上場会社トップインタビュー「創」

三重交通グループホールディングス株式会社
  • コード:3232
  • 業種:不動産業
  • 上場日:2015/03/19
岡本 直之(三重交通グループホールディングス株式会社)トップ画面

持株会社制の機動力を活かす

先進国の中でももっとも速いスピードで「少子高齢化」が進む日本。政府は、次代への対応策として「地方創生」を掲げ、新しい国の姿を生み出そうとしている。その具現化には地域の企業が果たす役割が大きく、とくに、交通インフラ事業など地域社会を支える事業を展開する企業はその中核を担うといっても過言でない。
 伊勢志摩サミットを目前にひかえる三重県には、70年を越える歴史を持つ三重交通グループホールディングス株式会社(以下、三重交通グループ)がある。代表取締役社長の岡本直之さんにお話をうかがった。

岡本 直之(三重交通グループホールディングス株式会社)インタビュー写真

「三重交通は、1944年、地方の交通会社を整理統合して強化しようという戦時統合の一環として、三重県にあった七つのバス会社、鉄道会社が一つになってできました。1950年には名古屋証券取引所に上場して、その後、高度成長の波に乗って成長し、バス事業で培った信用力と認知度を活かして不動産事業や流通事業を展開する、地方の公共インフラ企業集団になったのです」

 三重交通グループは近畿日本鉄道グループ(以下、近鉄)に属している。
岡本さんは近鉄でキャリアを積み、近鉄の取締役副社長を経て、2010年に三重交通グループの代表取締役社長に就任した。リーマン・ショックのダメージを世界経済が引きずり、日本企業も景気後退の中にあった。三重交通グループも例外ではなかったが、岡本さんが経営を引き継ぐ前の2006年10月に実施していた持株会社制への移行が、経営の立て直しに有効に機能していた。

 「2006年当時、私は大阪の近鉄にいましたが、正直なところ『えらいもんをつくったな』と思いました。グループ経営にはメリットもありますが、難しさもあります。しかし、結果から言えば、これは非常によい選択でした。グループ内の多岐にわたる会社を再編、統合することが容易に実現し、スピード感を持って危機に対応できたのです」

 岡本さんが社長に就任してからは、「環境の変化にきちんと対応できる者だけが生き残る」と考えながら、事業の再編を継続的かつ積極的に進めた。
その結果、三重交通グループは利益の伸びとともに財務体質を改善し、2013年3月期から3期連続で過去最高益を記録。2016年3月期もその流れを維持する見込みだ。

将来に向けた種蒔きを行うDNA

岡本 直之(三重交通グループホールディングス株式会社)インタビュー写真

 バブル崩壊以降、三重交通グループは業績不振であった三交百貨店や新湯の山観光ホテルなどを閉鎖した。一方で、新しいビジネスの種もまいてきていた。1986年から取り組んでいる『東急ハンズ』のフランチャイズ事業では、2000年に2店舗目となる大型店を名古屋駅に出店。

 「東急ハンズ名古屋店は、全国に39店舗ある東急ハンズの中で、新宿店に次いで全国2番目の売上を達成しています。三重県のお客さまにもご利用いただこうと、2015年4月には桑名店を開業しました。
 ビジネスホテル経営の『三交イン』は2001年にスタート。三交インは、2014年8月にオープンした『三交インGrande東京浜松町』を含めて現在10施設あります。今年は伊勢神宮のお膝元である伊勢市駅前にオープンさせる予定です。東京から沼津、静岡、名古屋、三重県内と展開しているので、後は関西につくり、ひとまずホテルチェーンとしての第一段階を完成させたいと思っています」

 現在、三重交通グループの好調な業績を支えているのは、こうした厳しい時代にまいたビジネスの種が実ってきたからだ。
 
 そして岡本さんご自身、先達にならい、将来のビジネスへの種蒔きも行っている。
「環境エネルギー事業としてメガソーラー(大規模太陽光発電所)をスタートさせました。これによって、先々は年間40億円の売上を達成できると考えています。景気のよいときは不動産分譲や流通、レジャーなどが売上を引っ張っていきますが、問題は不景気になったときどうするか。われわれとしてはバスと不動産賃貸が下支えするという構造ですが、そこにもう一つ、メガソーラーを加えることでより強固な体制が築けると考えています」

 三重交通グループが行っている「従来事業の整理、収益の見込める事業への注力、新しいビジネスへの投資」という戦略は地道ではあるが王道だ。地域をよく見直し事業をフィットさせて結果を出していく三重交通グループの姿は、地方創生が声高々に叫ばれる中、日本各地の公共インフラ事業を基盤とする企業の一つのモデルとなるのではないだろうか。

もうワンステップ上がろう!

岡本 直之(三重交通グループホールディングス株式会社)インタビュー写真

 三重交通グループは、2015年3月、東証1部に上場した。名古屋証券取引所上場から65年、東証1部上場は「新たなるスタートを切る」という決意表明でもあった。

 「2014年2月に、グループの核である三重交通が創立70周年を迎えました。私は、ここでもうワンステップ上がりたいという思いを持っていて、それには『東証1部上場』が一つの手だと思っていました。でもそれを自分が言い出すのではなく、社内からそういう声が上がってきて欲しいと思っていたんです。そうしたところ、若手の管理職が『東証1部に是非チャレンジしたいのですが』と言ってきたので、待ってましたとばかりに『よし、やろう!』、と(笑)。それからは駆け足で上場準備を行いました」

 70周年を契機とするためには、何としてでも1年で東証上場の承認を得たい。グループ各社の総務担当は大変だった。

 「こんな経験はしようとしてもできない、たまたま総務を担当していたことによって、自分の会社が上場するという歴史的な瞬間に立ち会えるのだよと皆を励ましました。それに上場のために社内体制や契約などを見直しすることで、より一層よい会社になるチャンスをもらったと考えようとも話しました」

 こうして通常1年半から2年かかる上場準備を1年で行い、2015年3月19日に東証1部上場を果たした。上場当日、それまで250~270円で大きな変化がなかった株価が429円まで上がった。地域のメディアにも多く取り上げられ、三重県内外の経済界からもお祝いのメッセージが届いた。そうした中で岡本さんは二つのことが印象的だったという。

 「一つは、長い間250円ぐらいだった株式を持っていてくださった株主の方々が本当に喜んでくださったこと。もう一つは、地元のステイクホルダーの方々が喜んでくださったこと。一般のお客さまから『よかったですね!』と言われるとは思っていなかったのでたいへん印象的でした。私たちの仕事の重要性を再確認しました」

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「安全なサミット」に全力を尽くす

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 三重交通グループが上場して3ヵ月ほど経った6月5日、安倍晋三首相は伊勢志摩でのサミット開催を発表した。この発表に市場はたちまち反応し、伊勢志摩サミット関連銘柄などと注目されたことで、買い注文も増え、株価は上昇。三重交通グループも518円のストップ高となった。
 伊勢志摩サミットは、まさに、国内外に三重県をPRする絶好のチャンスである。そこで第一に考えるべきは「安全であること」だ。岡本さんはじめ三重交通グループ各社の社員は、70年間、三重の交通インフラを支えてきたという面子にかけて、「安全なサミット」を実現するという思いに燃えている。

 「まだ具体的な情報は入ってきていませんが、政府からの連絡を待つのではなく、われわれでできることは進めています。たとえば、洞爺湖サミットのとき地元のバス会社、タクシー会社はどうしたのかというヒアリングを北海道で行いました」

 安全の次に岡本さんが願うのは、伊勢志摩サミットならではの世界への情報発信である。世界各地で宗教上の争いから悲劇が生まれているが、八百万の神々をあがめ、さらに仏教やキリスト教など多様な宗教を受け入れてきた、日本人独特の宗教に対する多様性、寛容さは世界平和につながるヒントになると考えているのだ。

 「ポイントは伊勢神宮です。伊勢神宮は神道を代表する神社ですが、宗教を超えて『日本人の心のふるさと』ともいえる存在であり、平和、安寧を願う聖地となっています。各国首脳が伊勢神宮を訪問し、世界平和を願うことになれば、サミットの趣旨にも合致すると思います。他の宗教を否定するのではなく、尊重し、共存する、そういう考え方を伊勢志摩から世界に向けて宣言してほしいと思っています。
 もう一つ付け加えるならば、伊勢志摩の特産である真珠の石言葉は『円満』です。これもサミットの目的にピッタリと合うのではないでしょうか」

サミットをバネに地方創生を加速

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 岡本さんはこれまで、三重県は一定の産業の蓄積があり、さらに伊勢神宮をはじめとして観光要素にことかかないため、かえって地方創生への取り組みが、消極的というか、うまく機能していないように感じていた。しかし、伊勢志摩サミット開催の決定により、地元の期待感は大きくふくらんでいる。「サミットを契機に地方創生を加速させよう」という岡本さんの発言にも、賛同の手ごたえが感じられるようになった。
 サミットの効果で、三重県の観光産業が一時的には活性化することは想定されることだが、それをより大きく長く未来につなげていく継続的な工夫は民間企業の知恵の出しどころだ。

 「伊勢神宮をはじめ、サミット開催地の賢島、鳥羽、ミキモト真珠島、スペイン村、忍者の伊賀上野、長島温泉、鈴鹿サーキット、熊野古道など観光地は数多くあります。食べ物も、伊勢エビ、アワビ、松阪牛、伊賀牛、桑名の蛤、的矢湾の牡蠣、鈴鹿の穴子などと豊富です。これらひとつひとつを、点から線、線から面に広げていくことで、いろんな観光コースができます。その観光コースをどんどん打ち出していきたいと思っています。サミットをバネにして観光産業が元気になれば、観光産業はすそ野が広いので雇用の伸びも期待できます。三重県の観光は、20年ごとに行われる伊勢神宮の式年遷宮に合わせるように山谷を繰り返している。次の式年遷宮は2033年になる。その時を待つのではなく、伊勢志摩サミットの開催をうまく活用して観光産業の活性化を促し、地方創生を図ろう。」というわけである。

『心の連結経営』を実現する

岡本 直之(三重交通グループホールディングス株式会社)インタビュー写真

 最後に、三重交通グループ26社(従業員数約6,000名)をけん引する、岡本さんの経営哲学をうかがった。

 「私が、グループ各社の社員にいつも言っているのは、『われわれは同じバスに乗った仲間であり、同じ方向を向いて進んでいかなければいけない』ということです。英語では、『運命共同体』を表現するときに“We are in the same boat”(同じ船に乗っている)と言いますが、われわれはバス会社を中心としたグループなので、船をバスに言い換えました。
 その意識をもとに、『心の連結経営』を行うというのが私の考えです。グループ各社が資本でつながっているだけでは十分でなく、全社員が心と心をつなぎあわせて同じ方向を向き、共に三重交通グループの発展に取り組むことが重要だと思っています」

 『心の連結経営』の実現は、持株会社を中核とするグループ企業が相互にリンケージし、成果を最大化することにつながっていく。そのためには、風通しの良い組織の具現化と、情報の共有が不可欠だ。東証1部上場による組織の見直し、再構築は、ハード面とともに社員の気持ちの結束も強めていった。グループ各社に新鮮な風を送り続けるために、岡本さんは率先して現場に足を運び、自ら情報を集め、コミュニケーションの活性化を図っている。そして、気さくに話しかけ、笑いを引き出す。

 「仕事に前向きに取り組むには、明るい職場でなければいけません。明るく、楽しくなければ、人は頑張れないのです。『心の連結経営』を実現するためにも、明るい職場が原点なのです」

 東証1部上場、それに続いて伊勢志摩サミットと息つく暇もない岡本さんだが、「仕事で頑張るためには、家庭でホッとすることが必要」という、家庭人の一面も併せ持つ。

 「息子が三人いますが、皆独立しましたので、今は家内と二人です。月に一度ぐらいは、名古屋や大阪に出かけて文楽を観たり、ショッピングをしたり、楽しんでいます。三重や畿内の神社仏閣巡りにも出かけます。神社仏閣には、必ず季節の花が咲いており、自然と接するよい機会になっています。もちろん仏像を見ることも好きです。よく『弥勒菩薩のようにやさしい姿に心がやすまる』という話を聞きますが、私は奈良・新薬師寺の十二神将の中の伐折羅(ばさら)大将のような、怒髪天をつく仏像を見て、元気をもらっています」

 そう言って笑う岡本さん。地方創生の一翼を担い、グループの新しい歴史を創り続けるためにも、伐折羅大将のようにエネルギッシュに活動する毎日が続きそうである。

岡本 直之(三重交通グループホールディングス株式会社)インタビュー写真

(文=志澤秀一 写真=竹市浩二)2016/03/09

プロフィール

岡本 直之
三重交通グループホールディングス株式会社 代表取締役社長
1946 年
三重県生まれ
1970 年
大阪市立大学商学部 卒業
近畿日本鉄道株式会社 入社
2007 年
同社 代表取締役副社長
2010 年
三重交通グループホールディングス株式会社 代表取締役社長
三重交通株式会社 代表取締役会長
三交不動産株式会社 代表取締役会長
名阪近鉄バス株式会社代表取締役会長

会社概要

ロゴマーク
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