上場会社トップインタビュー「創」

日華化学株式会社
  • コード:4463
  • 業種:化学
  • 上場日:2015/12/25
江守 康昌(日華化学株式会社)

繊維加工用薬剤のトップランナー

江守 康昌(日華化学株式会社)インタビュー写真

 福井県の繊維産業は、一説によると2、3世紀頃、大陸からやってきた人たちが絹織物を始めたことがはじまりと言われている。江戸時代は藩の産業として品質改良、販路拡張が進められ、昭和に入ると人絹繊維の発達、合繊織物へのシフトと高度成長の波に乗って世界有数の生産地になった。

 この繊維産業の発達に欠かせないものに「繊維加工用薬剤」がある。繊維加工用薬剤は、糸や生地を洗う、染めるなど、加工する過程で使用される薬剤で、主な原料となるのが「界面活性剤」だ。本来混ざり合わないものの境目を活性化する性質を利用して、汚れを落とす洗浄から染色、撥水、抗菌、難燃など様々な機能が開発されてきた。

 福井市に本社を置く日華化学は、この繊維加工用薬剤のトップランナーだ。1941年、精練剤やアミノ酸の製造からスタートし、界面活性剤の研究開発を中心にイノベーションを起こし続けてきた。代表取締役社長、江守康昌さんはこう説明する。

「例えばドライクリーニングでは、水溶性の汚れを落とすのは困難でした。そこで弊社では水溶性汚れも油性汚れも除去するクリーニング薬剤を開発して、これが国内トップシェアを有しています。またスポーツウエアなどで求められる撥水加工では、環境配慮などの観点からフッ素フリー系の薬剤が求められていますが、フッ素系と同等の撥水機能を持たせるのは困難でした。

 この課題も弊社は2004年頃から取り組んでおり、いまは同等の機能を持つフッ素フリー系撥水剤を開発して世界中の繊維加工メーカーで使用いただいています。小さなことかもしれませんが、なかなか解決できなかった課題を界面科学で解決しているんですよ。大きな変革とまではいかないかもしれませんが、社会に役立つイノベーション企業として、しっかり産業を支えさせていただいている自負があります」

 界面科学の応用範囲は広く、日華化学は高い技術力で繊維加工はもとより金属加工、紙・パルプ、クリーニング、化粧品、自動車などの分野で業界をリードする製品を開発している。B to Bの事業展開のため一般消費者には名前はあまり知られていないが、吸汗速乾など高機能ウエア、難燃カーテン、カーシート、レシートなどの感熱紙など身の回りのいたるところで日華化学の技術が利用されている。

引き継がれたDNA

江守 康昌(日華化学株式会社)インタビュー写真

 江守康昌さんはお祖父様の代から続く3代目である。初代社長の江守清喜氏は、福井大空襲(1945年)、福井大地震(1948年)を乗り越えてきた苦労人で、日華化学の経営哲学には清喜氏の二つの信念が宿っている。一つは『製品を売るにあらずして技術を売る』という研究魂、もう一つは信頼関係を大切にする『大家族主義』だ。

「私の祖父は薬剤師だったんです。とにかく明治生まれの真面目で質実剛健、無駄なことは嫌い、贅沢は敵という考え方でした。でも品質に妥協は許さない人で、社長室はボロボロでも研究所はきちんとしたものを建てていました。『弊社は製品を売るにあらずして技術を売る』が口癖で、これが日華化学のDNAになっています」

 もう一つの『大家族主義』は、日華化学の母体である江守薬店の時から続く経営スタイルだ。当時は店で働く独身者は全員、寮生活をして寝食を共にし、清喜氏は社員を家族のように大切にしたという。

「福井市は1945年に大空襲をうけて、日華化学も大きな被害を受けました。それから3年かけて事業再開にこぎつけた矢先に、福井大地震があったんです。工場や社屋は全壊して祖父は妻と子供を亡くしました。失意のどん底だったと思いますが、それでも瓦礫の山と化した会社にかけつけた社員と共に会社を立て直して、半年後には工場を再建したんです」

 その後、朝鮮戦争の特需で経営は持ち直したが、戦争終結後、油脂が大暴落し、大量の原料在庫を抱えていたことから大ピンチを迎える。日華化学は70人いた従業員を35人まで減らした。

「祖父はその時、家族同然の大切な社員に辞めていただかなければならず、最も辛い思いをしたと回顧していました。大地震から一緒に復興を担ってくれた仲間だっただけに断腸の思いだったと思います。祖父はよく宴会で『花も嵐も踏み越えて・・』と愛染かつらの歌を社員達と合唱していました。正に自身の人生をダブらせて歌になぞらえていたのだと思います」

 その薫陶を最も強く受けたのがお父様である2代目江守幹男氏だった。清喜氏の娘婿である幹男氏は、清喜氏とはタイプが異なるバイタリティ溢れる営業マンだったが、海外進出の際でも経営の根幹には大家族主義を貫いた。

「祖父は人格者だし、父は蒸気機関車のような営業マンで、どちらにも私は逆立ちしても勝てません。でも私が間違いなく踏襲しているのは大家族主義です。祖父が定めた社訓は『誠実・勤勉・信用』で、これをベースにした社是があって『需要家に奉仕し、会社の発展に尽くし、社員の幸福を願う』というものです。これが我々の羅針盤になっています」

「贅沢はあかん、外車は乗るな、別荘はいらんぞ」
「グリーン車に乗って早く着くなら乗れ」

 こうした言葉の一つ一つが江守さんの心の深くに刻み込まれている。「それが3代目の僕の強みです」と江守さんは語った。

江守 康昌(日華化学株式会社)インタビュー写真

福井にイノベーション基地誕生

江守 康昌(日華化学株式会社)インタビュー写真

 江守さんがお父様から経営のバトンを受け取ったのは2001年。「アジア市場ナンバー1」の旗印を掲げ、以前から展開していた台湾、韓国、インドネシア、タイに加え、中国、ベトナム、バングラデシュと海外戦略を推し進めていった。特に中国は繊維産業等の急速な拡大が続いており、中国市場のニーズをいち早く把握して現地の問題解決に貢献するため、上海に研究開発拠点を、杭州、広州に生産拠点を、香港、上海、青島に営業拠点を設立。

 生産拠点は納入先に近い場所を確保という適地適産の発想で海外拠点のネットワークを構築していった。一方国内では、界面科学・毛髪科学を駆使した美容室向けヘアケア商品が大きくシェアを伸ばし売上に貢献。2015年に東証市場第二部上場、2016年に東証市場第一部銘柄指定を達成した。江守さんは上場の目的をこう語る。

「上場を考えた一番の理由は、社員のモチベーションです。上場企業となるとモチベーションも上がりますし、やりがいも大きくなって働くのが楽しくなりますよね。私が考える大家族主義は、社訓をきちっと守る社員は徹底的に守ってフィードバックもしていくということです。

 今年から待遇面も時代に合わせて変えますし、イノベーション創出を加速させるために、個人の能力を最大限に発揮できる環境を整えていきます。最近よく働き方改革と言われますが、私は『働きがい改革』だと思っているんですよ。みんなが夢中になってアイデアを出し合ったり、参加したくなる新しいプロジェクトがあって、会社に行くのが楽しくてワクワクするような『場づくり』が重要だと思います」

 こうした江守さんの考えのもと生まれた研究所が「NICCA イノベーションセンター」だ。コンセプトはHAPPY WORK PLACE。ワクワクする出会いからイノベーションを巻き起こせるようにと、2017年に総工費50億円をかけてつくられた。

 これまでの研究所の概念とは打って変わり、4階まで吹き抜けのオープンな空間には、まるで空中庭園のように2階に毛髪科学研究所、3階に界面科学研究所が見晴らしよく配置されている。各フロアの机はベンゼン環のように組み合わされ、4階から見下ろすと建物全体が一つの有機体のようだ。研究員はさながら分子のように自由に行き来している。

江守 康昌(日華化学株式会社)インタビュー写真

「祖父に見られたら、こんな贅沢なものをつくってと言われそうですが、研究所に対する私なりのこだわりがあって、研究者というのはややもすると蛸壺にこもるようなところがあるんです。でも私はいろいろな人と語り合って知恵を借りながら一緒につくり上げていくことが大事だと思うんですね。

 実際、私たちはお客様の意見を聴いて、教えていただきながら研究開発を進めてきました。ですから、徹底的にオープン・イノベーションにこだわって、チームでワクワクできる、お客様ともワクワクできる、エネルギーに満ちあふれた場をつくりたかったんです」

 北陸の福井という一地方都市にありながら、NICCAイノベーションセンターにはオープンから1年あまりで国内外からおよそ7,500人が訪れた。世界中から研究者、マーケッター、クリエーター、地域の人々、学生などが集まり、産学官連携で様々な分野の共同研究も進んでいる。大学関係者を集めた見学会や技術者向けのポスター・セッションも随時開催しており、上々の滑り出しと言えよう。

ひたむきさの先にある幸せ

江守 康昌(日華化学株式会社)インタビュー写真

 ご存知の方も多いだろうが、福井県は幸福度が高い県だ。日本総合研究所が2年に一度行う47都道府県幸福度ランキングでは、3回連続で1位と評価された。江守さんによると、福井らしさというのは『真面目、ひたむき、幸せ』。派手さはなく、地味ではあるけれど本物志向だという。

「ひたむきとイノベーションは一緒なんですよ。ひたむきな努力なくしてイノベーションは絶対にあり得ませんから。ひたむきに時間をかけていると協力者も現れて来る。オープン・イノベーションというのは、コツコツとやった先にあるものだと私は思っています。だからこそ、真面目な福井からイノベーションが生まれて来るのです」

「これもそうですよ」と江守さんは木の机を触った。

「こういった木材でできた机は、爪を立てると傷がつきます。でもうちの薬剤で仕上げたものは、木の風合いを残しつつ傷がつかないんです。普通は傷つかない加工というとプラスチックのようになりますね。でもうちのは木のぬくもりがあるんです」

 触ってみると、とてもしっとりしていた。木の滑らかなぬくもりが感じられる。

「これがイノベーションです。ほんの少しかもしれないけれど社会に変化を与える。イノベーションというのはITだけではないんです。例えばフッ素を使わない撥水加工では、蓮の葉の構造がヒントとなってフッ素フリー系撥水剤『ネオシード』が開発されました。遺伝子工学に界面科学の知見を生かした『DNA光操作システム』の研究や、ナノダイヤモンドを使用した透過型スクリーンの開発も進んでいます。こうした一つ一つの技術を、我々はイノベーションと呼んでいます」

 商品開発の話を始めると、江守さんの声はワントーン上がった。界面科学は、他分野の技術と融合することで今までにないものを生み出す可能性に満ちている。理工学部化学科卒業の江守さんは、自社の開発力に自信を見せた。

江守 康昌(日華化学株式会社)インタビュー写真

「何も東京で作ったものやシリコンバレーで作ったものだけが世界に通用する訳ではありません。福井という地方で我々が一生懸命考えてつくった製品でも、グローバルでお客様に評価いただき、売れているのです。うちでは研究発表会が年に4回あるんですよ。そこで新しい技術を社員が発表するんですが、それが非常に楽しみで、おお、これすごい技術だね! 

 今までの技術とどう違うの? 特許取ったの? お客様にどう貢献できるの? いくらで売れるの?といろんな質問をするんです。そしてみんなで開発した技術をお客様に紹介するときがまた楽しい。業務提携などうちの技術を聞きたいといった話があって、じゃあ技術者を連れて行きますからとアレンジしてネットワークを広げていく。これが私としては一番ワクワクします」

 真面目にひたむきに取り組むのも楽しいし、その先にイノベーションが生まれれば、もっと楽しい。江守さんと話をしていると、そんな幸せの好循環が見えてきた。福井県の幸せの秘密はここにあるのかもしれない。

 日華化学のグローバルネットワークはインド、パキスタン、トルコへと拡大している。現地の課題を解決する技術力と信頼関係を大切にした営業スタイルは、地球上のどこにいっても競争力を持つだろう。日華化学は2025年までの基本ビジョンをこう掲げた。

『世界中のお客様から最も信頼されるイノベーション・カンパニー』

 地方都市福井に磐石な研究基盤を持ち、さらに中国、台湾、韓国等にも研究開発拠点を有する日華化学。バイタリティあふれる3代目は、福井からグローバルにさらなるイノベーションを発信しようとしている。

     (福井県発表/幸福度情報)http://www.pref.fukui.lg.jp/doc/furusato/koufuku/shiawasetop.html)

江守 康昌(日華化学株式会社)インタビュー写真

(文=江川裕子 写真=前田龍央 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2019/01/23

プロフィール

江守康昌(日華化学株式会社)
江守 康昌
日華化学株式会社 代表取締役社長
1985 年
慶應義塾大学理工学部卒
三菱化成株式会社(現三菱ケミカル株式会社) 入社
1989 年
日華化学株式会社入社
1991 年
ニッカU.S.A.,INC上席副社長
1993 年
日華化学株式会社取締役
1995 年
同社専務取締役
1997 年
同社代表取締役専務
2001 年
同社代表取締役社長
2006 年
同社代表取締役社長執行役員(現任)
2017 年
イノベーション推進部門長(現任)

会社概要

日華化学株式会社
日華化学株式会社
  • コード:4463
  • 業種:化学
  • 上場日:2015/12/25