2024年10月07日

Jリート市場のさらなる活性化と持続的成長のために

発行体3社と投資家13社による対話と共有

日本株式の株価上昇が進むなか、金利上昇もあり、利回り商品である不動産投資信託(Jリート)の魅力が相対的に薄まりつつある。資産分散のための投資対象として、ここで中長期の成長戦略とさらなる活性化の施策をみんなで考えてみたい——Jリート市場を長年ウオッチしてきたSMBC日興証券のシニアアナリスト・鳥井裕史氏が、東証のサポートのもとで、発行体3社と投資家13社に声をかけ、考えを聞いた。その内容をサマリーでレポートする。

出席者(順不同)

《発行体》

  • 日本ビルファンドマネジメント 代表取締役社長 山下大輔氏
  • ケネディクス不動産投資顧問 代表取締役社長 浅野晃弘氏
  • KJRマネジメント 代表取締役社長 鈴木直樹氏

《投資家》

  • アセットマネジメントOne 林豊氏
  • 東京海上アセットマネジメント 増田顕範氏
  • 日興アセットマネジメント 髙本潤氏
  • みずほ信託銀行 小川剛宏氏
  • 三井住友トラスト・アセットマネジメント 栗原重光氏
  • しんきんアセットマネジメント投信 藤原直樹氏
  • 大和アセットマネジメント 新井一彦氏
  • 三井住友DSアセットマネジメント 新川淳之介氏
  • 三菱UFJアセットマネジメント 黒木康之氏
  • ニッセイアセットマネジメント 大島正久氏
  • 三井住友トラスト・アセットマネジメント 石田真澄氏
  • 明治安田アセットマネジメント 伊藤恵里氏
  • りそなアセットマネジメント 奥村敦子氏

《PART1》発行体が考えるJリート市場の現状と成長戦略

賃料水準の底上げと外部成長(日本ビルファンドマネジメント・山下氏)

鳥井裕史氏
SMBC日興証券
鳥井裕史氏

鳥井氏——まずは発行体3社から、自社とJリート市場の今後の成長戦略についてのお考えを紹介してください。

日本ビルファンドマネジメント・山下氏——今後のJ-REITの長期的な視点で求められるのは、DPU(1口あたり分配金)であり、そのためには賃料の上昇をベースとしたEPU(不動産等売却益を除いたDPU)の継続的な安定成長が不可欠だと考えています。

今後の施策としては、大きく2つの方向性を持って臨んでいます。1つは、賃料にフォーカスして入れ替え・更新時の賃料水準の底上げを図っていくこと。もう1つは、物件の入れ替えを含む外部成長によって賃料収入の拡大を加速化することです。

山下大輔氏
日本ビルファンドマネジメント
山下大輔氏

まず、賃料水準については、テナント各社様にしっかり理解していただくことが重要です。賃料水準は必ずしもインフレのみによって決まるのもではありませんが、テナント各社様も人件費や外注費の上昇について身をもって感じられていますので、一定程度のご理解はいただいているというのが足元の状況です。

外部成長に関しては、これまで物件の入れ替えも進め、ポートフォリオは筋肉質になってきています。一方で、個別には将来的なCAPEX(資本的支出)やマーケット回復局面における賃料の戻り方なども考慮しつつ、利益貢献をより加速するために、さらに数物件については入れ替えを積極的に検討します。

最後に今回の議論が短期的なマーケット刺激策にとどまらず、長期的なJ-REITマーケットの成長に資するものとなることを期待します。

含み益の積極活用と賃料開示レベルの向上(ケネディクス不動産投資顧問・浅野氏)

浅野晃弘氏
ケネディクス不動産投資顧問
浅野晃弘氏

ケネディクス不動産投資顧問・浅野氏——今Jリート市場の健全な成長という観点で2つほど申し上げます。含み益を積極的に活用して成長サイクルへの回帰を意識したリート運営と、賃料データの情報開示レベルの向上という2つが大事なのではないかということです。

デフレからインフレへステージが変わり、マーケットの雰囲気も投資家の皆さんの期待も変わりました。まさにJリートの転換期で、資産入れ替え等を通じてこれからはインフレに強いグロース要素を入れたポートフォリオにしていく必要があります。一方でご承知の通り、全Jリートの含み益は今合計で、5兆円以上あります。REITマーケットがこの様な時だからこそ、この含み益の一部でもどう活用していくかをもう少し考えてもいいと思います。例えば資産入れ替えを目的に物件を売却してキャッシュ化し、グロース型のポートフォリオに転換するための資金に回す。あるいは物件を売却してキャッシュ化し、株価が低調であれば自社株買いをする。分配金に乗せてもいいでしょう。もちろん我々も積極的に考えていきますが、この5兆円の含み益を新しいJリート市場へ転換することを意識した運用が求められるのではないでしょうか。

2つ目の賃料データの情報開示レベルの向上について。海外の投資家さんとミーティングすると、「日本は、どのくらい賃料が上がっているのか解りにくい」という声をよく聞きます。ある外資系コンサルが、日本の不動産マーケットにおける情報開示の透明度のアンケートを取ったら、日本は89か国中、11位だったとか。

Jリートは賃料改定の内容や稼働率などの開示精度はだいぶ上がってきていますが、それでも各社の決算発表を見ると賃料増減の割合や件数だけ開示するなど、REITによって賃料改定の開示項目がバラバラで、投資家から見た時にどれだけ賃料が上がっているのかわかりづらくなっているようです。インフレステージになると賃料増加が非常に注目されるマーケットになるので、Jリート市場全体で統一した開示スタンダードを決めると、透明性がさらに高まるのではないでしょうか。

期待感を抱かせるエキサイティングな成長ストーリー(KJRマネジメント・鈴木氏)

鈴木直樹氏
KJRマネジメント
鈴木直樹氏

KJRマネジメント・鈴木氏——我々は今、新しい投資家さまの開拓とインフレに勝つトータルリターンの提供を意識しながら運用しています。デフレ時代の低金利下で、債券や預貯金よりも相対的に高く安定した利回りを志向した投資家の需要は少なくなっていくでしょう。一方で、利回りだけでなく不動産というアセットクラスとしてのリターンを求める需要は、中長期的に増えていくと考えています。今はまさに過渡期的な状況といえます。

投資家さまは、皆さん同じようなことをおっしゃいます。「Jリートの投資口価格は今とても安い」「でも金利や金融政策もあるから、なかなか上がらなそう」。そして必ず「何かワクワクしない」「投資したいという気が起こらない」と。

インフレ環境下での安定した利回りの提供はもちろん、Jリートに投資して良いリターンが得られるという期待感をしっかり打ち出せるような運用。それがなければ新しい投資家さんはJリート市場に来ないし、株価も上がらないという危機感を持って取り組んでいます。

ワクワクするエキサイティングなストーリーというのは、単にキャッシュフローの成長だけではないでしょう。アメリカの例を見ると、M&Aなど大きなイベントがあります。我々も色々なことを仕掛けていきたいと思っているが、今の日本ではなかなか起こりにくい状況になっているというのも、Jリート市場の大きな課題のひとつなのでは、と認識しています。

《PART2》投資家の視座と市場成長への論点

アセットマネジメントOne/東京海上AM/日興AM

林豊氏
アセットマネジメントOne
林豊氏

アセットマネジメントOne・林氏——インフレ下においては、安定成長は実質マイナス成長であると考えます。Jリートはインフレヘッジ性を有していると言われますが、本当にそうなのか。キャッシュフローを構造的に維持してインフレヘッジ性を高めるためには、CPI(消費者物価指数)連動賃料や売上歩合賃料などの導入が必要なのではないでしょうか。

一方、それを実現するためには、商慣習的にも短期的には難しく長期的な課題であり、徐々にしか変化できないところがあります。その方向性に進みつつ、その間のつなぎとしては、資産入替による含み益還元などで、利益のインフレヘッジはできるぞと示すことで魅力を訴求していく必要があるのではないかと考えています。つまり、分配金の安定や嵩上げの為の売却ではなく、利益成長や構造改革の時間を買う意味での資産入替による投資家還元は必要なのではないでしょうか?

投資口価格の向上に関してはKJRマネジメント・鈴木様の意見と同じで、新しい投資家層の拡大が不可欠でしょう。例えば株式投資家に対しても、Jリートの魅力を再認識してもらうことが必要だと思います。

増田顕範氏
東京海上アセットマネジメント
増田顕範氏

東京海上アセットマネジメント・増田氏——私はJリート市場の立ち位置や選好の変化などの点を課題ととらえています。大きく3点あります。

1点目はJリートの相対的な優位性の変化。Jリートがローンチされて20年以上が経ちますが、その間にさまざまな投資商品が登場しています。投資家の皆さんの選択肢が広がるなかで、いまいちど差別化と優位性の向上が必要だと思います。簡単ではありませんが。

2点目は、ガバナンスです。各社とも投資価値向上を進めていますが、希薄化が想定される増資が断行されたり、不動産売買における不透明な取引価格など、まだまだ改善の余地がありそうです。上場企業のさまざまなガバナンス向上施策を見ると、Jリートの優位性が失われつつあるように感じます。

3点目は投資口価格のボラティリティとリスク選好。Jリートはローンチ以来、株式より少し下のミドルリスク・ミドルリターンの商品性でずっと変わっていません。ボラティリティはやや高めのままで低下していない。これを改善するために、流動性の向上が必要であり、例えば株価指数の構成銘柄にJリートを組み入れることも一考に値するのではないでしょうか。

髙本潤氏
日興アセットマネジメント
髙本潤氏

日興アセットマネジメント・高本氏——投資主価値向上に向けた取り組みと発信、レバレッジを十分に活かした利回り向上、流動性の改善。この3点がポイントになるかと思います。

レバレッジについて。現在の金利環境は未だに過去最低水準に近いところにあります。借入をして不動産を取得しても十分なリターンスプレッドが取れる水準ですので、レバレッジの活用を積極的に検討すべき時期だと思っています。

それに加えて、Jリートは簿価ベースのLTV(総資産に対する有利子負債比率)で管理しているところが多いのですが、実際に財務リスクを見るという意味では時価ベースの方がいいと私は思っています。Jリート投資家は、やはり分配金利回りを最重視しています。レバレッジ活用を含めて、利回り向上の取り組みを示すことが重要じゃないかなと思っています。

みずほ信託銀行/三井住友トラストAM/しんきんAM投信

小川剛宏氏
みずほ信託銀行
小川剛宏氏

みずほ信託銀行・小川氏——国内の年金資金を運用しています。国内年金に不動産投資を普及させたいという思いで、27年間やってきました。これまでの経験を踏まえながら、4点ほどご提案します。

①ポートフォリオ利回りを引き下げている低収益物件の早期売却②減価償却費および物件売却代金の合理的活用③投資家に支持されるM&Aの実施④積極的な情報発信——です。

最も期待しているのが、投資家に支持されるM&Aの実施です。異常な金融緩和から新規上場のハードルが下がり、時価総額が小さな銘柄も増えました。優良不動産を抱えるスポンサーは今、私募リートに流れている状況です。これを変えるべく、合併やスポンサー交代、さらには買収などによる非上場化も必要だと考えています。

栗原重光氏
三井住友トラスト・アセットマネジメント
栗原重光氏

三井住友トラスト・アセットマネジメント・栗原氏——自己投資口の取得と物件の売却、ESGが重要だと考えています。Jリートの投資価値は分配金。中長期的に分配金の安定成長が必要ですが、外部成長が困難な環境下では自己投資口の取得と物件売却益の還元が、投資家に対して重要なのではないかと考えています。

今年の夏もとても暑かったように、地球温暖化が続いています。気候変動リスクが不動産の収益性や資産価値、リファイナンス(資金の借り換え)を含めた資金調達にも影響を及ぼしています。中長期的な投資主価値の向上という観点から、継続的なESGの取り組み、改善も必要と考えています。

藤原直樹氏
しんきんアセットマネジメント投信
藤原直樹氏

しんきんアセットマネジメント投信・藤原氏——私からも3点。1つ目は、数字つまり根拠を示した成長戦略がほしいということ。2つ目は、保守的な決算発表は慎んでほしいということ。3つ目が、これまでも挙がっていましたが、成長が見えないJリートは合併などの再編で対処していただきたいということです。

最近では数字で示すJリートさんは増えてきましたが、できれば巡航EPU(1口当たり当期純利益)やEPUの目標値なども含め、その根拠をインカム戦略、キャピタル戦略、資本政策それぞれで、どのくらい上がるのかというところをストーリーを持って示していただければ。

内部成長にもしギャップがないところであれば、営業の仕方を変えたり、契約形態の見直しなどまで踏み込んでほしいところ。外部成長については、PO(公募増資・売出)ができないような環境であれば、LTVの余力を積極的に活用した取り組みを進めてほしいと思います。

大和AM/三井住友DSAM/三菱UFJAM

新井一彦氏
大和アセットマネジメント
新井一彦氏

大和アセットマネジメント・新井氏——Jリート市場の持続的な成長のために物件売却による売却益の実現と回収した資金での自己投資口取得による資本効率の改善を一層進めていくべきと考えます。

過去にJリート市場が大きく拡大できたのは、過去の金融危機などにより、実物不動産のキャップレートがまだ高い状態にあった一方で、資本市場ではJリート市場が先行して上昇、資本コストが低い状態にあったためと分析しています。公募増資による外部成長が一口当たり利益にプラスに寄与し、希薄化はあるものの、増資による正の循環が続き、規模が拡大しました。

一方で足元では、不動産価格の上昇が続き、キャップレートが極めて低い水準となるなか、Jリート市場は低迷が続いており、資本コストは高止まりしています。結果、過去の規模拡大局面とは逆の状況にあります。現状の環境において、市場全体としては、不動産を売却し、回収した資金で自己投資口取得を実施していくことが資本効率の改善につながり、投資口価値の上昇をともなって、今後の持続的成長につながるのではと考えています。

東京証券取引所からの資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いが企業の資本効率改善につながり、日本株の全体的な市場価値向上につながった事例もあり、配当性向100%から更に踏み出した投資家還元が期待できる市場であるというストーリーは投資口価格の改善につながっていくと期待しています。

新川淳之介氏
三井住友DSアセットマネジメント
新川淳之介氏

三井住友DSアセットマネジメント・新川氏——上場企業や海外のリート市場と比較して、Jリートには改善余地があると思います。観点は3つ。中期経営計画とキャピタルアロケーション、ガバナンス体制の再構築です。中期経営計画の考え方とキャピタルアロケーションに関しては、策定・公表・実行・更新というPDCAの実施を提案します。

ガバナンス体制の再構築については、Jリートのコーポレートガバナンス・コードの策定を求めたいと思います。具体的には、上場企業と同様に運用会社に監査、指名、報酬委員会を設置。運用会社の取締役と委員会には、その独立性を確保するために、それぞれの委員会に社外取締役を過半に、議長は社外取締役とします。役員報酬はKPIを開示して連動させ、株主と利害関係を一致させるようなインセンティブを導入します。Jリート投資口での役員報酬の支給もあるでしょう。

黒木康之氏
三菱UFJアセットマネジメント
黒木康之氏

三菱UFJアセットマネジメント・黒木氏——皆さんの意見をお伺いして、やはりJリートは差別化が必要なフェーズに来ていると思いました。東京海上アセットマネジメントの増田さんがおっしゃったように、例えば私募リートやプライベートクレジット(ファンドによる企業融資)などと安定性を競ってもタフな比較になってしまうのかなと。

金融市場における安定性の部分はある程度担保しつつ、そのダイナミックさの中に飛び込んでしまうことも考えるべきなのかもしれません。

ニッセイAM/三井住友トラストAM

大島正久氏
ニッセイアセットマネジメント
大島正久氏

ニッセイアセットマネジメント・大島氏——株主資本コストを意識した経営の導入とレバレッジについてご提案します。投資家と発行体が議論して株主資本コストに関する認識をすり合わせて管理していくことが必要です。

DPUとNAVが上がっても、Jリートの収益性が資本コストを上回っていなければ成長してもディスカウント要因になるだけ。現状は物件売却も含めたトータルリターンで見ていく流れにあり、バランスシートを効率的に使うことが必ず議論になります。そこでレバレッジをどう使うのか。先ほどもご指摘がありましたが、簿価ベースではなく鑑定ベースのLTVコントロールを重視すべきでしょう。

国内のリート投資家は当然ながらNAV倍率を意識しており、レンダー(調達先金融機関)も簿価に対するバリューではなく"時価レンダーバリュー"を重視しているはず。つまり、コントロールするレバレッジも簿価ベースではなく時価ベース、鑑定ベースというのが自然な流れだと思います。

石田真澄氏
三井住友トラスト・アセットマネジメント
石田真澄氏

三井住友トラスト・アセットマネジメント・石田氏——Jリート各銘柄のお話を聞いていると、それぞれで事情が違っていることがわかりますが、共通している課題も見えてきます。投資家の一般的な期待に応えているかということと、投資口価格に応じた対応ができているか、ということです。

現在の投資口価格低迷の理由としては、J-REITの運営に問題があるというわけではなくて、資金流入が思うように進まない、株式に対する注目が高まり過ぎていることだと思ってます。インフレに対応した運営は既存物件のポートフォリオの中で各々なんとか実現して、市場が回復して見直せるタイミングを待つ。今はちょっと我慢の時期だと考えています。

明治安田AM/りそなAM

伊藤恵里氏
明治安田アセットマネジメント
伊藤恵里氏

明治安田アセットマネジメント・伊藤氏——Jリート版のPBR改革の推進とコーポレートガバナンス・コードの策定、資産規模拡大によるインセンティブの是正が重要と考えています。

投資主価値向上に資する物件売却や自己投資口取得の障害となっているのが、資産規模に連動する報酬であると考えています。多くのJリートではこの報酬割合を引き下げてきていますが、さらに規模に連動する割合を引き下げる一方で、投資主価値に連動する報酬割合を引き上げることが大事であると考えています。

こうした取り組みでお互いの目指す方向性が同じになることで、将来のさまざまなコストが上がってくると思われる物件の売却を躊躇なく推し進められると考えています。

奥村敦子氏
りそなアセットマネジメント
奥村敦子氏

りそなアセットマネジメント・奥村氏——DC(確定拠出年金)でJリートに投資している個人投資家の目線で述べたいと思います。東証さんが上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」という要望を出しました。Jリートについても、そうした要望=共通指針を出してはどうでしょうか。例えばNAV倍率が一定水準を下回った場合、Jリートに推奨するアクションを共通指針として公表するなどです。

Jリート各社もそれぞれで取り組んでいますが、バラバラな感が否めません。私は普通株式も見ているのでその比較感で言うと、特に中規模ゼネコンなどは東証さんのこの要望をもとに経営戦略を変えて、新しい試みを積極的に出しています。Jリート市場でも共通指針を打ち出すことでもっと信頼されれば、個人投資家はより市場に入りやすくなるのかなと感じています。

《PART3》さらなる市場活性化に向けた対話

時価LTVを見ていく流れの中で比較条件をどう一律にするのか

鳥井氏——ありがとうございます。主な論点としては、資本効率の改善、含み益の活用、トータルリターン重視などがありました。LTVをいわば"直"で見る、M&Aの重要性、ガバナンスコードなども。発行体の皆さん、これらの意見を聞いた率直な感想を。

日本ビルファンドマネジメント・山下氏——投資家の皆さんからは安定成長より、むしろ大きなリスクを許容するというご発言が多かった様に感じ、やや驚いております。

ケネディクス不動産投資顧問・浅野氏——LTVを直で見るべきという意見が多数だったことは心強いですね。自社に持ち帰って議論したいと思いますが、その水準はどのくらいが適切とお考えなのでしょうか。

ニッセイアセットマネジメント・大島氏——海外だと時価で40%ぐらいですか。

鳥井氏——時価LTVは簿価より10%ぐらい低いイメージ。Jリートは簿価で45%くらい、時価で30%台というところでしょうか。

KJRマネジメント・鈴木氏——最近、LTVを時価で見るといった資料を開示したのですが、投資家様の反応は大きく割れました。「とてもいい。もっとレバレッジ上げてもいい」という方と「いやレバレッジは絶対下げないとだめ」という方。

みずほ信託銀行・小川氏——リーマン・ショック時には、物件の実勢価格が鑑定価格よりも急速に信じられないほど下落しました。年金は低レバレッジで安定した利回りを好むので、LTVに頼った資金調達はいかがなものかと。

三井住友DSアセットマネジメント・新川氏——基本どちらも開示するのがフェアだと思います。使うのは取得ベースでもいいですが、投資家によっては時価ベースで見てもいい。本来は基準を作るべきでしょう。Jリート全銘柄がlike-for-like(同一条件)で比較できる制度があれば、皆さん困らないと思います。

鳥井氏——確かに最も含み益を持っていそうな日本ビルファンドさんと、直近上場して含み益も何もない新しい銘柄を簿価LTVで横並びにするのはどうかと感じます。しかし、同じ土俵に上げることは重要なのかもしれませんね。

大和アセットマネジメント・新井氏——海外だと

大島氏——時価で見る流れに収れんされていくと思いますが、変えるタイミングが不動産価格が高い水準の今でいいのか、議論があって然るべきでしょう。

Jリートでも資本コストや開示内容の共通指針を設けるべきか

鳥井氏——Jリート市場でも資本コストに対する考え方の共通指針を出すことに対するご意見は。これは業界団体で議論すべき話題かもしれませんが。

KJRマネジメント・鈴木氏——資本コストの考え方に対する開示をJリート業界全体である程度決めて各社で実施していくことは可能だとは思います。しかし、我々の共通認識として、 開示に関する業務負担やコストは年々拡大しています。規模の小さい銘柄は本当に大変だと思います。

開示を充実してほしいという声は理解できる一方で、最近は開示してもほとんど反応がありません。皆さんからの質問も来ないし、株価も反応しない。正直なところ、開示をどこまで充実させるべきなのか疑問に感じることもあります。

アセットマネジメントOne・林氏——これは不要では?と思う情報もあります。写真を多く使った詳細な物件紹介情報は、新規取得の時だけで十分でしょう。

三井住友DSアセットマネジメント・新川氏——ケネディクス不動産投資顧問の浅野さんがおっしゃっていたように賃料データのトレンドがわかりづらい部分はありますね。重要な情報が欠けている一方で、エキストラの情報が多すぎる感じはしています。

KJRマネジメント・鈴木氏——我々も皆さんに分かりやすく開示できるようにいろいろ考えながらやっている。ただ、例えば、わざわざマーケット情報を買っても開示できない情報も相当多いということは、ご理解いただけるとありがたいですね。

鳥井氏——皆さんありがとうございます。発行体も投資家も、現在のJリート市場に対する危機感や問題意識を共通してお持ちだということがよくわかりました。特に投資家の皆さんは、思った以上に柔軟な考え方をもっていらっしゃるようです。

共通意見として出てきた新しい投資家層の拡充は非常に重要です。そのための具体的な施策は今後、市場関係者みんなで考えなければならない課題でしょう。

発行体と投資家の両方が集まってJリート市場の成長戦略について意見交換をする試みは、今回が初めてだと思います。今回出てきた意見は総論的なものが多かったので、これをきっかけに1つひとつもう少し掘り下げて、より具体化させていきたいですね。

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