上場会社トップインタビュー「創」

株式会社カナミックネットワーク
  • コード:3939
  • 業種:情報・通信
  • 上場日:2016/09/14
山本 拓真(株式会社カナミックネットワーク)

チャレンジの場を求め、大手企業からベンチャー家業へ

山本 拓真(株式会社カナミックネットワーク)インタビュー写真

 2000年ミレニアム。日本では少子高齢化が重要な社会課題として大きくクローズアップされた年でもある。1950年頃には主要西側欧米諸国の半分程度の水準だった高齢化率が、2000年までに追い越しトップになった。
 40歳以上のすべての国民が加入する介護保険制度が始まったのも2000年。

 株式会社カナミックネットワーク(以下、カナミック)創業者の山本稔さん(現取締役会長、以下、「稔さん」)が介護保険制度に出合ったのは、その前年の夏だった。
 折りしも時の政府は、介護保険制度の導入に向けて、国民の理解促進に力を入れていた。

 介護保険のCM制作に携わっていた稔さんは、在宅での効率的な介護に向けた業務システムを開発し、介護保険に絡む医療・介護従事者をネットワーク化。そこに関連する広告を提供するネットメディアのビジネスモデルを思いついた。そのシステム開発をスタートすべく2000年10月、会社を設立した。

 一方、創業者の長男で現代表取締役社長である山本拓真さん(以下「山本さん」)は、同年4月、株式会社富士通システムソリューションズ(以下、「富士通」)に入社していた。BtoCのインターネットサービス分野で活躍し、スキルアップに余念の無い日々を送っていた。

 ほぼ同時に、親子で異なる道をスタートすることになる山本家であったが、「設立から間もない家業であるカナミックからインターネットの知見やアドバイスを求められることもあり、超繁忙なこの時期の経験が今でも生きています」と山本さんは振り返る。

 富士通入社から5年を経た2005年、富士通を退職することを決断してカナミックに入社。しかし、新卒入社当時は家業を継ぐという意識は全くなかったと言う。

「もともと富士通には社長になるという意気込みで入社しました。当時はインターネット黎明期ということもあり、インターネット分野では、中心的なエンジニアとしてバリバリ働く機会に恵まれていました。しかしながら、会社は受託型ビジネスに特化していく方向性にあると感じました。

 当時、インターネットの世界に参入してくるベンチャー企業は多数あり、その多くは大変な活気がありました。新しい技術開発においてマーケットニーズに柔軟に対応できるのは、ベンチャー企業の方が優位ではないかと思えたんです。大企業の良さは否定しませんが、先ずは意思決定のスピードが違う。特化した世界の中でナンバーワンを目指すには、ベンチャー企業でチャレンジしたほうが近道ではないか。創業者である父の将来に対する経営方針を確認したうえで、「よし!」と思って転職したのです」

 事実、世の中ではITが世界を劇的に変える機運が盛り上がり、先行するITベンチャー企業は、日々、知名度を高めていた。

「そんな時代にありながらも、医療や介護分野は電話、郵送、FAXが主流の旧態依然とした世界でした。患者側も初診のたびに問診票を書かされたり、医療の素人なのに薬のアレルギーや副作用を自己申告させられるのは、おかしいと思っていました。そこにICTを使ってイノベーションを起こしたら面白いと考えたのです」

 具体的にはICTを使い、医療・介護情報をネットワーク化し事業者サイドで共有し、患者のために効率よく使ってもらう青写真を描いていた。ICTで情報が繋がれば、それを可能にする。そして「それが普通の社会、当たり前と思える社会を実現したい」との思いを持った。

介護の現場を、ペーパーレス化で働きやすく

山本 拓真(株式会社カナミックネットワーク)インタビュー写真

 ICTを使って地域包括ケアのネットワーク化を実現するビジョンは、創業当初からあり、実際に取り組んでいたのはカナミックだけだった。その中で、なぜ医療介護従事者同士が繋がる必要性があるのかと疑問に持つ人も多かった。しかも常に様々な法規制がイノベーションの壁にも似た状況になる業界でもあった。

 適正かつ効率的な規制を求めるため、政府の委員会への参加等を通じて現場の声・意見を伝えることから地道に取り組んできた。

 さらにカナミックは、現場の介護従事者が使いやすいシステムを開発してきた。エンジニアがユーザーの業務内容を熟知し、目で見て使い方がわかるユニバーサルデザインに仕立てる。使う人の気持ちを考え、彼らの業務スピードを向上させ効率化を図ることが要諦と心得ている。

「介護の現場には、紙が多く、業務が効率化されているとは言えません。カーボン複写式の紙に記録を書き、ハンコを押す。これが大規模事業所だと年間に100万枚単位でたまっていく。段ボールの山からはデータ分析はできません。ペーパーレス化の推進は不可欠だと思います」
 現場を知る山本さんは、こうした効率面での問題を強く意識していた。

「ヘルパーが、介護の現場から直行直帰できず、一度事業所に戻り、パソコンに業務記録や要介護者の状態のデータ入力をしないといけません。在宅ケアに絡む関係者は多職種他法人です。ケアマネジャーが作成したプランを印刷物として受け取ったヘルパーが、また別のシステムにその計画を打ちこむといった転記作業を延々繰り返しています。これらをICT化し音声入力も使いこなせば、劇的に事務作業の時間が減り、その分要介護者やその家族と向き合う時間が増えます。さらにデータが自動的に介護チーム内で共有化され、保険請求もできます」
 システム導入前の介護の現場は、紙と電卓と物と金庫とでコンビニ経営しているようなものだったと山本さんは振り返る。

 ただ、似て非なる点は、コンビニには決済の瞬間に在庫管理から受発注管理までつながり、本部でも購買履歴を蓄積、分析できるPOSレジがあるが、介護現場には無かった。カナミックは、それと類似したソリューションを介護現場でネットワーク化し提供することを考えた訳だ。他社にはない発想で、網羅的にネットワーク化し介護の現場を働きやすくするクラウド型ソフトの開発に取り組み、社会的な存在を高めつつある。

介護分野から医療・介護分野へ、産学官連携で実現

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 ブレイクスルーの時はやがて訪れた。第1波は2006年頃。各地に行政主導の地域包括支援センターができたが、ケアプランを作成するケアマネジャーが圧倒的に不足していた。ケアプランの作成は民間に再委託されたが、行政、民間のケアマネジャー、介護事業者間での情報共有が不可欠になり、千葉県内を中心に全国でカナミックのクラウドの導入が一気に進んだ。この過程で地域包括ケアに寄与する情報連携基盤で特許を取得していた。

 そのうえで第2波を可能にしたのは、産学官連携の取り組みだった。2011年にスタートした「柏モデル」は、東京大学、柏市、UR都市機構で取り組む在宅医療を軸に医療・介護をクラウドでつなぐプロジェクトだ。目的は在宅医療を推進し、入院療養から在宅療養への移行、在院日数の短縮による医療費削減、病床稼働率の向上にある。

「私自身が東京大学高齢社会総合研究機構の共同研究員として参画し、地域包括ケアシステムを担当しました。もともと類似した地域連携介護システムを運用していたので、声をかけていただいたんです。プロジェクトに参画することで、医療分野にも進出することができました。医療従事者と介護従事者の間で、顔の見える関係づくりや在宅医師を増やすための研修、学術的な研究活動は、カナミックという一法人の力では難しいですから」

 普段は離れた場所で仕事をすることが多い医療と介護の従事者が、ICTの利点を活用することで結びつき、情報を共有し、PDCAを回すことで、サービス品質が担保されるようになった。

 国を代表する地域包括ケアのモデルに参画したことは、カナミックの知名度向上、ブランディングにもつながっている。現在では全国700地域で類似したプロジェクトが立ち上がり、クラウドサービスのシェアも拡大を続けている。

勘の経営から仕組み(組織)の経営へ

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 東証への上場を目指したのは、最初は個人的な思いによるところが大きい。富士通という大手企業に在籍していた山本さんは、日本における上場企業の信用力の高さを実感しており、転職当時からカナミックの上場を見据えていた。

 上場企業になるということは、自分自身「山本稔さんの息子」という見られ方から脱却するきっかけにもなると転職後数年内での上場の計画を思い描いていたが、「想像より時間がかかった」と言う。

 リーマンショック等でマクロの外部環境が変動する中で、内部管理体制を整え、上場企業たる体制作りを目指すため、上場規程に合わせ、オーナーシップだけではない経営の仕組みを作り、会社の事業継続と成長戦略を描いた。

 社員の意識変革も重要なポイントになった。役員構成も見直し、社外取締役を含め、新たな体制づくりを行った。これらはベンチャーには正直、ひとつひとつ超えなければならないハードルであったと振り返る。

 一方で、上場のために大きなコストをかけても利益を出せる会社でなければ上場すべきではないとの確固たる考えもある。上場過程では社員の士気が向上し、経営レベルでは勘の経営から仕組みの経営に変わっていく。会社の成長も実感できた。医療介護ソフト専業では、東証一部上場はカナミック1社(2018年9月時点)のみ。これは業界を明るくするニュースにもなったと介護事業者から称された。就職希望者も増え、社員の満足度も上がったことはうれしい効果だった。
 
 一方で、両親・長男・次男が全員役員に名を連ねる同族企業は、近年の東証一部上場企業ではまれであると自覚している。

 しかしながら、ベンチャー企業の成長には、アイデアと人材確保は重要であり、その点では、必要な業務に必要な人材確保を進める中で、各々が適した人物を採用という姿勢は崩さないことが重要としている。ただ、逆転の発想ではないが、「同族企業であっても、上場企業の星になりたい」と常々思っている山本さんに引け目を感じている様子はない。

「それぞれが得意分野を持ち、社内で役割分担をして、外部からの厳しい監視の目を入れた上で効率経営を目指し、社会に貢献できれば上場できるという好例になりたい。そのためにも医療介護やICT、そして経営の現場で、専門的な知識と豊富な経験を有する社外取締役を登用し、あえて厳しくご指導いただく環境を選んでいます。どのような経営形態であれ、アクセルとブレーキの両輪をきちんと持っていることがコーポレートガバナンスでは重要だと思うんです」

日本の未来をつくる社会保障分野のIT化推進

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「医療・介護に携わる専門職が皆、現場でより効率的に質が高い仕事ができる社会にしていきたいと思っています。それは日本が人口減少社会である以上、限られた生産年齢の人たちが憂いなく働けるようにしていかなければ、社会が立ち行かなくなるからです」

 現在、子育て支援の分野にも事業を拡大している意図はそこにある。子育ても医療・介護も社会保障にかかわる点で共通しており、生産年齢の人たちを社会保障システムで支え、しっかり働いてもらう。

「むろん社会保障分野にも担い手は必要だが、偏重すると社会保障費に負荷がかかります。この分野は、少ない人数で効率的に業務を遂行する仕組みが不可欠になります。特に事務作業は、キャッシュレス・ペーパーレス・ヒューマンレスが理想で、これがまさに働き方改革につながります。クラウドプラットフォームはそのためのツールで、その開発と普及を担っていきたい」

 ICTの力で様々なことができるようになると、この分野でも新人職員や短時間のアルバイト、外国人人材でも同じような働き方が可能になる。これは小売り・飲食業では既に実現していることだ。

 これまで蓄積した医療・介護のデータ活用にも期待がかかる。既に政府の事業を受託して取り組んでいるが、社会保障分野を科学的な事業に変えていかなければ、今後ますます社会保障費は膨大化することは明らかだ。政府と民間が一体となり最適解を見つけていくことが、日本の未来につながる。
 カナミックとしても「社会事業として成長するためにチャレンジを続けていきたい」と語る。

こんな日本社会にしたい、理想を形に

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 産学官連携を模索している自治体や大学は、全国に数多くある。

「若い起業家や研究者からこんな技術ができたから何かに使えないかという話は多いですが、シーズベースでは何も生まれないと思います。隠れたニーズの発掘や面白い発想を大事にしてもらいたい。こんな社会にしたいという理想をマッチングで形にしていくことも、今後の日本社会には求められています。日本はどんどん面白くなるし、それができる土壌がこの国にはあります。学術的な面では大学にリソースがあるので、積極的にアタックしてほしい、あとに続く人がどんどん出てほしい」
 山本さんは熱く語る。

 国家的な課題解決には、政府も共同研究を推進し、ビジネス面では税制優遇もある。これらを活用しながら産が大学と連携することで、自社の開発に学術的エビデンスをつけてもらえ、論文発表の機会にも恵まれる。これが、ひいては世界(学会等)に発信する足掛かりになることもあると言う。

 自ら"家族の仲がいい"と胸を張るが、同族会社でスタートし成長しても、広く日本全国にメッセージを発信し、さらには海外進出も視野に入れ、より良い課題解決型の上場企業を目指しているカナミック。創業家の合言葉は、「オンとオフという考え方はやめよう。人生を見渡せば、すべてが自分の時間と考えたほうが楽しい」と山本さんは経営者の顔で締めくくってくれた。

(文=吉田香 写真=青地あい 編集責任=上場推進部 "創" 編集チーム)2018/08/28

プロフィール

山本 拓真(株式会社カナミックネットワーク)
山本 拓真
株式会社カナミックネットワーク 代表取締役社長
1978 年
京都府京都市生まれ
2000 年
株式会社富士通システムソリューションズ(現 富士通株式会社)入社
2005 年
株式会社カナミックネットワーク入社 常務取締役就任
2007 年
同社 専務取締役就任
2011 年
国立大学法人東京大学高齢社会総合研究機構 共同研究員
2012 年
独立行政法人国立がん研究センター 外来研究員
2014 年
株式会社カナミックネットワーク 代表取締役社長就任(現任)
2017 年
一般社団法人日本スタートアップ支援協会 顧問
2018 年
一般社団法人ミス・ワールド・ジャパン・京都 理事長

会社概要

株式会社カナミックネットワーク
株式会社カナミックネットワーク
  • コード:3939
  • 業種:情報・通信
  • 上場日:2016/09/14