IR活動に関するインタビュー
スパイダープラス株式会社
建設業界の課題をテクノロジーの力で変革し、社会課題の解決に貢献するスパイダープラス株式会社。建設業界における長時間労働への対応が懸念されている2024年問題に対する解を示すべく、成長戦略の一環として2021年に東証マザーズ市場(現グロース市場)に上場しました。以来、IR活動にも注力し、日本証券アナリスト協会など外部からも高い評価を受けています。
上場時から同社のIRを担ってきた石田純一さんと、管掌取締役であり、CFOである藤原悠さんにIRの方針や特徴、事業成長にとってIRが果たす役割について伺いました。
IR活動の目的・方針
IPO時から「フェア・ディスクローズ」を重視
—IRに取り組む目的を教えてください。
当社は2011年から建設DX事業を開始し、建設現場の生産性向上を施工管理SaaS『SPIDERPLUS』の提供を通じて推進しています。長時間労働が常態化している建設業界に対して、残業時間の上限規制が5年間の猶予期間を経て2024年4月から適用されることは、以前からわかっており、建設業界のDX投資需要拡大を見込んでいました。当社は、この法適用が建設DXにとっての重要な転換点にあると考え、需要拡大に応えるための投資資金調達手段としてIPO(新規上場)という戦略を選択しました。資金調達額に加えて、国内の建設DX企業として初の上場企業になることから、IRについては、国内外の投資家に対して広く認知拡大をはかる意図でも優先度が高いものとしてIPO 前から取り組んでいます。
—IRの対象は投資家に限られますか。
IRの開示物は、投資家だけでなく顧客や社員、求職者など幅広く見られており、反応もいただきます。しかし、IR の対象としては投資家に限っています。IRの対象を投資家に限ることはぶれないほうが良いと考えており、明確な対象を定めることによって、的を射た施策、効果的な施策を打つことにつながります。投資家や株主以外のステークホルダーから見ても違和感がないことは大事ですが、投資家に意識を集中しています。
—IRの活動方針をお聞かせください。
IPO当初から「フェア・ディスクローズ」です。フェア・ディスクローズを規制されている内容よりも一段高く捉えるように意識しています。例えば、投資家間における情報の非対称性を解消するために「機関投資家に開示している情報を個人投資家にもしっかりと伝える」などです。具体的な取り組みとして、決算説明会は機関投資家・個人投資家問わず参加いただけるよう、決算開示日夜にYouTubeLiveで開催し、決算説明会の書き起こしとアーカイブ動画は翌営業日に開示しています。また、セルサイドアナリストとのインタビューはアナリストの許諾を得て、面談内容の書き起こしを開示しています。このように、フェア・ディスクローズに関しては上場当初に比べて現在はかなり徹底させており、特に個人投資家向けIR の充実度が変わりました。
社内体制
メッセージには魂がなければ投資家には伝わらない
—IRを推進する社内体制はどのようになっていますか。
基本的には私たち2名(藤原氏、石田氏)の体制です。決算説明資料の作成など、プレゼンテーションマテリアルの作成には社内のデザインチームも関わっています。社内との連携という点では、私(藤原氏)が取締役会や執行役員会議などで株価などのマーケット状況や、決算に対する投資家反応の共有を行っています。石田も、執行役員や事業部長と事業進捗に関する情報交換を四半期度に実施し、PRチームとは週次で情報共有の機会を設けています。
—少数精鋭体制で数多くの業務を行うなか、システムによる効率化に取り組んでいますか。
IR業務の効率化を目的に、ChatGPTや英訳ツールを活用しています。しかし、「魂を込めないと投資家には伝わらない」と考えているので、決算説明資料など開示物を作る際は毎回ものすごくこだわって取り組んでいます。
—社長(CEO)のIRに対するスタンスはいかがでしょうか。
CEOは創業経営者として現在も当社株式を50%以上持っていますので、当社の株主としても一番の当事者です。CEOにとってみれば、上場したことで応援してくれる人がたくさん増え、その方々に届けたいメッセージもあります。こういった背景から、CEOは「IRをがんばるのは当然のこと」として重きをおいています。
IR活動の特徴
常に新しい取り組みと質の最上化を模索
—IR活動を円滑に進めるうえでの工夫を教えてください。
PDCAを回すことです。開示やセミナー、イベントを実施するたびに必ず効果を検証し、次のアクションにつなげています。機関投資家との対話や個人投資家からの問い合わせでも「どうして当社に興味を持ったのか」「当社についてわからないことは何か」を必ず聞き、そこから自分たちのIRの質を上げていきます。
—これまでにもいくつかキーワードを出していただいていますが、改めて御社のIRの特徴はなんでしょうか。
現状維持に満足せず、常に新しいことに取り組む姿勢、そしてフェア・ディスクローズと最上志向でしょうか。会社全体の事業が 30%成長しているときに、IRチームが30%成長していないとまずいと思います。将来の期待値を高いところにおいたうえで、「事業は成長しているが、自分たちはどうか」と常に問いかけています。
—投資家層との接点はどのようにつくり、対話できる投資家層を拡大されていますか。
機関投資家と個人投資家では異なります。機関投資家は、証券会社と連携して私たちのエクイティストーリーを共有し、私たちが会うべき投資家、会えていない投資家をリスト化してもらい、一緒に開拓させていただく機会を得ています。個人投資家に対しては、まだ私たちの認知度が低いので、さまざまなセミナーに登壇し、そのセミナーの参加者にアプローチすることを行っています。また、SNSでの発信も重要な認知を獲得する手段の一つになっています。
外部評価と課題
毎回同じことを繰り返し伝えることが大切
—御社は日本証券アナリスト協会の2023年度ディスクロージャー優良企業(新興市場銘柄)に選定されました。どういった点が評価されたのでしょうか。
評価結果を踏まえると、フェア・ディスクローズを徹底した取り組みが評価されました。情報量ではなく、どのタイミングでどのような内容を誰に対して開示するのか。そこへのこだわりと経営陣の姿勢です。とはいえ、まだ改善点もあります。
—改善点や課題についてお聞かせください。
私たちが注視しているのは、IRストーリーがぶれないようにするということです。言っていたことが変わるときにはきちんと説明する。とはいえ、IPO直後と今では根幹となるエクイティストーリーは少しずつ変化しています。その結果、継続して当社の情報を追っている人には伝わっていることも、初めて当社を見にきた投資家の理解度にはギャップも一定程度存在しているのではと感じています。
—この課題に対して工夫されていることはありますか。
幹となる部分は、「初めて当社を知った人でも理解できる、買いたくなる要素を織り込んだマテリアルづくり」です。特に意識しているのはストック情報として当社のIRストーリーをきちんと追えることです。あとは毎回同じことを繰り返し言うことも大切にしています。投資家は数多くの企業の情報を取っているので、「スパイダープラスはこういう会社だった」とちゃんと思い出してもらえるようにしています。同じことを言っていると、みんなだんだん信じてきますよね。例えば今日も「フェア・ディスクローズ」と5回くらい言っている気がしますが、そうすることで「フェア・ディスクローズを大事にする会社」だということだけは持ち帰っていただけます。そう考えると、何を言い続けるかも大切です。
—ESG情報の開示についてはいかがでしょうか。
先程の挙げていただいた「ディスクロージャー優良企業賞」の評価などから、ESG情報の開示ではあまり良い評価を得ていないと感じています。しかし、私たちの事業を推進することで、建設現場にテクノロジーが広がり、現場業務が標準化・効率化されます。その他にも、紙の削減や女性や外国人が働きやすくなることで建設現場で働ける人が増えるなど、地球温暖化や人手不足などの問題解決にも一役買います。本業の推進がサステナビリティにつながっていますが、脱炭素への貢献度や人的資源に関する情報を可視化して説明するようなことは現状不十分で課題と認識しています。
事業の展望とメッセージ
事業が成長を続けるうえでIR活動の重視は必須
—今後の事業の展望と、その中でIR活動が果たす役割についてお考えをお聞かせください。
建設現場をテクノロジーによって支援できる余地はまだまだあり、当社はクラウドサービスで建設現場のDXを進めています。今後の目標として、当社顧客ごと、サービスを利用いただいている現場ごとにDXを進めるだけでなく、業務プロセスの標準化など、建設業界全体でIT投資の効率を高めていくことが中期的な目標です。当社の事業は、テクノロジーの力で就業人口増にもつなげられる、これからの社会にとっても重要な役割を果たすと思っています。その上で、IRでは当社が描いている未来に可能性があることをしっかりと伝えることが重要と考えています。例えば、当社は2024年問題について3年前からずっと言い続けています。メディアは一時期ほど取り上げなくなっても、言い続けることも私たちの役割の一つです。IRを通じて企業価値を伝えるだけでなく、業界の課題も伝えていくことは重要だと認識しています。
—では最後にグロース市場を目指す、またすでに上場している会社にIR活動についてのアドバイスやメッセージをお願いします。
これから上場をする企業の皆様には、「上場直後のIRボーナスタイムがずっと続くと考えずに、また機関投資家、個人投資家を区別せず、積極的なIRに取り組むこと」をおすすめします。すでに上場されている企業にも言えると思いますが、毎年多くの会社が新たに上場するため、何もしないとそれ以前から上場している会社は情報過多のなかで市場から忘れられてしまいます。時価総額が大きくなることで、資金調達など経営の選択肢は格段に増えます、逆に低迷すると、取り得る手段が少なくなり、上場のメリットはなくなるということを考えれば、経営としてIR活動に力を入れることは必須であると言えるのではないでしょうか。