IR活動に関するインタビュー
GMOフィナンシャルゲート株式会社
総合インターネット事業で躍進するGMOインターネットグループの1社として、対面キャッシュレス決済サービスを提供するGMOフィナンシャルゲート株式会社。店舗を中心とした対面におけるキャッシュレス決済は、社会インフラとして必要不可欠な機能となりました。一方、いまだ現金決済比率が高い国内で成長余地を残すなか、さらなる資金調達と成長投資のために2020年に東証マザーズ市場(現グロース市場)に上場しました。他社とのIR交流会を企画するなど、広い視点で精力的にIRに取り組み、その姿勢には社内外から高い信頼と評価を得ています。
IPO(新規上場)直後に証券会社から転職し、以来経営企画部部長の重責を担う榎本佑介さんに、同社のIR方針や特徴、事業成長に対しIRが果たす役割について伺いました。
IR活動の目的・方針
調達⇒投資⇒成長の好循環モデル形成に向けたIPOとIR
—IRに取り組む目的を教えてください。
ECなど非対面決済を手掛けるGMOペイメントゲートウェイ(株)(東証プライム上場)とはサービス領域が棲み分けられているなか、それぞれが成長しナンバーワン企業を目指そうと、当社も2020年にIPO(新規上場)を果たしました。当社は、投資が成長につながり、成長によって新たな資金を調達し、さらなる成長に向けた投資を行うという好循環の形成を重視しています。事業成長を加速させるためには、私たちの成長ストーリーに賛同いただける方から資金を調達しやすくする、つまり支援者を増やすためにIR 活動を推進しています。また、ステークホルダーの様々な客観的ご意見を当社経営に反映することも重視し、IR活動に励んでいます。
—IRに力を入れたきっかけと、当時の活動方針をお聞かせください。
IPO時はIR体制を整備している途上で、私自身は当時まだ前職の証券会社に勤務し、主幹事証券会社の立場で当社のIPO 担当という立場でした。IPO 直前からIR を早急に強化しなければならないという課題認識を社長が強く持っており、体制強化を図っている段階にありました。当時はまだ英文開示はできておらず、現在ほどKPIや事業構造の解像度も高くありませんでした。英文開示を始めたのは2021年9月期からで、日英同時開示は2023年9月
期より実施しています。
—現在投資家以外にIRを通じてメッセージや情報を伝えたい対象はいますか。
GMOインターネットグループでは従業員をパートナーと呼んでいるのですが、パートナーに対して中長期的な成長戦略をしっかり伝える場としても、決算説明会を中心としたIR活動を役立てています。決算説明会を通じてパートナーには投資家様にコミットメントしている内容を改めて認識してもらい、成長企業として掲げる高い目標に向かって全社一丸となり上場会社としての責任を啓発する機会としてとらえています。
社内体制
英文開示はスピードを重視し社内で対応
—現在のIRを推進する社内体制はどのようになっていますか。
現在もIR専任者は置いていません。私が属する経営企画部はIRに加え、経営戦略立案、事業企画・管理、仲間づくり(M&Aや資本業務提携)、広報、ESG、さらには資本政策や資金調達まで幅広く対応しています。担当業務の1つがIRという体制はIPO当時と同じですが、継続的な人材育成や採用を通じてIRの高度化をはかっています。現在主にIRにかかわっているのは2名、管掌している私を入れると3名です。
—現在はどのようなIR活動をされていますか。また、IPO当時と変化した点も教えてください。
決算説明会を年4回実施し、加えて決算説明会後において個別面談およびスモールミーティング、カンファレンス等に対応しています。これらIR面談件数はおおよそ年間200~250件にのぼります。また、決算説明会の文字起こしや英文配信の外部サービス等を有効活用しながら、自社のIRサイトの充実もはかっています。海外の投資家様に向けて決算短信と決算説明会資料の英文開示を行っており、日本語との同時開示を実施しています。また、当社に高い関心を持ってもらえるよう、海外の同業他社のKPI開示を分析し、海外投資家様が理解しやすいフォーマットやストーリー立てに努めています。ビジネスモデルの理解促進に向けて解説動画を制作し、IR面談を実施予定の投資家様には可能な限り事前に視聴していただくよう依頼しています。これらの努力によって、IR面談では事業内容の説明に要する時間が大幅に削減でき、Q&Aに割ける時間が増えたことで有意義な時間の使い方ができるようになりました。
—英文開示はすべて社内対応をされていますか。
決算短信の一部については外部リソースを活用していますが、基本的にすべて社内対応しています。投資家様はスピードを重視しているので、それに応えるかたちで速やかに、できれば日英同時開示するのが良いと考えています。完璧な英語を求めるがために、英文開示が日本語開示の数日後などとなってしまっては非常にもったいないと感じます。クオリティも重要ですが、まず何より積極的な開示姿勢を海外投資家様は見ていると考えます。
IR活動の特徴
投資家様が求める経営トップによる発信を重視
—IR活動を円滑に進めるうえでの工夫を教えてください。
2年ほど前にディスクロージャー優良企業(日本証券アナリスト協会主催)のトップ3の会社のIRのご担当にお声がけし、IRのナレッジシェアを目的とした交流会を企画しました。トップレベルに位置するかたがたとの交流は非常に学びが多く、自社のアウトプットに反映させていくことでレベルを向上させることができました。
—御社のIRの特徴はなんでしょうか。
経営トップが直接情報発信することを重視しています。「投資家様はこういう情報を社長から直接聞きたい」ということをマネジメント層に伝え、積極的に社長がトップ対応するようにしています。
—ほかにも何か重視されていることはありますか。
「継続性」と「信頼関係」です。投資家様との継続的な信頼関係構築が重要だと思います。機関投資家様の多くは一定期間を経た後に別の投資会社へステップアップされることが少なくありません。別会社へ移った後も「これまでもGMOフィナンシャルゲートと話しているから引き続き面談したい」と長期にわたる信頼関係が構築できています。
—投資家層との接点はどのようにつくり、対話できる投資家層を拡大されていますか。
一度でもコンタクトをとった投資家様を社内でリスト化しています。リストに基づいて、決算説明会の案内やIR面談の打診を行いたいときに連絡をとるようにしています。最後のIR面談から間隔が空いた投資家様に対しては、直近の当社業績をアップデートする目的で、改めて面談の機会を持てるよう積極的に働きかけます。また投資家様の新規開拓は証券会社にも依頼し、興味がありそうな機関投資家様とつないでいただくこともよくあります。単に待ち構える姿勢の面談を実施しているわけではなく、当社として意思を持った投資家様へのアプローチを行っています。
外部評価と課題
シンプルに分かりやすく「解像度」を高めることが課題
—御社は日本証券アナリスト協会の2023年度ディスクロージャー優良企業(新興市場銘柄)に選定されました。どういった点が評価されたのでしょうか。
どの評価が高かったという話の前に、まず前提として業績が良いことは重要なポイントだったと思います。テクニカルなIR手法も必要ですが、根本的に事業を通じて社会課題を解決し、結果として成長できていることが大きいと考えます。その点で我々IRチームは幸運だったと言えますが、そこに甘んじることなく「営業やシステムをはじめとしたパートナー全員の頑張りをしっかりとステークホルダーに伝えよう」という意識を持ち、IRチームで共有しています。それでも上場当時から表彰台に上がれたわけではなく、IR交流会等を通じてディスクロージャー優良企業に選定された会社の取り組みを参考にしながら、IRにおける課題の可視化と改善を積み重ねて受賞に至りました。
—改善点や課題についてお聞かせください。
より一層「解像度」を高めることが課題です。現時点において、当社は複数の事業セグメントがあるわけではなく、事業規模もまだそこまで大きくないので、もっとシンプルに分かりやすく説明できると思っています。
—この課題に対して工夫されていることはありますか。
ビジネスモデルのブレークダウンを常に意識しています。また、ホームページにビジネスモデルや収益構造の理解促進のための動画コンテンツを掲載し、積極的に情報発信しています。加えて、IR面談の中で出た疑問点やFAQは、スライドにまとめて決算説明会スライドへ反映することを常に取り組んでいます。
—ESG情報の開示についてはいかがでしょうか。
当社が提供する対面キャッシュレス決済事業は、紙幣を電子化するため環境負荷の軽減に大きく貢献しています。経済産業省の発表によると、キャッシュレス決済は現金決済に比べ二酸化炭素(CO2)排出量が約3分の1という試算もあります。また今後さらに労働人口が減少するなか、店舗決済のセルフ化にも貢献しています。まずこれらの対面キャッシュレス決済の意義を繰り返し発信することに努めています。このような環境のもと、当社は自社営業所の使用電力に対応する非化石証書の取得を通じたCO2排出のオフセット化を実施し、加えて決済端末のサプライヤーに対して、決済端末製造工程におけるCO2排出量の可視化を依頼するとともに、ESG開示を共に高度化すべく議論をリードしています。実際に約2年前から取り組みを進めており、ESG関連の外部評価機関から高い評価をいただいています。
事業の展望とメッセージ
アクションを起こせばリターンはある
—今後も事業成長を追求するなかで、IR活動が果たす役割についてお考えをお聞かせください。
投資家様へのフェア・ディスクロージャーは、これまでも今後も重視し、しっかり続けていきます。同時に社内向けIRも強化していく考えです。当社では、社長からパートナーに対し、繰り返し決済インフラ企業としての責務、上場会社としての責務、当社が掲げている株式市場へのコミットメントを踏まえたメッセージを週次朝礼でアナウンスしています。その意味・意図をパートナーがより一層理解するためにIR活動は必要不可欠であり、我々IRチームが採るべきアクションは無数にあります。企業規模が大きくなればなるほど、社内に対してもIRが果たせる役割は増すと考えています。
—グロース市場を目指す、またすでに上場している会社にIR活動についてのアドバイスやメッセージをお願いします。
IR立ち上げ時点では必要最小限のリソースであっても、上場後1年、3年、5年といった時間軸で、それぞれ何をやっていくかロードマップを策定し目標設定をして、実現に向けた人的リソースの補強や取り組みを進めていくと良いと思います。企業規模拡大に伴うIR体制の在り方がわからない場合は、証券会社やグロース上場の他社のIRのご担当に聞けば教えてくれるはずです。IRに携わる人間は、オープンマインドで積極的にナレッジシェアをしてくれるかたが多いと感じます。アクションを起こせば必ずリターンがあります。変化・進化を求めず何もアクションをとらなければ目の前のタスクをこなすことだけに必死で、時間はあっという間に経ってしまいます。我々IRチームはIR面談件数が少ないと「寂しいな」と感じます。IRは社内のみんなの頑張りと今後の事業ポテンシャルを的確に分かりやすく伝える発表の場、それがIRチームの使命と認識しています。