教育支援プログラム for TEACHERS / PARENTS 教育支援プログラム for TEACHERS / PARENTS

OCOSO

メインインタビュー
(株式会社タカスジ代表取締役 和田幸子さん)

自らも抱えていた家事の悩みを、新しい形の代行サービスで解決できるようにと起業した和田幸子さん。働き手に高い報酬を確保しながらも、利用者には低価格で質の高いサービスを創り出し、自分らしい生き方やキャリアアップをサポートする。

共働き世帯増加の陰に家事の負担を嘆く女性の声

専業主婦世帯と共働き世帯
「自分自身が、日本で一番家事について悩んでいる人間と思っているんですよ」と笑うのは、「家事をシェアする」という新しい考え方で「タスカジ」を起業した和田幸子代表取締役。
近年、夫婦共働きによって経済的な安定をめざす傾向が着実に強まっている。その一方で、和田さんのように「掃除、洗濯、料理に買い物。日々やらなければいけない家事がありすぎて、どうしたらいいかわからない」と嘆く声も多い。
家事を外注するには、①企業から専属スタッフを派遣してもらう、②自治体のシルバー人材センターから人材を派遣してもらう——などの方法があるが、現在、注目を集めているのが、家事の得意な人と頼みたい人を専用サイトで直接つなぐマッチングシステムだ。中でもタスカジは、気軽に利用しやすい価格で質の高い家事スキルを提供し、話題となっている。

ニーズに合ったマッチングで企業が成長へ

家事支援サービス行の推計市場規模
2013年11月に起業し、今年で5年。利用者は4万人を超え、世代は30代、40代が8割を占める。首都圏や関西圏をはじめ、地方自治体からの依頼も受け、滋賀や秋田へもエリアを拡大中だ。
一方、登録しているハウスキーパー「タスカジさん」は、外国人を含む約1,300人が登録している。プロ並みの腕を持つ料理上手な人、整理収納センスに長けた人、高度な掃除スキルを持つ人など得意技も多様で、利用者のニーズに合ったマッチングが可能だ。
「家事代行というと、これまでずっと高いお金を払って富裕層が利用するというイメージが強かったんです。それを一般家庭でも利用できるよう、ゼロからシステムをつくりました」
しかし、立ち上げから約2年は、家事代行を依頼することに対して、人々の心理的なハードルの高さをぬぐえないもどかしさを感じていたという和田さん。ニーズはあるはずなのに、「家事は自分でやるもの、他人にお願いするなんて」という風潮がまだまだ世の中には浸透していた。そんな空気をガラリと変えたのが、テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系、2016年放映)だった。
「ニーズは喚起するものという考え方もありますが、一般家庭でも家事代行を使っていいんだという認識が、たった1本のドラマによって広がりましたよね。人々の心のハードルや文化への意識は、こんなことでも変わるんだと思いました」
家事代行業界全体のニーズが高まり、タスカジの知名度、利用者数も一気に加速したそうだ。

初めての起業で気づいた、本当にやりたかったこと

家事支援サービスの利用目的
小さい頃から「ものづくり」に興味があった和田さん。試行錯誤しながら新しいモノや仕組みをつくってみたいという思いから、パソコンが一般家庭に普及しはじめた高校生の頃には、プログラミングに興味を持ち、システムエンジニア(SE)になることを夢見るようになった。
ところが、理系科目は大の苦手。高校の担任の先生に相談したところ、文系出身でもSEになれると知った。さらに「会社経営を理解することが将来やりたいことに役立つ」というアドバイスを受け、経営学部に進学。先生の助言によって人生が大きく変わったことに、和田さんは心から感謝しているという。
卒業後は富士通に入社し、念願のSEになった。しかし、夢はまだ終わらなかった。
「SEの仕事では、いろいろなことを経験し達成感はあったのですが、今度は新規ビジネスや市場(マーケット)を自分の力でつくってみたい、起業してみたいという新しい夢が大きくなっていきました。起業するなら、まずは事業の戦略を学ばないといけないと感じたので、企業から大学院への派遣制度を利用して経営管理を学び、MBA(経営学修士)を取得しました」
実は大学院時代に、和田さんは同級生10人とカレンダーで情報共有するシステムを開発、小さな起業に挑戦している。しかし、結果は失敗に終わった。このときの体験を、「私は、起業でお金持ちになりたいとか、ただ起業に興味があるとかいうのではなく、自分自身の課題を解決するためのビジネスでないと情熱が注げないんだ、と気づいたんです」と振り返る。
つねに前向きなチャレンジャーに思える和田さんだが、唯一苦手だったのが家事。すべてに協力的な夫と分担してもまかないきれないことに悩み、仕事にも打ち込めず、ずっと閉塞感を抱いていたという。
当時すでに家事代行サービスがあることは知っていたが、値段が高くて手が出ない。何とか利用できるサービスが出てこないかと調べ続けるうちに、「今あるサービスは、これ以上安くできないビジネスモデルの構造になっていると気づきました」。
では、どんな方法なら家事代行サービスをもっと安く利用することができるのか——。そう思った和田さんは次第に、利用者としての目線だけでなく「もっと安く気軽に頼める家事代行サービスを、ビジネスとして成り立たせるにはどうしたらいいか」という角度からも考えるようになった。
従来とは違うアプローチについて思いを巡らすうちに頭に浮かんだのは、アメリカで起業し大きくなった、民泊仲介サイトを運営する「Airbnb(エアービーアンドビー)」や、一般のドライバーと車によるネット配車サービスの「Uber(ウーバー)」という、ネットを使ったマッチングサービスだった。個人と個人がつながり、実際に会ってコミュニケーションが成立するこれらのビジネスの仕組みを応用すれば、自分自身が欲していた家事代行サービスが生まれるのではないかとひらめいたという。

成功の鍵は双方の要望をうまく吸い上げる「仕組みづくり」

株式会社タスカジ 代表取締役 和田幸子さん 画像
ひらめきから間もなく起業するという行動に移した和田さん。2013年に富士通を退社すると、早速、フェイスブックを使ってハウスキーパーと利用者を3名ずつ募集し、実際に両者のマッチングを試してみた。すると、双方ともキャンセルを行う可能性があること、利用者の家にたどり着けない場合があること、などの問題点が浮かび上がった。こうしたアクシデントやトラブルを防ぐための方法を運営ルールで決めていき、きめ細やかなサービスをつくり込んでいった。
当時はフルタイムで一緒に働く社員もおらず、主に和田さん一人で行った。その理由をこう語る。
「確かに、仲間と一緒なら心強いのですが、起業の一番のリスクは思ったことがうまく進まないことなんです。人数が多いと方向性が変わったり、議論ばかりでものごとが進まなくなったりすることもあります。それでは起業する意味がない。これは最初の起業で学んだことですね(笑)」
マーケットリサーチを経て、退社から1カ月後の11月に会社を設立。翌2014年に「タスカジ」として運用を開始した。
家事代行サービス業に新しい風を吹きこんだ「タスカジ」が、ビジネスとして成功した一つの鍵は、主婦として普段行っている家事をうまく仕事に変えることができる優秀な人材が揃っていることや、利用者からの信頼とリピート率だ。さらに和田さんは、双方の要望を吸い上げてスムーズに取引できる「仕組みづくり」がとても重要だという。
そこで大きな役割を果たしているのが、利用者からのレビュー(評価)をタスカジさんに伝えるシステムだ。タスカジさんの働きぶりへの感想や希望を言葉にして伝える場を提供することで、初めての利用者にはタスカジさん探しの目安になり、またタスカジさん側には、自分のスキルが「見える化」され、誉めてもらえれば「もっとがんばろう」という向上心が生まれるきっかけにもなるなど、両者のいい距離感や緊張感が保てるという。
和田さんは「利用者からのフィードバックを生かしてキャリアアップにつなげてもらえるのでは」と期待を寄せている。

家事という仕事を通して成長できることを広めたい

2017年3月、内閣総理大臣官邸は「一億総活躍社会」を実現する企業を紹介する番組を作成し、欧米に向けて「タスカジ」をアピールした。女性の新しい働き方を提案し、キャリアアップを支援する手法を生み出した和田さんは、今後の課題について次のように語った。
「家事代行の仕事をしてみたいという人の母数は、利用してみたい人のニーズと比較すると足りないと感じています。まだ、職業としてはメジャーではないのでしょう。でも、家事の仕事にはクリエイティブな要素も多いんです。タスカジは、仕事を通して成長したいと思う方に、その希望が叶う仕組みを提供しています。これからも、もっと多くの人に興味を持ってもらい、お互いのニーズに応えられるようにしていきたいですね」

教えて!和田幸子社長!Q&A

Q:「タスカジ」の社名の由来は?

A:「家事を助ける」というコンセプトをそのまま社名にしました。家事を助けてもらうことで、誰もが制約のない自由な人生を歩むことのできる世界をつくりたいという思いを込めています。一方で、ハウスキーパーという仕事を通じた成長をサポートする、これも「タスカジ」の企業としての価値だと思っています。

Q:どんな人がタスカジさんとして登録していますか?

A:フレンチの元シェフや整理収納アドバイザーの資格を持った人など、さまざまな分野のプロが多く在籍しているのがタスカジの特徴です。またフィリピン出身のタスカジさんも好評です。フィリピンでは「掃除」が大事という考え方が浸透していて、ホスピタリティ(もてなしの心)が高いというお国柄があるようです。大家族で暮らす人も多く、家事に慣れている人が多いのです。

Q:子供たちへ伝えたいことは?

A:興味のあること、楽しそうだと思えることは何でもトライしてほしいです。失敗しても、そこから学ぶことや気づくことがあります。大人は、知っている情報をぜひ積極的に子供たちに教えてあげてください。
たとえば、経済を考えるとき、リスクの大小の組み合わせを探ることを「ポートフォリオ」と言いますが、私がこの理論を知ったのは大学院生になってからでした。起業に限らず、家庭の中でもポートフォリオを考えることはとても重要です。たとえば我が家の働き方のように、私がリスクの大きい起業に挑戦し、主人は会社組織の一員として働くことで、収入の一定の安定性を保ちながら増やすことをめざすというのも、一つのポートフォリオです。私はもっと若い頃に知っておきたかった! 義務教育の中で教えても良い内容ではないかと思っています。

Q:子供たちに1週間、授業をするとしたら?

A:実際に「商売」のシミュレーションをしてみたいですね。売りたいもの、マーケット、ルールを設定して小さな経済圏を体験してもらいたいです。そこで体験したビジネスモデルづくりは、将来、社会に出るときにきっと役に立つはず。インターネットを介して個人と個人がモノや場所、サービスを共有・交換・提供する「シェアリングエコノミー」の仕組みやメリット、デメリットも、若いうちから知っていてもらいたいですね。

~和田さんが起業するまで~年表

<プロフィール>
和田幸子(わだ・さちこ)
1975年兵庫県生まれ。
大学卒業後、富士通株式会社に入社。SEとして活躍した後、退社し、2013年に起業。家事分野の新たなシェアリングエコノミー(インターネットを介して個人と個人がモノや場所、サービスを共有・交換・提供する)の仕組みとして「タスカジ」の運用を開始。「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2018働き方改革サポート賞」を受賞。

<「株式会社タスカジ」会社概要>
掃除や料理などの家事のスキルを仕事として活かしたい人と家事を依頼したい人を、専用のwebサイトでつなぐマッチング型のサービスを運営。個人と個人が直接つながることで、気軽に頼める価格で質の高いサービスを利用できると評判を呼び、家事代行サービス業界を代表する企業の一つ。