上場会社トップインタビュー「創」

株式会社リンクバル
  • コード:6046
  • 業種:サービス業
  • 上場日:2015/04/28
吉弘 和正(株式会社リンクバル)

「少子化」という課題へのソリューション

吉弘 和正(株式会社リンクバル)インタビュー写真

 いまや周知の事実として、日本の少子化問題はまったなしの状況が続いている。1970年代前半のベビーブームから現在まで日本の出生率は右肩下がりで、諸外国と比較しても、日本における合計特殊出生率は低い水準となっている(1.43人/2017年)。

 また、婚姻率も低下しており1970年代前半と比較すると半減している。そこで注目を集めているのが結婚相手を見つける活動、いわゆる「婚活」を支援するサービスだ。2018年に婚姻した人で、婚活支援サービスを利用して結婚した人の割合は12.7%と過去最高だった。

 株式会社リンクバルは、そんな婚活支援サービスも含めたイベント企画ビジネスの分野で存在感を高めている企業だ。地域振興と交流の場の創出を目的としたイベントである「街コン」を推進し、イベントECサイト『machicon JAPAN』を運営する。

 交流の場を提供するビジネスというデリケートな市場においてテクノロジーを駆使し、「世界をつなぐ」というミッションのもと、2011年の設立以来、着実に実績を積み重ねている。現在の成功について、同社を創業した社長の吉弘和正さんはこう話す。

「最も重きを置いたのは、いかに信頼度を上げるかです。当社のサービスを利用されるお客様に安心感を持っていただけるかどうかが、この市場では大切なポイントになります。そのような観点で、2015年にマザーズに上場しました」

上場でビジネスの展開を加速

信頼感の向上と企業の成長を目指すなかで、上場は通るべき道だったと吉弘さんは語る。法人設立から3年4ヶ月でのマザーズ上場を果たした。プラットフォーマーとして成長のカギとなるウェブエンジニアの採用も、上場によって大きなアドバンテージを得たと実感している。

「上場前はウェブエンジニアの募集をかけても、なかなか良い人材が集まりませんでした。でも上場後は目に見えて優秀な方に応募いただけるようになりました。海外ウェブ開発拠点としてベトナム・オフィスもありますが、国内でも様々な国籍のウェブエンジニアが採用でき、おかげさまでテクノロジーを標榜する企業にふさわしい陣容となってきています。これから海外での事業展開を拡充していくことも視野に入れています。採用に見られるように、上場によって間違いなく企業の信頼感が向上したと感じています」

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リンクバルでは様々な国籍の社員が働く

 前述の通り、ユーザーからの信頼感は同社のビジネスにとって何より大切な要素。その点、地方自治体や大手企業とのコラボレーション企画が多いリンクバルのイベントは、ユーザーの安心感や信頼度を高めることができる。

 こうした戦略を仕掛られたのも、上場による信用度向上が大きく影響していると吉弘さんは語る。

「上場企業であるという事実は、やはり地方自治体や企業と交渉をする上で非常に有利だと感じています。また、信用がなければ大規模な会場を借りることさえ難しくなってしまいます。初対面の取引先でも、上場企業ならガバナンスもしっかりしていると認識していただけますし、上場はビジネスを拡大させる上で非常に大きな出来事だったとあらためて感じますね」
 
 当然、資金調達面でのメリットも今後の成長に活かすつもりだ。参入する企業がひきもきらないこの市場。上場という武器を使って多方面で差別化を図ることは、重要な一手となり得るのである。

アメリカで体験した徹底的なホスピタリティ

吉弘 和正(株式会社リンクバル)インタビュー写真

 10代の頃からいつかは起業したいと考えていたという吉弘さん。しかし、家庭の事情ですんなりと大学に行ける状態ではなかった。そこで進学資金を貯めるため、まずは会計事務所で働く道を選ぶ。

「このような業種を選んだのは、起業に会計の知識が生きると考えたためです。会計事務所なら様々な会社の業態も見られるでしょう。そこで起業を視野に入れて経験を積んでいったのです」

 数年して進学資金が用意できると、日本の大学では自分を差別化できないだろうと考え、アメリカの大学を選択した。進学先のアメリカ西海岸では、学費と生活費を稼ぐ必要もありビジネスもはじめた。

「アメリカで流行したものが、10年後には日本でトレンドとなるだろうという見立てもありました。自分で学費と生活費を稼ぐ必要もある中で見つけたビジネスの種が古着の輸出でした。日本では古着がブームとなっていたのでこれは成功するだろうと。結果として、学費や生活費をまかなえる程度のビジネスとなりました」
 
 同社の『machicon JAPAN』を中心とするサービス体制は、顧客をいかに楽しませるかという工夫と熱意から生み出されたが、このホスピタリティ精神が育まれたのもアメリカでの経験があってのことだと、吉弘さんは言う。

「アメリカでは、日常的にホームパーティが開催されていて、私のなかにそのようなパーティ文化が染み込んだのは確かですね。アメリカに渡ったばかりで英語がきちんと話せなかった私に対しても、パーティのホストは丁寧に接してくれ、楽しませようと努めてくれました。とにかくホスピタリティがものすごい。ゲストを楽しませようというパーティの空気が、私に大きな影響を与えました。飲み物を勧めるとか、話しかけてくれるといった、ほんの少しの心遣いが私には新鮮でしたし、今の仕事にも活きています」

 こうして、吉弘さんは、異国の地アメリカで日本とは異なる様々な文化に触れ、大いに刺激を受けることになる。

すべては起業につなげるために

吉弘 和正(株式会社リンクバル)インタビュー写真

 人生の岐路で、吉弘さんは「起業する」という夢を実現するために、どうしたら必要な知識と経験を身につけることができるかを考え、最良と思える道を選んできた。

 大学時代に見た映画をきっかけに、巨額の資金を動かす投資の世界を知り、将来、起業した時にビジネスをスケールさせるためには金融の経験が必要と考え、大学卒業後は帰国して金融関連の仕事に就くことを選択する。

 不動産投資やプライベート・エクイティに関わる業務を経て視野を広げていったが、より専門的な知識を身につけるためオックスフォード大学でMBAを取得しようとイギリスへ渡った。

 MBA取得後、いくつかの選択肢があったが、誘いを受けたプライベート・エクイティ投資のアドバイザリーを主とするアメリカの企業を選び、再びアメリカへ渡る。その企業では金融畑で成功した経営者の近くで働くことができ、経営者の考えに触れることができると考えたからだ。
 
 ここで成功のノウハウを学び、同企業の東京オフィスを開設するために帰国した。それにしてもこのようなキャリアを重ねた吉弘さんが、なぜサービス事業の分野で起業したのだろうか。

「ファンドの評価をして、機関投資家にアドバイスするという仕事をしていたわけですが、これはプラットフォームビジネスなんですね。ファンドの顧客と機関投資家の顧客をつなぐプラットフォーマー。誰かと誰かをつなげるビジネスをしたいと考え、その会社のビジネスモデルも学びたいとも思って仕事をしていました。でもこれからは、テクノロジーを活用したほうが大きな可能性がありそうだし、ウェブ業界ならアイデアさえあれば起業しやすいと考えてもいました。そのような考えと経験が今につながっていくわけです」

 加えて、吉弘さんのモチベーションをかきたてたのは、プラットフォームビジネスが内包するスケール感だった。かつては古着ビジネスで一定の手応えを得ていたものの、事業として成長する限界点も感じていた。

 一方、ウェブを媒介としたプラットフォームビジネスには成長に限界がないように思えた。どうせ事業を起こすなら大きくなる事業をやりたい。ウェブでのビジネスはそんな思いをかなえてくれるという見立てが、吉弘さんの背中を押すことになる。

「もともと起業するということを視野に入れて、様々な職を体験してきました。かつて勤めた会社も、業種だけでなく経営者のそばで間近にビジネスを学べるという観点で選びました。また、MBA取得の過程や投資会社での経験によって、コーポレート・ガバナンスが経営において極めて重要だという認識も私の中に染み込みました。法律遵守を強く意識した経営によって、社会から信頼を得ているという実感も当然、あります。私のキャリアは遠回りの連続のようにも見えますが、実はすべてが今に繋がっているのです」

ひとつにつながったこれまでの知見

吉弘 和正(株式会社リンクバル)インタビュー写真

 リンクバルを立ち上げる決定的なキッカケについて、吉弘さんは2011年の東日本大震災後の体験を挙げた。国内外で支援の輪が広がる中、自分にも何かできることはないかと考えていた時、地方各所で開催されている復興イベントのひとつが目にとまったという。

「地方各地で、複数の飲食店を巡りながら、地元の人と交流するというイベントでした。震災後の自粛ムードで飲食店から客が離れていたので、このようなイベントを開催すれば地域経済の活性化にもつながるし、なにより若い人が訪れることで、その土地に活気が出るだろうと。自分が起業するならこれだなと感じました。大勢の若者が集まって、その地域を元気にすること。こうしたイベントを各地で行えば、日本は元気になっていくだろうと思いました」

 そこで、すぐさま『街コンジャパン(現:machicon JAPAN)』と名づけたポータルサイトを立ち上げた。アメリカでのパーティ体験からはじまり、ウェブ業界、プラットフォームビジネスへの興味、そして震災後に感じた日本を元気にしたいとの想い。それらすべてが吉弘さんの頭のなかでひとつにつながった。

 本業の傍らで、吉弘さんがたった一人で運営するサイトだったが、数ヶ月ほど経つと、イベントを掲載したいと依頼がくるようになり、ポータルサイトとして情報が徐々に充実していった。するとそれは複数のテレビ局からの取材につながった。いくつものテレビ番組で、街コンの楽しさが取り上げられるようになっていった。

「サイトを立ち上げたときは、今のような規模になるとは思っていませんでした。でもメディアで取り上げられるようになって一気にユーザー数が増えたのと同時に、大手企業から街コンのスポンサーになりたいという引き合いも増えてきたのです。自分の思いより、何かから背中を押されているような感覚があって、押されて押されて起業したという感じです」

つながり得なかった何かと何かをプラットフォームで結びつける

吉弘 和正(株式会社リンクバル)インタビュー写真

 「人と人」「人とコト」とのつながりを支援するため、あらゆるイベントを紹介し、様々な企画を打ち出すリンクバル。だが、この市場に目をつけた同業他社も急増しているのも事実。他社が追随できないような新たな価値を生み出し続けるために、どのような取り組みを展開しているのだろうか。

「まずは、どうすればお客様に喜んでいただけるかという、ユーザーファーストの精神が大きい。ユーザーとはイベント参加者だけでなく、コラボレーションしてくれる自治体や企業もまた我々のユーザーです。創業時の無名時代から、地方公共団体や有名企業とのコラボレーションにおいてイベント参加者だけでなく協業してくれる自治体や企業に対してもホスピタリティを発揮できるよう力を入れてきたことで、お客様や企業の双方から信頼感や安心感を高めることができました。コラボレーションが増えれば、当社とコラボ相手が双方でプレスリリースを出すなど、かけた広告費以上に告知、展開できるというアドバンテージもあります」

「そして、やっぱり地道にアイデアを重ねて、どうすれば企画が面白くなっていくかを考えてきた結果でしょうか。例えば、ひとつの企画で、できるだけ多くの方に響かせるというより、突き抜けた企画で特定の方を深く刺すという取り組みも、ユーザーの方から評価をいただいている理由だと思います」

 特定の人を対象とした企画例に、大人気のハンティングゲームとコラボレーションした『狩りコン』がある。参加者全員が各々ゲームに集中する時間が大半を占めるイベントだ。その場での交流に重きを置くのが一般的だが、敢えてゲームをすることをイベントの核に据えることで、そこから参加者同士の交流が自然と生まれることを意図している。実際、思う存分ゲームを楽しんでから、それを話題に、二次会、三次会で仲間を増やすという展開が生まれており、参加者からは「全員が同じゲームが好きなので、安心して参加できる」と好評を得ているという。

 こうしたユニークな企画を全国規模で展開することは、地域活性化にも大きく貢献する。事業規模が増大すればするほど、このビジネスに対する社会の期待を感じると、吉弘さんは話す。

「晩婚化、少子化の解決につながる策を講じているという自負があります。お客様や地方自治体の方の反応を見ても、これは社会に求められているビジネスなのだとつくづく感じますね」

 この市場はまだ伸びるし、できる施策が山のようにあると吉弘さんは確信しているが、「つなぐ」というビジネスは街コンの開催にとどまらない。今後はこのプラットフォームビジネスのスキームを活用して、新たな『コト消費』市場の領域に展開し、事業領域を拡大していくという。これまではつながり得なかった「何か」と「何か」を結びつけることによって、さらに大きな未来につながっていきそうだ。

 参考:「人口動態統計の年間推計」(厚生労働省)、「婚活実態調査2019」(リクルートブライダル総研調べ)

(文=宇都宮浩 写真=高橋慎一 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2019/10/10

プロフィール

吉弘 和正(株式会社リンクバル)
吉弘 和正
株式会社リンクバル 代表取締役社長
1970 年
埼玉県生まれ
2011 年
株式会社リンクバル設立
2015 年
マザーズ上場
2018 年
LINKBAL VIETNAM設立
出身校: オックスフォード大学MBA(経営学修士)取得、カリフォルニア大学サンタバーバラ校 経営経済学部および政治学部卒

会社概要

株式会社リンクバル
株式会社リンクバル
  • コード:6046
  • 業種:サービス業
  • 上場日:2015/04/28