IR活動に関するインタビュー
株式会社トライアルホールディングス
福岡発の郊外型ディスカウンターとして、生活必需品の豊富な品ぞろえを強みに25期連続で成長を続ける株式会社トライアルホールディングス(以下、トライアル)。近年は、グループ内でリテールAI事業を展開し、リテールDXを強力に進める一方、2025年7月には西友を完全子会社化し、全国に展開する小売グループへとかじを切り、さらなる発展を目指しています。
全国区の知名度を確立しブランド力向上と、強みであるリテールDXによる効率的な経営を推進することを目指し、同社は2024年に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。上場2年目ながら、日英同時開示を含む情報開示の充実や、投資家との継続的な対話など安定したIR活動が評価され、ディスクロージャー優良企業に選定されています。
今回は、若いIRチームを率いるIR部部長の鈴木敏光氏と課長の福永晶紀氏に、同社のIR方針や特徴、そして事業成長においてIRが果たす役割について話を聞きました。
IR活動の目的・方針
IRは投資家との信頼関係の積み重ね
—IRに取り組む目的を教えてください。
当社は、流通小売業界に存在する「ムダ・ムラ・ムリ」を削減し効率化を進め、その成果をお客さまに還元していくことで、当社グループのパーパスである「世界の誰もが『豊かさ』を享受できる社会をつくる。」の実現を目指しています。このパーパスの実現には、多様なステークホルダーと信頼関係を築きながら一体となって取り組みを進めていくことが不可欠です。そうした認識のもと、当社は、お客さま、取引先、従業員をはじめとする各ステークホルダーに対して、当社の信頼性と透明性をより明確に示すとともに、次の成長フェーズに向けた経営基盤を強化するため、上場を選択しました。
IR活動の目的も、こうした信頼関係の構築と企業理解の促進を通じて持続的な成長基盤を支えるという点で共通しており、主な対象は株主・投資家となります。IPO前から証券アナリストや機関投資家の間で「DXを推進している小売企業が福岡にある」と注目されており、当社では上場前からインフォメーションミーティングを通じて、会社の紹介や強み、経営の考え方を説明してきました。
—新規上場(IPO)後に特に力を入れ始めたIR活動はありますか。
上場前から投資家との対話を重ねてきたこともあり、IRは上場後に新たに始まった活動というより、従来の取り組みを発展させたものと位置づけています。基本的には、真摯な対応を継続することを心がけています。現在は四半期ごとに個別面談やスモールミーティングを実施しており、それぞれに丁寧に対応しながら投資家との信頼関係を積み重ねていくことが重要だと考えています。
—海外IRについての実施状況はいかがですか。
社長と財務責任者を中心に海外ロードショーを実施しています。主に北米、ヨーロッパ、アジアの主要投資家を訪問し、経営陣が直接対話する機会を設けています。社長が英語で直接コミュニケーションできることもあり、経営陣がIR活動に積極的に関与しています。こうした点は、投資家から評価されている当社の特徴の一つと考えています。
社内体制
他部署と綿密に連携し現場の動きを把握
—現在のIRを推進する社内体制はどのようになっていますか。
IRの専任は、IPO時は3名で、現在は若手も加わり5名体制です。グロース上場企業としては比較的厚い体制かもしれませんが、業務範囲は多岐にわたっています。いわゆるIR活動以外にも、株主総会の運営をはじめとしたSR対応、ESG評価機関対応やサステナビリティ開示、コーポレートガバナンス・コード対応や取締役会事務局なども担当しています。
—他部署との連携体制について教えてください。
IR部として意識しているのは、社内ネットワークの構築と経営陣とのコミュニケーションの強化です。当社は経営陣を含めて気軽にコミュニケーションがとりやすい風通しのよい環境にあり、普段からIR部メンバー各自が積極的に他部署や経営陣との交流を深めることを心掛けています。また、財務部門とは、数値の見方や分析について定期的にコミュニケーションをとっています。
—現在はどのようなIR活動をされていますか。
四半期ごとの決算開示の後、約1カ月半のIR期間があり、その間に個別面談の実施や、証券会社主催のカンファレンスへの参加などを通じて投資家との対話を積極的に行っています。決算直後は経営陣や財務責任者が中心となり集中的に面談を行い、その後はIRスタッフも含めた複数チーム体制で面談を進めています。
また、店舗見学ツアーも定期的に開催しています。これまでは福岡で店舗見学とマネジメントミーティングを組み合わせたツアーを中心に実施してきましたが、現在は東京で西友店舗の見学ツアーも実施しています。
IR活動の特徴
若手IRチームによる対話重視のIR
—御社のIRの特徴はなんでしょうか。
当社のIRの特徴は、投資家との対話と現場理解を重視している点だと思います。
IPO前からインフォメーションミーティングの形で投資家とのコミュニケーションを行っており、上場後も四半期ごとに約100件のIR面談を実施しています。また、小売企業として店舗を実際に見ていただくことも重要だと考えており、店舗やDX開発拠点の見学ツアーを実施するなど資料では伝わりにくい店舗における取り組みやリテールDXを体験していただく機会を設けています。
さらにIR活動は基本的に内製化しており、英語版を含むコーポレートサイトや決算説明資料などの開示資料の作成、面談日程の調整を含む投資家対応もIR部が主体となって行っています。部内は若いメンバーが中心ですが、早い段階から投資家目線を持つことで、将来の経営人材の育成にもつながると考えています。
—IRを行ううえで重視されていることはありますか。
最も重視しているのは、1件1件の対話を大切にすることです。四半期ごとに多くの面談がありますが、投資家とのやり取りはすべて記録し、社内で共有しています。過去の議論や投資家の関心を踏まえて次の対話につなげていくことで、継続的な信頼関係を構築していくことが重要だと考えています。
また、IR部としては自社のことだけでなく、業界動向やマクロ環境も含めて説明できるようにすることを意識しています。小売業界は消費動向や競合環境の影響も大きいため、投資家との対話ではそうした視点も踏まえて説明していく必要があると考えています。
外部評価と課題
情報開示と対話姿勢が評価
—御社は日本証券アナリスト協会の2025年度ディスクロージャー優良企業(新興市場銘柄)に選定されました。どういった点が評価されたのでしょうか。
上場2年目で選定されたことは大変ありがたく感じています。具体的には、IR部が経営陣の代弁者として機能していることや、日英同時開示、決算資料やIRサイトの情報の充実などが評価されたのではないかと考えています。一方で、サステナビリティ開示はまだ発展途上であり、課題として認識しています。
—情報開示で重視している点を教えてください。
基本は、日本と海外、機関投資家と個人投資家にできる限り同時に情報を届けることです。そのため日英同時開示に加え、決算説明会のスクリプトやQ&A要旨の公開などを行っています。
また、計画未達などネガティブな情報についても、未達の理由やリカバリー策を決算資料で丁寧に説明するようにしています。ポジティブな情報だけでなく、投資家が判断するために必要な情報をできる限り開示することを意識しています。
—投資家との対話にも積極的に取り組んでいますが、その中で最近多い質問は何でしょうか。
西友の完全子会社化についての質問が多く、統合シナジーの具体的な中身やM&Aに伴う借入金の返済見通しなどについて関心が寄せられています。西友の子会社化によって、人口が増加している東京を中心とした首都圏において、事業展開を一段と強化することが可能になります。また、TRIAL GOという小型店舗の展開においても、都市部の駅前に立地する西友の店舗は、TRIAL GOへの商品供給を担う拠点(母店)として活用できる点も魅力的です。さらに、東京の駅前立地は来店客数や視認性の面で取引先メーカーにとって販促価値が高く、店舗内に設置するデジタルサイネージを活用した広告媒体としての機能を強化することで、将来的には新たな収益機会になると考えています。
—改善点や課題についてお聞かせください。
サステナビリティやESGの開示を課題と考えています。CO₂排出量や女性管理職比率などの定量KPIの開示は、これから整備していく段階です。
ただトライアルには、流通小売業界の「ムダ・ムラ・ムリ」をなくすという考えが、創業時から受け継がれてきたDNAとして根付いています。社名の「トライアル」も挑戦を意味しており、社会課題の解決に取り組んできた歴史があります。
そして、この実現は当社1社だけで成し遂げられるものではなく、メーカー、卸、広告代理店、IT企業などとのパートナーシップが不可欠です。最近では他の小売企業とも協業し、流通小売業界の課題を業界全体で解決する取り組みも進めています。
事業の展望とメッセージ
適切な企業価値評価につなげることがIRの役割
—今後の事業展望と、その中でIRが果たす役割、重要性についてのお考えをお聞かせください。
IRの役割は、資本市場が想定している企業価値と会社が目指している企業価値のギャップを埋めることだと考えています。今後の事業展望を語るうえで、西友への大きな投資は切り離せません。投資家からは財務リスクとして見られる側面もありますが、当社としては大きな成長余地があり、そのための強力なアクセルになると考えています。
その価値を資料や対話を通じて丁寧に説明し、資本市場に正しく理解していただくことで、適切な企業価値評価につなげていくことが今のIRの最も重要な役割だと考えています。
—グロース市場を目指す会社にIR活動についてのアドバイスやメッセージをお願いします。
当社はIPO前から決算説明資料と決算発表後の想定Q&Aを毎四半期作成し、社内で模擬説明会を行っていました。IPO後の決算説明会に向けて、事前に準備しておくことは大切だと思います。
また、IRは単なる情報開示ではなく、経営の考え方や事業の価値を資本市場に伝える重要な役割を担います。投資家との対話を重ねながら、自社の強みや戦略に加え、マクロ環境や競合企業の動向を自分の言葉で説明できるよう準備しておくことが重要だと感じています。