• X
  • facebook
  • instagram
  • youtube

上場会社トップインタビュー「創」

トビラシステムズ株式会社
  • コード:4441
  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2019/04/25
トビラシステムズ株式会社

電話・SMS経由の脅威から1,500万ユーザーを守る

トビラシステムズ株式会社

 高齢者の財産を狙う特殊詐欺、強盗などの犯罪が後を絶たない。巧妙化・凶悪化している手口はもちろんのこと、使い捨ての駒である実行犯「闇バイト」の多くが10代、20代の若者であることに、いっそう寒々しさを覚える人も多いだろう。

 犯人らがターゲットとの接触時、頻繁に使っているのが電話だ。不在を確かめる空き巣狙いだけでなく、「あらかじめ資産状況を把握する、あるいはキャッシュカードの暗証番号を直接聞き出すため在宅を確かめるといった『アポ電』が、被害のトリガーになっています」。迷惑電話フィルター「トビラフォン」を開発したトビラシステムズ株式会社の創業者である代表取締役社長・明田篤さんは、そう指摘する。

 ITエンジニアである明田さんが自ら開発を主導したトビラフォンは、特殊詐欺などの犯罪や、迷惑な目的のおそれがある電話を着信拒否でシャットアウト。電話の着信音を鳴らさず警告ランプで知らせるシステムだ。危険な電話に出るのを防ぐとともに、犯人と接触する機会をつくらない、いわば犯罪被害の「入り口を封じる」仕組みになっている。

 固定電話向け専用装置のほか、スマホアプリからも利用できる迷惑電話フィルターサービスのユーザーは、合わせて約1,500万人(月間アクティブユーザー数)。これら共通の拒否対象となる迷惑電話番号のデータベースは約3万件に達し、全国の警察・自治体からの情報提供や、ユーザーの報告などを的確に反映する特許技術で日々アップデートされている。その精度は、国内大手通信キャリア3社(NTTドコモ・au・ソフトバンク)がそろってオプションサービスに採用している実績からもうかがえるところだ。

 サービスの運営を通じ、電話やショートメール(SMS)が絡む犯罪の動向をいち早くキャッチしている同社は、毎月「特殊詐欺・フィッシング詐欺に関するレポート」を公開。メディアの取材や政府の調査会で実情を伝える有識者としての顔も持つ。平穏な日常に忍び寄る“闇”を絶えず警戒してきた明田さんは、昨今の世相をこう捉えているという。

「長年真面目に働いて貯めてきたお金や、時に命まで奪う行為が許されないのは当然で、犯人は全員必ず捕まえるべきです。ただ同時に、若い人たちが犯罪にたやすく手を染めてしまう背景について考えると、日本の未来が『なんとなく暗い』と感じるムード、さらにそこから来る不安が大きいようにも思えます。未来への不安は、経済の発展で払拭できる部分も大きいはず。だから僕自身、当社が日本経済の発展のためにもっと貢献できる会社でありたい。そう思っています」

トビラシステムズ株式会社

迷惑電話フィルター「トビラフォン」

「正義の味方」に憧れて

トビラシステムズ株式会社

 トビラシステムズは、IT起業支援の先進地である岐阜県大垣市で2006年に設立されたソフトウエア開発会社を前身とする。その2年前、23歳からフリーランスエンジニアとして活動していた明田さんは会社設立後、受託開発から自社製品へのシフトを加速。今に至る会社の“らしさ”を決定づけたのが、2011年6月発表のトビラフォンだった。

 現社名もトビラフォンの開発着手に前後して決めたものだといい、「全ての人とITをつなぎ」「外からの脅威を封じる」扉という、二重の意味が込められている。

 設立19年目を迎えた2024年、従業員100名を突破した同社の年商は、2024年10月期に約23億円に達する見込み。その7割近くを、安定的な通信キャリアとの大口契約が占めており、これがIT業界平均を大きく上回る利益率をもたらしている。

 さらに近年好調なのが、迷惑情報フィルターのほか自動応答・通話録音機能などをパッケージ化し、カスハラ*対策や業務効率化ニーズも取り込んだビジネスフォン向け製品「トビラフォン Biz」や、法人向けIP電話「トビラフォン Cloud」だ。これらの売上は前年同期比7割増(2024年10月期第3四半期)のペースで急伸しており、同社の新たな柱に育っている。
*・・・顧客からの過度なクレームをはじめとする著しい迷惑行為のこと。「カスタマーハラスメント」の略

 独自の技術で社会課題に挑み、着実に実績を重ねる同社だが、その原点は「テレビの戦隊もので真ん中に立つ“レッド”になりたかった」自身の幼少期にあると明田さんは明かす。「やっぱり、かっこいい人でありたいじゃないですか。『正義の味方』への憧れは、その後もずっと持ち続けています」

 憧れの力は伊達ではない。ミュージシャンを志した学生時代の明田さんは、大学を中退しインディーズデビュー。バンドメンバーの3人で共同生活を続け、メジャーデビューをつかみかけたこともある。ただ、これも音楽への愛というよりは海外アーティストへの憧れに突き動かされてのことで「当然上手くいかなかった」。ただ、楽曲のレコーディングや編集作業で触るコンピューターが性に合っていると再確認する機会にもなったという。

 自動車整備士で、趣味もアマチュア無線という父親から「機械好き」の気質をしっかり受け継いだ明田さん。プログラミングにも中1から親しんでおり、当面食べていくためのアルバイトとして22歳のとき入ったシステム開発の世界で、たちまち頭角を現した。「一通り何でも自分でやりたいタイプ。技術の習得には人の3倍努力した」といい、ネットワーク開発をNTTから直接受託するまでになった技術力が、その後の起業につながった。

トビラシステムズ株式会社

「トビラフォン Biz」(左)と「トビラフォン Cloud」(右)

祖父の被害をきっかけに、独自の防止技術を開発

トビラシステムズ株式会社

 明田さんの回想によれば、幼いころの夢だったヒーローのおもちゃを最も気前よく買ってくれたのは、自宅近くに住んでいた母方の祖父だった。

「だからよく遊びに行ったのですが(笑)、塗り壁やタイル張りを手がける左官の親方だった祖父は、住み込みの職人5人を束ねていました。彼らに三食を出し、面倒をみていたのは祖母。最初に間近で見た社長像が『家族同然の仲間の親分』だったことに、今もかなり影響を受けている気がします」

 当時ほとんどの建築で不可欠の存在だった左官業は活気のある、羽振りのいい業界だったという。ただ、それが後に裏目に出た。明田さんの祖父は、自宅にかかってきた「原野商法」の巧妙な電話勧誘に逢い、ほぼ無価値の土地を買ってしまう。さらに一度隙を見せてしまったことで、その後も悪質な迷惑電話が相次ぐようになった。

 身内の被害を知ったとき、既にIT起業家となっていた明田さんは、迷惑電話を迷惑メールのようにふるいにかけてシャットアウトする仕組みがないことに気付く。「ならば、自分たちでつくるしかない」。誰の後追いでもない自社開発製品で名乗りを上げたいエンジニア起業家としての夢に、「正義の味方でありたい」という長年の願望が重なった瞬間だった。

 とはいえ固定電話のフィルタリングには、ソフトのほか電話機につなぐハードウエアも必要となる。しかも自身を含め10人ほどの社内は、既存の受託開発事業でほぼ手一杯だった。決断した明田さんは、自ら寝る間を惜しんで電子回路設計やプログラミングに没頭。たった一人でプロトタイプの完成までこぎ着けた。

 発表されたトビラフォンは地元紙に採り上げられ、これに素早く反応した愛知県警との協力関係が成立。翌2012年には名古屋市内の高齢者宅100世帯に装置を取り付け、効果の実証に成功した。こうした実績をもとに、現在では全国の各警察から特殊詐欺に関連した情報提供を受ける体制が構築されている。

 迷惑電話を取らずに済ますソリューションにおいて、トビラシステムズが国内の先駆者となり、そのまま主導的な地位を築けたのはなぜか。そんな問いに、明田さんはこう答える。

「先行者がいなかったのは、僕も意外でした。『通信事業者自ら通話を規制する難しさ』『電器メーカーには小さすぎる事業規模』『スタートアップには手を出しづらい、必要な技術の幅広さや設置の手間』といった理由が重なっていたのかもしれません」

「思いついた当初から『これは普及する』と確信していたので知財は押さえましたが、警察が迷惑電話対策の手立てを民間に求めていたタイミングと重なったのは幸運でした。先々の戦略を見通せていたわけでも、何か一つの要因だけでうまくいったわけでもなく、『少しでも可能性がありそうなことを、とにかく全てやった結果』だと思っています」

優れた「人」を集め、意識を束ねる上場の力

トビラシステムズ株式会社

 「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」「○○送れは詐欺」などなど、警察や行政、メディアが長年再三にわたって最新手口を紹介し、注意を呼びかけても犯罪被害はなくならない。それだけに、犯行の入り口を効果的にふさぐ技術であるトビラフォンは、防犯に携わる関係者だけでなくベンチャーキャピタルからも期待を集めた。

 ただ実際のところ、各世帯の判断で固定電話向け装置を設置してもらう当初からの方式は、「必要な人に限って『自分は大丈夫』と信じている」ジレンマや、旧式のまま残る現地の通信設備に阻まれ、思うように広がらなかったという。

 流れが変わったのは2013年、ある通信キャリアから「単体のオプションサービスとして採用したい」と声がかかったのがきっかけだった。これにより専用装置を置かなくてもトビラフォンを使える道が開かれ、急速なスマートフォンの普及を背景に他社も追随。2015年以降、通信キャリア提供のオプションプランに組み込む方式が相次いでスタートした。

 真に必要とする層に広く届くようになった迷惑電話フィルターサービスは、発表から6年がかりで収益化を達成し、会社の収益構造を一気に改善。「資金調達に伴う出口戦略として2014年頃から意識していた」(明田さん)株式上場も現実味を帯びだした。2019年4月には東証マザーズ(現グロース)に初上場。翌年には一部(現プライム)への昇格を果たしている。

 社内体制強化や情報開示の充実、それに伴う営業面での信頼感に加え、上場のメリットとして「人」への好影響を挙げる明田さんは「会社にとって人は宝物。さまざまな分野で僕より秀でた社員が強みの源泉です。優秀な人が当社に来てくれ、親御さんにも喜んでいただけるのは、上場企業としてガバナンスを整え、財務状況も公開しているからこそ」と語る。

 さらに明田さんは2020年、従業員に対する株式報酬制度を上場企業として導入できたことも大きかったと話す。「会社は株主のものなので、例えば製品開発の担当者でも『自分たちの会社』として経営を意識していてほしいと始めた制度です。非上場でも不可能ではないでしょうが、ルールが確立され、良いときも悪いときも毎日株価が見られる環境は、やはり上場企業ならではだと思います」

 現在の同社にとって、株価はとりわけ重大なテーマといえる。事業成長に集中するため2023年10月、プライム市場よりも流通株式時価総額の基準が緩和されるスタンダード市場に移行しているためだ。明田さんは「先日会社のメンバーと、この辺りで有名な神社にお参りしてプライム市場復帰を祈願してきました。今後、遠くない将来で必ず実現したいですね」と語る。

 時価総額の向上、つまり投資家からの支持を増やすための具体策も動きだしている。これまで管理部内に置いていた同社のIR・広報・財務の機能は、2024年11月から社長直下に新設した「経営企画・社長室」に集約。「既存株主の方々との対話を踏まえ、ターゲットを絞った伝え方に力を入れたい」と、より戦略的なIR広報を目指していくという。

なお残る“大きな穴”を埋めたい

トビラシステムズ株式会社

 国内のあらゆるスマホユーザーが簡単に利用できる、迷惑な電話・SMSを寄せ付けない態勢を築き上げた迷惑電話フィルターサービスだが、実は “大きな穴”も残されている。高齢者宅が相当な割合で含まれるNTT東西の加入電話およそ1,200万件に、いまだ対応できていない問題だ。70歳以上で発信者番号表示機能(ナンバー・ディスプレイ)などが無料になるNTTの制度もあるが、これで十分な対策とは到底言えない。

「高齢者の特殊詐欺被害を防ぐ上で肝心なのは、怪しい電話に出ないで済ませられること。固定電話が狙われるケースが圧倒的多数ですから、本当にここがポイントなんです。私たちとしては、ある程度経費を負担してでも加入電話で迷惑電話フィルターサービスを使えるようにしたい。相手のあるテーマですが、必ずやりたいですね」と、明田さんは熱を込めて語る。

 開拓したいのは国内市場ばかりではない。「世界展開している迷惑電話対策アプリ『Whoscall』の開発元である台湾の上場企業のトップとも会って意見交換をしています。当社も海外展開は、今後チャレンジしてみたいことの一つ。海外でも詐欺対策のニーズはあると思うので、日本発のプロダクトで貢献できたら素晴らしいですね」

 さらなる成長期待を集め、プライム市場への返り咲きを誓う明田さんが参拝したという「おちょぼ稲荷(岐阜県海津市の千代保稲荷神社)」は、古来信仰を集める商売の神様。2回持ち上げて軽くなったと感じたら願いが成就するとされる「おもかる石」でも知られる。意志のあるところ、きっと扉は開かれることだろう。

(文=相馬大輔 写真=後口誠 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2024/10/23

プロフィール

トビラシステムズ株式会社
明田 篤
トビラシステムズ株式会社 代表取締役社長
1980 年
愛知県生まれ
2004 年
ITエンジニアとして創業
2006 年
株式会社A&A tecnologia(現:トビラシステムズ株式会社)を設立、代表取締役社長に就任
2011 年
日本初となる迷惑電話防止機器「トビラフォン」を発売
2019 年
東証マザーズに上場
2020 年
東証一部(東証プライム市場)に市場変更
2023 年
スタンダード市場へ移行

会社概要

トビラシステムズ株式会社
トビラシステムズ株式会社
  • コード:4441
  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2019/04/25
S