TSE教育ホットライン
Vol.383「連載第二十四回「歴史の中の市場と証券」」
江戸期の最後にかけて、大阪堂島米市場は変質していきました。特に、1853年のペリー来航以来、1858年に安政の五カ国条約が締結され、1859年に横浜港等が開港し、
1860年には桜田門外の変が起こるなど国内情勢が騒然とし、大坂堂島米市場の売買が急速に衰えたとされています。
「国内情勢が騒然とし、米の取引どころではなくなった」という理解でよいとは思いますが、これまでは米の取引が江戸期経済の大動脈であったことを考えると、
堂島米市場が急激に機能しなくなった原因を少し深堀して考えてもよいように思います。
江戸期を代表する“金融機関”であった三井大坂両替店の融資額の推移データ(「三井大坂両替店」萬代悠著 中公新書2024年より)を見ると、
1850年代半ばから融資額が急増している事がわかります。
融資という形での資金調達が急増した大きな理由は、各藩が“国防費”を増加させたことが考えられますし、“国防”となると、領主米を戦国時代のように藩の蔵に備蓄する必要が生じます。
これは、各藩による堂島での資金調達が減り、豪商から各藩への直接融資が増えていたという事を状況的にはうまく説明しているように思われます。
大坂堂島米市場の変質で見落としてはならないのは、横浜開港に伴う外為取引の急増です。
江戸期の経済では米の価格にて銀貨を評価することが中心にあったわけですが、
生糸輸出という今までなかった産業が誕生したことで、日本銀貨は外国銀貨との間で変動相場によって日々評価される仕組みが加わりました。
しかも、この生糸輸出は数年で膨大な規模に急拡大し、日本の金属貨幣が大量に海外で流通する事態も発生しました。
横浜開港とそれに伴う生糸輸出は、これまでの日本経済のファンダメンタルを変質させるほどのショックだったことは間違いなく、
大坂堂島市場における米と銀貨の交換比率そのものの重要性は急速に失われたに違いありません。
大坂堂島米市場での帳合米取引が急速に縮小していった時期と横浜開港が重なるのは偶然ではないという事です。
日本経済のファンダメンタルの変化によって、従来型の経済システムが機能しなくなっていったのです。
(寄稿者 石田 慈宏)
<先生のための「夏休み経済教室」>活動レポート
8月に開催した<先生のための「夏休み経済教室」>について、活動レポートをまとめました。
当日の様子や、ご登壇いただいた先生方の資料のダウンロード(共催の経済教育ネットワークのWebサイトより)もできますので、
是非皆様ご覧くださいませ。
【東証マネ部!】今月の注目記事!!
「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」に基づき、2024年4月に設立された認可法人、J-FLEC(金融経済教育推進機構)。
その名の通り、お金に関する学びの機会を官民一体となって届けていくための団体です。
これまでも金融経済教育は、学生向けには学校で、社会人向けには金融機関主催のセミナーなどで実施されてきましたが、
なぜ改めて金融経済教育に特化した団体ができたのでしょうか。J-FLECの担当者に、J-FLEC設立の経緯や予定している事業について聞きました。
東京証券取引所が金融経済教育に力を入れ始めたのは20年前の2004年。
それまで行っていた取引所の見学などに加え、親子経済教室や学校への出張授業、先生向けのセミナーなどを本格的にスタートし、
以来、親子経済教室の参加者は3万3000人以上になりました。
今回は、そんな東証での金融経済教育の歴史や、普段の取組みを記事形式でご紹介します。
最近の株式市場の動向
9月となりましたが、まだまだ残暑が続いていますね。
でも、秋分の日が過ぎれば、ようやく落ち着くとのことなので、暑さ寒さも彼岸までとなりそうです。
ただし、台風に対してはまだまだ気が抜けません。引き続き、ご注意ください。
では、今回は今年8月以降の東京株式市場の動向について、簡単に市況を振り返ってみます。
2024年8月の株式市場は、月の初めは、円高・ドル安の急速な進行に加え、
米国景気の先行き懸念が高まったことなどから全面安となり、過去最大の下げ幅を記録するなどして、
歴史的な急落相場で始まった後、日銀副総裁の利上げ否定発言や、米国景気に対する過度な悪化懸念が後退したことから、
大きく下げ幅を縮小する振幅の激しい展開となりました。
中旬では、好決算銘柄が個別に買われたことや、米国株式市場での値上がりなどを受けて急速な戻り歩調となりました。
月末にかけても、米国での早期利下げ観測の台頭などから、更に値を戻す相場展開となり、
月末には、NYダウの史上最高値更新を好感して、上昇基調のまま終りました。
9月になっても、東京株式市場は、米国経済の先行き不透明感から米国株式市場が下落したことや、
外国為替相場での円高傾向の継続から値を下げるなどして、引き続き、値動きの大きい状況が続いています。
先月8月1か月間について、TOPIXで見た下落率は-2.92%、
上昇した主な業種は、海運、精密、小売株で、下落した主な業種は、銀行、証券、金属製品株でした。
また、昨年末との比較では、8月末のTOPIXで見た上昇率は+14.63%、
上昇した主な業種は、保険、石油石炭、非鉄金属株で、下落した業種は、空運、陸運、ゴム製品株でした。
学校の授業等で参考にしていただけたら幸いです。
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