上場会社における不祥事予防のプリンシプル

不祥事予防に向けた取組事例集

2019年11月、企業法務実務担当者の情報交換等を行う会員組織である「経営法友会」の有志によって開催された「不祥事予防のプリンシプルに関する意見交換会」から、「不祥事予防に向けた取組事例集」が公表されました。
本事例集は、意見交換会に参加した各社における不祥事予防のための具体的な取組内容等を紹介することで、そうした取組みに携わる実務担当者の皆様の参考としてご活用いただくことを目的としたものです。

不祥事予防のプリンシプルに関する意見交換会「不祥事予防に向けた取組事例集」(2019年11月7日) PDF
「不祥事予防に向けた取組事例集」の公表(経営法友会ウェブサイト)icon-block

プリンシプル策定の趣旨

近年、上場会社における多くの不祥事が表面化し報道されています。業種を超え、規模の大小にかかわらず広がっている現状です。これらの中には、最近になって発生した事象もあれば、これまで潜在していたものが顕在化した事象も見られます。いずれにせよ、これら不祥事は、その社会的影響の広がりに加え、当該企業の社会的評価を下げ、業績に悪影響を及ぼし、株価の下落も相俟ってその企業価値を毀損します。さらに、上場会社の間で不祥事が頻発するような資本市場は、コーポレート・ガバナンスが機能していない市場とみなされ、その信頼性を失うこととなります。

日本取引所自主規制法人は2016年2月に『不祥事対応のプリンシプル』を策定し、実際に不祥事に直面した上場会社の速やかな信頼回復と確かな企業価値の再生に向けた指針を示しました。しかし、不祥事がまれな事象でなくなった現状において、不祥事の発生そのものを予防する取組みが上場会社の間で実効性を持って進められる必要性が高まっています。そこで、不祥事発生後の事後対応に重点を置いた上記プリンシプルに加えて、事前対応としての不祥事予防の取組みに資するため、今般『不祥事予防のプリンシプル』を策定しました。上場会社においては、これらのプリンシプルを車の両輪として位置付け、実効性の高い取組みを推進していただくことを期待しています。

本プリンシプルにおける各原則は、各上場会社において自社の実態に即して創意工夫を凝らし、より効果的な取組みを進めていただくための、プリンシプル・ベースの指針です。また、仮に本プリンシプルの充足度が低い場合であっても、上場規則等の根拠なしに当法人が上場会社に対する不利益処分等を行うものではありません。むしろ、上場会社が自己規律を発揮していただく際の目安として活用されることを期待しています。また、上場会社に助言等を行う法律専門家や会計専門家、さらには広く株主・投資者の皆様にも共有され、企業外のステークホルダーからの規律付けが高まることも期待されます。

日本取引所自主規制法人は、(株)日本取引所グループの一員として、東京証券取引所及び大阪取引所の上場審査、上場管理、売買審査、考査等の業務を一手に担っている、金融商品取引法に基づく自主規制機関です。上場会社に関しては、有価証券報告書虚偽記載や不適正開示、企業行動規範の違反など、資本市場の基本インフラを直接脅かす事案において、上場規則に基づき、問題を起こした上場会社への不利益処分を判断する権限を有しています。他方、企業がその業務遂行の過程で犯した不正や不適切行為そのもの(上述の上場規則違反に該当しないもの)に対しては、直接の権限を行使する立場にありません。しかし、我が国資本市場の信頼性向上のために、上場管理業務を行っていく中で蓄積した知見を、プリンシプルなどの形で広く共有することは、有益であると考えています。

上場会社における不祥事予防のプリンシプル

上場会社における不祥事予防のプリンシプル ~企業価値の毀損を防ぐために~

 

上場会社は、不祥事(重大な不正・不適切な行為等)を予防する取組みに際し、その実効性を高めるため本プリンシプルを活用することが期待される。この取組みに当たっては、経営陣、とりわけ経営トップによるリーダーシップの発揮が重要である。

 

[原則1] 実を伴った実態把握

自社のコンプライアンスの状況を制度・実態の両面にわたり正確に把握する。明文の法令・ルールの遵守にとどまらず、取引先・顧客・従業員などステークホルダーへの誠実な対応や、広く社会規範を踏まえた業務運営の在り方にも着眼する。その際、社内慣習や業界慣行を無反省に所与のものとせず、また規範に対する社会的意識の変化にも鋭敏な感覚を持つ。
これらの実態把握の仕組みを持続的かつ自律的に機能させる。

 

[原則2] 使命感に裏付けられた職責の全う

経営陣は、コンプライアンスにコミットし、その旨を継続的に発信し、コンプライアンス違反を誘発させないよう事業実態に即した経営目標の設定や業務遂行を行う。
監査機関及び監督機関は、自身が担う牽制機能の重要性を常に意識し、必要十分な情報収集と客観的な分析・評価に基づき、積極的に行動する。
これらが着実に実現するよう、適切な組織設計とリソース配分に配意する。

 

[原則3] 双方向のコミュニケーション

現場と経営陣の間の双方向のコミュニケーションを充実させ、現場と経営陣がコンプライアンス意識を共有する。このためには、現場の声を束ねて経営陣に伝える等の役割を担う中間管理層の意識と行動が極めて重要である。
こうしたコミュニケーションの充実がコンプライアンス違反の早期発見に資する。

 

[原則4]不正の芽の察知と機敏な対処

コンプライアンス違反を早期に把握し、迅速に対処することで、それが重大な不祥事に発展することを未然に防止する。
早期発見と迅速な対処、それに続く業務改善まで、一連のサイクルを企業文化として定着させる。

 

[原則5] グループ全体を貫く経営管理

グループ全体に行きわたる実効的な経営管理を行う。管理体制の構築に当たっては、自社グループの構造や特性に即して、各グループ会社の経営上の重要性や抱えるリスクの高低等を踏まえることが重要である。
特に海外子会社や買収子会社にはその特性に応じた実効性ある経営管理が求められる。

 

[原則6] サプライチェーンを展望した責任感

業務委託先や仕入先・販売先などで問題が発生した場合においても、サプライチェーンにおける当事者としての役割を意識し、それに見合った責務を果たすよう努める。

参考資料

公表資料(2018年3月30日) PDF
 
パブリックコメントの結果 (「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」(案)の策定について 2018年2月21日)