個人投資家による個人投資家のためのオプション取引講座

プットオプションの買い戦略 (その1)

およそ金融商品を買っている場合、例えば自分の好みの株を買っている、とか、日経225先物のロングポジションをもっている、とか、あるいは、日経平均に連動する金融商品を買っている、というような場合に、私たちが恐れるのは、市場が何らかの原因でクラッシュして暴落することです。多少の調整は織り込んでいるとしても、いわゆる「ショック」とよばれる経済問題は御免です。


このように日経平均の変動に対して正の方向にポジションをとっている場合(上昇目線=ブル=ロングポジション)に、いわゆる「何とかショック」等による暴落の損失は御免こうむりたいというとき、保険の機能を有するのが、日経225オプションの「プットオプション」だということは、いろんなところですでにお聞きのことと存じます。

保険の機能を有するということは、すなわち、このプットオプションという商品が日経平均の値動きと反対の動きをするように設計されている商品だということです。

日経平均が下がれば、プットオプションの値段が上がることになります。ですから、このプットオプションを買っておけば、日経平均が下落する際、プットオプション価格の値上がり益で株等の損失をカバーすることができるというわけです。


オプションというものは、上記のように原資産を保有する人が、その原資産を守る保険として利用することができるわけですが、そのおもしろい性質を利用し、オプション単体を新たな投資対象として新たな収益源にできないか、と考えることは自然なことであり、実際、オプション単体がそのように利用されています。

本メニューのテーマは個人投資家がいかにしてオプションを利用するか、ということなのですが、今回は個人投資家でも手掛やすいオプション戦略ということで、まずはこのプットオプションが日経平均の下落で逆に価格が上がる性質を利益にかえる戦略を検討していきたいと思います。



百聞は一見に如かず。
記憶に新しいコロナショックの事例を見てみましょう。

プットオプションがテンバガー(10倍)どころか272倍にもなった事例です。

図表1のチャートは2020年2月14日~3月13日にかけてのコロナショック暴落の場面のものです。米国市場では3月12日NYダウが当時の過去最大の下げ幅(-2,352ドル)を記録し、その朝の日経225先物オプション3月限SQが17,052円で着地、前の月のSQ23,744円から-6,692円(-28.2%)もの大暴落、そういう状況でした。

このとき2020年2月14日に9円で購入したP19500が3月13日のSQで2,448円の本質的価値を持つにいたりました。

日経225オプションの世界では1,000倍の価格で取引されますので、実際の投資額は9,000円なのですが、これを3月13日のSQ決済で2,439,000円の利益になったのです(【図表2】)。

失うのは、この最初に購入代金として支払った9,000円だけ。

この事例をみれば、プットオプションのすさまじさがお分かりかと思います(北浜投資塾の動画その1:天井圏の弱い相場の動きからプットを買って成功した事例、 その2:米国重要経済指標(雇用統計等)発表前にプットを買って成功した事例もご覧ください。別の場面で同じくプットオプションの買いで大きな利益となった事例を紹介しています)。


このプットオプションの買いを個人投資家が手掛けるにはどうすればよいか、これを検討していくのが本稿「プットオプションの買い戦略」のテーマです。

さて、プットオプションですが、これは一般に、原資産を売る権利と説明されます。プットオプションの買い手は権利を買うわけですから権利者であり、この売る権利を行使して、自分の選択した権利行使価格で原資産を売ったことにできるのです。

例えば、日経平均の権利行使価格20,000円のプットオプションの買い手は、その権利(日経平均を20,000円で売ったことにできる権利)を行使することで、日経平均を20,000円で売った(ショートした)立場に立つことになります。日経225オプションの場合は、満期において権利行使価格と満期の清算数値(SQ値)とで差金決済されるというルールです。

したがって、いわゆる「売る権利」と説明するよりは、【図表3】にあるように、プットオプションの買い手は、権利行使価格よりも下に行った部分を受け取ることができる(逆に売り手は支払う義務を負う)と説明した方がわかりやすいかもしれません。

プットの買い手としては、日経平均が自分の選んだ権利行使価格を割り込んで下げれば下げるほど、受け取りが大きくなりますから、相場が大きく下落してほしい(=動きが大きいことを期待している)わけです。

もちろんこのプットオプションはただでは手に入りません。売り手の立場にたてば、万が一大きく下落したら売り手は権利行使価格以下の部分、すなわち当該権利行使価格とSQ値の差額を買い手に支払わないといけませんから、あらかじめそれなりにそのリスクに見合う代金を買い手に支払わせる必要があります。

一方、買い手としては、権利行使価格を割り込まなければ受け取りはないため、最初の支払額を全部失うことになるし、また、権利行使価格を割り込んでも当初の支払額以上に受け取りがなければ損失になるのですから、支払額はできるだけ少ない方がいいわけですね。

例えば、ある日の日経225miniが28,070円のときに、権利行使価格28,000円のプットオプションが350円で売買されているというとき、

買い手は日経平均が権利行使価格である28,000円をただ割り込めばよいわけではなく、当初の支払額350円を回収できるだけの27,650円を割らなければなりません(図表3)。

一方売り手の方はといえば、28,000円を割り込んだとしても、27,650円までは、当初に受け取った350円を原資として買い手に支払えばよいのであって、損にはなりません(図表4)。

したがって、ここでの勝負は、日経平均がエントリーの水準28,070円から420円を超えて下落して27,650円を割り込むかどうかの勝負ということになります。このラインを割り込むと考える買い手と割り込まないと考える売り手の思惑が拮抗し、350円で売買が成立している状態なのですね。


買い手に利益が出るためには、先の例でいえば満期までに下方向に420円以上動かなければなりません。もしこのプットオプションP28000が100円で売買されていたならば、そこまでの下落は必要なく27,900円を割り込めばよい、すなわち現在の水準から170円以上の下落があればよいことになります。株価の変動の大きさ(変動率)をボラティリティといいますが、まさにオプションを取引するということは、単に株価が上がるか下がるかということのみならず、満期までに、どれぐらい動くか、すなわちボラティリティが非常に重要になってくるわけです。プットオプション買い手は、下落の予想のみならず、どれくらいの下落があるかを予想して戦うことになるのです。


そうなると、オプションの買い手としては、願わくは、①満期までに(短期的に)大きく動いてほしい、②できるだけオプションの購入代金を小さくしたい、ということになるのですね。
相場の変動は短期的には上昇よりも下落の方が速く、変動幅も大きいことが経験則上わかっておりますので、プットオプションは上記買い手の願い①を満たします。したがって個人投資家がまずオプションを始めるならば、プットオプションを買うことから始めるとやりやすいわけです。ということで、最初にプットオプションの買いからお話しているわけです。


では②できるだけオプションの購入代金を小さくしたい、という点はどうでしょうか。次回はこの点について検討したいと思います。どういうタイミングでやれば②が満たされるか、というお話です。お楽しみに!


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北浜投資塾特別対面セミナー「プットオプションの買い戦略について」

講師紹介

守屋 史章 氏
オプショントレード普及協会 代表理事
宮崎県出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒、同法学研究科修士課程修了。個人投資家として企業数社に投資し、ビジネスオーナーを務める傍ら、証券などへの投資をも手掛ける。投資におけるオプション取引を普及させることを目的に、金森雅人氏と共同でオプショントレード普及協会を設立。短期トレーディングから長期運用まで幅広い投資ニーズをかなえる資産運用を研究している。「オプションについて話せる仲間が見つからない」という孤独になりがちな投資の研究と意見交換を行える会員制のメンバーシップを中心に、個人投資家目線だからこその目からウロコの独創的アイデアと分かりやすい解説で、「わかる」「できる」をサポートする。