状況になったステージ4の患者さんに、打つ手はないのでしょうか? いや、まだまだある、と私は思います。熱とか、免疫とか。私はこの2つを組み合わせた治療が有効ではないかと考えています」

 「がん免疫細胞療法」は、がんを攻撃する免疫細胞を人工的に増加し、その働きを強化することでがん細胞を抑え込もうという治療法である。患者自身の細胞を用いるため、副作用はほとんどない。
 中住さんがイメージする、低温焼灼療法とがん免疫細胞療法の組み合わせとは次のようなものである。まず、患者の腫瘍部(がん)に特別に作った針(外径0.7mm、その中に外径0.4mmの絶縁した超微細発熱針とセンサーを通したもの)を打ち込み、入熱してがん細胞を変成させてしまう。そして、針の中の超微細発熱針とセンサーだけを引き抜き、差したままになっている針から免疫細胞を注入する。こうすることで効果的にがん細胞を叩き、さらに転移を防ぐのである。悪玉中の悪玉「がん幹細胞」も、この温度でなら変性できる可能性が大きい。

「この2つの療法に共通することとして、副作用がほとんどなく、何度でも繰り返し治療できることが挙げられます。QOL(Quality of Life)というキーワードがありますが、日常的な生活を維持しつつがんと闘うことができるのが、この2つの療法の強みだとも言えるでしょう」

 現在、この治療法は臨床研究段階にある。治療が難しいとされるヒトの再発進行がんに対して、どのような臨床結果が報告されるか、期待を持って見守りたい。

間近に迫る大きな目標

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 愛媛大学医学部と工学部の連携で生まれたベンチャー企業アドメテックを、創業2年目に中住さんが引き受けてからすでに10年を超える年月が流れた。その間に、同社は一歩一歩前進し、当初の狙いであった温熱でヒトのがんを治療するという段階は、完全に視野に入ったと言って良いだろう。
 そのプロセスを振り返って、ここに至るまでの苦労を中住さんに聞いたところ、「やはり、医療機器のベンチャーとしては資金調達が大きなテーマだった」という答えが返ってきた。自社が推進する治療法・医療機器を世に送り出すためには、その前提となる実験、臨床研究を行い、必要なデータを積み上げる必要があるのだ。その資金が続かなければ、夢は頓挫をまぬがれない。
 同社は、2013年にTOKYO PRO Marketに上場したが、その決断をした背景にも資金調達があった。

「直接、市場からの資金調達には至っていませんが、間接的には効果があったと思います。要はIRをしっかりやって、多くの投資家の目にふれるということが重要であると考えたのです。私たちが松山で事業を行っていても、その動きは多くの人には届きません。しかし、TOKYO PRO Marketに上場すれば、東京証券取引所経由で投資家に確たる情報が出て行くことになります。田舎の企業は、これを有効に使わなければいけないと思いました」

 上場することで得た信用と情報発信力を活用し、同社は先頃、第三者割当増資を行い、この先のステップを上る資金の調達に成功した。この先には、臨床研究段階にある機器について厚生労働省の認可を得て、その製造・販売を開始するという大きな目標が待っている。現在は、そこへの階段を登っているところなのだ。
 大学構内の一部屋から出発したベンチャー企業としての歩みは、まだまだ続いている。しかし、展開するビジネスの姿は日に日に鮮明になりつつある。

「TOKYO PRO Market上場で鐘をついたときの思いは今も残っていますが、それは『やっと入口に立った』ということでした。これからステップアップして、必ずこの鐘をまたつきに来るのだと自分に言いました。今回は最初の一発目だと。ゴールではないと」

(文=志澤秀一 写真=平家康嗣)2015/02/10

プロフィール

中住 慎一(株式会社アドメテック)インタビュー写真
中住 慎一
株式会社アドメテック 代表取締役社長
1958 年
生まれ(本籍愛媛県)
1981 年
同志社大学工学部機械工学科卒業
三浦工業株式会社、株式会社三浦研究所を経て、2004年愛媛大学地域共同研究センター客員教授
2005 年
株式会社アドメテック入社、代表取締役就任
2013 年
9月4日、TOKYO PRO Marketに上場

会社概要

株式会社アドメテック
株式会社アドメテック
  • コード:7778
  • 業種:精密機器
  • 上場日:2013/09/04