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TSE教育ホットライン

Vol.346 連載第五回「澁澤栄一と東京株式取引所」

澁澤栄一が仕官することになった一橋家は所領の多くは武蔵国(今の埼玉県付近)でしたが、播磨国(今の兵庫・岡山付近)にも2万石程度の領地を持っていました。
栄一はその播磨の領地へ兵士の募集等の為に赴くことになります。
播磨の一帯は、当時は木綿の名産地で、多くの農家が綿花を栽培し、綿糸を紡ぎ、木綿を生産し、大阪で売っていました。
江戸期には多くの藩が藩内のそういった産物に専売制を布いていたのですが、その理由は、主に、藩としてその産業を保護育成するという事とその産業から藩益を得るというものだったといわれています。

ただ、江戸後期(文化・文政期以降)には流通貨幣である銀貨が払底しており、栄一の青年期の日本では特に横浜開港の影響もあって流通貨幣が減少して、
懸商い(信用取引)が多くなり、その決済上のトラブルが増加していました。
また、商業の流通が従来の大阪商人(町方商人)中心なのに対し在郷商人の台頭が著しく、
こういった地域物産の流通において資本力のある町方商人が、在郷商人を抑える目的で現金取引を強要する等があったため地方の経済活動に大きな支障を来たしていました。
これらの支障に対応すべく、各藩の専売制は、流通貨幣(藩札)の提供や町方商人との交渉力の担保や取引の円滑化といった機能を有するようになっていました。

栄一が担当した一橋家の播磨の領地では、そういった専売制が取り入れられておらず、一橋家領内の木綿農家は隣藩の農家に比較して著しく競争力を失っていることに栄一は直ちに気が付きます。
栄一は、領内の木綿を一括して買い上げる御物産会所を作り、同時に、その木綿を買い上げる際に、藩札で支払う(藩札を発行する)という制度を機敏に立ち上げます。
さらに、大阪に木綿の専売所を設け、大阪商人と交渉して販売経路を確保します。
加えて、藩札の発行では、銀兌換(いつでも流通銀貨と交換できる)の為の銀貨を領内商人から借り入れつつ、領内で滞りなく藩札が使用できるように関係各所と調整したのです。

これによって、播磨の一橋家領内の木綿産業は活気を取り戻します。
また、発行された藩札もほとんど銀と交換されることなく流通し、借入れて余った銀の半分は大阪の両替商に貸し出して利息収入を得るほどでした。

栄一が播磨で行ったこれらの経済改革は、栄一のオリジナルとは言えませんが、栄一が自ら企画し、調整し、実行し、成功させたものです。
栄一はこの体験を通じて、貨幣と商業の根本的な関係や貨幣を発行するという実務上の問題、
そして兌換用の銀の調達時に、資本を借りて資本の不足している箇所にそれを流通させるという現代金融に通じる金融に関するもっとも根源的な体験と、それへの直感的な理解を得たのです。

栄一は、経済や金融を大学や専門家から理論的に学ぶという事は生涯ありませんでした。
しかし、この藩札発行体験が結局、澁澤が金融実務家として日本に近代銀行制度を創り、株式会社制度、証券取引制度を創る為の最も基本的な知識を与えることになったのです。

(金融リテラシーサポート部 石田 慈宏)

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