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Vol.336 連載企画第七回「日本の家計のポートフォリオ選択」

日本人の金融リテラシーと資産形成に関する国際比較に関する論点考察
第七回は「日本の家計のポートフォリオ選択」です。


前回までは、各国の家計における金融資産の内訳を単純に比較するよりも、各国の経済制度や環境、それらの背景となる歴史的な経緯の違いを踏まえて考察すべきではないか、と申し上げました。
今回は、日本の家計における金融資産の内訳について考えていきたいと思います。

日本の家計のポートフォリオ選択、つまり、日本の家計における金融資産がどのように振り分けられているのかについては、大きく二つの特徴があります。

第一は、生涯を通じた株式への配分比率の推移です。
若年時は低く、一定年齢に達するとピークを迎え、その後死ぬまでの間に漸減すると言う点は、欧米と同じですが、ピークを迎える時期が日本の方がかなり遅い点です。
第二は、総資産に占める不動産への投資比率の極端な高さです。

第一の特徴は、金融リテラシー水準とは関係が薄く、日本の社会制度に依存しているものだと思われます。

これまでの日本社会は、新卒一括採用、及び年功序列型賃金・終身雇用を前提に入社し、退職時に纏まった退職金をもらい退職後の生活のための資金とするのが一般的でした。
会社の成長とともに自身の資産形成がなされるというインセンティブ設計になっていたのです。
これは、諸外国と比較しても極めて特徴的で、且つ、この日本特有のシステムと株式への配分比率ピーク時期の遅さは整合的だと考えます。

第二の特徴には、日本に良質な中古住宅市場が存在しないことが大きいのではないか、という説があります。
欧米と比べ木造家屋の比率が高い日本では、住宅の経年劣化が激しいため、中古住宅の資産価値の低下が大きいといわれています。
このため、中古住宅市場全般での流動性が小さいのです。

加えて、中古住宅の資産価値における情報の非対称性が大きいため、住宅投資が新築物件に偏る原因にもなり、結果として住宅関連負債額が大きくなっています。
さらに、中古住宅市場の未整備は、良質な賃貸物件を減少させているともいわれ、若年時からの過大な住宅投資の一因とも考えられます。

1980年代の不動産バブル崩壊後、不動産の資産価値は下落、それに応じて最近の家計における保有不動産資産額は減少しています。
しかし、持ち家率、持ち家家計の住宅関連負債額は、バブル期よりかなり増加しています。

今回挙げた二つが、日本の家計のポートフォリオ選択を特徴づけているのは間違いないと思います。


(金融リテラシーサポート部 石田 慈宏)

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      (聞き手)東京証券取引所 金融リテラシーサポート部 課長 石田 慈宏

記事紹介「歴史的な視点で経済や市場を学ぶ」

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証券やデリバティブ商品を売買できる市場(しじょう)。その仕組みができた背景や、経済にどのような役割を果たしているのか等について解説いたします。
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