クラウドを利用した店舗管理システムで日本のサービス業の成長を後押しする

株式会社イー・カムトゥルー
上田 正巳

異業種交流会の中からビジネスモデルを発想

上田 正巳(株式会社イー・カムトゥルー)インタビュー写真

 「ITはそこにも、あそこにも」。そんなふうに言っても良いくらいに、ITは特別なものではなく、私たちの生活の中に浸透している。たとえば、私たちがふらっと立ち寄るカフェやレストラン、小さなショップなどでも、表立ってはわからないが急激なIT化が進んでいるのだ。
 もちろん、大手コンビニやスーパーマーケットなどがその先陣を切って走ってきたのだが、その波は数店舗を展開するラーメン店や居酒屋、クリーニングチェーンや薬局などありとあらゆる業態に及んでいる。こうした店舗のIT化最前線で、特に「中小企業をITで強くする」という心意気を持って事業展開している会社が、北海道札幌に本社を置く株式会社イー・カムトゥルー(以下、イー・カムトゥルー)である。
同社を率いる代表取締役社長の上田正巳さんは「中小企業のIT化を提案し、一緒に成長していく体験が楽しい」と自社のビジネスのやりがいを語る。
 実は、上田さん、そもそもは北海道を対象エリアとする経済誌の記者であった。しかし、記者稼業にあき足らず、北海道の企業経営者のための異業種交流会を主催する。それが、やがてイー・カムトゥルーの創業につながっていくのだ。

「記者として企業経営者の方々と接する機会を作っておけば記事が書きやすいということもあったのですが、それ以上に、すでに店頭公開や上場を果たしている企業の経営者と、これから伸びていく若い世代の経営者の出会いを作って、道内の経済を活性化するお手伝いをすることが楽しかったのです」

 北海道の産業構造は、製造業などが弱い反面サービス業が強いという面を持っている。流通などのほか、飲食業などでも北海道発で本州展開をしている企業は多数ある。そうした背景から、上田さんたちの異業種交流会の中で「北海道を出て多店舗展開していくサービス業を、インターネットを活用したITで支援するシステム会社があっても良いのではないか」という発想が浮かんだ。

「当時、交流会には50社近くが参加していましたから、その中から何社かが多店舗展開に成功すれば、それをサポートするシステム会社も十分にやっていけると考えて、私がビジネスモデルの企画を作りました。そして、いよいよ実際に具体化しようという段になって、『この会社は誰が経営するのか』となったのです。それで、企画を作ったというこで『では、私がやりましょう』となりました」

 こうして、2000年5月、イー・カムトゥルーは創業した。

最初の危機とそれを乗り越えての飛躍

上田 正巳(株式会社イー・カムトゥルー)インタビュー写真

 創業から3年間、イー・カムトゥルーは比較的順調に業績を伸ばしていった。というのは、設立前に目論んだように、異業種交流会参加企業の中の1社である外食チェーンが旺盛な出店を続けていたからである。しかし、上田さんはその出店ペースはあまりにも急激過ぎると不安を感じていた。その会社自身の出店体制うんぬんではなく、その店舗管理システムを受託している自分たちの会社が、増える業務処理に追いつけないと感じていたのだ。

「当時のシステムは今ほどに洗練されておらず、POSレジから吸い上げたデータを業務用のサーバー内で処理するだけでは完結せず、最終的にエクセルなどに落として帳票を作る必要がありました。つまり人手をかけないと成果物が出てこないかったのです。ですから、ITとは言っていましたが、ある意味で役務サービスを提供していたという感じでした。これは、考えていたものと違う、このままでは発展性がない、そんな思いがだんだん強くなっていきました」

 悩んだ末に、上田さんはこの外食チェーンと訣別する。当時、売上の7割を依存していた発注元を失うことは自社の大きな危機を意味したが、ルーティン作業に埋没する中で、本来目指していたシームレスな店舗管理システムが未完のままで宙に浮いてしまう方が怖かった。
 ちょうど、インターネットの使用料が定額制になった頃である。これに歩調を合わせるようにイー・カムトゥルーはASP(Application Service Provider)で店舗管理システムをリーズナブルな価格で提供する体制を確立した。そのシステムは、現在、クラウドを利用したSaaS(Software as a Service)方式へと進化を遂げている。

「私たちのお客様は主にサービス業で、多店舗展開されている会社です。本社や本部が店舗運営をコントロールするにあたって、私たちは、店舗のデータをPOSレジやパソコンからクラウドに吸い上げ、必要なデータとしてご提供するというサービスを行っています。
 具体的には、店舗の売上管理と、就業者などの人件費の管理を大きな柱としたデータ処理サービス。あるいは本社・本部と店舗間の情報共有のためのグループウェアのご提供などが主なサービスです」

 システムとしての完成度を高め、汎用性のある基本パッケージを中心に提案・営業を行うという上田さんの考えは正しかった。その後、同社は北海道だけでなく、首都圏を中心に全国のサービス業の会社からサービス契約を獲得していくことに成功する。

「導入企業の成長とともに」という生き方

上田 正巳(株式会社イー・カムトゥルー)インタビュー写真

 現在、イー・カムトゥルーの提供する店舗管理システムを利用する企業は130社を超え、拠点数では3,600店舗以上に上っている。この5年間、契約数は右肩上がりを示している。
 この好調の要因の一つは、サービス業の店舗管理において、実は「IT化が遅れていた」という実態にある。コンビニや大手外食チェーンなどの店舗管理においてIT化は常識となっていたが、居酒屋やラーメン店などの飲食チェーン、小規模な小売チェーンなどでは手がつかないままになっていた。
 だが、そうした業態においても、毎日の店舗管理を厳しく見つめ直し、利益を追求する体質を追及しなければ生き残れないことは明白である。ただし、「IT化は必要だが、大きな初期投資や維持経費は考えられない」というコスト意識も高い。そういう企業側のニーズに、初期費用・ランニングコストともに抑えられるクラウドサービスの提案は魅力的である。

「IT化が遅れているサービス業は、業務フローの標準化がしにくいという共通点を持っています。つまり、店長や現場スタッフの裁量で運営している部分が多いのです。それが弊害になってシステムに乗りにくい場合があります。
 私たちは、そうしたサービス業特有の特徴をよく分かっていますので、『システムは、これでなければ動きません』といった杓子定規な提案はしません。店舗にとってハードルの低い提案を『せめてここからやりませんか?』とお勧めしています」

 導入しやすい内容・価格に納得してイー・カムトゥルーの店舗管理システムを導入した企業では、毎日各店の運営内容や勤怠状況、利益が把握できるため、本社・本部だけでなく店舗にも利益追求の意識が強まる。導入前が地図も磁石も無い旅だとするならば、導入後はあらかじめルートマップやガイドを手に持ち、ナビゲーションを聞きながら旅するようなものである。多くの企業は、システムの導入をステップとして、さらなる成長を遂げていく。

「たとえば、あるラーメン店チェーンの場合、30~40店規模のときに導入いただいたのですが、その後どんどん店舗展開をされて現在では180店という規模にまで拡大されました。しかも、その過程で取引所に上場されましたので、私たちもシステムの対応などですごく大きな経験をさせてもらいました。今では、他のお客様にも『うちのシステムはIPOする規模の企業でも対応することができます』と胸を張って言っています」

 このように、契約先のお客様の成長・拡大を一緒に経験し、自社にとってもプラスのエネルギーに変えていく流れは、上田さんが自社に植え付けたポジティブな意識に支えられている。それは、「道内の経済を活性化するお手伝いをする」ために、記者時代に異業種交流会を立ち上げた頃からずっと変わらないものだ。

2014年の布石を今後に活かす

上田 正巳(株式会社イー・カムトゥルー)インタビュー写真

 イー・カムトゥルーは順調な営業を展開していたが、経営にあたる上田さんには一つの課題が見えていた。顧客企業の大事なデータを預り、なおかつ「店舗管理システム」というその企業にとって極めて重要なサービスを提供し続ける上で、自社の信用度と継続性に裏打ちされた『安心』をどのように証明するかである。

「コンペティションなどの場面で、価格・サービスレベルは認めていただいた上で、『大変失礼な言い方になるが、貴社の継続性は大丈夫ですか?』というようなことを言われることがありました。発注側の企業、特に担当者としては至極当然な心境だと思います。これが、サーバーを立ててシステムを組むのであれば、最悪の場合でもサーバーがあれば何とかなるかもしれませんが、クラウドサービスではそうはいきません。ですから、イー・カムトゥルーという会社を信用して、安心して契約いただける証明を、我々自らで行う必要があったのです」

 この課題に対する解決策として、上田さんはTOKYO PRO Market上場を決意し、同社は2014年10月20日に上場を果たす。

「『TOKYO PRO Marketに上場すれば何もかも大丈夫』ということでないことは重々承知していますが、上場企業としての自覚を持ち、その責任を果たしながら歩んでいくことは、顧客企業に納得していただける大きな材料だと思っています」

 さて、上場を果たした上田さんが次に取り組む大きなテーマは何か。それは、アジアに出店するサービス業の支援と、出店した店舗での店舗管理システム稼動である。

「実はすでに国内でご契約いただいているラーメン店チェーンがアジアでブレークしていたので、私たちもその実態を視察して来ました。そして、日本のサービス業はものすごく強いし、豊かになりつつあるアジアで今後急速に出店が増え、成功するだろうという手応えを得ました」

 そう考えて準備を始めたのが4年前。そして、3年前に初の海外事例となるシンガポールの店舗の店舗管理システムを稼動させた。現在では、アジアでのサポート店舗数は20店舗にまでなっている。
 上田さんによれば、同じようなクラウドサービスを提供する同業他社で、海外店舗のシステムを手がけているという話は聞かないと言う。しかし、自社については「5年以内に、国内のサービス拠点と海外のサービス拠点数は逆転する」だろうと、上田さんは予想している。それほどに、アジアの実態は熱いのだ。
 2014年2月、上場に先立って、同社はアジア展開の拠点としてシンガポール事務所(ECOME GLOBAL SERVICE PTE.LTD.)を開設した。 また、アジアへのフランチャイズ展開を支援するコンサルティング会社と業務提携を結んだ。日本からアジアに向かうサービス業の出店の波を、いち早く捉えようというのである。
 振り返れば、2014年は上田さんにとって新たなステージに歩みを進めた年になった。しかし、そこに満足は無い。5年、10年後に振り返ったとき、2014年はその後の飛躍の布石を打った年として、きっと思い起こされるに違いない。

(文=志澤秀一 写真=佐藤敏光)2015/03/10

プロフィール

上田 正巳(株式会社イー・カムトゥルー)プロフィール写真
上田 正巳
株式会社イー・カムトゥルー 代表取締役社長
1965 年
北海道生まれ
1987 年
北海学園大学法学部卒業
北海道内の経済誌でライターを勤めるかたわら札幌市内のベンチャー企業経営者を組織化し、道内経済界のトップと、ベンチャー企業の経営者たちとのマッチングを主軸に、会員企業のインキュベーターとして活躍
2000 年
株式会社イー・カムトゥルーを設立、代表取締役社長となる
2014 年
TOKYO PRO Market上場

会社概要

株式会社イー・カムトゥルー
株式会社イー・カムトゥルー
  • コード:3693
  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2014/10/20