上場会社トップインタビュー「創」

株式会社トリケミカル研究所
  • コード:4369
  • 業種:化学
  • 上場日:2007/08/03
太附 聖(株式会社トリケミカル研究所)

半導体市場のカギを握るプレーヤーに

太附 聖(株式会社トリケミカル研究所)インタビュー写真

 パソコンやスマートフォンは言うに及ばず、エアコンやテレビ、自動車に加え、全国をつなぐ物流システムや医療ネットワークなど、半導体は間違いなく現代社会を根底から支える存在だ。米中貿易摩擦などの影響で、今年度の半導体市場はマイナス成長が見込まれるものの、2020年は円ベースで4兆円の大台を再び超える勢いだ(WSTS日本協議会予測)。

 俯瞰で見た市場動向は引き続き良好であり、半導体は今後益々、多岐に渡る分野で利用が拡大するだろう。この市場において特異な存在感を示す企業が株式会社トリケミカル研究所(以下、トリケミカル研究所)だ。同社が手掛けるのはたとえば、半導体製造に欠かせない高純度化学薬品だ。

 半導体にはメモリーセルという情報を格納するための回路が配線とともに数十億という単位で敷き詰められている。この仕組みが正常に機能するためにはそれぞれのメモリーセルを絶縁膜で区切り、各セルが電気的に干渉しあわないよう処理しなければならない。この時、必要となる絶縁膜の材料も同社が手掛ける製品の一つである。

 年々、半導体の微細化が進み、現在、メモリーセルのサイズは約10万分の1mmというレベル。絶縁膜には当然、高純度の材料が求められるが、ミクロの世界で利用されるという性質上、さほど多くの「量」を必要としない。

 一方、絶縁膜材料の製造では、特殊な条件のもと数十種類の化学物質を適切に混ぜ合わせ、必要な化学薬品だけを取り出すという工程が必要なため、高精度の設備や最先端の技術が必要となる。決して一朝一夕で手がけられるものではない上、ニーズは少量のため、大手化学メーカーが製造に二の足を踏むわけである。

 こうした材料を扱うことから、トリケミカル研究所が標榜する事業戦略のキーワードはいつしか、「少量高付加価値」となっていった。世界的に見てもユニークなその事業領域について、社長の太附聖さんはこう説明する。

「化学メーカーと聞くと巨大プラントやコンビナートといった大規模な設備での大量生産をイメージされる方も多いですが、ご覧の通り、弊社の工場はそれほど大きくないでしょう。作る化学薬品が"少量"であることが主な理由です。たとえば次世代の半導体を開発する際、どういった新規工程が必要になるのか、その際どういった新規材料が必要になるのかを選定する過程で様々な化学薬品を使用しますが、その特殊な化学薬品のなかには一社からの発注がたった25ccというものもある。

 ペットボトル一本にも満たない量ですからコンビナートは必要ないですよね(笑)。ですが、これだけ少量でもお客様の製品づくりにとっては絶対不可欠な化学薬品であって、なかには弊社しか提供できないものも少なくありません。私たちはこのように少量の引き合いにも確実に対応し、しかも顧客の要求レベルに応える高品質の化学薬品作りにこだわり続けることで、少しずつビジネスを拡大してきたのです」

同業他社が存在しない未知の領域での勝負

太附 聖(株式会社トリケミカル研究所)インタビュー写真

 現在、同社が扱う化学薬品の8割近くが半導体製造に関わるもの。半導体そのものの進化に伴い、業界では製造工程のアップデートが頻繁に行われることから、利用される化学薬品の数は年々、増え続けている。

 大量の需要がある化学薬品については大手メーカーとの競合を避け、ニーズがあれば少量・高難度でも対応する方針に特化した"選択と集中"を実現。創業から40年以上かけ、唯一無二の存在感を確立した。

 ここ数年の売上、純利益はともに極めて順調に推移。目まぐるしく主要プレーヤーが入れ替わる半導体市場にあって、こうした好業績は業界内外の注目を集める。太附さんによれば、2,000種以上もの化学薬品を製造してきたトリケミカル研究所にとって「同業他社は存在しない」という事実が、長年に渡る躍進の理由だ。

「現在は20品目程度が売上の8割以上をカバーしていますが、ある化学薬品は他社と競合している一方、競合がいない化学薬品もあります。つまり、事業の一部において競合はあっても完全な同業他社はいない点が大きな強味となっているのです。

 大手は、設備規模に見合わない少量の化学薬品生産に今後も手を出さないでしょうし、特殊な化学薬品の製造には長年のノウハウも必要ですから、これからも同業他社は現れないでしょうね」

太附 聖(株式会社トリケミカル研究所)インタビュー写真

特殊な化学薬品の保管、販売には、これに合った容器が不可欠。化学薬品毎に求められる条件を満たすような専用容器を用意し、世界各地へとデリバリーする。

地道なR&Dの積み重ねが唯一無二の技術力を生み出す

太附 聖(株式会社トリケミカル研究所)インタビュー写真

 昨年度は売上高77億円を計上し、今年度は80億円を超える見込み。ここ数年、創業以来の最高売上・利益を毎年更新しており3年後には売上高100億円を視野に入れ、その勢いは加速している。

 だが、今から32年前に太附さんが入社した当時は、従業員20名、売上4億円程度の小さな企業に過ぎなかった。どのような経緯で驚異的成長を遂げたのか、太附さんはこう回想する。

「予算の関係で開発に必要な原材料が買えないとか、会社の知名度が低くて引き合いが少ないとか、私が入社した頃はそんな苦労がたくさんありました。でも新しい化学薬品の開発に挑戦していこうという野心は当時からあり、そのような企業マインドは社員のモチベーションをかき立ててもくれましたね。

 創業当時から、すぐにビジネスにはならなくても、いつかはニーズが高まるであろう"ニッチな化学薬品"の開発も積極的に取り組んでいました。そのような我々の姿勢を知った顧客から、化学薬品開発・製造の相談や発注がだんだんと増えるようになってきました。当初より、顧客のどんな相談にも愚直に対応し、答えを出してきた。信頼を築いたクライアントと一体になってR&D(Research and Development)に取り組んだことが、私たちにとっての学びにもなっていったのです」

 IT社会の急速な進展に伴い、半導体はさらなる高性能を求め、限りない微細化と高集積化を追求している状況だが、そうなると既存の絶縁材では製造が困難となる。こうしたことを30年以上前から予見していたという同社。

 当時、開発した化学薬品が、15年ほど経った後、商材として機能するようになった例もあるという。同じ化学薬品を製造しても、品質では他社に負けないというほど磨き抜かれた技術力は、目先の利益に右往左往せず、小さなニーズを丹念に汲み取ってきた努力の賜物なのだ。

 創業から30年近くが経つと、同社は次の成長ステージを目指していく

上場によって変化した社員のモチベーション

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 2007年の大証ヘラクレス上場、そして2018年には東証第一部へのステップアップを果たしたトリケミカル研究所。こうした節目は同社の経営基盤を強固にしただけではなく、社員全員のモチベーションアップにも大きく寄与した。太附さんはこう話す。

「ヘラクレス上場後には資金調達のおかげで工場用地を購入し、化学合成プラントを建設することができました。それまで開発工程の一部を他社に依拠せざるを得ないようなことがありましたが、ほとんどの化学薬品を一気通貫で開発・製造できるようになったのです。やはりゼロの段階から最終工程まで自社で完結するということは、エンジニアにとってモチベーション向上につながる。弊社にとって大きな転換期になったと思います」

 では、東証第一部へのステップアップによる効果はどうだったのだろう。

「資金調達の規模はもちろんスケールアップしました。それに加え、社外からの見え方の変化を実感しました。新卒採用では内定した方全員に入社していただけました。その前年は、内定者のうち5割が他社へ流れてしまいましたからね。東証第一部上場の企業に対する安心感というのは社会において絶大なのだと、つくづく思います」

 どんな質問を投げかけても的確に、そして淀みなく言葉を紡ぐ太附さん。理系出身の太附さんが、その話術や応対術を培ったのは、長年の営業畑だという。頻繁に社内で行われるスタッフのローテーションが、言わば伝統ともなっている同社。この企業文化がトリケミカル研究所の成長を支えた原動力でもあったと、太附さんは認める。

「エンジニアはニッチな分野の研究だけを続けていると、どうしても視野が狭くなってしまう。そうならないように、会社でやっているすべての業務について、社員には知ってほしいし、学んでほしい。たとえ開発が専門でも営業や管理部門を経験することで思考の幅が広がり、エンジニアとしてもビジネスマンとしても成長するものです。そのような理由から弊社では年に2、3度、大きく人をローテーションすることにしています。150名弱の社員のうち、一度に配置換えするのは20名程度。かなり大胆なやり方ですけどね」

 オフィスを見渡せば、どことなく和気あいあいとしたムードが感じられるのも同社のキャラクターなのだろう。聞けば、「心にゆとりを持ち、余暇も楽しむ」というのが創業社長であった竹中潤平氏の哲学だったそうだ。その言葉どおり、同社の終業時間は夕方4時30分。有給休暇の取得率も極めて高いレベルで推移し、社員たちの適切なワークライフバランスが円滑な企業運営に大きく貢献。働き方改革の先駆け的な取り組みにより、常に創造性を求められる先端技術の業界で闘う上でも、極めて好ましい労働環境が育まれているようだ。

眼の前に広がるのは未開のマーケット

太附 聖(株式会社トリケミカル研究所)インタビュー写真

 台湾では来年の稼働開始に向け、大規模な工場を建設中。韓国でも地元企業との強固なパートナーシップを基盤にさらなるシェア獲得を見込む。様々な変化を視野に入れた今後の展望について、太附さんはこう話す。

「IoT・AIの拡大や5G通信導入によって半導体の進化はこれからも続き、新たな化学薬品開発へのニーズは高まっていくと予想しています。新材料ニーズや高性能化の需要の高まりにより、新しくて大きなマーケットが出現するでしょう。私たちは、そのニーズに高付加価値・高純度の化学薬品で応えるため、未来に向けて投資し、しっかりとした準備をしています。

 また、多くの化学メーカーがM&Aを足がかりにスケールアップを目指す方向にあって、その過程では各社が小規模事業をどんどん切り離しています。そのような領域を丹念に拾い上げていくだけでも、私たちにとっては大きなビジネスチャンス。ですから弊社にとって、今後も周辺環境は良好であると言えるでしょう。大切になってくるのは、難しいと思う案件でも『とにかくやってみよう』というR&Dの精神ですね」

 休日は趣味の釣りで心身ともにリフレッシュをはかっているという太附さん。その柔らかい佇まいからは、ちょっとした余裕も垣間見える。良好な労働環境を背景に、明るく、頼もしいリーダーのもと、さらに強固になっていく社内のチームワーク。他社が容易に追従できない領域への挑戦はこれから益々、加速していきそうだ。

(文=宇都宮浩 写真=高橋慎一 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2019/07/11

プロフィール

太附 聖(株式会トリケミカル研究所)
太附 聖
株式会社トリケミカル研究所 代表取締役社長
1964 年
神奈川県生まれ
1987 年
株式会社トリケミカル研究所入社
2005 年
株式会社エッチ・ビー・アール取締役
2009 年
同社監査役(現任)
2012 年
株式会社トリケミカル研究所専務取締役
2014 年
同社代表取締役社長(現任)
2016 年
SKTri Chem Co .,Ltd .取締役(現任)
2017 年
三化電子材料股份有限公司董事長(現任)

会社概要

株式会社トリケミカル研究所
株式会社トリケミカル研究所
  • コード:4369
  • 業種:化学
  • 上場日:2007/08/03