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Vol.353 連載第十二回「澁澤栄一と東京株式取引所」

前回までは、国立銀行を中心とした株式会社の創設や、株式会社制度の為の証券取引所設立といった側面をお話しましたが、今回は別の面からの証券取引所設立の動きをお話します。

それは、大量の公債(今の国債の様なもの)の発行・流通に対処する為には公的な証券取引所の設立が必要になったというお話です。

徳川幕府が倒れて明治政府が誕生するわけですが、徳川幕府が負っていた債務の多くは明治政府が引き継いでいます。
その代表的なものが、いわゆる武士と呼ばれる階層の人々が帰属する、各藩の藩主から受け取っていた秩禄と呼ばれる給与に関する債務です。

当初の明治政府予算の4割にも相当する秩禄債務について、明治政府は、士族(元武士)の経済的自立によって徐々に解消しようと考えました。
そこで、秩禄を自主的に返上した者に、秩禄数年分を経済的自立のための起業・開業資金として貸し付けるのですが、そのお金ですら明治政府には余裕がなく、7年以内に全額支払う事とし、そこまでは利息を支払う事としました。
これが、明治6年に発行された秩禄公債です。
秩禄を自主返納する武士にはこの公債が渡されました。
当時、全国での士族は42万戸で、その1/3にあたる約13万5千戸の士族が応じたとされています。
記名式で、外国人への譲渡は禁じられていましたが売買は可能でした。
さらに、3年後の明治9年には、残りの士族すべての秩禄が強制的に停止されます。

その後、その代わりに、条件は秩禄公債よりは悪いのですが、同じように士族に起業・開業資金を提供するという趣旨で、利息付き(利払い期間は15年程度)で30年以内に償還される金禄公債が発行されて、全ての士族に渡されました。
これで、秩禄・金禄併せて50万人近い個人が国債を所有する事になりました。

償還は抽選で行われたので、まとまった資金がすぐに必要な場合はそれを売るしかありません。
また、利息は秩禄を喪った士族の生活を賄えるものではなく、多くの士族が明日生きる為にこれを直ちに現金化する必要に迫られていました。

一方で、明治政府はこれらの公債を現金化しないでも、公債のままで銀行に出資することができるように、国立銀行条例を明治9年に改正しています。
士族の経済的自立支援事業を士族への授産事業というのですが、明治政府はその授産事業と、前回までにお話した、民間資金による国立銀行整備をセットにして考えていたわけです。
判りやすく言うならば、『失業した士族の皆様。お渡しした公債で新しい銀行を設立し、銀行員として働いたり、銀行の経営者となったりして、銀行業から利益を得て今後は生活してください』というわけです。

士族の中には、これに応じてそれぞれの地元で新しい銀行設立に挑戦した士族もいましたが、多くはただ、市中でこの公債を現金化してくれる人に、相当安価で売却していました。
こういった士族から公債の買い取りを行っていた者の代表格が、横浜で外為業をおこなっていて、後に東京に活動拠点を移した新興の金融業者達でした。
彼らは、横浜で蓄えた資金を基に、士族から安く公債を買い取り、新興の銀行に出資する形で売るわけです。
銀行には現物出資も可能でした。
しかし、それより安く公債(資本)が手に入るので、積極的にこれを買い取りました。

こういった公債の売買は、明治9年以降一気に加速し、あっという間に大きな私的市場を形成します。
士族から買い取って銀行に売るというだけではなく、いわば買い取り業者間で公債価格の変動を狙った投機的な売買の方が大きくなり、その投機的な動きによって、士族からの公債の、さらなる買い叩きのような事態も招きました。
全国で経済的に困窮する不平士族が反乱を起こすような状況下にあって、明治政府はこういった私的な公債市場を、早急に公的な管理下に置き、公正な公債価格の形成を行う必要に迫られて行きました。


(金融リテラシーサポート部 石田 慈宏)

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