上場会社トップインタビュー「創」

株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス
  • コード:2884
  • 業種:食料品
  • 上場日:2016/03/04
吉村 元久(株式会ヨシムラ・フード・ホールディングス)

売却を前提としない買収で個々の企業の強みを引き出し、グループ全体の成長に導く

吉村 元久(株式会ヨシムラ・フード・ホールディングス)インタビュー写真

 食品業界は事業者数で日本最大のセクター。この業界を広大な海原に見立てれば、株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス(以下、ヨシムラ・フードHD)はそこをゆっくりと進軍する大規模な船団だ。

 有望な中小企業の支援を行いながら、どんどんと勢力を拡大していく船団。ヨシムラ・フードHDの旗のもとに集結した様々な小舟のなかには古くなって勢いを失ったものもあるが、そのどれもが時間とともに少しずつ活気を取り戻し、大きな船団はますます結束を強めて歩を進めていく。 

 グループ内では乾麺、冷凍カキフライ、ピーナッツバター、日本酒など多様な食品専門業者が15社(2018年12月現在)、それぞれが強みを活かしつつ、弱点を相互に補完しあいながら順調に成長。2016年には3社、2017年には2社、2018年には1社と近年、コンスタントにグループ会社を増やしながら、売上高200億円突破(2018年度2月期、前年度比123.4%)に成功している。

 これから10年以内の1,000億円到達を視野に入れる社長の吉村元久さん。自身が実践するビジネスモデルについて、こう説明する。

「多くの中小食品会社が、後継者不在という深刻な問題を抱えています。また、長く事業を継続していくにつれ、営業や製造、物流や新規開発などの領域のうち、どこかに弱みを抱えて経営が困難に陥ってしまっているという会社も少なくありません。私たちのビジネスはこうした会社を丹念に探して支援し、共に成長していくこと。食品業界だけを見ても、ポテンシャルがあるにも関わらず、運営に苦慮している中小企業はとても多い。ですから私たちが見ている方向には、広大なユニヴァースが広がっていると感じています」
 
 国内における中小企業の事業承継問題は、年々、深刻化している。健全なビジネスモデルや機能的な生産設備を有しているにも関わらず、社内や親族に事業を承継する適任者がおらず、事業存続をあきらめてしまう中小企業は多い。贈与税、相続税の重い負担に加え、日本の中小企業では負債に対する経営者保証が、後継者探しを難しくしている。こうした問題を解決しながら、グループ化した中小企業とともに成長していくヨシムラ・フードHDのビジネスモデルは社会的意義も極めて大きい。

 その手法は同社が成長の過程で培った販路拡大、製造効率化、経営管理充実、新商品開発におけるノウハウを「中小企業支援プラットフォーム」と称して、すべてのグループ会社にフィードバック。中小企業特有の経営課題を包括して解決しつつ、各企業が抱える個別の問題は細やかに解消していく。一方、それぞれの企業はニッチな分野において既に強みや実績を持つため、グループ全体としては即座に事業領域を拡大できる。相互補完によって成長していくこのビジネスは、ファンドによる一般的なM&Aビジネスによって利益を挙げていく手法と明らかに一線を画す方向性だ。

大船団を束ねる秘訣は、多様性を受け入れる懐の深さ

吉村 元久(株式会ヨシムラ・フード・ホールディングス)インタビュー写真

 小学校の卒業文集に、「将来の夢は大実業家」と書いた吉村さん。とは言え、決して派手さを求めるのではなく、地道な努力で事業を継続し、立身出世することこそ素晴らしい。そんな教えを自然と母親から学んだという。
 
 大学卒業後に就職先を選ぶ際も「就社」という意識はまったくなかった。将来、独立するにはどんな会社がいいかという視点で、証券会社を選択。後から考えれば、実業家への第一歩にふさわしい業種だったと言える。

「将来、どのような職種で独立するかという具体的なアイディアはありませんでしたが、辞めた後、自分の選択肢が広がるような会社がいいなとは考えていました。海外の留学制度がある点も魅力でした。漠然と、世界を肌で感じてみたいという思いがあったんです」

 思惑どおり、大手証券会社に就職後、海外留学を経験。アメリカの大学院では修士課程も修了した。そんな経験が外資系証券会社への転職、そして起業へとつながっていく。アメリカの社会で得た感覚は、多様な会社を束ねるという現在の業務にも少なからず活きていると、吉村さんは振り返る。

「たとえば授業には様々な国籍の学生が集まるのですが、その中にレバノン出身の人がいた。期日までに出された課題をそれぞれ提出することになっていても、そのレバノン人は言い訳をしながら何も持ってこない。僕はなぜ、約束を平気で破り、しかも謝罪もなく言い訳までするのかと驚いたんですが、周囲の多くが仕方ないなあという反応だったんです。それぞれ多様なバックボーンを持っていることを皆は普通に許容していたわけですね。自分と違う価値観に出会ってもすぐに矯正しようとはしない懐の深さ。そういうカルチャーが世界のスタンダードなんだなという気づきは、後の人生に役立ちましたね」

 帰国後、吉村さんのビジネスは次のステージに入っていく。

「様子を伺う」スタンスで、メンバーのやる気が熟成するのを待つ

吉村 元久(株式会ヨシムラ・フード・ホールディングス)インタビュー写真

 外資系証券会社の証券マン時代には、日本における中小企業の現状も目の当たりにした。そこで感じたのは、明らかな人材不足の現状。優秀な人材が規模の大きな企業へと極端に集中している状況は、吉村さんの目にはビジネスチャンスにも見えた。

「規模は大きくなくても優れたビジネスモデルを持つ会社は多い。そんな会社の多くが、人材不足によって停滞しているケースを多く見てきました。つまり、良い人がいればまだまだ成長していける会社は多いということ。そんな気づきが後の起業につながっていったのは確かです」

 たまたま、ある食品会社の買い手がいないという状況を引き受けたのが、現在の事業を始めたスタート地点。この事例がうまくいったのを周囲が見て、また次の買収案件が持ちかけられるという連鎖が始まっていったという。とはいえ、全ての持ちかけに応じられるわけではない。年間100~200もの買収候補案件がリストアップされるという状況。その取捨選択はどのように行われているかについて、吉村さんはこう説明する。

「必ずしも"いい会社"ということだけではない。私たちがやるべき仕事かどうか、も大事な要素。たとえば、人や金を投入して、急激によくなりそうな会社はファンドが引き受けて再生させればいい。そのような会社は売却が目に見えているわけですから買い手もつきやすい。一方、ニッチな領域で頑張っているんだけど後継者不足でこの先は難しいとか、地道に利益は上がるかもしれないが急激には伸びそうもないというような会社は、ファンドにとっては魅力的には映らない。私たちが組むのはこうした企業です。相手の事情に寄り添いながら、決して売却を前提としない。それが私たちの事業なんです」

 どんなに確信があっても「指示を下す」という意識はあまりない。自身の経営スタンスを評し、普段は「様子を伺う」ことに専念していると笑う吉村さん。裏を返せば、確かなポテンシャルを持つ相手に対し、相応の時間を与え、任せているということ。自分流を多様な企業に対して押し通していては、必ずどこかに無理が生じる。確かな目で選んだパートナーの力を信じて、再生や覚醒をじっと待つことこそが、吉村流の正攻法なのである。

日本の食を世界に広める。ヨシムラ・フードHDだからこそできる、食品業界の活性化

吉村 元久(株式会ヨシムラ・フード・ホールディングス)インタビュー写真

 2016年には東証マザーズに上場し、その約1年後には東証一部にステップアップ。市場での存在感が増すと同時に、社外での反応や内面に芽生える責任感など、変化も増大したと語る吉村さん。ここまでの道のりについて、あらためてこう総括する。

「今でももちろん緊張感は持続していて、良い意味でストレスも抱えながら事業運営を行っています。確かに小さい頃から実業家を目指していましたが、東証一部上場をゴールにしたわけでもありませんでした。言ってみればゴールを設定しないまま、走り続けてきたということ。かといってお金儲けを最優先に考えていたわけでもなかったことが、今の充実感につながっているのかなと思います。上場はあくまで通過点。だけどこの先、どんなゴールがあるかはわからない。100点満点だとすれば今の満足度は50点。だから100点に到達するまでまだまだ道のりはあるはずだし、やるべきこと、楽しいことも待っているはずです」

 日本の食を海外へ、という大きな時流に乗っていきたいと、自社の方向性について抱負を語る吉村さん。たとえば、シンガポールにおいて寿司等の製造、販売を手がけている「JSTT」は、2017年12月にグループ企業となったが、それまで3期連続で売上、純利益を減少させていた。同時に創業社長の後継者がいないことで何らかの手を打つ必要もあった。

 同社のポテンシャルに着目したヨシムラ・フードHDは、グループの一員とすることで後継者問題を解決するだけでなく、JSTTが構築してきたシンガポールにおける販路をグループ全体で活かすというシナジーに期待した。この事例を足がかりにいよいよ、グループ全体の本格的な海外展開を実践していこうとするヨシムラ・フードHD。自社グループのアドバンテージについて吉村さんはこう話す。

「言葉の問題や販路の問題をクリアにしさえすれば、ビジネスが軌道に乗るというケースもあります。ならば私たちがグループとして海外に販社を設置すれば、国内で頑張っているグループ内の会社がいきなり海外進出を果たせる場合もある。グループであるメリットを最大限活かすことは今までも、これからも変わりありません。私たちが強さを増すことで、日本の食品業界が海外に打って出る勢いにもなればなお嬉しいですね」

 例えるなら、自身の役割は映画のプロデューサー。監督や俳優、脚本を誰にするかを決め、方向性をつけたら、皆を信じてまかせる。そんなリーダーのおおらかさと潔さ、懐の深さでヨシムラ・フードHDという船団は勢いを増していく。仕事を楽しみながらも、「いつかは責任のない立場で全てから解放される」ことを楽しみにしていると話す吉村さん。人好きのする社長のもとに、今日もまたポテンシャルを秘めた会社が相談事を持ってやってくる。

(文=宇都宮浩 写真=高橋慎一 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2018/11/08

プロフィール

吉村 元久(株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス)
吉村 元久
株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス 代表取締役CEO
1964 年
北海道函館市生まれ
1988 年
一橋大学商学部卒業、大和証券株式会社入社
1994 年
ペンシルバニア大学大学院ウォートン校(MBA)卒業
1997 年
モルガン・スタンレー証券株式会社入社
2008 年
株式会社エルパートナーズを設立し、代表取締役就任
2009 年
ヨシムラ・フード・ホールディングスへ商号変更し、同社代表取締役CEOに就任

会社概要

株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス
株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス
  • コード:2884
  • 業種:食料品
  • 上場日:2016/03/04