上場会社トップインタビュー「創」

株式会社トレジャー・ファクトリー
  • コード:3093
  • 業種:小売業
  • 上場日:2007/12/26
野坂 英吾(株式会社トレジャー・ファクトリー)"地域に根ざした店作りで リユース文化を浸透させる”

起業への出発点は「親父超え」

  多くの男性にとって父親とは、人生で最初に出会うライバルであり、目標であるらしい。関東を中心に全74店のリユースショップを展開する株式会社トレジャー・ファクトリー社長の野坂英吾さんもまた、幼い頃から父の背を追いかけ、超えたいと思った。すでに中学2年のときには「父を超えるためには社長になるしかない」と考えていたというのだから、思いの強さは相当なものだ。

野坂 英吾(株式会社トレジャー・ファクトリー)インタビュー写真

「商社マンだった父はとてもバイタリティのある人で、僕たち子供が起きている間はずっと働いていて家にいませんでした。でも休日には少年野球の審判をしてくれたり、会社の人との飲み会に連れていってくれたりして、公私にわたる自分の姿をありのままに見せてくれた。そんな父に追いつき追い越したいと思ったわけですが、父は最終的には東証一部上場企業の役員にまでなりましたから、同じ道を歩んだのではとても敵わない。別の形でスタートを切らなければ、と思ったのが起業の原点ですね」

 しかし、当時の野坂さんはどちらかというと引っ込み思案なタイプ。人前で話をすることもままならない自分が社長になるにはどうすればいいかと考えた彼は、野球部のキャプテンや学園祭の実行委員長など、次々に"リーダー"の役を引き受け始める。

「そうやってリーダーシップを身につける練習をしながら、大学時代には創業社長の講演会などへ足を運んで事業に対する考え方を学びました。ベンチャーも含め30人くらいの社長の話を聞きましたが、そこでわかったのは十人十色、それぞれのやり方があるんだということ(笑)。
僕の場合は起業の決意だけが先にあって何の会社を作るかというイメージがなかったので、事業を決めるのに悩みましたね。講演会の質疑応答の時間に『僕は何をすればいいでしょうか』と迷惑な質問をしたこともありましたよ(笑)」

 どうせやるなら社会の役に立つことをしたい。でも何をすればいいかわからない。そんな野坂さんに、ひとりの経営者が「世の中にあったらいいなと思うことを50個書き出してみなさい」というアドバイスをくれた。言われるままに書き出したアイデアから出てきたのが"リサイクル"というキーワードだった。

「元来が物を大事にするタイプで、バザーやフリーマーケットなど、誰かが使った思い入れのある物をまた大切に使っていくということにも興味があったんです。そこに、まだ使える物がたくさん捨てられているという現実と、世の中に貢献したいという強い思いがマッチした。これだ、と直感しました」

売買の裏側を支えるシステムを整備し、多店舗展開を果たす

野坂 英吾(株式会社トレジャー・ファクトリー)インタビュー写真

 トレジャー・ファクトリーが設立された1995年頃は、日本にはまだリサイクルマーケットと呼べるほどのものが確立されていない。循環型社会へ向けて政府がリデュース・リユース・リサイクルの3Rに取り組み始めるのも2000年代に入ってからのことで、当時のリサイクルショップは人々にとって古道具屋の延長のような存在だった。

「リサーチのため、全部で48店のリサイクルショップを回りましたが、商品は汚れたままで値札もなく、接客もきちんとしてくれない、という状況のところがほとんど。売り手も買い手も骨董マニアみたいな感じで、どこの店主にも『こんな商売、やめておきなさい』と言われました(笑)。でも僕は、現状の問題をひとつずつ解決していけばマーケットを変えられる、リユースをもっと身近なものにしてユーザーの裾野を広げれば世の中の役に立てる、と思ったんです。そこで、商品を綺麗にする、値札を付ける、接客サービスをきちんとする、の3点を徹底させ、電化製品には保証を付けることにしました。資金がなかったので1号店は理想にほど遠い店でしたが、"物を大切にする"ということを店舗を通じて伝えようと心がけ、初めてのお客さまでも安心して利用できる店作りを目指しました」

 東京・足立区に構えた1号店のオープン資金はなんと30万。事業計画では700万の資金が必要だったが、まだ大学生だった野坂さんには銀行も公的機関も融資してくれず、なかなかスタートを切れなかったという。やがて新聞に「空いている倉庫を若手起業家に貸します」という倉庫会社の記事を見つけた彼は、1年がかりで150坪の新築倉庫を格安で借りる交渉に成功、リサーチで回ったショップが閉店する際の在庫商品をもらって、ようやく1号店をオープンさせたのだった。

野坂 英吾(株式会社トレジャー・ファクトリー)インタビュー写真

「このビジネスは扱う商品のほとんどが1点ものなのでマニュアル化が難しく、そのため事業を発展させにくいといわれます。ならば逆に、精度の高い商品管理システムを構築できれば事業を大きくしていけるんじゃないか。そう考えて2号店からはPOSシステムを導入し、単品管理できる仕組みを作りました。現在ではPOSシステムに連動する『査定支援システム』を自社開発し、店舗スタッフを短期間でバイヤーに育てるためのサポート体制も整えています。こうして裏側を支えるシステムを整備することで、必要なデータをよりタイムリーに活用できるノウハウを蓄積し、多店舗展開につなげています」

 とはいえ多店舗展開を急いだ2004年には、一気に6店を開店させたことで人材の成長が追いつかず、苦境にも陥った。現在のトレジャー・ファクトリーを支えるシステムは、改良に改良を重ねたものだ。これにより近年の棚卸資産回転率はリユース市場の平均約6回転を上回る8.4回転、売上高経常利益率も8.0%と、高い水準を示している。

冷静な分析家、野坂社長のモットーは「怒らない経営」

野坂 英吾(株式会社トレジャー・ファクトリー)インタビュー写真

 子供の頃、引っ込み思案だった野坂さんはこうして「社長になる」という夢を実現させ、1,000人を超えるスタッフを率いるリーダーとなった。人材育成に関しても前述の査定支援システムをはじめ、働きやすい職場にするためのマニュアル整備に早くから取り組んでいる。ただ、リーダーシップの取り方には一種独特なところがある。ひとことでいえば"怖くない社長"。どこか学級委員長風なのだ。

「スタッフひとりひとりの考えを取り入れたうえで舵取りをしていく、というのが僕のやり方。100の意見を全部実現させることはできませんが、100の意見がないと自分たちが目指す方向も見えてこないと思うので、数多くの意見をぎゅっと集めたうえで1本の道筋を示すというのが社長の役割なんじゃないかと考えています。ですからどんなプランが出てきても最初から否定はしません。怒ることもまずないですね。怒らなければいけない状況に陥るときというのは、その根幹に必ず組織全体の問題が隠れているんです。だから表面的な出来事に対して怒っても仕方がないというか、怒る必要がないんですよ。ひとつの事象に囚われず、状況を冷静に紐解いたうえで仕組みから正すようにしています」

 業務改善のため、優れたアイデアを表彰する制度を立ち上げたり、社内に目安箱を置いたり。業績優秀店のスタッフとは食事会を開いて成果の要因を探り、半年に一度は社員全員と役員が約30分にわたる個別面談の機会まで設けているそうだ。面談では仕事上の意見や課題だけでなく、結婚や出産といった個人的な話題にも耳を傾ける。

「そうはいっても"聞く"ことにも能力が必要ですから、ぐっとこらえる場面もあるしストレスも溜まります(笑)。10年前から始めたマラソンがストレス発散に役立っていますね。会社経営ではいかにして追い込まれたときも平常心でいられるかということが重要なので、マラソンは自分自身のメンタル面を整えるのにとても有効なんですよ。上場後の2008年からは、個人的にもステップアップしようと100キロマラソンを始めました。年に一度は大会に参加し、これまでに7回出場した大会ではすべて完走を果たしています。今年は6月の大会に参加する予定なので、いま皇居の周りをぐるぐる走りながら練習を重ねているところです(笑)」

リユースショップを「世の中に不可欠なもの」にしていくために

野坂 英吾(株式会社トレジャー・ファクトリー)インタビュー写真

 オフタイムにはランニングがてらパワースポット巡りをしたり、3人の息子を連れて行楽地へ出かけたりしているという野坂さん。精力的にあちこちへ足を運ぶのには"視察"というもうひとつの目的もある。

「当社では現在74のショップを運営していますが、すべて同一ではなく、それぞれが地域に根ざした特色を持っていることが競合他社にない特徴です。たとえば海の近くではサーフ用品、山の近くではアウトドア用品に人気があるとか、下北沢店には若いお客さま、郊外には車でいらっしゃる年配のお客さまが多いといった地域特性を見ながら、地域のニーズに合った店舗に作り込んでいく。そうして街に溶け込む、息の長い店舗を作って顧客層を積み重ねていくことで、リユースの裾野を広げ、循環型社会の実現に貢献したいと考えています。1店1店にその店ならではの雰囲気や得意分野があるので、当社の店舗を1日に3店ハシゴする、というようなお客さまもいらっしゃるんですよ。だから僕も、休日には各地へ出かけて街の雰囲気を肌で感じ、どんな店があって、どんなビジネスが盛んなのかという地域特性を掴むよう心がけています」

 昨年からは関東の枠を超えて関西にも進出。今後は全国の主要都市へ店舗展開を図りながら、海外への出店も視野に入れているという。海外でも現地で出た商品を現地で循環させていくという地域密着型のスタイルは変えないそうだ。ならば、あえてそれを日本人がやる意味はあるのだろうか。ぶしつけな質問をぶつけてみた。

「日本人がやる意味はないかもしれませんが、我々がやる意味はあると思っています。リユースショップはどの国にもありますが、多岐にわたる商品の1品ずつにきちんとした適正価格を出してニーズに応える仕組みを作れるノウハウは当社だけのものですから。この強みを生かしてリユースのイメージを変え、リユースショップというものを世界中の国になくてはならない存在にしていくというのが究極の目標ですね。いまよりもはるかに幅広い物がリユースされる世の中、その実現が、我々にならできると思っています」

 3人の息子のうち、長男は現在中学1年生。そろそろ野坂さんが「親父超え」を決意した歳にさしかかる。父親として、経営者として、野坂さんはどこまで大きくなるだろう。温和な表情の裏に、彼が自らの父に感じたバイタリティと同じ炎が見えた気がした。

(文=道行めぐ)2014/04/15

プロフィール

野坂 英吾(株式会社トレジャー・ファクトリー)プロフィール写真
野坂 英吾
株式会社トレジャー・ファクトリー  代表取締役社長
1972 年
神奈川県生まれ
1995 年
日本大学文理学部卒業
1995 年
(有)トレジャー・ファクトリー設立
1999 年
(株)トレジャー・ファクトリーへ組織変更
2007 年
東証マザーズ上場

会社概要

株式会社トレジャー・ファクトリー
株式会社トレジャー・ファクトリー
  • コード:3093
  • 業種:小売業
  • 上場日:2007/12/26