IR活動に関するインタビュー
株式会社Macbee Planet
デジタルを活用した独自のLTVマーケティングを開発し、顧客の商品やサービスの価値の最大化をはかり、顧客のユーザー獲得につなげる株式会社Macbee Planet。唯一無二の手法で、顧客層を広げ、2020年に東証グロース市場に上場。24年7月に東証プライムに市場変更をしました。以前から活発なIR活動で高い評価を得ており、グロース市場上場時にディスクロージャー優良企業賞を受賞しています。
2021年から同社トップとしてM&Aに取り組むなど成長戦略を進めてきた代表取締役社長の千葉 知裕さんと、IRの担当執行役員である川上 昂士さんに、グロース市場上場時のIRの方針や特徴などに加え、プライム上場会社としての今後の展望を伺いました。
- LTV(Life Time Value):ユーザー(消費者)が生涯を通じて企業にもたらす利益のことを指し、1人のユーザー獲得にかけることができる費用を算出するための指標
IR活動の目的・方針
対話の繰り返しを軸に手探りでIR活動をスタート
—IRに取り組む目的を教えてください。
IRの目的は、市場との対話を通じて企業価値を向上させ、成長資金が必要なタイミングで調達し、次の成長につなげていくことだと考えています。当社は未上場のときには、社会的信用の低さを痛感していました。目に見える“もの”を売っているわけではなく事業内容が分かりづらいため、金融機関との取引ハードルも高く感じていました。社会的信用を高め、成長戦略を描くために、上場に至ったのは2020年3月。ところがこの時期はコロナ禍の入口にあたり、厳しい船出となりました。上場の目的の一つに成長資金の調達がありましたが、時価総額が現在の10分の1程度でスタートしたこともあり、上場メリットを十分に感じることができませんでした。そこで市場をうまく活用し、さらなる成長を遂げるために何をすべきか熟考しました。その結果、まずは株主、投資家との対話を繰り返すことで、私たちに何が求められているのかを理解し、それを成長につなげることで、市場でのプレゼンスを確立できるのではないかと考えたことが、IRの出発点になっています。
—IRの対象として投資家以外に届けたいターゲットはいますか。
株主・投資家が中心ですが、メッセージはクライアント企業や求職者、さらにはステークホルダー全体にも伝えたいと考えていますし、従業員との対話のツールとしても見ています。
—IRの活動方針をお聞かせください。
IPO(新規上場)直後は右も左もわからず、決算説明会なども手探りで行い、機関投資家との1on1ミーティングやスモールミーティングを繰り返していました。明確な方針は定まっていなかったものの、資金調達を行うという目的が大前提にあったので、数値目標を設定し、そのために必要なPER(株価収益率)を算出、それを達成するために何が必要かをKPIに落とし込みました。そのうえで投資家説明会の数や売買数・売買代金を要素分解しながらIR活動を行っていました。
—IPOから4年でプライム市場に市場変更されましたが、現在はどう変わりましたか。
最も変わったのは、海外投資家の増加に伴い、海外の方に当社への理解を深めていただくために、英文開示に力を入れるようになったことです。IPO当初も今も、個人投資家、機関投資家の双方を重視するというスタンスは変わっていませんが、そこに海外へのIRが方針として明確に加わった形です。
社内体制
オープンコミュニケーションが基本スタンス
—IRを推進する社内体制はどのようになっていますか。
専任が1人いるほか、私(川上氏)が経営企画と管理全般を統括しています。社長も決算説明会に出席し、すべての資料に目を通しているため、3人体制でIR活動を行っているという認識です。他部署との連携はレイヤー別に密に取っており、リリースできるトピックはないか常にアンテナを張っています。成長可能性資料は当社の事業や世界観を理解している社内のデザインチームに作成を依頼しており、これがIRグッドビジュアル賞(一般社団法人日本IR協議会、株式会社バリュークリエイト)の受賞につながったと考えています。このように、各部門のサポートを受けながらIR活動を推進しています。
—社長をはじめ、皆さんのIRスタンスをお聞かせください。
スピード感を持って各種取り組みを進めている関係でインサイダーに該当する事項などお話しできないことも多いのですが、基本的なスタンスとしては、極力オープンにコミュニケーションすることを心がけています。そのうえで個人投資家と機関投資家との間のギャップを少なくすることが重要だと考えています。機関投資家とは個別にコミュニケーションできるので、投資判断に必要な情報を提供できます。一方で個人投資家はかなりの数にのぼるため、情報が十分に行き届かないことを懸念しています。フェア・ディスクロージャーのスタンスに則り、機関投資家向け説明会で話した内容はタイムリーに議事録として公開し、問い合わせをいただいた際には機関投資家と同様の回答をすることでギャップを減らしています。
IR活動の特徴
投資家の意見から異なる視点を学ぶ姿勢が大切
—IR活動を円滑に進めるうえでの工夫を教えてください。
事業部門の考えや会社の方針をしっかり投資家に伝えることが大切だと思います。一方で、私たちを客観的に評価するのは投資家です。投資家の方には、私たちには見えていないものが見えている可能性があるので、そこをヒアリングすることに重点を置いています。例えば初めての面談では、なぜ私たちと面談しようと思ったのか、これまでとの変化点も踏まえて尋ねます。面談後には当初の想定と相違点があったかどうか、良い面も悪い面も含めて確認します。ほかに注目している企業や、株価の適正水準なども、理由を含めて率直に聞くようにしています。こうした対話を続けることで、投資家の視点を学び、双方のギャップを埋めます。質問を受ける側ではありますが、こちらも質問することで多面的な理解を深め、経営に活かす仕組みを持っていることが、他社と異なる点ではないかと思っています。
—投資家からのヒアリングを重視されているとのことですが、投資家層との接点はどのようにつくり、対話できる投資家層を拡大されていますか。
IPOのときから接点がある投資家とは継続的にお付き合いしていますし、公募増資によって新たに関係を築いた方もいます。イベントを通じた出会いに加え、場合によっては投資家から別の投資家をご紹介いただくこともあります。また、証券会社でのアナリスト取材にご参加いただいた方には、より密なコミュニケーションを取るために1on1ミーティングをお願いすることもあります。IPO当初から今に至るまで、接点のある投資家にはDMなどで繰り返しアプローチも試みるなど、まるで営業のようですが、この待たない姿勢が結果として投資家層の拡大につながっていると感じています。
—個人投資家とはいかがですか。
決算のたびに動画を配信して理解を深めていただいています。加えて、個人投資家向けの説明会やイベントにも積極的に参加(出展)して質問を受け付けるなど、気になる点などがあれば個人の方が質問できる場も設けています。
—ビジネスモデルの説明にご苦労があると聞いています。その点でどのような工夫をされていますか。
私たちの商品、サービスは手に持ったり体感したりすることはできません。デジタル空間でビジネスを展開しているので、イメージがわきにくいと思います。決算説明資料や成長可能性資料の中にビジネスモデルの説明やイメージ図を入れ、説明の仕方も投資家の反応などを見て改善するなど、事業と事業環境を分かりやすく伝えることに多くの時間を割いています。これは機関投資家に対しても同様です。海外投資家も含め、皆さんが私たちの事業のことをよく理解したうえで話を聞けるような環境づくりに注力しています。
外部評価と課題
投資家層の拡大に努めMacbeeファンを増やしたい
—御社は日本証券アナリスト協会の2023年度ディスクロージャー優良企業(新興市場銘柄)に選定されました。どういった点が評価されたのでしょうか。
2022年度は受賞を逃しています。そのときのフィードバックを分析して、より良い開示になるように、IR活動向上のツールの一つとして使わせていただきました。結果を見ても何か突出したものがあるというより、総合的にバランス良く評価いただいたことが受賞につながったため、改善の取り組みが評価されたのではないかと考えています。
—特に改善された点はありますか。
ESG関連で開示できるものはないか考え、人的資本やガバナンスの点でレベルアップを図りました。特にガバナンス面では任意の指名報酬委員会を入れ、社外取締役を過半数にしていくことを、プライム市場変更に先んじて行いました。さらに、経営陣とIRにかかわるメンバーの意識を合わせ、誰が話しても同じ内容を伝えられる体制を整えました。社長については露出を増やし、個人投資家も含め認知を高めました。
—改善点や課題についてお聞かせください。
投資家に適切に理解されているかについては、初回の面談で事業内容を十分に説明しきれていないこともあり、まだ不十分だと感じています。当社の実態が正しく伝わるKPIの設計もできていません。個人投資家向け説明会や英文開示においても改善の余地が残っており、今後変えていきたいと思います。昨年は海外機関投資家にフォーカスしてアクションを変えてきましたが、今年はプライム市場へ移行したこともあるので、今一度投資家層拡大に取り組んでいきたいと考えています。Macbeeファンを増やしていきたいです。
事業の展望とメッセージ
事業とIRは両輪、対話の場は閉ざさず開くことが重要
—今後の事業の展望とその中でIR活動が果たす役割についてお考えをお聞かせください。
私たちが展開するLTVマーケティングは、現在転換点に差しかかっています。上場時はマス広告市場のほうが大きかったですが、今はインターネット広告市場のほうが大きくなりました。コロナ禍が一段落して、効率性や効果がより一層求められるようになり、市場自体に転換が起きています。今後は投資家、株主に対してだけでなく、クライアント企業にも私たちがどのように事業展開していくのか、幅広く伝えるアクションが必要だと考えています。そのうえで、当社が間違いなく成長企業で、投資すべき会社だと、皆さんが共通認識を持てるようなIRを目指していきます。
—グロース市場を目指す、またすでに上場している会社にIR活動についてのアドバイスやメッセージをお願いします。
私たちは地道に対話を繰り返しながら、IRをブラッシュアップし、IRから得られた情報を事業の成長戦略にも活用していくというプロセスを取ってきました。これまでの会社の成長プロセスや市場背景を含め、事業展開や成長戦略をIRで伝えることで、投資家に期待してもらえる状況をつくることが重要だと認識しています。単に質問に答えるだけではない真の意味での“対話”を増やし、事業や次のIRに活用して循環をつくることが大切だと思います。事業とIRは両輪であるととらえ、対話を重視する姿勢が会社の持続的な成長につながると信じています。