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Vol.354 連載第十三回「澁澤栄一と東京株式取引所」

今回は、まず「金融」に関して少しご説明させていただいた後で、これまでの続きをお話しさせていただきます。

金融には大きく分けて2つの機能があります。
一つは人々の間で交換を仲介する機能であり、もう一つは人々の間での資金の流れを仲介する機能です。
これらの機能が実体経済と関わって存在している姿全体を、金融システムと呼びます。
金融システムは古代から現代にいたるまで徐々に発達してきたと考えられていますが、その発達段階は大よそ3段階あったとされています。

第一段階は、多様な貨幣(金属の鋳貨)が流通するようになり、その貨幣の両替や、農業や商業に必要な資金を提供する貸金業として現れます。
西欧では古代アテネやローマでそのような金融システムが存在しました。
日本でも、古代から出挙(すいこ)と呼ばれる農業用の貸金等が存在しています。

第二段階は中世と呼ばれる時代に登場する『為替手形』が流通する金融システムの段階です。
西欧では商業の発達とともに、大口の資金決済が、この頃登場する銀行の口座簿上で決済されるようになります。
現金そのものは預金残高として取り扱われました。
銀行は手形の決済が行われるまで、手形の割引等によって信用を供与する(預金通貨を発行する)という機能を提供しはじめます。
日本でも、鎌倉後期から室町期には為替手形が利用され、江戸期には両替商という人たちが、大坂-江戸間で当時の西欧の銀行に劣らない資金決済機能を提供しています。
この頃から、西欧では印刷技術の発達もあって、国王等の大きな債権が小口化された債券として券面が発行され、私的に流通するようになります。

そして金融システムの第三段階が金融市場の形成です。
金融取引は規格化されたIOU(借用証書)を以て金融市場を通じて行われる様になっていきます。
世界で最初の証券市場は1608年に設立されたオランダのアムステルダム証券取引所ですが、そこでは世界で最初の株式会社とされるオランダ東インド会社の株式が取引されていました。
また、1611年に設立されたアムステルダム銀行は銀行券を発行しました。
そして、この銀行券がいわば世界で最初の基軸通貨として用いられ、世界中の貿易の決済が、アムステルダム銀行券でアムステルダム銀行口座を通じて行われました。
東インド会社株券の売買の決済も、アムステルダム銀行で行われたのです。
オランダで先進的に始まった金融の仕組みは、小口の資金を集めて低利で大型のプロジェクトに融資をするという「ダッチファイナンス」と呼ばれる現代的な金融システムの基礎となり、やがてこれらが、英国ではイングランド銀行に受け継がれ、ロンドン証券取引所へと発展していきます。

さて、日本では、明治政府が公債を発行し、一方で渋沢が第一国立銀行を設立するというお話までしましたが、西欧において発展した、進んだ「第三段階の金融システム」は日本では存在していませんでした。
しかしながら、前回までにお話したように、日本では国立銀行の設立に伴い、株式会社制度と発券銀行制度を導入するという事になり、渋沢や明治政府は、西欧で発達した第三段階の金融システム、すなわち、金融市場を日本に導入しなければならないという事に行き着いたのです。

西欧においては第三段階への移行過程で、17世紀から18世紀という200年間の時間を要しましたが、渋沢達にはその時間は無く、しかも歴史的背景が何も無いところへ、いきなり金融市場つまり、市場型金融システムを導入しなければならなかったのです。

渋沢栄一は、西洋に学び、日本で最初の銀行を創りました。
日本で最初の証券取引所の開設に尽力しましたという単純な話ではなく、急速に日本の金融システムを最終段階へ移行させようとして、なんとかそれをやってのけたのだという事がとても重要なポイントなのです。


(金融リテラシーサポート部 石田 慈宏)

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