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東証 アジア スタートアップ ハブ

インドジェン・キャピタル(Indogen Capital)

インドジェン・キャピタル(Indogen Capital)

2024年、東京証券取引所(以下、東証)は有力なアジアのスタートアップ企業の成長をサポートし、新規株式公開(IPO)を後押しする取組として、「東証 アジア スタートアップ ハブ」を立ち上げた。アジア域内から高い関心を集め、現在、本取組に53者のパートナーと4者のオブザーバーが参加している。
インドネシアから唯一のパートナーとして本取組に賛同し、独自の視点をもたらすベンチャーキャピタルがインドジェン・キャピタルだ。創業者で共同経営者であるチャンドラ・フィルマント氏が、国を越えた関係強化とアジアのスタートアップが東証上場へと開かれた新たな道筋について語った。

インドジェン・キャピタル—ASEANビジネス成長のための信頼できるベンチャーキャピタル

急激に増加する5億5,000万人の人口、平均年齢約28歳、
東南アジアはベンチャーキャピタル投資にとってユニークかつダイナミックな市場

インドジェン・キャピタル立ち上げの経緯を教えてください。

私はアメリカの大学に留学し、アクセンチュアで働いた後、1970年から続く家族経営のヤマハオートバイ販売事業を手伝うため、2005年にインドネシアに戻りました。
東南アジアのスタートアップエコシステムには未開拓の可能性があることを認識しました。私は新たな分野としてベンチャーキャピタルに進出し、2016年にインドジェン・キャピタルを立ち上げ、地域全体のスケーラブルで急成長するテクノロジー企業に投資することにしました。

モチベーションはなんだったんでしょうか。一番大変だったことは?

一番大変だったのは、家業に集中してほしいという家族の期待に応えることでした。しかし、東南アジアの可能性、特にソフトバンクのeコマースへの投資を目の当たりにして、デジタル化がこの地域でも確実に盛り上がることを認識しました。また、それが私の知識を広げ、家業にもいい影響を及ぼすと考えました。

あなたの会社の強みについて話してください。

一緒に創業したヘンドリー(インドジェン・キャピタルの共同創業者)と私は伝統的なビジネスのバックグラウンドを有しており、インドネシアの大企業やコングロマリットと強力なネットワークを持っています。これらの関係性は10年、15年かけて築いてきたものです。スタートアップをこうした企業と繋ぐ際には、双方に利益をもたらすことを確認しています。一方にしか利益をもたらさないのであれば、紹介をためらいます。スタートアップは相手のニーズを理解せずに接触を求めることが多く、それが問題を引き起こすことがあります。私たちは不必要な紹介を強要して関係を悪化させないよう注意しています。
第2の強みは、伝統的なビジネスとスタートアップ両方を理解していることです。私たちは共同投資家を含む全てのステークホルダーに対して、こうしたつながりから得られる利益についてどう説明すべきかを知っています。私たちは全員が同じ認識を持つまで時間をかけて調整しており、それが強い関係を築く助けとなっています。
第3に、私たちには成功した取引の実績があります。無理に取引を進めることなく、多くのポートフォリオ企業が私たちの紹介を通じて大きな契約を獲得しています。
最後は私たちが、スタートアップが大きなイグジットを成功させるまで支えてきたということです。例えば、フィリピンで創業したVENTENY社は我々の支援を通じてインドネシアに進出し、最終的にはインドネシア証券取引所に上場しました。これは日本人起業家が起業した会社として初めてのインドネシアでの上場となりました。
これら全ての強みがインドジェン・キャピタルをユニークにし、この地域の他のベンチャーキャピタルから際立った存在にしています。

投資先企業をどのようにサポートしていますか。

チャンドラ・フィルマント氏

理解することが日本企業と成功するコラボレーションを行うための最初のステップです。日本の担当者との明確なコミュニケーションが重要です。文化的慣習から、日本のプロフェッショナルは最初から自らのニーズをオープンに表現しないことが多いです。飲み会などの非公式な場が信頼を築き、本当のニーズを知る助けになり得ます。
多くのスタートアップが、相手の要求をよく理解せずミーティングを行い、自分のソリューションを押し付けるという間違いを犯します。関係性の構築に時間をかけること、ソリューションを提案する前に先方が抱える課題を理解することが重要です。このアプローチにより、コラボレーションが失敗した場合にキャリア上のリスクを負う日本の担当者のリスクを最小化することにつながります。

東証市場についての洞察

なぜ東証市場に興味を持ったのですか。

日本貿易振興機構(JETRO)とのコネクションを通じて、我々は東南アジア諸国連合(ASEAN 以下、アセアン)のスタートアップに米国市場ではなく東証での上場を考えるようアドバイスしてきました。文化的な類似性から日本人はアセアンでのビジネスをよく理解しており、フィリピン、インドネシア、ベトナム、シンガポール、マレーシアのような国と日本の間では共通理解を得やすいです。
アメリカでの留学と仕事の経験から、アメリカとは理解に至るには大きなギャップがあると感じていました。その点、東証は共通理解を有するため、アセアンのビジネスにとってより良い市場を提供してくれます。日本は資本とテクノロジーを持っている一方、アセアンには若くて増加する人口と堅実な経済成長があり、そのことが両者に完璧なマッチングをもたらします。
東証は世界で最も強力かつ健全な市場の1つであり、NASDAQやNYSEと比べると上場にかかる費用が低いです。上場準備期間等に関する心配はあるものの、そのプロセスは他の市場と概ね同様です。そうしたことから、東証はアセアン企業にとって最良の選択肢の1つだと信じています。
私たちは、スタートアップ企業にとってIPOのプロセスは、単にイグジット戦略ではなく、持続可能なプロフェッショナルな企業になるための出発点であると考えています。東証は長期的なビジネスの成功のために投資家やパートナーを見つける機会を提供します。
東証へ上場するためには、内部統制の仕組みをしっかりと整備・運用して厳格な監査手続きを経る必要があり、これにより東南アジア企業における不正リスクが低減されます。これにより、日本企業が彼らとビジネスを行う際の安全性が高まり、大きなビジネスを目指す日本企業と東南アジアのスタートアップの双方に利益をもたらします。
日本の投資家の関心を得るため、東証上場に適したインドネシア企業は、一般的に時価総額3億ドル以上であることが求められます。ロジスティクスやeコマースに強みを有する企業は日本市場に適しています。
東証上場の最大のメリットはそれがもたらす信用です。東証に上場することで企業は信頼性を得ることができ、大手企業とより迅速かつ信頼性の高いビジネスパートナーシップを築くことができます。

東証がより多くの東南アジアのベンチャーキャピタルやスタートアップを引き寄せるためには、どのような施策が必要でしょうか?

東南アジアのベンチャーキャピタルやスタートアップに対して、東証での機会を教育することは非常に重要です。一つの成功事例が、彼らの認識を大きく変え、関心を引き寄せる可能性があります。

今後日本市場とどのように関わっていきますか?

チャンドラ・フィルマント氏

私たちは東証のメリットを示すため数年以内に成功事例を作ることを目指しています。講演や教育、プロモーション活動を通じて、東証を支援する用意があります。
私たちは、アセアンのスタートアップに対して、東証を理解し、長期的な関係を構築し、その戦略的な優位性を活用することの重要性を強調しています。インドジェン・キャピタルはこうした関係性の構築と東証を主要なIPO市場としてプロモーションすることにコミットしています。また、アセアンへの進出に関して支援やサポートが必要な日本企業からの連絡も歓迎します。

(取材日:2025年2月3日)

 
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