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上場会社トップインタビュー「創」

ロードスターキャピタル株式会社
  • コード:3482
  • 業種:不動産業
  • 上場日:2017/09/28
ロードスターキャピタル株式会社

人生先回りして、不動産鑑定士の道へ

ロードスターキャピタル株式会社

 不動産を「土地と建物」ととらえると、不動産は人が生きるための基盤で、空気や水と同じように身近で不可欠なものだ。しかし“不動産投資”と概念を変えるとなじみが薄れ、人によっては危ういニュアンスを含んだ印象を持たれてしまう。その理由の一つには、かつての不動産バブルの記憶があるのかもしれない。
 1980年代の経済活動の過熱、マネーサプライの膨張、地価の急激な高騰によって実力以上に上昇してしまった不動産価格は、1991年をピークにその後すさまじく下落した。いったん底をついた後は、概ねゆるやかな上昇基調の推移を見せたが、2020年からのコロナ禍を境にした世界的なインフレは日本にも及び、旺盛な需要も相まって不動産価格は現在上昇傾向にある(2025年1月時点)。
 かくもマーケットの変動が大きい不動産業界に、バブル崩壊を横目に大学卒業後すぐさま飛び込んだのがロードスターキャピタルの創業社長岩野達志さんだ。

 岩野さんは幼少期の3年間、銀行員の父の都合でアメリカ生活を経験した。

「小学1年で全く英語もできないまま現地の子どもたちと一緒に過ごしました。帰国後は、小学生にしては自己主張が強く、周囲からは浮いた存在でしたが、反面しっかりしていたので、自分でやりたいことを見つけるのは得意な子どもでした」

 自我の強さは長所として残しながら、次第に周囲にも溶け込み、高校、大学時代は仲間とともに好きなテニスに明け暮れた。事実はともかく高校、大学ではあまり勉強をしなかったと言い、学部選びは自分の将来と直結させて考えなかった。

「そこで何か人生を楽しめる“裏道”はないかなと探して、不動産鑑定士という資格を見つけました」

 不動産鑑定士は知名度こそ低めだが、難関国家資格の一つ。裏道とは言えないが、実際に当時は同級生でこの資格を知っている人はほとんどいなかったという。

「自分の目から見て海外と日本の不動産市場には大きな差があると感じていました。世界的には不動産は収益性を見て評価するトレンドがあったのです。きっとこれからは日本にも海外の投資家が入ってくるので、大きなビジネスになるのではないか。ちょっと人生先回りして、同級生とは違う道を行こうかなと。不動産ビジネスに携わるなら、その勉強にもなる不動産鑑定士だなと思って、資格取得に取り組みました」

道標でありたいと不動産投資会社を設立、2度の転機を経て急成長

ロードスターキャピタル株式会社

 思いは努力でまもなくかたちになり、岩野さんは不動産鑑定士として一般財団法人日本不動産研究所で、そのキャリアをスタートさせた。約4年の勤務の後、不動産取引の現場への関心が高まり、日本に進出してきたゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパンに転じた。さらに世界的投資ファンドであるロックポイントマネジメントジャパンで不動産投資業務のキャリアを積む。

「ロックポイントの日本チームは当時6、7人の規模で年間1000億円以上の不動産取引をしており、マーケットの中での知名度は比較的高い会社でした。このチームでの経験が今の会社での不動産に対する考え方や投資手法に最も影響を与えていると思います」

 当時は起業を考えていなかったが、不動産のみならずマーケット全体を揺るがす世界的イベントが転機に。

「リーマンショック後の不動産マーケットの停滞を機にいったん退職しました。その後、1年置いてゴールドマンを辞めた仲間と3人で立ち上げたのがロードスターキャピタルです。社名のロードスター(Loadstar)には北極星、人を導く星という意味があり、マーケットの変動が大きい不動産業界における道標でありたいという意味をこめて付けました」

 その後、大きなターニングポイントが2回あったという。

「会社を設立して1年余りの時期に知人の紹介でオフィスビルを購入したことです。話を聞いたときは無理だと思ったのですが、物件が良かったのか、ファイナンスが付き、それによってビジネスが加速しました」

 ただ、このときには会社の規模という点では大きな変化はなかったが、2度目の転機はほどなく訪れた。

「大学の後輩から、現在も株主として残る海外の会社を紹介いただきました。先方は日本の不動産に興味を示し、当社もアセットマネジメント事業を検討していたので、日本の不動産購入のお手伝いをするという話を進めていたのですが、結果的には当社の株式を買いたいと。資本金1千万円の会社ですからといったん固辞しましたが、先方の強い意向があり、結果的に10億円もの出資をいただきました。これがビジネスの急拡大につながり、さらにその株主はITに強い会社だったので不動産とテクノロジーを掛け合わせて何かやろうという話になり、クラウドファンディング事業を始めるきっかけにもなったのです」

目指すは「ベンチャーマインドを持った大人の会社」

ロードスターキャピタル株式会社

 同社の事業は大きく3つに分けられる。

「1つはコーポレートファンディング事業です。自社の資金を用いて投資します。2つ目は機関投資家の資金を運用するアセットマネジメント事業、3つ目は個人向け資産運用サービスであるクラウドファンディング事業です。利益の多くを占めるのは、コーポレートファンディング事業の不動産投資、賃貸の収入です。一方、アセットマネジメント事業はより大きな案件に取り組め、機関投資家とのネットワークからさまざまな情報収集ができるので有益です。しかし当社の特徴は、クラウドファンディング事業にあります」

 1万円から投資が可能な「OwnersBook」と名付けられたクラウドファンディングは、インターネットで会員登録(投資家申請)ができる。

「クラウドファンディング事業は、個人のお金を運用するスキームですが、当社サイドからは資金調達の側面もあります。通常は外部の不動産会社への貸し出しを通じて運用されますが、自社への貸付として募集し、運用される場合もあります。私はリーマンショックを経験しており、その教訓は、お金が循環する金融マーケットを維持することでした。当時は機関投資家がお金を引き揚げてしまったうえに金融機関も貸しはがしに動き、一斉に不動産業界からお金が消えてしまいました。一方で、個人はお金があっても参入することはできませんでした。個人の資金をマーケットにつなぐインフラをつくることでマーケットは安定しますし、当社の事業展開にもメリットがあります。他社との差別化もでき、マーケットは当社の資金調達能力を評価してくれます。収益という数字面ではその利点は表れにくいのですが、OwnersBookがあるからこそリスクをとった攻めの経営ができるという点で、大いにメリットがあります」

 事業領域を規定し、会社が急成長しても人材の採用には苦労を伴った。

「以前はエージェントに頼んで人が採用できるということはありませんでした。自分たちの人間関係の中で友人をかき集めたり、友人の家族に頼んだり。上場した今は、人材紹介会社からの紹介が増えましたが、基本は中途採用です。成長意欲の強い20代の採用はしていますが、新卒採用はもう少し会社の体制が整わないと難しいと感じています。その結果、平均年齢は40歳前後※でやや高めです(※実際は日本の上場会社社員の平均と同水準)」

 目指すは「ベンチャーマインドを持った大人の会社」と岩野さん。

「社員一人ひとりが自分で考えて意思決定していく、自主性を重んじる会社を目指しています。経営陣は現場と近く、フラットな組織です。階層があって順番に承認をとっていくかたちより、何かあったら気軽に相談できるような風土でありたいです。若い世代は聞いたことをどんどん吸収して能動的に動いてほしい。受け身な人には向かない会社かもしれませんね」

ステークホルダーには目標への挑戦と信頼構築の両輪で応える

ロードスターキャピタル株式会社

 経営において優先度をもって取り組んでいることを聞いた。

「社員の長所を伸ばすような経営です。自分が得意なことや好きなことにフォーカスしてもらうことがビジネスで一番パフォーマンスが上がると思っています。自分がやりたいことを言えることが大切です。とはいえ、当然会社なので、誰もやりたいと手を挙げない仕事も誰かがやらなければなりません。そこは手分けしながらも、理想は皆に楽しくストレスなく仕事をしてもらいたいですね」

 社員の勤務時間はある程度裁量に任されている。定時に終える人がいても長時間勤務をする人がいても、それが法令の範囲内でその人のワークスタイルであれば問題視はしない方針だ。

 社員以外のステークホルダーに対して良好な関係を築いていくためには——

「誠実に対応すること、約束をしっかり守ることに尽きます。不動産や投資ビジネスでは、中には約束を守らない会社や無責任な人もいます。だからこそ、信頼の積み重ねが最も大切とも言えます。会社の売上や利益は必ずしも目標通りにはなりません。それでもチャレンジ可能な範囲で、そこに向けてがんばり続けることは必要ですし、それと同時に継続的に信頼関係を築いていくことはもっと重要です」

 上場会社となった現在ではステークホルダーに株式市場も含まれる。東京証券取引所では「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を推進し、同社はそれに応え取り組んでいる。

「当社は創業以来、増収増益を続けてきています。そういう意味では利益はしっかり出せていると自負しています。その中でROE(自己資本利益率)やKPIの開示と説明は、決算発表などで行うようにしています。本当は利益に対してどのようにリスクを管理しているかは大事なのでその個別説明や、比較的含み益があるのでそういった仔細の説明も必要だと考え取り組んでいます。また見えないリスク管理もあるので、会社として表の数字と表には出ないけれども意識をしていることを説明するようにしています」

上場を契機にサービスの信頼を高める制度変更をリード

ロードスターキャピタル株式会社

 同社の設立は2012年。5年後の2017年に東証マザーズ市場(現グロース市場)に上場した。すでに10億円の投資と株主の会社のIT技術を活用したクラウドファンディング事業が軌道に乗った後だったが、なぜ上場を目指したのか。

「自己投資のための資金調達は、非上場では限界を感じていました。またクラウドファンディング事業を継続していくうえで、当社がいくら万全を期した運営を行っていたとしても、他社が類似サービスで不祥事を起こせば同じような印象を持たれる懸念が常にある状況でした。上場して第三者の目が入ることで信頼をアピールしていかないと、クラウドファンディング業界全体の成長も難しいのかなと考えました。上場によって信頼と知名度を確保することで、当社がクラウドファンディングの制度をより良くしていく働きかけを管轄省庁にしていくことにもつながりました」

 以前はクラウドファンディングの対象物件の開示ができないというブラックボックスが当たり前の制度だったという。開示できるようにしたことは、サービスの信頼確保に加えて需要の掘り起こしにも大きな影響を与えた。

 2022年には東証第一部(現プライム市場)への変更を果たす。

「会社の知名度と信頼度は当然のように上がり、機関投資家が投資しやすい環境になったことを実感しました。新規上場でも市場変更でもそれぞれ苦労はあり、実は新規上場では証券会社との調整がかみ合わず、いったん上場申請を取り下げたこともあったんです。現場の社員のがんばりに報いるためにもあきらめることなく体制づくりに時間をかけたうえで再挑戦しました。市場変更のときには、業績などの数字は比較的しっかりできていたのですが、他社がクラウドファンディングで不祥事を起こした時期と重なりました」

 不動産のクラウドファンディング市場の確立を進めるうえでも上場は必要だったと岩野さんは当時を振り返る。

オフィス不動産中心のビジネスから新たなチャレンジへ

ロードスターキャピタル株式会社

 上場から7年余り、市場変更からも3年弱の年月を経て、現在は不動産市場の環境も良く歩みは順調に見える。同社の今後の展望を聞いた。

「M&Aは検討を続けていますが、1回も実現したことはありません。もう少し踏み込んで、当社のビジネスと相乗効果があるビジネスであれば積極的に考えていきたいですね。例えば当社が不動産会社として持っていない機能として、仲介機能や不動産開発、ホテルなどの運営が挙げられます」

 2024年にはホテルを複数取得している。首都圏のホテルは販売用不動産として、地方の大型ホテルは同社が出資する特別目的会社(SPC)で取得し、運営会社の財務体質健全化につなげ、コロナ禍後の再建を助ける。

「当社のビジネスは東京のオフィス中心でしたので、ホテルは新しいチャレンジです。インバウンド需要は継続して旺盛なのでポテンシャルはあると思います。物流についてもここ数年はマーケットが過熱していましたが、落ち着いてきているのでチャンスがあれば取り組んでいきたいと考えています」

 これから上場を目指す起業家へのアドバイスは——

「上場には当然メリット、デメリットがあります。私はメリットの方が大きいと思うし、会社を大きくしたいなら上場に向けてがんばってほしい。ただ上場をゴールだと考えると、投資家にも見放され、社員のやる気を削ぐことになりかねません。自分のビジネス拡大の到達点を見極めて取り組まないともったいないと思います」

 岩野さんは趣味と実益を兼ね、海外に出かける。広い視野を持ち、世の中の変化やトレンドを感じることが勉強になるという。近年印象に残ったのはニューヨーク・マンハッタン。2023年にはもうコロナ禍を忘れたように観光の街としてパワーがみなぎっていた。「よし、ホテルを買おう」と、アクセルを踏むきっかけを得た旅だった。
 やはり不動産は人が生きる基盤。人々の動きを敏感にとらえれば次のビジネスチャンスが見えてくる。

(文=吉田香 写真=岡村享則 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2025/01/22

プロフィール

ロードスターキャピタル株式会社
岩野 達志
ロードスターキャピタル株式会社 代表取締役社長
1973 年
兵庫県生まれ
1996 年
一般財団法人日本不動産研究所 入所
2000 年
ゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパン 入社
2004 年
ロックポイントマネジメントジャパンLLC 入社
2012 年
ロードスターキャピタル株式会社設立 代表取締役社長就任
2017 年
東証マザーズ市場に株式上場
2022 年
東証第一部に市場変更(同年4月4日~プライム市場)

会社概要

ロードスターキャピタル株式会社
ロードスターキャピタル株式会社
  • コード:3482
  • 業種:不動産業
  • 上場日:2017/09/28
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