教育支援プログラム for TEACHERS / PARENTS 教育支援プログラム for TEACHERS / PARENTS

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メインインタビュー
(特定非営利活動法人 MeetsVision 松岡慎也さん・乾香織さん)

特定非営利活動法人MeetsVisionは、元教職員が中心となって、ものづくりや体験学習などキャリア教育プログラムを企画・運営するNPO。「子どもたちが夢や目標を自然に持て、育てる場を提供したい」と話す創設者の松岡慎也さんに、MeetsVisionが行う「起業家教育出前授業」の実態を取材した。

学校のニーズに合わせたプログラムを提案


過去、数々の出前授業を手がけてきたMeetsVisionは2016年度から3年間、岐阜市教育員会の委託事業として、市内の小中学校に対し「起業家教育出前授業」を実施している。
プログラムの特徴について、松岡さんはこう話す。
「学校で学んでいることとは違うことを伝えるのが出前授業の役割。大切しているのは、できるだけ多くの大人に関わってもらい、子どもたちにいろいろな経験をさせてあげること。学校生活だけでは出会うことができない大人たちのかっこよさ、プロフェッショナルの力を見せ、プロと一緒に何かを創ったり、生み出したりする場を提供するのが私たちの仕事です」(松岡さん)
「この人すごく面白いぞ!」「こんなことをしている大人もいるんだ」という出会い。さらに「自分たちで、こんなこともできるんだ」という経験の積み重ねから、子どもたちの夢や目標は自然に生まれてくると松岡さんは考えている。
「ただ、出前授業の時間には限りがあので、ゼロから起業について理解させるのは難しい。そこで、既にある商品やサービスなどをより良くする、今どきっぽい発信の仕方をしてさらに盛り上げるということを課題にして授業を展開しています」(松岡さん)
たとえば、岐阜市立長森南中学校でのプログラムでは、「宇宙藻クッキーのパッケージデザイン」に挑戦した。
「宇宙藻クッキーを作っている会社の社長さんに『こういう想いでクッキーを作った。みんなの力でもっと売れるようにしてほしい』という話をしてもらい、売れるパッケージにするにはどうすればいいかをみんなで考えました。起業やビジネスにはシビアな面もありますが、それも含めてリアルな体験をしてほしい。大変なこともあるけれど、『自分たちで考えて動くと、こんなに面白いんだ!』ということを体感してもらいました」(松岡さん)
地元のサッカーチーム・FC岐阜の開幕戦を盛り上げるためのCMを作ったり、開幕戦をサポートしたり(岐阜市立岐阜西中学校)、地元にある特別支援学校のカフェにお客さんを呼び込むためのチラシやCMを作る(岐阜市立網代小学校)など、プログラムの内容は学校ごとに異なる。
「対象となる学年や地域も違うし、各学校の先生たちの狙いも異なります。だからこそ、それぞれのニーズに合わせたものを考え、提案することが大事。できるだけ柔軟性を持って対応するようにしています」(松岡さん)
ガチガチに詰めたプログラムを提供しても、「うちの学校には合わない」「うちの学校では無理。できない」と拒絶されたり、あるいは「前にやってもらったけれど、面白くなかった」と敬遠されたりするため、実際はオーダーメイドに近い提案になるそうだ。

楽しくなければ、子どもたちには伝わらない

松岡さん 画像
MeetsVisionの活動紹介動画がホームページで公開されているが、参加している子どもたちの楽しそうな笑顔、いきいきとした表情がとても印象的だ。子どもたちや学校の先生たちが積極的にプログラムに参加したくなるようにするために、何か工夫していることやコツはあるのだろうか? 
「コツと言われると難しいのですが、『えっ?』という驚きを与えることでしょうか。どんな小さなことでもいいんです。子どもたちの驚きを促すことで意識をこちら側に向けさえすれば、その後もスムーズに授業が回っていきます」
こう話してくれたのは、MeetsVisionの立ち上げ当時からスタッフとして関わっている乾香織さんだ。
また、松岡さんは、自分たちが楽しめるものなのかどうかがプログラムの成功に欠かせない要素だと考えている。
「出前授業は子どもたちだけじゃなく、私たちにとっても、すごく楽しいものなんです。逆に私たちが楽しくなければ、子どもたちだって楽しくない。楽しくないと伝わらない、そう思っています」(松岡さん)
MeetsVisionが実施しているようなプログラムに興味はあるけれど、十分な授業時間がとれないという学校もある。そういう場合には1~2時間という短時間で取り組めるプログラムも用意している。
「起業教育といっても、すべての子どもが起業に向いているわけではありません。世の中には起業する人もいれば、それをサポートする人もいる。ビジネスとは直接関係のない仕事が合っているという人もいます。何が向いているのか、自分ではなかなかわからないので、最初にそうした自己分析をするカードゲームやインタビューゲームをして、自分自身や相手の良さを発見できるような時間を作っています。1コマしか時間がとれない場合は、そういうコンパクトにできるカードゲームを提供し、起業教育の入り口にしてもらえたらと思っています」(松岡さん)

出前授業がきっかけでタテのつながりも自然に

乾さん 画像
松岡さんをはじめMeetsVisionのスタッフには、教員経験者が数多く所属している。教員という仕事の大変さを体験しているからこそ、出前授業でも「先生たちの負担をより少なくする」ことを常に心がけているという。
1年前からMeetsVisionのスタッフとし
て加わった平塚淑恵さんも、以前は中学校の教員だった。
「教師もやりがいのある仕事ですが、もっと子どもの好きなことを伸ばしてあげたい、ワクワクすることをさせてあげたいなと思って転職しました。もともと理科の教員でした。今はイベントでサイエンスショーなどもやっていますが、教員時代の経験や知識がとても役に立っています」(平塚さん)
2年前からスタッフに加わった伊藤千華さんも、以前は小学校の支援員だった。現在は主にイベントの企画と運営、約100人いる学生スタッフの管理などを担当している。
「自由度の高い職場なので、まだ誰もやったことのない新しいことに挑戦したいと思っています!」(伊藤さん)と目を輝かせながら話す。
MeetsVisionではイベントなどで、学生スタッフが子どもたちを教える場面も多々ある。実は平塚さんも伊藤さんも、学生時代にアルバイトとしてMeetsVisionの活動に携わっていたという。
「子どもは学生スタッフにあこがれ、学生スタッフはMeetsVisionをサポートする企業にあこがれるという"タテのつながり"が生まれています。こうして世代間をつないでいけば、地元でのものづくりがさらに盛り上がっていくのではないかと考えています」(松岡さん)
最後に、松岡さんと乾さんに現場で奮闘する先生方へのメッセージをいただいた。
「起業教育にしろ、他のキャリア教育支援にしろ、先生自身が 『うちの学校では無理だ』というブレーキをかけないでほしいですね。先生があきらめてしまったら、子どもたちに何も与えられない、伝えられないですから」(松岡さん)
「教員という職業は本当にいろんな面で大変なことが多いと思います。でも何か助けが必要なときは、私たちに声をかけてください。それが起業教育の第一歩になると思います。また子どもたちの中には、その子ならではの素晴らしい力が備わっています。早熟の子もいれば、遅咲きの子もいるし、得意なことも一人ひとり違う。自分たちの尺度だけで、今目の前にある姿だけを見て、子どもを判断したり、評価したりしないでほしいと思います」(乾さん)
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教えて!松岡さん!Q&A

Q:地域と学校が上手にコラボレーションするコツは?

A:私たちのような中間支援組織をうまく活用してほしいですね。たとえば岐阜市内には小学校・中学校合わせて40校あります。そこで私たちは各学校の教員40人、地元の経営者や起業家など40人を集めて毎年ワークショップを行っています。「子どものために、何かしたい」「地元のために、何かできないか」と思っている人たちは結構いるのですが、教員の皆さんと出会う場がなかなかない。そうした人たちと学校をつなぐのが、私たちのようなNPOの役割だと思っています。

Q:起業教育の結果は、どのように評価すればいいですか?

A:学校ではおそらく、子どもたちに感想文などを書かせて、教師も文章などで成績評価することになるのでしょう。しかし出前授業に関して言えば、評価なんて不要だと私は思っています。その子どもなりの学びや気づきがあればいい。そのときに何も得るものがなかったと本人が思ったとしても、後でハッと気づくこともあるでしょうし、経験は決してムダにならないと思います。

Q:子どもたちに伝えたいことは?

A:学校で学んでいることは大事です。学校で勉強したことは、将来必ず役に立ちますから、そこをおろそかにしてはいけません。ただ、進路選択に関しては、学校の先生や親など、大人の言うことを鵜呑みにしないこと。いろいろな情報を集め、いろいろな体験をすれば、その中に必ず自分の心にヒットするものがあるはずです。人に言われたことを信じるのではなく、自分の中にある可能性を信じて、自分に合った進路や職業を選択してください。

Q:MeetsVisionとしてのこれからの課題は?

A:学校の期待をはるかに超える素晴らしい体験を子どもたちに提供したいという思いがあるせいか、採算的に厳しいことも珍しくないんです。ただ、補助金や助成金に頼り、不足分を持ち出しで行う方法では、活動を続けていくことができません。そこで私たちは「ドングルズ」という会社を立ち上げ、キャリア教育の事業化を進めています。学校への支援を中心に活動してきたMeetsVisionとは異なり、ドングルズでは企業とのコラボレーションによって人材を育成し、企業に人を送り出せるようになりたい。その活動から、学校側に「企業が求める人材はこんな人物像だよ」といったような情報を発信していくなど、相乗効果を生み出しながら継続的な活動にしていきたいと考えています。

<プロフィール>
松岡慎也(まつおか・しんや)
「企業と連携することで、よりダイナミックな授業ができる。ものづくりの楽しさも伝えられる」と考え、2011 年に中学校の教員(技術担当)を辞め、NPO法人MeetsVisionを立ち上げる。株式会社ドングルズ代表取締役。

乾 香織(いぬい・かおり)
大学卒業後、旅行会社に勤務。結婚・出産後に教員採用試験を受けて、小学校教員(教員免許は大学在学中に取得)として働いた後、MeetsVisionに参加。

MeetsVisionとは?
学校教育を軸に、「起業家教育出前授業」など、地域や企業が力を合わせて社会教育やキャリア教育を推進する事業を企画・運営。その経験と実績を活かし、近年は岐阜県内にとどまらず、宿泊体験プログラム「超特別!! ものづくり体験学習」、ロボット工作教室、講演、企業のCSR 支援など、様々な活動を全国で展開。その実施主体として株式会社ドングルズを設立し、ものづくりを支える人材育成ビジネスに力を注いでいる。