上場会社トップインタビュー「創」

株式会社PKSHA Technology
  • コード:3993
  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2017/09/22
上野山 勝也(株式会社PKSHA Technology)

アルゴリズム・知能化技術は、ヒトの力を増幅させる

上野山 勝也(株式会社PKSHA Technology)インタビュー写真

 すでに現代社会は無数の人工知能技術が使われたソフトウエアによって制御され、人間の生活やビジネスにおける欠かせないピースとして機能している。もとはシンプルな計算機にすぎなかったコンピュータがどうやって現在のような力を備え、社会に影響を与える存在となり得たのか。その問いに対するひとつの解が、「アルゴリズムの進化」であるのかもしれない。

 アルゴリズムをシンプルに定義すると「組み合わせの最適化」ということになる。たとえば何かの目的を達成するには幾種類もの方法があるだろう。端的に言えば、その中から最適な道筋を見つけ出すための定式がアルゴリズムだ。つまり優れたAIの構築に適正なアルゴリズムの駆動は必須であり、世界は今、このアルゴリズム研究に莫大なコストと膨大なエネルギーを注ぎ続けている。

 PKSHA Technologyはそんなアルゴリズムをソリューションとして、幅広い分野に提供する企業だ。2012年に機械学習技術を用いたデータ解析事業をスタート以来、最新技術を駆使したアルゴリズムモジュールを数々リリースし、2019年9月期には売上高が前年度比103.5%増と、ビジネスを大きく伸ばしている。

 いまやAI市場における重要なプレーヤーとして業界内外から注目を浴びる存在となった。同社を取り巻く現在のビジネス環境について、代表取締役の上野山勝也さんはこう話す。

「俗に言うAIが進化しすぎると人間の仕事を奪うのではないかという言説は、数年前までよく耳にしていました。でも実際は逆の事象が多くの分野で起きています。人口減少が加速するなか、人手が足りず業務を維持できないという企業や業界は増えており、人間の手以外の何かでサポートする必要から、AI(アルゴリズム)のニーズはどんどん高まっていると感じています。社会も企業も、私たちでさえも将来、ソフトウェアがどんな価値を発現していくのか、はっきりとは分かっていませんが、現在はクライアントとともにその可能性を探りながら着実にソフトウェアの社会実装を実現し続けているといった状況ですね」

 AI(アルゴリズム)がもたらす具体的な恩恵について聞くと、上野山さんは企業のコールセンターを一例として挙げた。すべての電話応対を人間が行うのではなく、一次受付けをソフトウェアが行うケースも増えている。定型的な問い合わせについては自動応答化し、オペレーターが専念すべき問い合わせについて、電話口の人間が応対するという仕組みである。

「コールセンターに掛かってくる案件にはクレームも多く含まれています。知らない人が知らない人に電話してきて、いきなりキレるという具合です。だから応対する側には心を痛めて辞めていく人が多い。ここにソフトウェアが組み込まれて何が起こるかというと、まず仕事量が減るメリットがありますが、もう一つはソフトウェアが応対する一次受付で情報を得た後に人間が電話を取るので、なぜ、顧客が困っているか理解しながら良好なコミュニケーションができる。これはAI(アルゴリズム)が人の仕事を奪っているように見えながらも、見方を変えるとAIがおもてなしの工夫という人間力を増大させているとも言えるのです」

 たとえばPKSHA Technologyのプロダクトのひとつ「BEDORE(べドア)」は、このようなケースにおいて威力を発揮する汎用型対話エンジンだ。チャット対応やFAQ対応の自動化、半自動化を実現し、高い精度で業務を適切に支援する。同社のアルゴリズムが進化するほど、導入企業は質の高い顧客サービスを実現でき、離職も減り、コストを圧縮できるというわけだ。

 「これは遠隔でのコミュニケーションを円滑にするという機能の例です。このようにアルゴリズムを利用した、有用だがまだ実現されていない機能が100パターンぐらいあると思っていて、それはどのような機能かを妄想し、探索して、未来のソフトウェアとしてのアルゴリズムを創り出すのが私たちの役割です。アルゴリズムソリューションに特化した日本初の企業である、という自覚もあります」

シリコンバレーで得た起業への感覚

上野山 勝也(株式会社PKSHA Technology)インタビュー写真

 東京大学で機械学習について研究を続けた後、同大学大学院に進んだ上野山さん。後の起業につながるキッカケは、この修士時代に知人から誘われたアメリカ・シリコンバレーへのツアーにあったという。26歳の時のことだ。

「実は大学や大学院で研究していた時、漠然としたつまらなさを感じていた。でもシリコンバレーでは、自分はこういうことがやりたいと口々に言いながらみんな意気揚々としていた。そんな空気がとてもいいなと思ったし、インターネット的だなと感じたんですよね。インターネット的というのは、個人の差や違いが、場所が変わると価値になるということ。人と人との違いが価値の源泉であるという思想のもとに生きている人たちと接している中で、将来は情報技術で生きていこうという気持ちが強くなりました」

 大学院卒業後は国際的なコンサルティング企業に就職し、多様なプロフェッショナルと協業しながら多くの課題解決に取り組むという経験を積んだ上野山さん。この時、体感したのが、高まり続けるソフトウェアへのニーズだった。そのような体験もあって、東京大学に復学し、本格的な機械学習研究の道を歩み始める。

「復学当時は起業への具体的なイメージは持っていませんでしたが、当時、二十代前半のエンジニア仲間と話していたのは、自分達にとって、日本には働きたいと思う会社がないということ。2007年頃、機械学習技術でものを作って、ダイレクトに社会価値実装へと接続させていくような企業は、情報技術の分野にほとんどないと感じていました。簡単に言えば、ソフトウェアで世の中を変えていこうという思想を強く持つ企業がなかった。だから自分としては自然な流れで起業へと向かっていったわけです」

ハッピーになるための3つの行動規範

上野山 勝也(株式会社PKSHA Technology)インタビュー写真

 2012年に東大発のベンチャーとして事業をスタートさせ、創業間もない頃からNTTドコモ、東京電力、リクルート、電通といった名だたる企業を顧客にしてきた同社。大学発ベンチャーの成長における必要な要因は何かという問いに、上野山さんはこう答えた。

「今、社会は本格的な情報革命の時代にあって、ほとんどのイノベーションは情報の新結合で起きていると思うんです。つまり、本当に質の高い情報は人間の頭の中にあるが、人材の流動性が低い社会ではこうした情報の新結合が阻害される。そう考えると、産学連携をより機能させるためには、たとえば大学教授が事業を推進するとか、官庁の職員がベンチャーへ出向するといったこともどんどんあった方がいい。人材が移動するとか、交流するということは、成長やイノベーションにおいて必要な条件です」

 同社の採用における手法も独特だ。優れた人材を獲得する有力な方法は、信頼できる人間からの紹介であると語る上野山さん。とりわけ高度な専門性を要するこの業界では、これが最も適切な方法なのだという。

「専門性の高い人材は、学会や研究室といった小さなコミュニティに集まっていますので、こうしたスモール・ワールド化しているネットワークで信頼を勝ち取ることが最速で効率的なリクルーティングなわけです。このスモール・ワールドには普通、なかなか直接アクセスできませんから、社員の紹介という形でアクセスできるのは当社の強みだと思います」

 人材の育成についてはまだ学習中と言いながら、組織としての行動規範においてもユニークな方向性を打ち出している。ひとつは「Learning Machine」と名付けられた規範。

 これには加速する情報技術分野のイノベーションにおいて、マシーンのように学び続ける行動習慣がなければ生きていけないという意味が込められている。常に学習を止めない、という思想は同社のデフォルトだ。

「他に"Be Proactive"という行動規範もあって、これは不確実性が高い世の中において、主体的に仕掛けていくという意味。たとえばこの業界はこうなるはずであるという仮説に基づき、仕掛けにいくサイクルを作っていこうと。もうひとつは"Credit Cycle"というもので、信頼の上昇気流といえるものです。プロアクティブに仕掛けていくことで期待値プラスアルファの貢献ができれば信頼は積み上がっていきます。これをどんどん続けていけば上昇気流に乗っていくでしょう。どれも会社として、個人として、ハッピーになれるようにと作った規範です」

上場によって見えた新たな風景

上野山 勝也(株式会社PKSHA Technology)インタビュー写真

 起業から約5年でマザーズ上場を果たしたPKSHA Technology。非常にスピーディな上場だが、意外にも上野山さん自身は上場への強い意欲は抱いていなかったという。

「事業を加速させるためには、ステークホルダーを数多く巻き込んだ方が良いだろうとは考えていました。でも正直、僕はどちらでもいいと思っていて、僕以外のスタッフの方が上場には積極的でしたね」

 ところが上場後は、予想していなかった好影響を実感。資金調達はもちろん、上場によって同社は大きく飛躍したと認める。

「それまで、収益に繋がる対外的な活動の7、8割は私一人でこなしていたんです。なぜなら社長である私が訪問すると、話を聞いてもらえたからです。でも上場後は、私でなくても受注が舞い込んできて、その時にはじめて、上場前は私以外の人は承認されていなかったんだなと気づきました。上場会社になることで当社スタッフの信頼度が飛躍的に増したわけです。実際、上場直後からビジネスはブーストしました。上場前は社会的信用という言葉の本来の意味を分かっていなかったんだと反省しています」

 営業活動において大きなメリットを実感したと同時に、数多くの有能な人材が同社に興味を持つようにもなっていった。結果として、顧客獲得コストと採用コストが大きく減少。昨年夏にはM&Aを行って事業規模も拡大した。上場によって得た資金によって事業拡大のスピードも加速している。PKSHA Technologyは間違いなく、上場によって次のステップに歩を進めたと言える。

求められる設計者の思想

上野山 勝也(株式会社PKSHA Technology)インタビュー写真

 起業に際しては「よく言われる崖から身を投げ出すと言う感じではなく、飛行機がふわっと離陸するような感覚」だったと話す上野山さん。あとに続く若者に対し、起業に関するアドバイスはないかと問うてみた。

「どんどん起業にチャレンジしてもらいたいと思います。正しい情報、適切な人を探索してアクセスすると、基本的に起業は成功しやすい。研究者は得てして自分だけで頑張ろうとしてしまうものなんですよね。でも一人でやろうとせずに、しかるべき人を巻き込むというのは非常に大事なこと。私自身、ここまで実に多くの人を巻き込んできました。起業のフォーマットや事業を成立させる方法論はある程度、世の中に公表されています。自分だけで考えるのではなく、そのような情報をキャッチするためのアンテナを立てることも大切ですよね。多くの研究者が起業して、キャッシュフローを回し、さらに研究が加速するという流れがどんどん出てくるべきですし、私自身、そのようなサイクルを応援したいと考えています」

 共同創業者は研究室の後輩、CFOや事業責任者も、これまで出会った人の中で優秀な人材を巻き込んできた結果、ともに働く仲となっていった。信頼できる相手に自身の夢を語るというオーソドックスな方法で、自らの考えに同調する仲間を見つけ、強力なチームへと進化させてきたのだ。

 どのような質問に対しても論理的に、淀みなく回答を繰り出す所作が印象的な37歳のCEO。今後の社会を右にも左にも導く可能性を持つAIのあり方、開発者が持つべき意識について聞いてみた。

「近い将来社会に実装されている人工知能技術は、人知を超えて制御のできないものではまったくなく、明らかに設計図があり、それが社会でどう振る舞うべきなのかという設計者の思想が宿ったものなんです。だからこそ開発者には意図とか倫理とか思想といったものが強く求められるのだろうと思います。ソフトウェアの開発には、どういう世の中にしたいのか、人はどうあるべきなのかといった深淵が横たわっているので、人間性がとても大切になってきますね」

 会社の存在意義や社会はどうあるべきかといった哲学に向き合うなかで、上野山さんは一つのことに気づいた。
 
「起業してから出てくる問いは、思春期のときの問いと同じなんです。『資金調達して何がしたいんですか。リソースは有限だけど、どうするんですか』といった企業の経営における問いは、『自分はなんで存在しているのだろう、何がしたいんだろう』といった個人の人生やキャリアに対して持つ問いと全部アナロジーになっています。私は成功している起業家の共通パターンを考えたことがありますが、思春期にこうした問いに葛藤した人、とことん向き合った人は強いと思う。なぜなら、その時になんとなく自分の中で答えを出していますから」

 お金を稼ぐだけでいいわけではない。自らの倫理観を破ると、自分が不幸になる。こうした思春期の時に考えた仕事観や人生観が、PKSHA Technologyのコア・コンピタンスと同期していると上野山さんは語る。

 未来のソフトウェアがどんな世界を創り出しているのかはまだ分からない。だが、同社のアルゴリズムがこれから益々、社会への影響力を高め、人々の生活を明るく照らす一助となることに期待したい。

上野山 勝也(株式会社PKSHA Technology)インタビュー写真

(文=宇都宮浩 写真=高橋慎一 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2019/12/16

プロフィール

上野山 勝也(株式会社PKSHA Technology)
上野山 勝也
株式会社PKSHA Technology 代表取締役
1982 年
大阪府生まれ
2007 年
東京大学大学院工学系研究科修了後、株式会社ボストンコンサルティンググループ入社
2012 年
株式会社App Re Search 設立(現株式会社PKSHA Technology)取締役就任
2013 年
東京大学松尾研究室にて博士(機械学習)取得
2016 年
当社代表取締役就任
2017 年
東京証券取引所マザーズ市場に上場

会社概要

株式会社PKSHA Technology
株式会社PKSHA Technology
  • コード:3993
  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2017/09/22