上場会社トップインタビュー「創」

フリュー株式会社
  • コード:6238
  • 業種:機械
  • 上場日:2015/12/18
田坂 吉朗(フリュー株式会社)

はじまりは新規事業開発。命題は「心の豊かさの追求」

田坂 吉朗(フリュー株式会社)インタビュー写真

 
 ゲームセンターの一角に、女子中高生から20代の若い女子たちで溢れるコーナーがある。それはプリントシール機の置かれている、いわゆる「プリ」コーナーだ。プリントシール機が登場したのは1995年。翌年にはブレイクし、様々なメーカーが製造開発に参入した。現在、プリントシール機のトップシェアを誇るフリューも後発参入したうちの1社である。

 フリュー株式会社が設立されたのは2007年。こう聞くと「プリントシール機市場への参入が遅すぎるのではないか」と思われるかもしれないが、フリューには前身となる会社がある。オムロンを親会社とする2003年設立のオムロンエンタテインメント株式会社だ。そもそもは、産業用制御機器や電子部品などの電気機器メーカーであるオムロン株式会社が、1997年、新規事業としてエンタテインメント分野に着手したのが始まりだ。このとき白羽の矢が立ったプロジェクトリーダーが、フリュー代表取締役社長の田坂吉朗さんである。その田坂さん率いる本プロジェクトがプリントシール機市場に本格参入したのが、1998年である。

 大学卒業後、1981年にオムロン(当時の立石電機株式会社)に入社した田坂さんは、希望通り将来の技術開発に従事する中央研究所に配属され、産業用の6軸多関節型ロボットや自動車用衝突防止システムの開発などに携わった。その後、社長直轄の新規事業開発センターに異動し、2005年から2010年に花開く新規事業立案のメンバーに選ばれた。

「オムロンでは、新規事業を立ち上げる場合、創業者の立石一真さんが1970年に国際未来学会で発表した未来を予測した論文『SINIC理論』に則ることが前提になっていました。その理論では2005年頃になるとこれまでのような生産性や効率化を追求するものではなく、人間の働きがいや生きがいを優先する『最適化社会』へと移っていくとされています。そういう心の豊かさを追求する事業を開発するように言われたので、みんな面食らいましたね。
 
 半年間コンサルタントのレクチャーを受けながら、『最適化社会』に必要とされる事業とは何かを、4人のチームであれこれプランニングしました。旅行や教育、思想関連まで、様々な事業が提案されました。その中で私は、人間の喜びに関わるエンタテインメント事業を提案しました」

試行錯誤の後、プリントシール機に帰着するまで

田坂 吉朗(フリュー株式会社)インタビュー写真

 
 田坂さんのチームのテーマはエンタテインメントと決まった。それで、どのような事業を展開できるのだろうか。電気機器メーカーであるオムロンの資産を生かせる分野というとアミューズメント施設やゲーム機となる。そこに目を向けると、プリントシール機市場が大いに盛り上がっていた。

「ATMと同じような構造だろう。これならできると目を付け、プリントシール機をスタートアップ製品にすることにしました。ただ、オムロンが立ち上げる新事業や新商品には、技術的に他社と差別化できるモノへのチャレンジでなければならないという前提条件がありました。プリントシール機はカメラとパソコン、シールプリンターさえあれば誰もが容易に作れる、どこに差別化できる技術があるのか?誰もが作れるモノは参入領域ではないと経営陣から指摘されてしまいました。
 そこで、オムロンが持っている技術を再度検証したところ、顔認識技術の研究が進んでいました。これを応用すれば似顔絵のプリントシール機ができる。これなら技術的な差別化にもなると、プロジェクトが認められ本格的にスタートしました」

 1997年4月、プロジェクトリーダーとして田坂さんが率いたエンタテインメント事業の第一号商品である、似顔絵シール機『似テランジェロ』が発売された。しかし「まったく売れなかった」。どうすれば売れるのか。メンバーで頭を悩ませていたときに、上司が発した言葉が「似ていないから売れないんだ」。そこでより似た似顔絵にするために、半年間かけて顔画像の認識エンジンの精度を上げることに注力した。しかし、売れない状態は変わらなかった。すでに数千万円をつぎ込んでおり、これ以上、精度向上に取り組むのは難しい。

 途方に暮れた田坂さんは、似顔絵シール機づくりに協力してもらっていたデザイン会社の社長につい愚痴をこぼす。すると、その社長から「ユーザーヒアリングをしたか?」と問われた。当時、似顔絵シール機の企画・開発に携わっていたメンバーはすべて男性。しかし、シール機のユーザーは若い女性。早速、女子高校生を集め、似顔絵シール機にはどんな似顔絵がいいのかグループインタビューを行ったが、どうにもレスポンスが悪い。

「2時間インタビューして、最後の最後になって、リーダー格の1人が『だって似顔絵は要らないもん。写真のシールがいい』と言ったんです(笑)。似顔絵のニーズを把握していなかった私たちは大きな衝撃を受けました。技術で差別化することだけを最優先に考えていましたが、お客様のニーズをつかむことの大切さを思い知りました。結論として、売るには似顔絵じゃダメなんだなと観念し、在庫の似顔絵シール機をすべてプリントシール機に変更することを上司に具申することになりました」

 そして苦難の末に上司の了承をもらい、プリントシール機に作り変えて販売。しかしながらその後も、しばらくは月に1台がやっと売れるというような状況だった。それでもなお、次のモデル開発のために試作機を作っては、女子高校生に実際に遊んでもらい、生の声をヒアリングすることをコツコツと繰り返し続けた。

「あるとき、プリントシール機として一から作った機種で試遊してもらったところ、女子高校生たちのテンションがものすごい。私たちの声が聞こえないくらい盛り上がったんです。見た目はバラック小屋みたいな簡素な試作機でしたが、彼女たちの喜ぶ顔を見て"これは売れる"と確信しました」

 市場に投入するやいなや、生産が追いつかないほど人気が沸騰した。そして不思議なことに、在庫として眠っていた過去機種も、新機種と共に各アミューズメント施設で買ってもらえるようになった。その結果、新規事業立ち上げから約3年で売上は30億円を突破。その後も新機種を出すたびにヒットを連発し、売上も2倍、3倍と急速に伸びていった。

田坂 吉朗(フリュー株式会社)インタビュー写真

事業部から子会社、さらに新会社として独立

田坂 吉朗(フリュー株式会社)インタビュー写真


 その頃には、アミューズメント施設用景品などのキャラクター・マーチャンダイジング事業(プライズ事業)にも参入していたため、田坂さんの部署の事業は、オムロンの「技術経営」という経営方針から外れつつあった。役員から子会社化の声があがり、2003年、オムロンの100%出資によりオムロンエンタテインメントが誕生、田坂さんがその初代社長に就任した。

 会社法の会社分割制度では、新設する会社にこれまでの事業をすべて承継することができる。また従業員もそのまま新会社に移ることができる。だが、同事業部にいた社員全員が、プリントシール機やプライズに携わりたいと思っていたわけではなかった。

「分社化の際には、社員一人ひとりと面談を行いました。勤務地が変わるとか、ビルも本社とは違って狭くなるなどの様々な話をして、やる気を継続的に維持できる社員のみに絞りました。結果、約7割の人が、本社から出て力一杯やりたいと残ってくれました。その4年後に新会社フリューとして独立しますが、その際は誰一人として離脱者はいませんでした」

 別会社になったものの、子会社という存在。事業を拡大していく上では、親会社からは良くも悪くも制約を受けることもあった。

 エンタテインメントの会社であるのなら、もっと自由に経営できた方が成長できる、そう田坂さんが考え始めていたころ、選択を迫られることになる。オムロンの業績が悪化し、技術力を発揮できるコアビジネスへの集中を優先したためだ。


「しかし、これは苦渋の選択でした。オムロン経営陣からは、独立してもいいし、他グループの傘下に入ってもいい、終いには、今のビジネスをすっぱりやめて戻ってきてもいいとまで言われました。

 そこで、社員に相談してみたところ、『独立しましょう!』という声が大半でした。分社化したときにエンタテインメント事業がやりたい人材が集まった組織となっていたからです。最後まで悩んでいたのは、私自身かもしれません」

 オムロンに戻れば会社員として安泰に生きていける。独立したら、オムロンという大企業の看板の下でビジネスをしてきた取引先がこれまでの関係をそのまま継続してくれるかどうかもわからない。
 
 もし、以前同様の関係を継続できなければ、従業員を路頭に迷わすことになる。そんな思いが田坂さんを悩ませた。

「ゼロから立ち上げたビジネスが、当時売上150億円のビジネスに成長したわけですから、その先も見てみたいという思いがありました。それに、元の領域に戻るよりも、今、関わっているエンタテインメント領域でもっともっと挑戦してみたいという気持ちが強かったです」

 独立する意思が固まった。選んだ手法はMBO(Management Buyout、経営陣による買収)。
 
 だが、当時の企業価値は100億円近くに達しており、役員および従業員の自己資金をかき集めても到底届かない額だ。かといってファンドを使うと、数年先には他社に売却される恐れがある。そんなとき、オムロンの経営陣から面白いM&Aアドバイザリー会社を紹介された。アドバイザリー会社の指南に従い、最新の金融工学で何段階ものレバレッジを効かせ、独立のための資金調達に成功した。オムロンの取締役会の承認も得て、2007年4月、晴れてフリューとしての一歩を踏み出した。

より持続的な成長を目指し東証一部上場

田坂 吉朗(フリュー株式会社)インタビュー写真

 
 親会社による制約もなく、事業を理解していない投資家から横やりが入ることもない。ようやく、自分たちの目指すエンタテインメントを追求する土壌が整った。独立して以降も事業は順調に伸びていた。

「ガリガリ伸ばすのではなく、とにかく自分たちがやりたいエンタテインメントをやれば、結果として事業は伸びると考えていました。そして振り返ってみると『結果、5%成長し続けている』という成長の仕方でした。計画に従って伸びたわけではない。でもそのときは、プライベートカンパニーなので、ご機嫌さんでやれればそれでいいと思っていました」

 独立から8年が経過し、売上高が200億円を超えるようになった頃から、田坂さんは、「結果的に5%伸びた」という成長の仕方が限界なのではと考え始めた。独立後に入社した若い社員も増えていた。

 田坂さんは、きちんと事業計画を立てて戦略を練り、企業を成長させていく、そのためには上場することが最善の策だと考えた。上場準備を始めると、経理面は上場企業並みだったが、組織や制度の面では穴がボロボロと見つかった。そこで、証券会社の指導を受けるなどして体制を整え直し、会社全体を筋肉質にしていった。そして、2015年12月、東京証券取引所市場第一部に上場を果たした。

 上場会社となったことで、田坂さんは、中長期経営計画を「意志」を持って戦略的に立てている。

「プリントシール機市場においては相変わらずトップシェアですが、少子化の影響もありプレイ回数が減っているため、市場としては縮小傾向にあります。しかし、プリントシール機で撮影した画像をスマホで取得・閲覧できるサービス『ピクトリンク』の利用者数は1,300万人超。そのほとんどは、女子高校生・女子大学生を中心とした若い女性たちです。このサービスで蓄積したデータを活用し、"ガールズトレンド"をけん引するビジネスを展開していきたいと考えています」

 プリントシール機は、本機の単品売りではなく、メンテナンスやシール紙等消耗品の売上げが継続的にあり、また、前述したような会員ビジネスにつなげることができるため、実はビジネスモデルとして非常に安定している。同社は、それをより一層の強みにすべく、プリントシール機専門店「girls mignon(ガールズミニョン)」を直営。さらに若い女性をターゲットとしたWEBメディアの充実を図り、カラーコンタクト事業にも参入した。「ピクトリンク」には、これまでの料金プランに加えて月額500円のコースを新設、美容に関するコンテンツを充実させ、"ガールズトレンド"をがっちり掴むコンテンツを提供している。

 また、これら若年女性ターゲットのビジネスのほかにも、キャラクターをゲームやアニメ、アミューズメント景品といった多角展開にてマネタイズしていく事業を展開中だ。

 同社は昨年、事業部長クラスの若返りを図った。田坂さんが社長に就いたのは40代前半、この4月に60才になる。エンタテインメントの会社が、活力を持って成長していくためには経営トップも若返りを図る必要があると、上場後から社長を退く準備を始めていたのだ。今後は、取締役会長として会社の成長に貢献していく。

 オムロンの新規事業開発がきっかけでエンタテインメント事業を始め、現在に至るまで一貫して『エンタテインメント』を事業の根幹に据えているが、以前、ある人から「エンタテインメントは虚業だ。何の役にも立たない」と言われたこともあるそうだ。しかし、田坂さんは「江戸時代もその前も、いつの時代にもエンタテインメントはありました。人が幸せに生きるためにこの事業は必要だし、これからはそのニーズがさらに大きくなるはずです」と穏やかに語る。

 最後に、読者へのメッセージをお願いした。「自分の人生を生きる上で、楽しいと思うことにはチャレンジしていってほしい。それが私の信条でもあります。なぜなら自分の人生を生きる以上のエンタテインメントはないのですから」

田坂 吉朗(フリュー株式会社)インタビュー写真

(文=中村仁美 写真=高橋慎一)2018/02/23

プロフィール

田坂 吉朗(フリュー株式会社)
田坂 吉朗
フリュー株式会社 代表取締役社長
1958 年
兵庫県生まれ
1981 年
立石電機株式会社(現オムロン株式会社)入社
2002 年
同社事業開発本部エンタテインメント事業部 事業部長
2003 年
オムロンエンタテインメント株式会社 代表取締役社長
2007 年
フリュー株式会社 代表取締役社長(現任)
2018 年
同社取締役会長就任(予定)

会社概要

フリュー株式会社
フリュー株式会社
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  • 業種:機械
  • 上場日:2015/12/18