明けましておめでとうございます。年頭に当たり、皆様のご健勝を心よりお祝い申し上げますと共に、本年も一層のご活躍をお祈り申し上げます。
さて、昨年の株式市況を振り返りますと、年初より企業業績の好調と円安を背景に堅調な相場展開が続き、4月には、およそ15年ぶりに、日経平均株価が2万円の大台を回復致しました。夏場以降は中国景気の減速懸念や原油価格の下落に端を発した新興国経済への懸念から大きく調整する場面も見られましたが総じて堅調な1年となりました。東証一部上場企業の時価総額も、8月には、1989年12月29日の、すなわちバブル最盛期の時価総額を上回り、過去最高の609兆円に達しました。これは、アベノミクスによる企業価値向上への力強い取り組みに加え、上場企業の皆様の不断の経営努力によって成し遂げられたものと思います。
また、昨年6月に金融庁と共に導入致しましたコーポレートガバナンス・コードは、上場企業の経営にとって歴史的な転換点となるものとして大きな話題となりました。私自身も、内外の機関投資家との対話の中で、日本企業のコーポレートガバナンスが大きく変革される事への期待と理解が広がりつつある事を実感しております。
コーポレートガバナンス・コードの Comply or Explainというアプローチは、我が国ではあまりなじみのないものですが、73項目のガバナンス指針について遵守するか、もし遵守しない場合は説明して下さい、というルールです。企業経営者に複数の社外取締役導入や投資家との建設的な対話を促し、攻めと守りのガバナンスの向上を通じて持続的な企業価値向上を求めるものです。
市場の規律という点では、IPO市場を巡る問題について、昨年3月に、自主規制法人の佐藤理事長と当時東証の社長だった私との連名で証券業協会及び公認会計士協会にご協力をお願い致しました。その後今日まで、主幹事証券による引受審査、監査法人による会計監査、東証による上場審査を強化するなど、市場の信頼性維持のために三者が一丸となって取り組んでまいりました。
リーマンショック直後の2009年にはIPO件数は19社にまで落ち込みましたが、その後、市場関係者の皆様の地道な努力によってIPO件数は着実に増加して参りました。昨年の新規上場会社数は、我が国全体で98社となり、年末にかけては日本郵政グループ3社の大型上場も行われました。IPOに限らず、投資家の皆様に安心して投資して頂く為には適切な市場規律を保つことは不可欠です。本年も、関係者の皆様とともに、市場の適切な規律を保ちながら、新規上場企業の積極的な発掘に努めて参ります。
さて、昨年9月には東証の基幹システムであるアローヘッドを5年ぶりにリニューアル致しました。今回のリニューアルでは、スピードアップよりも市場の信頼性や取引の安定性を重視致しました。おかげさまで、リニューアル以降も順調に稼働しており、11月の郵政グループの3社同時上場の際も、また、その後市場が揺らいだ場合にも安定稼働しており市場関係者にも高く評価していただいております。
一方、本年は大阪取引所のデリバティブ取引の基幹システムであるJ-GATEを刷新致します。これによってシステムの信頼性向上と能力向上につながり、これまで遅れ気味であった新商品の導入が容易になると共に、安定性もさらに向上致しますので、完成まで万全の態勢で取り組んで参ります。
海外に目を転じますと、昨年末、ミャンマーにおいて、ヤンゴン証券取引所が設立されました。ミャンマーの証券取引所設立については4年近くお手伝いしてまいりましたが、無事設立されたことは喜びに堪えません。今後、早期に具体的な上場予定企業の審査が行われ、取引がスタート出来る事を期待しているところでございます。
さて、日本取引所グループは、経営統合後「現物株は東京に、デリバティブは大阪に」という市場再編およびシステムの統合に取り組んでまいりましたが、これは昨年までで順調に完了致しました。本日より、JPXは4年目に入りましたが、発足直後に策定した第一次中期経営計画はこの3月で終わり、現在、新中期経営計画の策定を急いでいる所です。もちろん、現中期経営計画を策定した当時と今では外部環境も大きく異なっておりますので、それに応じて中計の内容も変わってくるものと思っています。たとえば、金融とITを合成した言葉である「フィンテック」は3年前にはほとんど話題にもなりませんでしたが、今では経営戦略策定の上では避けて通れないテーマとなっています。証券業界においては、これまでも、ネット取引、アルゴリズム、HFT、コロケーションなど、IT技術が大きな変革をもたらしてまいりましたが、今回の「フィンテック」の波は従来のITという概念を超えて、劇的に金融サービスの質を変える可能性があると思っています。もちろん、金融システムに求められる安全性、信頼性等に細心の注意を払うことは言うまでもありません。その上で、フィンテックが利用者にとって最も価値のある金融サービスの提供に繋がることを大いに期待したいと思っています。
最後になりますが、昨年来の皆様からの温かいご支援に感謝致しますと共に、本年もよろしくご指導頂きますようお願い申し上げまして、新年のご挨拶とさせていただきます。
2016年1月4日
株式会社日本取引所グループ
代表執行役グループCEO 清田 瞭