上場会社トップインタビュー「創」

清鋼材株式会社
  • コード:3448
  • 業種:金属製品
  • 上場日:2019/09/26
星野 陽一(清鋼材株式会社)

工場のロボット化で、軽やかに業務効率化を実現

星野 陽一(清鋼材株式会社)インタビュー写真

 創り出すのは鉄の芸術。ウェブサイトのトップページで自社の事業をこう形容する清鋼材だが、その仕事ぶりは確かに「芸術」と呼ぶにふさわしい。

 同社が扱うのはJFEスチールや中部鋼板などの鉄鋼メーカーから仕入れた極めて分厚い高級鋼板。こうした材質を1mm以内の誤差で切断し、曲げるという高度な技術で評価を高めてきた。

 新潟県糸魚川市の本社工場に入ると、巨大なレーザー切断機や油圧プレス機が立ち並び、分厚い鋼材に加工を施している。驚くほど作業スタッフが少ないところを見ると、高度な省人化が成功しているのを容易に理解できる。

 20年ほど前は経営難にも直面したが、現社長の星野陽一さんが父親から社長業を引き継いで以来、業績の改善に成功。現在では製造工程のロボット化の実現による業務の効率化や、中国、タイなど海外での展開も順調だ。

2019年秋に納入したばかりだという最新鋭のプレス搬出入ロボットやレーザー切断機が作業をこなす様子を見ながら、星野さんは満足そうにこう話す。

「鉄鋼メーカーから納入されてくる鋼材の厚さは、実は均一ではありません。以前はその鋼材をひとつひとつ人間の手で計測して、切断し、曲げるという作業を行っていました。今、目の前にある鋼材にしても、ひとつで100kg近くもあるので、持ち上げるのも人海戦術しかありませんでしたし、一日で加工できる数にも限界がありました。でもロボットなら一日で約200枚を加工することができます。現場をお客様にお見せすると、当社の技術力に対する評価や信用も高まります」

 工場のロボット化を起爆剤に、現在およそ40億円前後の連結売上を今後約10年で倍増させる計画だと話す星野さん。これからの業績アップに自信をのぞかせる背景には、人材の確保において明るい見通しを持てたことが大きい。

 国内各地で人材難が顕在化するなか、清鋼材はこの難題を克服するため、TOKYO PRO Marketへの上場を実現した。2019年9月のことだった。

星野 陽一(清鋼材株式会社)インタビュー写真

TOKYO PRO Market上場で得たのは、圧倒的な「信用」

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 2005年の社長就任時、経営企画書で「将来は上場する」と明言していた星野さんだが、「かつては上場によって得られる果実を明確にイメージできていなかった」と話す。

 ところが5年ほど前、ある出来事をキッカケに、"上場"が清鋼材にとって差し迫る課題だということに気付かされた。

 高度なロボットをもっと投入していこうとするこれからのタームにおいて、清鋼材が求めていたのは大学の工学部を卒業した優秀な人材だ。そこで採用活動についてある大学の就職担当者に相談したところ、大学生の就職活動の現実に衝撃を受けた。

「大学の就職担当者からは一言『上場すれば、学生の印象も違うんだけどね』と。大学生がネット上で企業研究を行う際、一番はじめにクリックするのは、上場企業か非上場企業かという選択ボタンで、その後、業種や資本金などのデータを閲覧できるようになっているそうです。学生は、まず上場しているかどうかで企業を選別していることを知りました」

 その瞬間に、上場しなければ優秀な人材はやってこないという事実を強く認識した星野さん。上場への思いはより具体化し、株主でもある東京中小企業投資育成の担当者に相談を始めた。

「ゆくゆくはマザーズ、そして東証一部への上場を目指すとしても、当時の当社にとってはまだまだハードルが高く、私も従業員も順応できないと思っていましたので、ファーストステップとしてTOKYO PRO Marketへの上場に興味が湧きました。迅速な人材確保というはっきりとしたテーマがあったので、上場までのスピーディな上場プロセスは魅力でした。また、この市場ならいきなり買収されるという事態を回避しながら成長も見込める。私たちのような中小企業にとっては理想的な市場だと思います」

 ところが、周囲からは上場の意義を疑う声も上がった。TOKYO PRO Marketへの投資は、適格機関投資家ほか、上場会社や一定の要件に該当する株式会社や個人など、いわゆるプロ投資家に限定される。不特定多数の個人を含めた一般投資家から投資を募る市場ではないからだ。

「そのような声を聞いても、私のなかにブレは全くありませんでした。TOKYO PRO Marketに上場すれば優秀な学生にきっと興味を持ってもらえるという一心でした。上場後、高校や大学の就職関係者にも、『これで学生に強くアピールできる』と言っていただけました。2019年の秋に上場したので、2021年の採用でどんな反応があるかとても楽しみです」

 実際、文系の学生からはじわじわと問い合わせが増え、早くも上場の効果を実感。また、複数の金融機関からは予想を遥かに超えたレベルの融資にまつわる魅力的な提案が舞い込んできているという。

「率直な感想として、上場前にはあり得ないような融資条件での提案を金融機関からいただきました。TOKYO PRO Market上場の効果を一言で言うなら、"圧倒的な信用の獲得"に成功したという感覚です」

企業はパブリックな存在。上場企業として地元経済活性化の牽引役に

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 約54年前、創業したのは東京の八丁堀だったが、紆余曲折を経て、本社は現在、新潟・糸魚川に置かれている。創業者の父が生まれ育ったこの場所で、近年は地元への貢献も重視していると星野さんは話す。

「当社よりも規模の大きい会社が糸魚川にはいくつかありますが、これまで上場企業は1社もありませんでした。父が育ったこの地、糸魚川に本社を置く当社が上場することで地元を活気づけたい、そのキッカケになりたい、という気持ちがありました。また一方、新潟県内に本社・本店を置く上場企業の経営者が集まる「新潟県上場企業経営者の会」への参加も楽しみのひとつ。県内トップ経営者からの刺激を受けつつ、県経済の活性化や人材育成にも貢献したい」

 上場して感じるのは、やっぱり企業はパブリックな存在なんだということ。私利私欲のためではなく、社会に何かを還元するという大きな役割。その感覚もまた、TOKYO PRO Market上場によって得た収穫のひとつだ。

「少しでも地元のためにと、新幹線の糸魚川駅前の清掃を週に一回、チームを組んで行っています。こんな便利なものを作ってくれた市に感謝しないといけないなと思って。今後も、地元を元気づけるためにアイデアと資金と労力をつぎこんでいきたい」

 新潟・糸魚川で育ち、学んだ若者にとって、地元の上場企業に就職するということは大きな目標にもなる。TOKYO PRO Marketへの上場が絶大な地域貢献として歓迎されている事実は、星野さんにとっても嬉しい限りだ。

 社長就任時には「次の社長は星野ではない」と明言。世襲を絶ち、社内外から社会の公器として認められる存在になるべく、日々、奮闘中だ。おそらく10年後の本社工場では最新鋭のロボットたちがさらに増え、より精密で高度な製品を世界中へ大量に供給していることだろう。少子化という大きなうねりを乗り越え、次々とステップアップしていく今後に期待したい。

(文=文=宇都宮浩 写真=和田博 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2020/01/20

プロフィール

星野 陽一(清鋼材株式会社)プロフィール写真
星野 陽一
清鋼材株式会社 代表取締役社長
1967 年
東京都生まれ
1995 年
清鋼材 入社
2005 年
同社代表取締役社長 就任(現任)
2019 年
東京証券取引所TOKYO PRO Market上場

会社概要

清鋼材株式会社
清鋼材株式会社
  • コード:3448
  • 業種:金属製品
  • 上場日:2019/09/26