上場会社トップインタビュー「創」

株式会社STG
  • コード:5858
  • 業種:非鉄金属
  • 上場日:2019/06/26
佐藤 輝明(株式会社STG)

マグネシウムから素材の多角化へ。飽くなき研究開発

佐藤 輝明(株式会社STG)インタビュー写真

 近年、世界中から熱い注目を集める実用金属のひとつがマグネシウムだ。燃費改善、環境負荷の低減を目指す製造業にとってマグネシウムやチタンなどの非鉄金属は、これからの開発において欠かせない構造材だ。

 実用金属としては最も軽く、地球上においては6番目に豊富な金属であるマグネシウム。耐くぼみ性や振動吸収性に優れるこの素材は自動車だけでなく、携帯用機器やカメラ、医療機器などにも広く利用され、今後、益々用途が広がる可能性を秘めている。

 株式会社STGは、そんなマグネシウム合金の製品企画から、量産まで対応するスペシャリスト集団だ。複雑な形状や寸法精度の厳しい製品加工に高いレベルで対応。大阪八尾の工場から世界中が認める技術力で存在感を発揮している。同社の事業領域について、代表取締役社長の佐藤輝明さんはこう説明した。

「お客様には、私たちは製品軽量化事業を行っている、と説明しています。多くの工業製品が軽量化を望んでいて、弊社はそれをお手伝いできます。マグネシウム他、軽量素材のニーズはあらゆる業界で増しています」

 現在は自動車部品やプロジェクター、高級一眼レフカメラといった分野のマグネシウム合金成型を得意とし、売上高24億円を突破した(2019年3月期)。それでも数十年後はどんな素材を事業の柱として扱うことになるか分からないと話す佐藤さん。決して「マグネシウムと心中するつもりはない」と口にしたのは少し意外であった。

「私たちが参加しているのは素材間競争。これから先、プラスティックやチタン、あるいは新素材の登場によってマグネシウムの需要が減少してしまうことだって十分あり得ることです。様々な素材の研究に取り組み続けていますし、軽量化という事業ドメインに結びつく素材を追い続けていきます」

 様々な工業製品が軽量化に向けて加速する昨今。サプライヤーとしてのSTGは言わばポールポジションにつけていると言える。もとはアルミ加工製造から進化してきた経緯もあり、柔軟に新素材を扱う技術的土壌とメンタリティは十分だ。

 静岡、中国、タイに生産拠点を置くことでグローバルなニーズにも対応。どんなに時代が激変しようとも、マネジメントをよほど間違わなければ今後も着実な成長が見込めると、佐藤さんは期待している。

佐藤 輝明(株式会社STG)インタビュー写真

堅牢性が問われる各種、高級デジタルカメラもSTGが製造するマグネシウム合金に守られている

太平洋に出る前に、まずは瀬戸内海で航海を

佐藤 輝明(株式会社STG)インタビュー写真

 現状に甘んじることなく技術を磨き、設備増強を重ね、海外進出を果たしてきたSTG。断続的な投資を前提に成長を続けた同社は当然、数年前から新規上場も視野に入れてきた。株式市場への上場を意図した理由について、佐藤さんはこう話す。

「会社には社会のなかで果たさなければならない責務がある。そう考えると、成長を目指す企業にとって"上場"は当然、通るべき道。90年代初期には海外勢との厳しい競争で資金難に陥ったり、リーマンショック後は、当社も赤字でしたが、経営危機にあった取引先を引き受けたりしました。どれだけピンチが訪れても投資を続け、挑戦していかなければ明日はないと痛感しましたから」

 令和元年6月、STGはTOKYO PRO Marketに上場した。佐藤さんに同市場を選択した理由を聞いてみた。

「一般市場への上場が既定路線でしたが、弊社の大株主であるベンチャーキャピタルからTOKYO PRO Marketを薦められました。私が興味を持ったのは、その気になればこの市場から一般市場へのステップアップもできるという点。そして、この市場から"1年間で一般市場に上場"した企業は、これまで一社もないという点です。つまり、誰もやったことのない挑戦をできるなと感じたのです。また、TOKYO PRO Marketに上場することにより適時開示など上場企業としての役割をしっかりと果たし、資本市場という環境に慣れてから一般市場へ行く。それは、中小規模の企業にとって良きモデルケースともなる。そのようなモチベーションでTOKYO PRO Marketへの上場を目指しました」

 STGはTOKYO PRO Market上場時に約2億5,000万円の資金調達も行った。この資金調達において申込・払込に応じてくれたのは、普段から関係性のある取引先や金融機関など「目に見える株主」であり、安定株主づくりといった観点からもTOKYO PRO Marketを通じて資金調達することに意義を感じたという。

「上場の際、投資家を募るために弊社への需要動向を把握してみると、多くの方々が、STGが上場するなら株を買わせてほしいと言ってくれました。これからさらに会社を成長させていくことを考えると、信頼関係でつながっている『目に見える株主』に協力してもらうメリットは大きい。今回、約2億5,000万円の資金調達ができましたが、私のことを信用して投資してくれる方は言ってみればSTGの与党。今のうちから与党の基盤を築けるというのがこの市場の特徴です。また、今回の資金調達の過程は、自分が経営者として他者からどう見られているかを試す、格好の機会にもなりました。不特定多数の株主に委託するのではなく、『目に見える株主』に委託できたのは、TOKYO PRO Marketならではのメリットだと感じます」


佐藤 輝明(株式会社STG)インタビュー写真

 将来、東証一部上場を目指すSTGにとって、ここでの資金調達は成長の原動力となっていくだろう。上場の過程で多くのメリットを体感したことで、知人の経営者にもTOKYO PRO Marketへの上場を勧めるようになったと佐藤さんは話す。

「中小規模のステージにある企業には、不特定多数の『目に見えない株主』と向き合うよりも、『目に見える株主』との間で、安定的に経営できるTOKYO PRO Marketが、相応しい市場だと思うのです。今までは琵琶湖に停泊していたとして、いきなり太平洋に出る前にまずは瀬戸内海で航海を始めよう、という感覚ですね(笑)。さらなる成長を目指す準備としても最適な市場です。中小企業が一般市場への上場をいきなり目指すより、安定した株主を確保しつつ、会社の成長を加速させることができるTOKYO PRO Marketのアドバンテージを活かさない手はありません」

 上場会社の社長になってもメンタリティは変わらないと言いつつも、投資家に対する責任を感じているという。また、社内外では様々な変化があった。たとえば新卒採用の応募者数は上場前と比べて大きく増加。あらためて、自社が社会の公器となったことをひしひしと感じているそうだ。

「たとえば佐藤家だけが会社の株式を独占しているのは、私は健全とは思えません。経営を外部の目が監視するシステムに移行しなければ、企業は一定規模を超えて大きく成長することはないと思います。ですからベンチャーキャピタルを含めた株主に支えられる今の状況に、私は満足しています。一般市場への上場に向けた道筋もきちんと描けていますしね」

 忙しい日常の合間をぬってジムに行くのが息抜きのひとつ、と語る佐藤さん。とはいえトレーニング中でもネット動画で世界情勢や経済動向などをチェック。24時間、経営者としてのスイッチをオフにすることはないと話す。目指すのは、あと1g、軽い世界。その目標に向かって、STGの歩みはスピードを増すばかりだ。

(文=宇都宮浩 写真=永田謙一郎 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2019/09/04

プロフィール

佐藤 輝明(株式会社STG)
佐藤 輝明
株式会社STG 代表取締役社長
1966 年
大阪市生まれ
1989 年
立命館大学経済学部卒業後、日通商事入社
1994 年
株式会社三輝ブラスト入社
2006 年
三輝ブラスト代表取締役に就任
三輝特殊技研(香港)有限公司を設立
2012 年
サンキ・イースタン(タイランド)株式会社 代表に就任
2015 年
社名を株式会社STGに変更

会社概要

株式会社STG
株式会社STG
  • コード:5858
  • 業種:非鉄金属
  • 上場日:2019/06/26