上場会社トップインタビュー「創」

C Channel株式会社
  • コード:7691
  • 業種:小売業
  • 上場日:2020/05/25
森川 亮(C Channel株式会社)

「日本を元気にしたい」と起業

森川 亮(C Channel株式会社)インタビュー写真

 今、若い女性を中心にインターネット上で人気を集める動画メディアがある。その名は『C CHANNEL』。ここではヘアアレンジやメイク、ネイル、レシピ、コスメの5カテゴリーを主軸に若い女性が求めるあらゆる情報が、毎日、短尺動画で配信されている。

 情報を発信するのは、同世代のタレントや読者モデルなどの「インフルエンサー」だ。『C CHANNEL』は、彼女らとともに動画コンテンツを作り出している。

 この『C CHANNEL』を立ち上げたのは、元LINE株式会社代表取締役の森川亮さん。2015年、急成長するLINEを辞め、約10人でC Channel株式会社を起業した。多くの企業からのオファーを断って起業した理由は、「日本を元気にしたいから」。

「若いときは自分中心だったり、経営者になってからは会社中心でしたが、50歳を目前にすると、あと何年生きられるんだと思うようになって、『自分は社会にまだ何も残せていない』と考えるようになりました。私は高度成長期に子供時代を過ごし、バブル絶頂期に日本テレビに就職して日本が元気な時代を過ごしてきましたので、その後ソニー、韓国のハンゲームジャパン(現LINE)と転職する中で、どんどん日本の力が失われていくことに危機感を感じていました。もっと日本の素晴らしさを発信したい、日本を元気にしたいと思うようになって、それと次の世代に何かを残さなければと、『日本を元気にする一つの事業体を残すことができれば、次の世代に向けて価値あることになる』と考えたのです」

新しい仕事、新しい職場をつくる

森川 亮(C Channel株式会社)インタビュー写真

 それ以来、森川さんは日本を元気にするために何をしたらいいのか、ずっと模索していたそうだ。教育分野やヘルスケア分野も考えたが、これまでの経験から新しいメディアを立ち上げる道を選んだ。まだ世界的にみても新しい縦長動画のコンテンツで、『C CHANNEL』は5年で国内のネット動画メディア分野で最大級の規模に成長した。しかし本番はこれからだと森川さんは語る。

「我々のターゲットは5Gの時代です。そこではIoT機器のすべてがモニター化していくと予想していて、街角にある看板も、腕時計もモニターになっていく。つまりすべての情報が動画に変わっていくでしょう。そのとき動画とコマースがどうつながっていくか。ここに我々の期待があります。今後3~5年で情報の発信側も受信側も、ダイナミックに変わると思います」

 そこでC Channelは、どう日本を元気にしていくのか聞いてみた。

「最近、よく考えているのは、個人をどうやってエンパワメントできるかということです。我々の動画メディアを活用して多くのインフルエンサーが生まれていて、これを大きな職業に育てたいと思っています」

 森川さんが考えるインフルエンサーは、芸能人やモデルなど一部の特別な人ではない。マイクロ・ナノインフルエンサーと呼ばれるフォロワー数がそこまで多くなく、「親近感」を感じる一般の人が"情報を運ぶ"プラットフォーム「Lemon Square」を作っているのだ。これから日本国民全員がナノインフルエンサーになれる仕組みを作って、web接客やweb上の情報発信などいろいろなサービスを生み出し、人々が活躍できるプラットフォームを育てようとしている。AIの進展が人の仕事を奪うのは確実だと森川さんは語る。だからこそ、新たな職業と新たな職場を生み出すプロジェクトを発進した。

なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

森川 亮(C Channel株式会社)インタビュー写真

 当初はTOKYO PRO Marketを経由せずに直接マザーズに上場することを考えていたそうだ。しかし、マザーズ上場のハードルは高く、先行投資による赤字経営を継続する成長路線よりも、しっかり黒字化しようと経営方針を変えた。まずはTOKYO PRO Marketに上場することにより成長速度を加速させ、そこから次のステージを目指すという路線だ。この選択に、既存の株主をはじめ、C Channelに着目している関係者たちはざわついた。未だ実績の乏しいTOKYO PRO Marketに上場するメリットは何か?

「上場の目的として、私にとって一番重要なのは、社会にパブリックな会社であると公言することでした。投資家の方にはパブリックな会社になるとずっと説明してきましたが、外から見るとわからないところもあります。それが今回、TOKYO PRO Marketへ上場したことでオープンな会社になって、取引先や社員・その家族からも安心感を持っていただいたと思います」

 しかし、ベンチャーキャピタル等の既存株主からは、TOKYO PRO Marketに上場した後はどうなるんだと危惧する声がもれていたそうだ。

「私はTOKYO PRO Marketへの上場をゴールにするつもりはまったくなかったので、『成長していく一つのプロセスです』と説明してご理解いただきました。もちろん、ここで上場せず数年後にマザーズを目指す方法もありました。比較した時にどちらがプラスかと考えると、私は早く上場した方がプラスだと思ったんです。そのプラスとは、一言で言えば『信頼を得る』ということです。会社対会社の関係から言えば、上場は信用の証明書になります。東京証券取引所は海外からも信頼されていて、営業がしやすくなり問い合わせも増えました。経営方針を変えて黒字化が見えてきて、私としては上場の目的が果たせたと思っています。ここから次のステージに行くのは我々の責任ですので、できる限り、最速に実現したいと思っています」

TOKYO PRO Marketの位置づけ

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 驚きを持って迎えられたTOKYO PRO Marketへの上場を、森川さんは楽しんでいるかにも見える。「実は」と前置きして、「私たちの今回のチャレンジはTOKYO PRO Marketを変えたいという気持ちもあるんですよ」と笑った。

「確かに、ベンチャーキャピタルから多くの投資を受けてTOKYO PRO Marketに上場するのは異例でしたが、これがディファクトになるきっかけになればと思います。日本におけるTOKYO PRO Marketの位置付けは、スタートアップ企業が長期成長に向けた体制を整える場だと思います。いきなりマザーズに上場すると、日本の場合は個人投資家が多いので、何かあったときのボラティリティが高く、経営がそれに引っ張られてしまうところもある。でもTOKYO PRO Marketは、個人投資家の参加が制限され、いわゆるプロ投資家がしっかり評価をして株価がきちんと算定されるマーケットなので、起業家にとって非常にプラスになる場だと思っています。会社のビジョンやサスティナビリティ、SDGsへの取り組みも含めて評価いただけることが重要なポイントです。もともと日本の経営は、長期目線でやってきたときに強みが出るところがありましたが、四半期を意識した経営をしなくてはならないことが多くなり、腰を据えた経営ができにくくなっています。ですからスタートアップ時はこの市場で力をつけるというのは、とてもいい方法だと思います。若い企業にどんどんチャレンジしてほしいですね」

 実際、森川さんの周りの会社の経営者でTOKYO PRO Marketに上場したいという方が増えているそうだ。最後に若い経営者へのメッセージを求めると、「上場がスタートという考えを持って、ぜひ早くスタートしてほしい。日本の社会に貢献するいろいろな会社を、皆さんと一緒に作っていきたい」と返ってきた。バブル世代の森川さんが、社会に価値を還元する事業体の作り方を見せてくれる。その背中を見ながら多くの若い経営者が続いていくだろう。

(文=宇津木聡 写真=高橋慎一 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2020/11/16

プロフィール

森川 亮(C Channel株式会社)プロフィール写真
森川 亮
C Channel株式会社 代表取締役社長
1967 年
神奈川県生まれ
1989 年
筑波大学情報学類情報工学専攻卒業後、日本テレビ放送網株式会社入社
1999 年
青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程(MBA)修了
2000 年
ソニー株式会社に入社
2003 年
ハンゲームジャパン株式会社(現 LINE)に入社
2007 年
同社代表取締役社長に就任
2015 年
3月に同社代表取締役社長を退任、4月にC Channel株式会社代表取締役社長に就任

会社概要

C Channel株式会社
C Channel株式会社
  • コード:7691
  • 業種:小売業
  • 上場日:2020/05/25