2022年01月29日
J-REITウェブIRの祭典「J-REITファン2022」オンラインで開催
【特別講演】2022年の不動産市況とJ-REIT市況の見通し
不動産エコノミスト 吉崎 誠二氏
J-REIT投資のための地価動向と見通し
J-REITには、不動産投資と投資信託という2つの側面があります。具体的には、配当狙いか価格上昇狙いか。J-REITはその両方を狙っていく「不動産投資と株式投資のいいとこ取り」と考えたいですね。不動産を小口化して証券化した金融商品なので、J-REITの投資口を買うということは不動産の一部の権利を買うということ。不動産市況を理解・予測するために、一般の人がわかりやすいアプローチを2つ紹介します。
1つが、地価動向からのアプローチ。もう1つがマンション市況からのアプローチです。
まず地価動向からのアプローチ。3大都市と地方圏の地価公示の推移を見ると、2020年が伸び盛りで、とくに地方4市が顕著でそこから下落傾向になります。大都市圏はわずかにマイナスもありました。20年の地価公示はコロナ禍の影響はほとんどないので、21年から若干ネガティブ。しかし、22年は戻っていると見ています。
不動産価格にはサイクルがあり、これまで7年周期で動いてきました。ここにきて、コロナ禍やかなり長期の金融緩和政策などもあり、このサイクルが崩れるという見立てもあります。そうなると22年がひとつのヤマ場になるかもしれません。
地価について覚えておくとよいことがあります。それは、上昇も下落も首都圏が最初で、次に大都市圏、さらに地方圏へと順番に広がっていくことです。あくまで、これまでの特徴ですが。そして、上昇も下落も、商業地から住宅地への順で反応があります。こう考えると、J-REITも「この銘柄は先に動くな」「この銘柄はこれからかな」ということが、地価の側面から見てわかると思います。
近年のマンション市況
もうひとつのアプローチであるマンション市況。マンションの成約率や価格には新築と中古の情報があるのはご存知かと思います。中古マンションの価格推移は新築と比べて上がり加減のぎざぎざが少ないというかスムーズ。反応がきれい出るということですね。
中古マンションの市況はほとんど右肩上がりで、首都圏とくに東京などはバブル期を超えるような水準で、かなり高くなっています。一方の新築マンションは、最近の新規発売戸数が減ってきています。これはマンション適地不足が大きな理由とされています。
中古マンションでいえば、在庫件数と新規登録件数を見ておけば、この先上がるか下がるかわかります。明らかにいまは在庫が減っています。つまり、需給バランスとして「買いたい人がいる」という前提に立てば、売り物件が減っているので価格はしばらく上昇基調にあるのではないかと。中古マンションの市況は22年中盤から後半あたりまでは好景気が続くのではないでしょうか。
実物不動産投資とJ-REIT投資の違い
J-REITの価格変動要因は株式投資と同じで、基本的に需給バランスで決まります。バランス変化の要因としては、マクロの環境要因と個別要因で、個別要因が株式とちょっと違います。具体的には、スポンサー企業の将来性やプロパティ別の将来性、物件の入れ替え、売却益などです。
実物不動産の投資において、一般の人が物件を買うときにどれくらい情報が開示されているでしょうか。宅建業法で決められた重要事項説明書がありますが、それを一般の人がどこまで理解できるのか疑問が残ります。一方のJ-REITには、開示情報がかなり細かく決められています。高い透明性がJ-REIT投資の大きな特徴のひとつです。
実物不動産には、ある程度の目利きが必要です。一概にいえませんが、おおむね優良物件は一般に出回らない不公平な市場ともいえます。高利回りの物件もありますが、その判断も難しい。利回りもさまざま、分散が効きにくい、1案件あたりの投資金額は極めて高い、情報開示にばらつきあるなどのデメリットがあります。メリットとしては、借り入れ対応ができるので、節税効果が期待できることです。
一方のJ-REIT投資はどうでしょうか。基本的に株式と同じで自己資金で投資します。プロのアセットマネージャーが目利きとなり、優良物件のみ投資可能。銘柄によって利回りはまちまちで、3.5~6%ですが、REIT市場全体としてはおおむね3.5~4%に収れんされています。個別不動産をポートフォリオ化しており、タイプやエリアなどで分散されています。
投資家はJ-REITを通じて不動産投資を行っているわけですが、実物不動産における情報の非対称性などを考えると、J-REITは公平な世界だといえます。ここが実物不動産投資とJ-REIT投資の大きな違い。実物に詳しくて有利な立場の人でなければ、J-REITの方が安心安全で、適正かつ公正公平に取り引きができるのではないでしょうか。
近年のJ-REIT市場について
最近の東証REIT指数は、ここ3か月は横ばいでしたが、年明けから2月に入って株式とともに軟調基調でした。この間、約10%程度下落しています。1月20日が底値で同28日あたりまで戻りつつあります。平均分配率は1月25日時点で3.85%。27日、28日と3.7%台になっていました。ちなみに21年末は3.52%でした。
プロパティ(タイプ)別ではどうでしょう。時価総額が大きいオフィスと東証REIT指数の値動きは似ています。オフィスは若干先に下落基調に入りました。住宅は最近かなり下げましたが、安定性という意味ではまあまあ。物流がかなりけん引、商業はまあまあというところでしょうか。
わたしはNAV倍率を重要視しています。NAV倍率は、株式投資におけるPBR(純資産倍率)と同じ位置づけ。株式投資でいわれている、会社を解散したときの価値と時価総額の割り算が純資産倍率。これのJ-REIT版がNAV倍率です。21年末のREIT市場全体のNAV倍率は1.14倍ですが、銘柄別に見ると0.53倍~1.53倍と、ちょっとばらつきがありますね。
金利と株価のゆくえ
テーパリングの完了と利上げはいま、ホットなテーマです。米国は完全に利上げの雰囲気ですが、マーケット関係者はすでに織り込み済み。我が国でも、不動産投資を下支えしたのが金融緩和政策であることは、いうまでもありません。金利がどっちに振れるのか。株式関係者はもちろん、不動産関係者もかなり気にしています。
FRB(米連邦準備理事会)は22年度内に3~4回の利上げをする見込みです。3月には上がることがほぼ明確になってきました。金利が上がると米国住宅市場の伸びはかなり鈍化するでしょう。
しかし、日本ではまだ緩和政策を続け、利上げはしないと思われます。これは、22年1月17~18日の日銀金融政策決定会合と黒田総裁の発言ではっきりしました。"兆し"としては徐々に引き締めにいくと見る人が多く、とくに原油価格の上昇が続いていることが大きいですね。私も22年4月以降のCPI(消費者物価指数)は1.5%以上と見ています。
不動産の景気は金利次第です。日本ではしばらく金利は上げないといっているので、ある一定期間、不動産の好景気は続くでしょう。ただし、インフレが少しずつ見えてきたら、また、どの国も利上げ基調に入ってきたら話は別になります。
インフレとJ-REIT市場
インフレは物価の上昇を招くので、資産を現金でもつのは不利になります。株式市場などにお金が流入してくる可能性が高く、インフレに連動する形で不動産価格や賃料が上昇する可能性は極めて高いと思われます。人々はインフレに強い資産をもとうということになるでしょう。代表的なのは金(ゴールド)や不動産ですね。この動きは加速すると思います。
不動産はインフレに強いといわれますが、J-REITはどうなのでしょうか。インフレで起こることを考えるとわかりやすいかもしれません。ひとつは金利が上がる可能性が出てくること。金利上昇は、J-REITの借り入れ利息が増えるということです。ゆえに、少なからず影響はあるでしょう。J-REITの開示情報を見ると、有利子負債のうちの借り入れ比率は高いところで50%、少ないところで30%台前半。実物不動産のように7~8割をローンで借りているのとはわけが違います。実物不動産投資ほどの影響は受けないのではないでしょうか。
固定金利で借り入れをしているJ-REITは、固定期間内は影響を受けません。変動金利のJ-REITは借り換えのリスクがあります。開示資料に明記されていますが、借り換え時期が先にあるほどリスクを帯びてきます。
賃料はインフレで確実に上がります。ただし、賃料には「遅行性」という性質があり、上がるのはインフレから数年後でしょう。また、賃料の「粘着性」もあります。賃料上昇がJ-REITに恩恵を与えるのは、しばらく経ってからだと思います。
J-REITのタイプ別の銘柄選び
銘柄選びのポイントをタイプ別(プロパティ別)にまとめてみます。あくまで私個人の判断であることにご留意ください。
オフィス系
- サイズの大きさが売りのひとつで安定感がある。大型ビルは大手テナント企業による安定感と収益性の高さが魅力。
- 一方で、退去時に空室を埋めにくいデメリットも。住宅系に比べて、賃料のボラティリティや新規賃料と継続賃料のギャップが大きい。
- コロナ禍の影響が広がったことで、リモートワークが定着しそう。コワーキングスペース拡大やワーキングスタイルの変化などで「郊外でもいいのでは?」という風潮も。期待値の不透明さが最近の勢いのなさにつながっているのかも。
- 2023年にはオフィスビルの大量供給がある。しかし、過去10年間よりも今後5年間の方が若干少ない。23年と25年は増えるが、超大型ビルではない物件が増えるのでは。
住宅系
- コロナショックで顕著になった住宅系の安定性。賃料を高く取れないので収益面は?
- 住宅特化型は東京の物件がとても多い。分散がどれほど効いているのか? 他のJ-REITと組み合わせたり、総合型で住宅系を組み込んだ銘柄を買う手も。
- 賃貸住宅の今後の展開を考えると、期待大か。
- 単独世帯数の予測が出ているが、予測と実数値は案外違っていて実際はかなりの勢いで単独世帯が増えている。
商業系
- 都市型と郊外型に分かれる。都市型は短期契約が多い。テナントが付きやすいといわれてきたが、コロナショックの影響をかなり受けている。郊外型は長期契約が多く、安定感がある。一方で、失敗するとインパクトが大きい。
- 最近は、生活密着タイプの商業系J-REITができたが、米国などで指摘されているコロナショックやEコマース拡大の影響は少ないだろう。
ホテル系
- 一時期ネガティブだった。天候や季節、災害などの影響を大きく受ける。一方でイベントがあれば大きく跳ねることも。
- 近年は伸びる余地が大きいと思われてきたが、コロナ禍の影響をモロに受けて苦戦中。
- 1銘柄を除いてNAV倍率が1倍を切っている。利回りも低調。
- いつまでも続くとは思えないので、若干のギャンブル性はあるが狙い目かも。
物流系
- 現在9銘柄と急増した。総合型/複合型を除くと、オフィス系の次に多い。
- Eコマースの進展に加え、好景気やインフレに強いとされている。
- NAV倍率はすべて1倍超えで、期待の高さがうかがえる。
- 他のタイプと比べると若干価格が高すぎるかも。
総合系
- オフィス、商業、住居などをバランスよく組み込む。そのバランス加減をよく見たい。事実上オフィス系という銘柄もあるので注意。
- 1銘柄でプロパティ別の分散が効くので安定感がある。そもそもリート自体が不動産の分散が効いたポートフォリオなのだが、さらにプロパティ別に分散。
- 利回りはおおむね、全体平均より少し高く推移している。
- NAV倍率1倍前後のものが多く、高からず低からず。
最後のまとめ
株式だけ、不動産投資だけ、現金だけでなく、J-REITの特性を理解してポートフォリオに組み込むことを考えたいですね。わたし個人も、一定程度は常にもっておこうと思っています。さまざまな判断があるかと思いますが、多くの方々にとってJ-REITをポートフォリオに組み込むメリットはあるはずです。
安定的なインカムゲインを期待できることが多いので、初めて投資する人は長期保有を前提にするのがよいでしょう。1銘柄を除けば、年2回配当です。慣れてきたら、投資銘柄を上手に組み合わせて、毎月分配型の投信のように定期的な収入を狙うことも可能です。
実物不動産投資は、借り入れ余力などの点で限界があります。実物不動産が好きな人も一定部分はJ-REITで保有にして、実物不動産のデメリットを補完する考え方もあります。
実物不動産投資とJ-REIT投資のもっとも大きな違いは透明性です。株式も、実物不動産も、J-REITもすべて、適切に情報を集めることが成功への近道。透明性の高いJ-REITであれば、初心者でも正しい情報を集めやすいのではないでしょうか。
- ※ 本記事は登壇者の発言を記者が独自に取り纏めたものであり、登壇者の発言内容を正確かつ網羅的に記したものではありません。
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取材・執筆:K-ZONE
