個人投資家による個人投資家のためのオプション取引講座

プットオプションの買い戦略 (その3)

日経平均が動くと、プットオプションの価格はどう動く?

プットオプションの仕組みは、満期において日経平均が自分の選択した権利行使価格よりも下にあった場合に、その権利行使価格とSQ値(最終清算数値)との差分の受け渡しをするという極めて単純なものです。

しかし、先物やオプションは満期まで持っておかなければならないかというとそんなことはなく、今日買って、明日返済売りすることも、今買って数分後に返済することも可能です。

むしろ、今回のテーマであるプットオプションの買い戦略は日経平均が大きく下げるのを狙うもので、狙い通り下落したならば、底を打って反転する前にさっさと利食い(返済売り)する必要もあるのです。

チャートを見ながら、このあたりまでは下げるだろうからそこまできたら利食いしよう(例えば日経平均が19,500円に到達したら利食いしよう)とか、買ったプットオプションの価格が10倍になったらさっさと利食いしよう、いや20倍になったら利食いしよう、というような戦い方も考えられます。

そうすると日経平均が19,500円まで下げたとき、自分の買ったプットオプションはいくらで決済できるのか、あるいは、自分のプットオプションの価格が10倍になるのは、日経平均がどれくらい下落した場合か、といった視点で考える必要がでてきます。

つまり、期中における日経平均の変動によって、自分買ったプットオプションの価格がどのように変化するのか、という視点です。

日経225先物は、裁定取引により原資産である日経平均の変動とほぼ同じ動きをします。日経平均が100円上昇すれば日経225先物も100円上昇します。では日経平均が100円下落したとき、あるいは500円下落したとき、プットオプションの値段はいくらになるのでしょうか。

満期におけるオプション価格(交換価値)は権利行使価格とSQ値の差分という簡単な引き算で価格を求めることができますが、期中において自分のオプションがいくらになるのか、については少々計算しないと求められません。原資産である日経平均が100円上がった時、その派生商品である日経225先物も100円上がりますが、オプションの場合は、そのようにダイレクトには変化しません。

しかもプットの場合は日経平均が下落するとオプションの価格が上がり、日経平均が上昇すると逆にオプション価格は下がります。日経平均が100円上がった時、オプション価格がいくら変化するのかがわからないというのでは困りますから、オプションの世界では、ちゃんとその影響度がどれくらいかを教えてくれる便利な指標が用意されています。

これをデルタ(⊿)といいます。

日経225先物は日経平均が100円上がったら同様に100円上がりますし、日経平均が200円下げれば、同様に200円下げるというように日経平均の影響を100%ダイレクトにうけますので、デルタは1.0と与えられます(%表記で⊿=100と表す場合もあります)。日経225miniは日経225先物の10分の1のサイズですので、⊿=0.1と定義します。

日経225オプションは125円間隔で権利行使価格が設定されており、それぞれの権利行使価格ごとにデルタの値が違います。

ちなみに、日経平均とほぼ同じ水準の権利行使価格のオプション(=アットザマネーといいます)は、コールのデルタ=0.5、プットのデルタ=-0.5となっています。日経平均の影響度が50%ということです。プットオプションは日経平均が上昇すればオプション価格が下落し、日経平均が下落するとオプション価格が上昇する関係にあるので、符号にマイナスがついています。このデルタの値を利用すれば、日経平均が100円下落すると、アットザマネーのプットオプション価格は50円上がるという計算ができるのです。-0.5×(-100)=+50円。

なお、コールオプションはプットとは逆の「日経平均株価が権利行使価格よりも上にあった場合に差分の受け渡しを行う」仕組みなので、デルタの符号もプットと逆になります。

現実のプットオプションの値動き

ではここで、前回までにみてきた9円のプットオプション(P19500)のデルタが一体どれくらいなのかを見てみましょう。

図表4によればP19500のデルタ=-0.012となっています。例えば日経平均が100円下落した場合のオプション価格の変化は、-0.012×(-100)=+1.2円という計算で求めることができます。(実際は1,000倍の+1,200円)。日経225miniの1枚分どころかその10分の1程度ですね。

図表5は2020年2月28日時点のP19500の状況です。P19500を買ってから2月28日までに日経225miniは2,550円下落し、P19500は370円になりました。オプション価格は361円増加しています。

ここで、先ほどの式に当てはめてみると、-0.012×(-2,550)=+30.60円となります。
全く計算が合いません。
図表6は3月12日時点のものですが、ここまで日経225miniは5,270円も下落しており、P19500は1,158円になっています。-0.012×(‐5,270)=+63.24。これも全く計算が合いません。
実は、ここにプットオプション買い戦略のポイントがあるのです。

原因は2つあります。
一つはすでにデルタが-0.012ではない(①)こと、
もう一つはデルタとはまた別の要素によりオプション価格が増加した(②)ということです。
まず(1)ですが、実際、図表5の2月28日大引け時点のデルタをみるとデルタ=-0.237となっています。すでにデルタは当初の約20倍です。

日経225mini1枚の10分の1程度の影響だったものが、日経平均の下落の過程で日経225miniの2.4枚分の影響になっています。
3月12日時点(図表6)では、デルタ=-0.940です。このときすでにデルタは日経22mini9.4枚分、日経225先物(ラージ)約1枚分を売っているような状態になっています。

すなわち日経平均の下落の過程で日経225miniを売り込んでいき、今9枚以上を売り込んで、それが成功しているのと同じような状況です(「自動順張り」効果 國宗利広「日経平均オプション入門」44頁参照)。


今回のテーマであるプットオプションの買い戦略は、まさにこのオプションにおいてデルタが一定ではなく、日経平均の下落によりプットオプションのデルタのマイナスの度合いがどんどん大きくなるという性質を利用しているのです。
これを模式的に表したのが次の図表7です。

プットオプションの価格を示すグラフ(P19500買いの損益グラフ)は下落の過程でどんどん傾きが急になっていきます(この傾きがデルタです)。オプション価格が直線的ではなく二次曲線のようにカーブを描いて急上昇することを示しています。

日経225miniの場合、1枚売っていればデルタ=-0.1(売っている場合はマイナスをつけて表します)であり、日経平均が大きく下落しても(上昇しても)デルタはずっと-0.1のまま、損益も直線的です。

一方プットオプションはといえば、最初はデルタ=-0.012だったものが、日経平均が大きく下落すると、傾きも二次曲線のように大きくなり、最後はデルタ≒-1.0、つまりオプションの価格変動が日経225先物(ラージ)1枚売りと同じ状態になっていくのです。
逆に日経平均が上昇すると、デルタはどんどん0(傾きのない状態)に近づいていきます。


今回のオプション買い戦略は、日経平均の影響をほとんど受けない状態(=日経225mini1枚の10分の1の影響しかうけない状態)から、日経平均の大きな下落で、自動的にその影響を受ける度合い(デルタの絶対値)が二次曲線のように増していく性質を利用しているのです。
このように、オプションはデルタが自動的に変化します。この変化が非常に大きいことが、オプションのダイナミズムであり、オプションの買いにおける大きな利益の源泉だということなのです(①)。

日経平均の現在の水準から遠い権利行使価格のプットオプションには、満期までの残存日数や市況によっては10円以下で買えるものもあります。このようなオプションのデルタは小さく、また予想がはずれて逆行してもさほどインパクトはありませんので、ゆったりとのんびり相場に向き合うことができます。
そしてひとたび相場が崩れると、急激にオプション価格が上昇します。
この事例では最終的には10倍どころか272倍になりました。
これは極端な事例だとしても、しばしば100倍を超える値動きが観測されています。狙いが外れでも、当初買った時に支払った金額を失うのみ。
うまくいけば10倍、20倍、100倍。全額を失っても大丈夫と思える小さな額で買えるオプションもデルタの変化によって大化けする可能性がある、それがプットオプション買い戦略の面白さなのです。

ところで、図表7をもう一度見てみましょう。緑色のカーブはP19500を買った2020年2月14日に、日経225miniが変動したらP19500がどのような損益となるかを予想するものですが、仮にその日に21,080円まで2,550円も下落した場合には、このP19500 は約20万円弱の利益、すなわちP19500の価格が200円程度まで上昇することを示しています。

しかし実際には2週間も経過したあとにも関わらず(※時の経過によりオプション価格は低下します=タイムディケイ)、2月28日時点のP19500の価格は370円になっています(図表6のオプション価格を参照)。
ピンク色のカーブが緑色のカーブよりも大きく上回っていることが見て取れるかと思います。これはプットオプションの価格が暴騰する原因の二つ目、デルタの変化とはまた別の要素によるもの(②)、すなわち「インプライドボラティリティ(=IVと表記)の上昇」によるものです。

前回、日経平均VIの低いタイミングで買うという基準を示しましたが、これは買ったオプションのIVが噴き上がることも期待しているのです。
このように、買ったオプションのIVが上昇することもオプションの買い戦略において利益を出すための非常に重要な要素なのです。


さて、次回は「プットオプションの買い戦略」の最終章。プットオプションがなぜ大きな利益となったのか、そのメカニズムの2つ目、インプライドボラティリティの上昇について、個人投資家目線でみていくことにしましょう。お楽しみに!



<講師紹介>
守屋 史章 氏
オプショントレード普及協会 代表理事
宮崎県出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒、同法学研究科修士課程修了。個人投資家として企業数社に投資し、ビジネスオーナーを務める傍ら、証券などへの投資をも手掛ける。投資におけるオプション取引を普及させることを目的に、金森雅人氏と共同でオプショントレード普及協会を設立。短期トレーディングから長期運用まで幅広い投資ニーズをかなえる資産運用を研究している。「オプションについて話せる仲間が見つからない」という孤独になりがちな投資の研究と意見交換を行える会員制のメンバーシップを中心に、個人投資家目線だからこその目からウロコの独創的アイデアと分かりやすい解説で、「わかる」「できる」をサポートする。