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ペプチドリーム株式会社
  • コード:4587
  • 業種:医薬品
  • 上場日:2013/06/11
窪田 規一(ペプチドリーム株式会社)"日本発の技術による新薬で、 世界中の患者を助けたい”

治療薬のない病気を救う画期的な技術

  ガンやAIDS、アルツハイマー症など、有効な治療薬のない病気は未だ数多い。こうした病気を駆逐する薬の需要はアンメットメディカルニーズと呼ばれ、創薬に対する市場の期待は極めて高い。このニーズに応えるべく、ビジネスをスタートしたのがペプチドリーム株式会社だ。同社が掲げる目標は「日本発、世界初の新薬開発」。
世界中の製薬会社が莫大なコストを投入しても解決できない難問を、小さなバイオベンチャーが克服してみせようというのだ。社長の窪田規一さんはこう説明する。

窪田 規一(ペプチドリーム株式会社)インタビュー写真

「弊社のコアテクノロジーであるフレキシザイム技術*1は、アンメットメディカルニーズに応えられる革新的な解決策だと自負しています。今年はこの技術によって開発された2種類の薬が治験申請できる可能性も高い。新薬の開発から承認までは10年、15年かかるものも多いですが、私達の技術を利用すれば創薬にかかる時間短縮にもつながるんです。早ければ東京オリンピックが開催される2020年には、新薬第一号を患者さんに届けられるかもしれません」

 これまでの医薬品には、大きく分けて低分子医薬と抗体医薬という二つの種類が存在する。しかしそれぞれ優位性を持つ反面、問題点も指摘されていた。低分子医薬は分子量が小さいことから多くの病気に対応できると同時に、その分子量の小ささゆえ、病気を駆逐する力が相対的に弱い。
一方、抗体医薬は分子量が大きく病気に対応する力も強いが、その大きさゆえ多種類の病気に適合させることが難しい。つまり、これら2種類の医薬品では網羅しきれない病気の多くがアンメットメディカルニーズとして顕在化している訳だ。この「抜け落ちた穴」を埋めるべく、ペプチドリームが着目した第三の医薬品。それが、社名の由来ともなっている「特殊ペプチド*2」医薬だ。

「分子量で比較すると低分子医薬はミニカー、抗体医薬はダンプカーに例えられるでしょう。ミニカーは狭い道も通れますがパワーが足りない。ダンプカーはパワフルですが、広い道しか走れません。言ってみれば、特殊ペプチドはスポーツカーのようなものです。パワーもあって小回りも効く。実に多種類の病気に対応し、副作用も少ない。おまけに研究開発もスピーディにできる夢のような医薬品なのです」

創薬の概念を変える特殊ペプチドという物質

  生体内にはタンパク質を構成する20種類のアミノ酸が存在する。特殊ペプチドは、これら20種類には見られない特殊な構造を含んだペプチド様化合物である。医薬品候補物質として有力なこの化合物を自在に作り出せれば、望みのままに新薬を開発できる。ゆえに、特殊ペプチドの可能性には世界中の大手製薬会社もかねてから着目していた。しかし、物理的に不安定な特殊ペプチドをどうやって安定させるか、さらには、有効な特殊ペプチドをどう見つけ出すかという問題が、その実用化を阻み続けてきた。

 この難問を解決するのが、ペプチドリームの有するフレキシザイム技術だ。多くの大企業がペプチドリームとの共同開発を望む理由は、まさにここにある。窪田さんは創薬のプロセス、同社の技術の優位性をこんな例えで説明する。

「新薬の候補物質を探すプロセスは、集団お見合いのようなものです。従来の方法では莫大な時間と労力をかけて、一人の見合い相手を探し当てていた。そしてさらに時間をかけて、そのお見合い相手と相性が良いかどうかを検証していく。相性が悪ければゼロに戻ってやり直しです。でも、フレキシザイム技術を使えば、短時間で試験管の中に一兆個もの候補物質を作ることができる。つまり、一度に一兆人の見合い相手を候補に挙げることができるのです。そしてたった一人の最適な相手をこの中から探すことができる。当然、従来の方法よりはるかに相性の良い相手が見つかりますよね」

窪田 規一(ペプチドリーム株式会社)インタビュー写真

 東京大学の菅裕明教授が20年以上の歳月をかけて開発したフレキシザイム技術。窪田さんが初めて、東京大学TLO(技術移転機関)からこの技術の全貌を聞いた時には「にわかには信じられなかった」ほど、衝撃を覚えたと当時を振り返る。

「理科の授業で教わるコドン表*3・塩基配列は翻訳合成*4に関わる言わば生物化学の基本であり、神様の作ったものであるというのが通説。フレキシザイム技術は、このコドン表を全て書き換えることができるという常識を逸脱した技術なんです。初めは私も半信半疑だったのですが、菅教授の話は非常に理にかなっていました。なにより、お互い、薬がなくて苦しんでいる患者を一人でもいいから助けたいという強い思いを持っていた。ですから、起業への迷いはなかったですね。今では、菅先生にノーベル賞を取って欲しいと思うほどになりました。それだけ、後の世界に大きな影響をもたらす技術だと確信しているんです」

注目を浴びる画期的なビジネスモデル

  アムジェンやグラクソ・スミスクライン、ノバルティスなど、ペプチドリームが創薬共同開発契約を結ぶクライアントには世界の大手製薬会社が名を連ねる。しかもこうした契約の端緒は、ほとんどが先方からのコンタクトによるもの。それほどまでに、同社の技術に対する期待値は高かった。

窪田 規一(ペプチドリーム株式会社)インタビュー写真

「当初は私自身、信じられない夢のような技術だったので、営業してもなかなか信じてもらえないと思いました。そこで私達は学会や論文といったアカデミックなアプローチで情報を提供していった。すると、海外の製薬会社さんからすぐに問い合わせをいただいたんです。一番最初のプロジェクトは先方から電話をいただいた直後にビデオ会議を行い、半月も経たない内に幹部の方々が来日。3日間のディスカッションをして、2週間あまり経った頃、もう契約書の草案が届きました。幹部の方に言われたのは、創薬における欲しい技術の全てをうちの会社が持っていると。低分子医薬、抗体医薬に次ぐ第三の医薬への期待の高さを改めて感じましたね」

 昨年6月のマザーズ上場時には、市場でも旺盛な反応が見られた。上場直後から買いが先行。初値は7900円で寄りつき、同社の時価総額はたちまち1300億円を突破したのである。こうした期待は、同社固有の技術と同様、創薬の世界では画期的とも言えるビジネススキームへ向けられたものでもあった。新薬の候補物質発見から上市まで、長期に渡る創薬プロセスの節目毎に売上げを発生させる「早期のマネタイズ」を実現しているのだ。

「従来多く見られたビジネスモデルだと、候補物質発見までは売上げが発生しません。当然、長期に渡ってこちらがコストを負担するデメリットが生じる訳です。そこで私たちは、技術に関してシステム的なパテントポートフォリオを構築し、契約締結直後からこれらの技術を利用していただくための費用をいただく。その後、候補物質を創出するための研究開発費もクライアントに負担していただくとともに、候補物質が特定できた後は前臨床試験、臨床試験など各進捗状況ごとに成果報奨金(マイルストーン)を細かく分けてクライアントからいただく訳です。こういう契約形態であれば何らかの理由で新薬開発が止まっても、それまでにかかった費用はまかなうことができる。つまり私達は外注業者というスタンスではなく、クライアント企業の研究開発部門という立ち位置で仕事をしているんです。もちろん新薬が市場に出れば、売り上げに応じてロイヤルティも発生します。新薬の登場はそれだけインパクトの大きいビジネスですし、クライアントと弊社をWin-Winの関係にしてくれますからね」

世界を救うという壮大な夢に向かって

窪田 規一(ペプチドリーム株式会社)インタビュー写真

 現状、特殊ペプチドへ高い興味を示しているのは、そのほとんどが欧米企業。この状況を窪田さんは少しはがゆく感じていると口にした。

「もともと私達は、この国から新薬を誕生させたいと考えて会社をスタートさせました。海外と日本では創薬に対するアプローチ方法や、法制度にも違いがあります。でもペプチドリームが海外の製薬会社とコラボレーションして新薬をどんどん誕生させれば、日本の状況も変わってくるかもしれません。やっぱり日本企業のクライアントが増えてくれると嬉しいし、日本発の技術をもとに日本の製薬会社が提供する薬で世界中の患者を救いたいですからね」

 世界最先端のバイオ技術をコントロールしながらも、笑いや会話のたえない社内の空気。こうした好環境は、フランクな窪田さん、菅教授らの人間味に負うところが大きい。加えて、一刻も早く新薬を、という明解な目標がスタッフ全員に浸透していることも、同社のプロジェクトが円滑に進む大きな理由だ。自分たちの研究がどのようなステージにあるのか、評価・進捗状況を逐次確認し合うことで「目標・成果を見据えた研究」となり、研究者の『やりがい』に直接結びつくという好スパイラルを生みだしている。

 2014年1月初旬の時点で、ペプチドリームの取り組む新薬は26種類。ガン、生活習慣病、感染症など幅広い疾病に対し、解決策を模索している最中だ。同社の技術を使えば、理論上、医薬品候補物質である特殊ペプチドの種類を無限に作り出せると熱く語る窪田さん。その視線は遠い未来でなく、すぐそこにある明日を真っ直ぐに見据えている。

窪田 規一(ペプチドリーム株式会社)インタビュー写真

(文=宇都宮浩)2014/02/14

プロフィール

窪田 規一(ペプチドリーム株式会社)プロフィール写真
窪田 規一
ペプチドリーム株式会社  代表取締役社長
1953 年
東京都生まれ
1976 年
4月 日産自動車株式会社 入社
1978 年
7月 株式会社スペシアルレファレンスラボラトリー(現(株)エスアールエル)入社
2000 年
11月 株式会社JGS設立 専務取締役
2001 年
4月 同社 代表取締役社長
2006 年
7月 ペプチドリーム株式会社設立 代表取締役社長 (現任)

会社概要

ペプチドリーム株式会社
ペプチドリーム株式会社
  • コード:4587
  • 業種:医薬品
  • 上場日:2013/06/11