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Vol.352 連載第十一回「澁澤栄一と東京株式取引所」

第一国立銀行の設立にあたり、資本を広く調達する仕組み、つまり株式会社制度が国立銀行条例という法律を伴って日本に導入されたことで、資本を出資した事の証書である株式を所有していると、出資先の企業の利益の配分を配当という形で受け取れるようになりました。
一方で、投資家がその出資を途中で取り辞めたいときに、出資先の企業が出資金を返還してくれるのかというと、その出資金は設備などへ企業が投資しているため返還はできません。
株式を通じて出資を行うというのは、単純にその企業にお金を貸す事とは異なるわけです。
株式を通じて会社に出資して株主になった投資家は、その出資金は、配当金として回収するか、その株式を別の人に譲渡することで回収する事になります。

澁澤は米国の完全な株式会社であるナショナルバンク制度を日本にそのまま導入するために国立銀行を株式会社化したわけですが、米国では株式を自由に譲渡するための取引所がニューヨーク証券取引所を筆頭に各地に存在し、鉄道株等が一般で売買され、流通していました。
つまり、株主は比較的自由に投資資金を回収する事もできたわけです。
澁澤達は、米国で株式がそのように売買されて流通する事はよく知っていましたが、彼らにとって当時、株主とは第一義的には会社の所有者ですから、株式が転々と流通する必要性についてそれほど関心が高かったとは言えません。

第一国立銀行は、事実上、三井組と小野組が株式を分け合って所有する「合本銀行」で、かつ、三井組も小野組も第一国立銀行の経営権を両者でほぼ占有しながら、新しい国立銀行条例によって定められた有限責任によって、その出資金以上の経営責任を負いません。
その他の投資家にとっては、いったん出資してしまうと三井組や小野組を信用する以外になく、三井組や小野組から単純に証文をとってお金を貸す事に比べてメリットが見えません。
現代の言い方をすれば、出資金が回収できないリスクが高く、出資のリターンが得られる不確実性も高く、株式を通じた出資のメリットがよくわからない状態だったのです。

澁澤は一般株主の公募の不調を通じて、株式の流通市場が無ければ、経営権そのものを持つことが無い投資家が出資するメリットが非常に小さい事に改めて気が付いたわけです。

澁澤はこのことから株式取引所の整備を政府に強く働きかけていくわけですが、現代でも株式市場で株式が売買される事の意義が誰にでも理解されているとは言い難く、当時の澁澤の取引所必要論はほとんど理解されていなかったのです。

また、当時は、大株主がそのまま経営者になり、会社の経営権と会社の所有権の分離が充分ではなく、経営者即ち大株主と経営権をもたない一般株主という形でしたから、株式会社制度そのものへの信用は経営者に対する信用とイコールでした。
したがって、澁澤個人が世間から信用されるということは、経営者の信用を補完する意味で、生まれたばかりの株式会社制度には無くてはならないものでした。
それはまた別途お話することとします。


(金融リテラシーサポート部 石田 慈宏)

先生のための「冬休み経済教室」開催しました/経済教育ネットワーク

1月8日に先生のための「冬休み経済教室」を開催いたしました。
一部対面形式をとりつつ、オンラインの併用でたくさんの方に参加いただきました。
今後とも、皆様にお役立つ情報などを発信していければと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

見学ツアーの中止について

東京証券取引所及び大阪取引所は、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえ、一部の見学ツアーを再開しましたが、今般の急激な感染拡大に伴い、まん延防止等重点措置の適用期間中(1月21日(金)から2月10(木)までの間)は見学ツアーを中止させて頂くこととしましたので、ご案内申し上げます。
ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。