上場会社トップインタビュー「創」

冨士ダイス株式会社
  • コード:6167
  • 業種:機械
  • 上場日:2015/06/25
西嶋 守男(冨士ダイス株式会社)

日本のものづくりを支える高精度の耐摩耗工具

西嶋 守男(冨士ダイス株式会社)インタビュー写真

 
 「ダイス」は、金属などの線材や棒、パイプの外径を決める工具のことを指す。一方、内径を決める工具をプラグという。同じ形状の金属部品を一定量製造するために用いる道具は金型である。これらの工具や金型は、量産化に耐え得るための一定の耐久性が必要なことから「耐摩耗工具」と呼ばれる。

 その中でもとりわけ高精度の加工に対応するためにタングステン・カーバイドを主成分とした超硬合金を用いてつくられる工具・金型を「超硬耐摩耗工具」という。冨士ダイスは、1949年の創業以来、一貫して超硬耐摩耗工具の製造販売にこだわり、耐摩耗工具業界では長きにわたってトップシェアを堅持してきた。現在、同社をけん引する3代目社長の西嶋守男さんは、自社の強みを次のように語る。

「シェアは国内トップの31.4%。お客様は輸送用機械から鉄鋼、非鉄金属、生産・業務用機械、電機・電子部品などさまざまな分野のメーカーさんで、いずれも高度な精密加工が求められ、当社の超硬耐摩耗工具が日本のものづくりを土台から支えてきた一面が有るといっても過言ではないと思っています。

 たとえば、日本の産業を代表する自動車。故障が少ないことで世界から高く評価されています。自動車部品の製造ラインでは、大量生産するための金型に、使用用途に応じた材料特性(例えば硬度や強度等)と極めて高い形状精度が求められ、エンジンからトランスミッション、サスペンション、ステアリング、安全装置部品などに組み込まれる重要部品等、多くの分野で超硬耐摩耗工具が使われています」

 さらに、ジュースやアルコール類の飲料缶の製造にも用いられている。これらは生産量が多く、原材料からの歩留まりや製品精度が重要視され、高精度かつ耐摩耗性に優れた超硬合金の製缶金型が使われることが多い。同社の製品は1ミクロン(1,000分の1ミリ)の精度を誇り、この分野でも高いシェアを持っている。

「日本の飲料メーカーの缶は、表面にそのまま印刷していますが、缶の表面が凸凹しているときれいに印刷できません。日本の缶の表面には海外の飲料缶で見かけるような凸凹はない。それだけ缶表面が鏡のように美しく仕上がる金型を使っているということです」

 カメラレンズ製造用の金型も同社の得意とするところだ。金型表面を非常に精巧に仕上げるので、従来必要だったレンズの研磨作業が不要となっているのだという。同社の超硬耐摩耗工具に支えられて世界をリードする分野はほかにもたくさんある。

西嶋 守男(冨士ダイス株式会社)インタビュー写真

一貫した受注生産体制で取引先は年間約3,000社

西嶋 守男(冨士ダイス株式会社)インタビュー写真

 
 縁があって中途で冨士ダイスに入社した西嶋さんがまず驚いたのは、そこで作業する社員の技能の高さだった。

「数値を打ち込めばその通りに加工してくれるNC(Numerical Control、コンピュータ数値制御)工作機械などはまだ普及していない時代です。知恵や経験、直感で正確な立体を造り出す技と腕に度肝を抜かれました。私なら数値を計算しながら図面と格闘して作業していくところを、そんな手間をとらずに一般の汎用機を使いながらつくっていました。現場で作業する社員さんたちは、いろいろな形状を立体イメージとして再現できる高い能力を持っているのでしょう。まさに職人さんの技能といえます」

 同社の強みは、こうしたものづくりの核心を引き継ぎながら、独自の生産体制・営業体制を築き上げていったことだ。

「標準的な材質では40種類程度、特殊なものを含めると70種類程度の粉末原料をミックスして超硬合金の素材をつくります。当社は原料粉末の調合をする段階から、お客様が要望される部品の設計、焼結、機械加工、製品検査まで一貫した受注生産体制をとっているので、どのようなオーダーに対しても柔軟に対応できるのです」

 こうした生産体制は、当然のことながら営業体制にも好影響を及ぼす。現在、全国に13カ所の営業拠点を持ち、業界最大の約100名の営業員による直接販売網を構築している。同社の製品は、顧客が大量生産するための工具や金型であり、顧客のオーダーごとに品物が異なってくる。完全な少量多品種の世界だ。

 営業員は一つひとつのオーダーをきめ細かに聞いて製造現場につなぎ、さらにメンテナンスを重ねて顧客の信頼を深める。こうして現在、常時取引がある顧客は年間約3,000社を超えている。

「私たちは、素材の開発はお客様のご要望を聞いてお客様が心の底からご満足できるものを、お客様と一緒につくり上げていく気持ちで対応させていただいています。それを繰り返しているうちに、自動車部品や飲料缶、レンズに見られるように、これまでになかった世界最高水準のものを生み出すことにつながっているのだと思います」

創業から受け継がれる「心を磨く」教育

西嶋 守男(冨士ダイス株式会社)インタビュー写真


 素材となる金属粉末の調合から高精度の加工まで一貫した少量多品種の受注生産体制や顧客のきめ細かな要望に応える営業ネットワークに加え、同社の最大の強みは「人を大事にし、育てる風土」だと西嶋さんは断言する。

「当社では、自分たちがつくる耐摩耗工具のことを“生命工具”と呼んでいます。お客様の製品の生命(いのち)を決めるのは工具のでき次第であり、できのよい工具は妥協やごまかしのない“誠実な心”や“真心”から生み出される人間の卓越した技を通してのみ可能である、というのが冨士ダイスの哲学です」

 創業者の新庄鷹義さんが提唱してからずっと引き継がれてきている哲学だ。創業から間もない頃から発刊してきた社内報『月刊ふじ』の巻頭言を含め、社員に熱く語り続けた新庄さんの珠玉の言葉が一冊の本『冨士の道』にまとめられている。

 朝、すべての事業所でこれらの言葉を振り返り、全員で「心を磨く」。これもまた、社会や顧客からの信頼を深める大事な取り組みに間違いない。

理想を掲げて、その実現に向けて突き進む

西嶋 守男(冨士ダイス株式会社)インタビュー写真


 
 
 創業者からは「人を大事にし、育てること」の大切さを学び、2代目社長の木下徳彦さんからは「理想を追求する」ことの情熱を引き継いだ。

「2代目は理想を掲げ、その目標実現へ向けてステップを踏んで突き進む、ということを強調されました。

 ちょっと不可能なことに思えても、自分たちできちんと計画し、創意工夫で何とか実現していこうという、意欲的でチャレンジングな精神。

 しかし、これは社内に『定着』しているとまでは言い難い。2代目に下地をつくってもらいましたが、社員全員の気持ちや行動にしっかり定着しているかといえば、まだ道半ばと思っています」

上場して人材が集まるようになった

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 1949年の創業から顧客を大事にし、顧客の声を聞きながら常に顧客の期待を上回る対応を目指して、地道に頑張る事で、名実ともに超硬耐摩耗工具業界のリーディング・カンパニーとなった同社は、2000年代に入り意欲的な海外展開を図っていく。

「創業者が大事にしていたお客様企業が大企業に成長し、積極的に海外へ打って出る機会が増えました。当社もお客様の動きに合わせて、海外へ展開する事になる訳ですが、どうしても人材が足りなくなります。人材を集めるためには、冨士ダイスの知名度を高めなくてはならない。知名度が上がれば、超硬耐摩耗工具の顧客開拓も有利になります。それには、株式上場がベストだと考えました」

 そして2015年6月に東京証券取引所市場第二部に上場し、17年4月には第一部指定銘柄となった。上場からまだ間もないが、上場と非上場ではまったく違うと手応えを十分に感じている。

「上場前は人材採用面では、事務系の希望者がなかなか集まらなかったのが、上場してから応募が2〜3割は増えています。技術系も全国的に著名な大学の学生さんからの応募が増えました。学生さんは企業を選ぶ際に、まず上場か非上場かでスクリーニングし、それから会社の詳細な内容を調べていくという傾向が強いようですね」

 硬いものを製品として扱っているように、同社の経営も硬くて堅実だ。長年蓄えた世界最高水準の技術力やノウハウ、絶えざる向上心で創業から赤字なし、着実な右肩上がりの発展を続けてきた。その会社が上場によって知名度を高め、組織的にも強さを増した。これからますます、その強みを発揮していくことになるはずだ。

アジアでのニーズの拡大に期待

西嶋 守男(冨士ダイス株式会社)インタビュー写真

 
 同社の中長期の成長戦略として、製造現場の工程管理の刷新や情報のネットワーク化、国内生産部門の集約や再構築、次世代自動車、航空・宇宙、医療・化粧品、環境・エネルギー分野など成長分野における製品開発と販売、そして同社の持ち味である超硬耐摩耗工具の海外売上高の拡大がある。

「これまでは、海外でも日本企業の顧客基盤のうえに成り立っていて、当社の付加価値のある製品は現地のローカル企業ではあまり使われていませんでした。これからアジアも中間層が増えれば、少しでも付加価値のある製品が選ばれるようになります。

 そうすれば当社の得意とする超精密や耐摩耗性を必要とする工具や金型も求められるようになるでしょう。当社がさらに成長していくためには、海外の認知度を高め、海外比率を高め、日本を含めた売上全体で伸ばしていかなければならないと考えています」

 冨士ダイスが本拠地とする東京大田区は、日本を代表するものづくりの町として、数多くの中小企業が集積する。ものづくりの矜持を持った町工場の人々は多い。冨士ダイスはそんな町の中で発展を遂げてきた。今は大田区と連携し、イベントや展示会を行うなど、日本のものづくりをアピールすることで、恩返し(地域貢献)を実践している。

「冨士ダイスの社名は、創業者の新庄さんが名付けました。文字通り火山としては世界でも稀な美しさと日本一の標高を誇る、あの富士山にあやかったといいます。一方で、未完成であり、常に完成を目指し、精進し続ける会社であるためにTOPの象徴、富士山の『富士』でなく、点の無い『冨士』としました。

 創業者の著書『冨士の道』によれば、早くから『超硬耐摩耗工具の市場占有率全国一位』『顧客に対する奉仕の精神』『礼節と質実剛健の気風』『高い精神レベルの会社』などのビジョンを打ち出し、その精神を綿々と引き継いできました」

 オフタイムはジムに通う西嶋さん。剛健な体力づくりを目指して海外赴任時も、社長就任後の現在も続けているという。堅実さは、健康や健全さの継続から生まれてくる。これからも着実な成長と発展を続けていくことだろう。

(文=中田充樹 写真=高橋慎一)2017/09/20

プロフィール

西嶋 守男
冨士ダイス株式会社 代表取締役社長
1951 年
山口県長門市生まれ
1975 年
慶應義塾大学工学部 卒業
造船会社 入社
1978 年
冨士ダイス株式会社 入社
2006 年
フジロイ(タイランド)社長就任
2009 年
冨士ダイス株式会社 取締役就任
2015 年
代表取締役社長就任

会社概要

冨士ダイス株式会社
冨士ダイス株式会社
  • コード:6167
  • 業種:機械
  • 上場日:2015/06/25