上場会社トップインタビュー「創」

株式会社モルフォ
  • コード:3653
  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2011/07/21
平賀 督基(株式会社モルフォ)トップ画面

ソフトウェアの可能性に導かれて

平賀 督基(株式会社モルフォ)インタビュー写真

 街中のちょっとした出来事や今日食べたランチ、親しい友人との楽しい時間などを撮影する行為は、多くの人にとって日常の一部となった。撮影機材の主役となっているのはもちろんスマートフォンだ。

 総務省が昨年実施した調査によれば、日本国内におけるスマートフォンの利用率は62.3%。20代から30代に限定すると、8割以上の人々がスマートフォンを利用し、日常的に写真撮影を楽しんでいる。こうした気軽な撮影スタイルを影で支えるのが、株式会社モルフォの技術だ。

 同社は、静止画や動画の手ブレ補正、パノラマ画像合成、動画ノイズ除去など、多様な撮影ニーズに応える多くの技術を確立し、国内・外のスマートフォンメーカーにソフトウェアをライセンス供給している。今年1月末の時点で供給する総ライセンス数はついに11億件に到達した。しかし、代表取締役社長の平賀督基さん曰く「山あり谷あり」だったというこれまでの歩み。会社の存亡に関わる大ピンチさえ経験してきたという。そんな平賀さんに、まずは、この成長分野に目をつけた発端について聞いた。

「高校一年の時、花と緑の博覧会でフルCGの映像作品を見たのが今につながる原体験ですね。『植物が根から水を吸い、光合成をして二酸化炭素をはき出す』という一連のプロセスが美しいCGで表現されていた。これが実にリアルな3Dで、いたく衝撃を受けたのです。
 当時から8ビットのマイコンを触っていたこともあって、ソフトウェアの可能性というものも少しは理解していました。だから、このような素晴らしい映像作品を自分でも作れればいいなと。もちろん当時から具体的な事業としてイメージしていたわけではありませんけどね」

 その後は東京大学理学部へ進み、情報科学を専攻。卒業後は就職せず、博士課程の道を選ぶ。そしてこの選択が、後の起業へとつながっていくのだ。

「私の進んだ大学院の研究室で、『技術というものは研究対象ではない。実際に利用されなければ意味のないものだ』ということを教わりました。事実、研究室の先輩には起業している方が2人、後輩にも1人いました。そんな環境ですから、自分で開発した技術を事業の柱に据え、起業するということが身近な選択肢になっていったのでしょう」

 加えて、研究室では論文発表も世界を意識し、英語での作成を徹底。グローバリズムの基礎も植え付けられた。せっかく生み出した成果や技術は、世界に広く知らしめ、実際に利用されなければならない。こうした価値観や英語力が、後の海外進出に役立ったと平賀さんは振り返る。

飽くなき挑戦心で、ピンチをチャンスに

平賀 督基(株式会社モルフォ)インタビュー写真

 エンジニアでありながら、元来、海外志向の強かった平賀さん。今期、モルフォの売上は約20億円だが、その約9割がドル建てだ。
 多くのベンチャー企業が国内市場中心に目を向ける中、どのように海外で業績を伸ばしてきたのか。決して順風満帆とはいえなかった創業当初、海外躍進のキッカケは意外にも、東日本大震災後に訪れた大ピンチにあったという。

「2011年当時、モルフォのお客様は日本の携帯メーカーが中心でした。でも翌年、iPhoneやギャラクシーといった海外メーカーのスマートフォンが日本国内でも急激にシェアを取るようになった。そこで、日本のメーカーが売上げを低下させるのと同じく、モルフォの売上げも激減してしまったのです。このままじゃ会社が消えていってしまう。日本メーカーだけを頼りにしていてはダメだと。受け入れざるを得ないピンチを経験し、本気で海外メーカーへ営業しようという気持ちになれました」

 このタイミングで開発や営業の人材をどんどん海外へ送り出し、自社の技術をPRし始めたモルフォ。海外メーカーとの契約を少しでも多く取り付けるべく、外国人の人材確保も積極的に行い始めた。こうした努力がやがて実を結び、海外展開も軌道に乗り始める。見事、ピンチをチャンスに変えたのだ。平賀さんは当時を振り返り、自身を支えたのは持ち前の挑戦心だったと言い切る。

「あまり感情の起伏が激しくないというか、落ち込むということがないのです。そもそも、リスクばかりが気になるようではベンチャー企業なんて始められません。どんな時でもとにかく行動しないといけないですし、チャレンジして初めて分かることも多いですから」

 その後、時代の流れもモルフォを後押しし始めた。
 2012年に入るとスマートフォンが急速に市民権を得るようになり、同時に、市場はカメラ機能の充実を求めた。そんなタイミングで、画期的な画像処理技術を持つモルフォは、海外メーカーからの注目を一層、浴びることになる。

「映像という分野だからこそ、スムーズに海外展開が実現できたのでしょう。手ブレ補正やパノラマ撮影等のニーズは、国を問わずあるわけです。それに、スマートフォンが急速に進化していく中で、メーカーさんはそれほどカメラ機能に力を入れる余裕がなかったのかもしれません。だから私たちの提案が受け入れられやすかったのだと思います。
 
 例えば、携帯電話時代の手ブレ補正はいわゆる光学式の手法が主流で、これにはジャイロセンサーやそれに連動するレンズなどメカニカルな仕組みが必要でした。でもモルフォの技術ならこうした撮影がソフトウェアの力で実現できますと。そうすればダウンサイジングやコストダウンも可能ですからね。携帯電話に搭載するカメラ機能アップのため、ソフトを駆使するということ自体、画期的な時代だったのです」

平賀 督基(株式会社モルフォ)インタビュー写真

多様なニーズに、次々と生み出される新技術

平賀 督基(株式会社モルフォ)インタビュー写真

 現在の主力製品である「PhotoSolid®」は、動きを検出するソフトを利用した先進的な手ブレ補正技術。横や縦、上下、回転など、世界で初めて6方向の手ブレ補正を可能にした唯一無二の技術だ。ヒントとなったのは天体写真の撮影手法。長時間露光の写真を何枚も撮影して情報を足し合わせるという、天体特有の撮影法から手ブレ補正のアルゴリズムが生み出された。

 他にも多種の独自技術を次々と発表しているモルフォだが、こうした新しいアイデアを製品化する原動力はどこにあるのか、聞いてみた。

「泥臭いかもしれませんが、ダメだと思ってもとにかくお客様のところに持っていく。そこから得たフィードバックが力になっていきます。例えばこういうことができますよと説明すると、もっとこういうことはできないかとリクエストをいただく。そういうやり取りから新製品が生まれることも多いです。ですから依頼を受けて開発するというスタンスではなく、常に新しい何かを探していますし、そのことこそが面白いですね」

 多くのプロジェクトが同時進行していく中で今、平賀さんが最も期待しているのは、自動で写真を整理・分類してくれる技術だ。
デジタル時代の現代では簡単に写真を撮影できるため、いわゆる「撮りっぱなし」になりがちで、いざ目当ての写真を探そうにも苦労することが多い。そんな時、威力を発揮してくれる技術が、製品化を目前に控えている。

平賀 督基(株式会社モルフォ)インタビュー写真

「かなりの精度でそこに何が写っているかを判別し、自動的に分類してくれる技術です。撮った瞬間、あらかじめ設定された食べ物、人物、乗り物、ペットといったタグ別に写真を分類できるのです。クラウド上でこうした分類を行うソフトは既にあるのですが、モルフォの技術を利用すればクラウドにアップしなくてもこうした分類が可能です。

 バックグラウンドでは、人間の脳をシミュレートしたようなディープラーニングという学習ソフトが写真を判別しています。こうしたソフトがスマートフォンに搭載されれば、写真撮影がより一層楽しくなりますよね」

 市販の携帯電話に初めてカメラが搭載されたのは1999年のこと。以来、様々な機能が進化し、今では驚くほど美しい写真や動画が撮影できるようになった。それでも開発の余地は無限大だと、平賀さんは力強く語る。その創造性はまったく尽きることがないようだ。

映像品質を保証する、世界基準のブランドに

平賀 督基(株式会社モルフォ)インタビュー写真

 目線の先にあるのはスマートフォンのカメラだけではない。今後の事業領域について、平賀さんはこんな可能性を示唆してくれた。

「カメラが進出する領域は今後益々増えると思いますし、同時にモルフォが提供できる技術の幅もどんどん拡大すると考えています。防犯カメラや車載カメラ、ドローンに載せるカメラだってあるでしょう。しかも全てのカメラがネットによってつながるようになる。さらにはクラウド側で大量の画像を処理する必要もでてきます。やるべきことはたくさんあるし、実に楽しみですよね」

 業務時間にはマネジメントや各種折衝などに時間を費やすため、趣味でもあるプログラミングになかなか集中できないという平賀さん。それゆえ休みの日には家にこもってコンピュータと格闘するのが楽しみだとか。平賀さんにとっては、プログラミングという行為がある種のストレス解消になっているという。
 中長期の目標はと問うと、目を輝かせながらこんな答えが返ってきた。

「さらに多くの世界中の方々に、モルフォの技術を使っていただきたい」

 目指すのは売上目標ではなく、壮大なゴール。世界標準の技術を創造するブランドとして、広く認知されることだという。

「ひとつ、リファレンスとしているのはドルビーです。今や世界中の人に知られているドルビー。あのロゴが入っている機械を目にしただけで、きっと良い音だろうなと多くの人がイメージする。同じように映像の分野で、モルフォがそのような存在になれればいいと。例えばモルフォのマークが付いているスマートフォンなら、きっとすごい写真、動画が撮れると思っていただけるようなブランドを目指しています。

 現在、グローバルで流通しているスマートフォンのうちモルフォの技術が利用されているのは10〜20%程度。しかもハイエンドの商品がメインなので、ミドルエンド、ローエンドのスマートフォンでシェアをさらに拡大し、より多くの方に撮影の楽しさを知っていただきたいです」

 独自の技術を武器に、進化を続けるモルフォ。その成長と比例して、撮影の文化は多様化し、写真の質も向上していく。この先、スマートフォンはどのような写真を映し出すようになっていくのか。その行く末が楽しみでならない。

平賀 督基(株式会社モルフォ)インタビュー写真

(文=宇都宮浩 写真=戸塚博之)2015/08/27

プロフィール

平賀 督基
株式会社モルフォ 代表取締役社長
1974 年
東京都生まれ
1997 年
東京大学 理学部情報科学科 卒業
2002 年
東京大学大学院 理学系研究科情報科学専攻(博士課程) 修了。博士(理学)。
在学時より画像処理や映像制作用の技術開発に携わる
2004 年
株式会社モルフォ設立、代表取締役となる
2011 年
マザーズ上場

【専門分野】情報科学、コンピュータグラフィックス、画像認識、画像処理

会社概要

ロゴマーク
株式会社モルフォ
  • コード:3653
  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2011/07/21