上場会社トップインタビュー「創」
- コード:9211
- 業種:サービス業
- 上場日:2021/12/24

ネット世界を案内する“店員役”を提供

例えばECサイトを訪れたとき、画面に突如現れるポップアップのメッセージ。困惑させられることもある半面、「ちょうど知りたい内容で助かった」と感じる場面も多いはずだ。
こうしたサイト訪問時の体験を向上させるツール「CODE Marketing Cloud」を提供しているのが、デジタルマーケティング企業の株式会社エフ・コードだ。自社を代表する同製品について、創業者の代表取締役社長、工藤勉さんは「デジタルの世界に店員を置くソフト」と表現する。
「欲しいものがクリアに分かっていれば、デジタルの世界はとても便利です。でも案内は不十分で、自分がよく分からないものは買えません。店員さんがいない店舗みたいなものです。これを何とか変えたいと考えて作ったのがCODE Marketing Cloudで、サイトの初回訪問時は『キャンペーンをやっています』、閲覧・購入履歴があれば『こんなものもお勧めです』など、ユーザー一人ひとりに対して、実店舗に近いきめ細かな案内をします。Webサイトを作り替えず、そのまま店員を置くイメージで使い始められるのもこのソフトのメリットで、物販ECにとどまらず、一人で選ぶのが難しい住宅ローン、転職、賃貸物件などのご案内に幅広く活用されています」
エフ・コードは、このWeb接客ツールを核に、サイト制作・チャットボット・デジタル広告運用などの隣接領域を取り込んできた。コンサルタントやエンジニアの集団を迎えてAI・データ分析関連の技術力を強化するとともに、個人の活動が活発なInstagram経由のマーケティングにも参入。多様化するデジタル接点をトータルに押さえ、消費者と企業をつなぐビジネスを一気通貫で展開している。
会社の信用力強化と成長投資実行のための上場

目下およそ800名のグループ従業員を擁する同社は、直近(2024年12月期)の売上高が約51億円、営業利益が約14億円。これらの業績は「3期連続倍増」のペースで急伸しており、株式上場にあたり「倍々成長で行くぞという目線でいた」工藤さんは、まさにその目標を達成したことになる。
2006年、webコンサルティング会社としてスタートしたエフ・コードは、当初からクライアントに恵まれ、経営は順調だったという。しかし労働集約的な事業モデルの成長限界に直面し、工藤さんは「これでは20、30社を手伝って終わる」と感じていた。
「日本にはおよそ400万社の企業があるのに、これからどうすればいいのかと考える中で、僕らが訪問してやっているような作業をソフトウエアで自動的にできるようにしたら、何千社にもお役に立てるだろうと思いました」
いわばオーダーメイドで実現してきた機能を、ネットから誰でも使えるwebサービスとして開発し、2013年にはフォーム記入の負担を減らして回収率を高める「f-traEFO」の提供を開始。2018年にweb接客サービス「CODE Marketing Cloud」の提供を開始すると、より多くのクライアントと深く、継続的な関係が築けるようになっていった。
「Web接客でユーザーにとって使いやすいサイトができても、それで全て解決するわけではなく、新規客が来ない、リピート購入が弱いなど、企業が抱える課題はさまざまです。製品の導入サイトを通じて、当社には『どんな人がいつ、どういう経路で訪問してきたか』という膨大なデータが集まっています。これを購買行動と結びつけると『御社の上顧客はこんな方々』とはっきり示せるので、ネット広告、SNS広告、メルマガや公式LINEといったメニューを揃え、狙う層に最も効果的な提案ができる態勢が整いました」
こうした周辺領域のデジタルマーケティング事業をすべて自前で育てるには、時間も人も足りない。しかし資金調達力が高まれば「買う」という選択ができる。そこで考えたのが上場だったと工藤さんは明かす。
「会社の信用度や調達能力を高め、それをテコに借り入れもフル活用しながら、既存事業の成長に合わせて新規事業やM&Aを展開することができれば、全体として倍々で伸びていくことも可能だと考え、それを実現するために上場を選びました。上場時点で当社の営業利益は2億円に満たなかったものの、この戦略により早期に利益を創出し、グロース市場でも一定のインパクトを与えられると考えました」
実際エフ・コードは、上場直前にあたる2021年12月期からの3年間で、売上は約8倍の約51億円、営業利益成長約9倍の約14億円と高成長を遂げており、高い成長可能性を求めるグロース市場に確かなインパクトを与えている。
官僚志望から起業家に転向

都内の名門・麻布高校の出身で、東京大学在学中に携わったビジネスを入り口に、そのままIT起業家となった工藤さん。大学進学時は外交官を志し、「製品や会社をつくりたいという感覚は全然なかった」という。
公務員志望から、なぜ起業に転じたのか。そんな問いに工藤さんは「やりたいことは、ずっと変わっていない」と応じる。
「両親が大学教授の家庭だったためか、『公』のために働く意識は早くからありました。通っていた学校でも青臭い話をしていたし、各国を旅行する機会もあったので、『恵まれたところもあれば、そうでないところもある』と強く感じていました。せっかく恵まれた立場に産み育ててもらったのだから、自分は『世の中の困っている人が、少しでも困らなくなるため』に仕事をしたいと外交官を考えていたんです」
「しかし地に足を付けて公に尽くす官僚の仕事が素晴らしいのはもちろんですが、特に極度の生活困難をなくしていくのなら、ビジネスを作って世界中に広げ、顧客や市場、雇用を直接生み出すほうが早いかもしれない。それができたら、少しでも早く世の中を良くできるのではないかと思ったのが、学生時代にビジネス側を選んだ理由です」
スピードと手応えに惹かれだした、若き工藤さんを魅了したのが、ネットを身近にする「iモード」関連で活況をみせていたITコンサルティング業界だった。中でも2004年、知人の手伝いで始めた自動車学校ポータルサイトの運営事業が、今日に至る“原体験”になったという。
「旅行サイトなどと同様、合宿免許も携帯で比較してすぐ予約できれば、紙のパンフレットよりも便利になりそうだと始めた事業で、ローンまで一括で申し込めるスムーズさが支持されました。さらに学校側も、オンライン窓口に一元化して申込情報がデータで入ってくれば指導員や車両の手配がスムーズになる、今で言うDX(デジタルトランスフォーメーション)のメリットがありました。『これをいろんな産業に応用できれば日本中、世界中にインパクトがある』という確信が、起業につながりました」
フラットな“連邦国家”でシナジーを最大化

「マーケティングテクノロジーで世界を豊かに」をミッションに掲げ、持ち前のスピード感でエフ・コードを引っ張ってきた工藤さん。Webサービスは現在、国内外3,000以上の現場で活用されるまでになっている。
2022年以降の3年間に実施した事業譲受・子会社化は、合わせて13件。工藤さん自身の立ち位置も、自社事業のトップというポジションから、グループ各社・各部門の統括へと重心を移しつつある。
「エフ・コード本体のソフトウエア事業部門は現在、管掌役員が順調にグロースさせてくれています。また同時に、資金調達やM&A前後の実務、グループ各社のKPIマネジメントやガバナンスを担うコーポレート・ホールディングス部門が大きくなっており、こちらも分野別に担当の役員・幹部がいます。いま私はどちらの部門にも顔を出していますが、最終的には『各幹部の支援役』になるつもりです」
企業文化の統合が課題とされるM&Aをこれほど立て続けに進めながら、ほぼ全員が働き続けるスムーズな組織融和を実現できている理由として、工藤さんは「いろんな意味で極めてフラット」な自社の組織文化を挙げる。
「グループ間の関係について、僕らはよく『帝国ではなく連邦国家』と言っています。一社一社のトップという“国王”はいて、どっちが偉いということはない。ただし強大な敵や、アプローチすべき顧客に対しては力を合わせ、グループシナジーを効かせましょうという関係です。また各社内部でも、役職や雇用形態に関係なく最も実力のあるメンバーがリードし、周囲がサポートに入る例がたくさん見られます。ですから“色に染める”ための役員派遣などは必要性を感じませんし、それは今後も変わらないと思います」
現社名の英文表記「F-CODE」にも、自由(Free)・公平(Fair)・権限委譲(Flat)を組織の規範(Code)とする意味が込められているという。
「今後のM&Aでも優秀な企業オーナーに選ばれ、『ベストのオーナーは自分たちである』と信じてもらうのが私の勤めです。元の会社のよさをそのまま伸ばし、足りないリソースをサポートすれば営業・技術・データ面で最大のシナジーが発揮できるのを、既に加わってくれた各社の成功で実証したい」と語る工藤さん。M&A市場のさらなる活発化によって価格の“相場観”が定まる可能性を視野に入れつつ、これまで培ってきたカルチャーで勝負する覚悟をうかがわせた。
興味の追究が人生を豊かにする時代に

自社のお手本として、M&A戦略の巧みさと獲得企業の“連邦制”でグローバル展開するカナダのソフトウエア企業を挙げ、日本発のWebマーケティングで海外事業を軌道に乗せている他社への賛辞も惜しまない工藤さん。高い理想の現れか、自身に対する評価は総じて控えめだが、それでもはっきり胸を張るのが「人に恵まれる才能」だ。
「約3年にわたった上場準備中には大きなトラブルも、ガバナンス強化による成長鈍化もみられず、予定通り上場を達成できました。これは大手企業の元取締役である役員や、監査法人経験者のCFO、そして彼らのもと知見を発揮したメンバーの功績です。上場後重ねてきたM&Aでも素敵な人の縁に恵まれ、『ゼロから会社を興した経営者』『それを支える経営陣』『その薫陶を受けたエキスパート』を一挙獲得できました。これ自体大きな価値ですが、さらに各社の事業分野から最新動向をつかみ、経営判断の精度が高まった点にも感謝しています」
「人」に関わる同社の取り組みは、組織内部の増強にとどまらず事業展開にも及んでいる。2024年末には、生成AI活用などのリスキリング研修事業と、SNSマーケティングのスクール事業を相次いで買収。デジタル人材の育成事業に乗り出した。
「転職やフレックス勤務、副業、フリーランスの一般化に伴って雇用はどんどん流動化し、雇用形態よりも提供価値が問われるようになっています。一方で、増え続けるDXへのニーズに応えるデジタル人材が、当社の中でも顧客企業の現場でも、全く足りていません。そこで『時代が求めるスキルの持ち主を一から育てて送り込む流れに、ビジネスとしてアプローチできないか』と考えました」
最も理想的なのは、デジタルマーケティングのプロとして成長したスクール受講生が、エフ・コードの支援先企業のプロジェクトに加わる流れを確立することだという。「採用・M&A・育成と、これからもあらゆる手段でデジタル人材を確保し、提供できるサービスを増やしていく」と、工藤さんは力を込める。
とりわけ個人の活躍に工藤さんが期待を寄せるのは、共働きの妻と4人の息子と過ごす日常の中で、デジタルネイティブ世代の可能性を実感しているからだ。

「休みの日の寝かしつけにも一苦労な元気盛りで、一番上が10歳なのですが、学校貸与のタブレット端末でChatGPTも使いながら、戦国武将のことをずっと調べています。私たちの頃は本を借りるか買ってくるしか調べようがなかったのですが、今は気になったことをすぐ、どこまでも深掘りできますから、興味のリミッターが外れたような状態で、何か聞かれてもさっぱり分かりません(笑)」
「リテラシーやマナーが問われるなど“諸刃の剣”の面もありますが、好きなことを学んで発信することがそのまま仕事にもなり、人生を豊かにしてくれるフィールドは、どんどん広がっています。親として息子たちには、『素敵なオタク』になってほしい。そんな生き方を支える一助になるサービスを手がけられたらと願っています」
誰も体験したことがない次元へ進化しつつあるデジタル世界のただ中で、終始笑顔を絶やさず明るい展望を語る工藤さん。より良い未来の到来を確信し、そこに向けて全力で走る姿に「楽観主義は意志によるもの」という、100年前の哲学者の言葉が重なった。
(文=相馬大輔 写真=高橋慎一 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2025/02/04
プロフィール

- 1983 年
- 生まれ
- 2002 年
- 麻布高校卒業、東京大学入学
- 2006 年
- 株式会社エフ・コード創業 取締役就任
- 2011 年
- 株式会社エフ・コード代表取締役就任
- 2021 年
- 東証マザーズ(現グロース)に上場
会社概要

- コード:9211
- 業種:サービス業
- 上場日:2021/12/24