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東証 アジア スタートアップ ハブ

CDIB Capital Group

CDIB Capital Innovation Accelerator (CCIA) 社長 Ryan Kuo(郭大経)氏 Photo credit: CDIB Capital Group

CDIB Capital Innovation Accelerator (CCIA) 社長 Ryan Kuo(郭大経)氏 Photo credit: CDIB Capital Group

なぜ台湾スタートアップは東証を目指すのか——台湾CDIB Capital Innovation Accelerator代表Ryan Kuo氏

台湾のスタートアップ・エコシステムと日本市場をつなぐプレーヤーとして、近年存在感を増しているのがCDIB Capital Innovation Accelerator(中華開発創新加速器、CCIA)だ。CCIAの前身は2015年に設立され、アクセラレーターとしての活動は2017年に開始、今年で8年目を迎える。台湾の大手金融グループCDIB Capital Group(中華開発資本)(注)の一員として、スタートアップ投資とクロスボーダー展開支援に注力してきた。とりわけ、2023年から本格化した日本市場への取り組みは、台湾スタートアップの日本IPOという新たな選択肢を提示している。
東京証券取引所(以下、東証)との協業を深めるCCIAの代表を務めるのが、Ryan Kuo(郭大経)氏だ。台湾のベンチャーキャピタル業界で豊富な経験を持つKuo氏は、日本と台湾双方のビジネス文化を理解し、両市場の橋渡し役として活躍している。KKday(酷遊天)をはじめとする複数のポートフォリオ企業が日本市場への進出や上場を視野に入れる中、CCIAの戦略は台湾のスタートアップにとって重要な道筋を示すものとなっている。

東証との協業——地道な取り組み

2024年5月に開催された、台湾スタートアップの日本訪問イベント。CDIB Tokyo Innovation Hub(東京・市谷)には、台湾から30社を超えるスタートアップが集まり、日本企業からの講演を聞くなど、市場進出に関する知見を深めた。 Photo credit: CDIB Capital Group(中華開発資本)

2024年5月に開催された、台湾スタートアップの日本訪問イベント。CDIB Tokyo Innovation Hub(東京・市谷)には、台湾から30社を超えるスタートアップが集まり、日本企業からの講演を聞くなど、市場進出に関する知見を深めた。 Photo credit: CDIB Capital Group(中華開発資本)

CCIAの日本市場への関与は、数年前に遡る。当時、Kuo氏率いるチームは、日本の資本市場を理解するため、大手銀行や大手会計事務所といった日本のパートナーとの関係構築を開始した。これは単なるネットワーキングではなく、台湾スタートアップが日本で上場するための具体的な道筋を描くための戦略的な動きだった。
その取り組みの中核となったのが、台湾スタートアップの代表団を組織し、東京を訪問するプログラムだ。CCIAは2年連続でこの代表団を率い、東京証券取引所や大手銀行を訪問し、ワークショップを開催した。参加した台湾スタートアップの経営者たちは、会計士や金融専門家から直接アドバイスを受け、日本特有のビジネス慣習や規制環境について学ぶ機会を得た。

「我々は2年連続でこの代表団プログラムを続けてきました。これによって、東証の方々は、我々が真剣にこの取り組みを考えており、本気で台湾のスタートアップを日本市場に連れてきたいと思っていることを理解してくださったのだと思います」(Kuo氏)

このプログラムは、単なる情報提供以上の意味を持っていた。それは台湾のスタートアップ・エコシステム全体に対する教育投資でもあった。参加企業のすべてがすぐに日本で上場するわけではないが、この経験を通じて、台湾の起業家コミュニティの中に日本市場への理解が広がっていった。この長期的な視点こそが、CCIAのアプローチの特徴だ。
しかし、CCIAがパートナーに選ばれた理由は、おそらく、この地道な取り組みだけが理由ではない。もう一つの重要な要素は、同社のポートフォリオの質と幅広さだ。東証が潜在的な上場候補として注目している台湾企業の多くが、CCIAの投資先に含まれていた。
台湾の大手旅行プラットフォームKKday(酷遊天)は、その代表例だ。2014年に設立されたKKdayは、アジア太平洋地域で最大級のオンライン旅行体験予約プラットフォームとして成長を遂げ、日本市場でも大きなビジネスを展開している。CCIAはKKdayの初期から投資を行い、その成長を支援してきた。KKday以外にも、フィンテック企業の21st Fintech(二十一世紀数位科技)など、複数のポートフォリオ企業が東証の上場候補として検討されている。

「我々のカバレッジは非常に広範囲です。これは偶然ではなく、グローバル展開の可能性を持つ企業を早期から見極め、支援してきた結果です」(Kuo氏)

興味深いのは、台湾スタートアップによる日本でのIPOは、まだ本格化していないという事実だ。これまでに日本で上場した台湾企業はAppier(沛星互動)のみだ。しかし、それは市場の可能性が限られているからではない。むしろ、適切な準備とサポート体制が整っていなかったからだ。CCIAと東証のパートナーシップは、まさにこの状況を変えるためのものなのだ。

IPO市場の選択——なぜ日本なのか

2022年11月、台北で開催されたスタートアップイベント「Meet Taipei」から。CCIAと、スタートアップ支援組織「Garage+」は、共同して日本進出に特化したブースを開設。筆者も講演を行った。 Photo credit: CDIB Capital Group(中華開発資本)

2022年11月、台北で開催されたスタートアップイベント「Meet Taipei」から。CCIAと、スタートアップ支援組織「Garage+」は、共同して日本進出に特化したブースを開設。筆者も講演を行った。 Photo credit: CDIB Capital Group(中華開発資本)

スタートアップにとって、どの証券取引所で上場するかは、単なる資金調達の手段を超えた戦略的な意思決定である。グローバル化が進む中、台湾のスタートアップには複数の選択肢がある。NASDAQ、シンガポール取引所、香港証券取引所、そして台湾証券取引所と東京証券取引所。それぞれの市場には固有の特徴があり、企業の事業戦略、成長段階、そして将来ビジョンによって最適な選択は異なる。

「まず理解すべきは、異なる資本市場には異なるタイプの投資家がいるということです。市場の選択は、単に上場のしやすさだけでなく、その市場で得られる認知度、流動性、そして長期的なシナジーを総合的に考慮する必要があります」(Kuo氏)

多くの台湾スタートアップにとって、NASDAQは依然として魅力的な選択肢に映る。しかし、Kuo氏は現実的な視点を示した。

「NASDAQの投資家が期待する企業規模は、非常に大きいのです。企業価値が10億米ドルを超えていなければ、魅力的な投資対象とは言えないでしょう。仮にNASDAQに上場できたとしても、アメリカ市場で事業を展開していなければ、認知度は得られません。アナリストがカバーしてくれなければ、投資家の注目も集まらず、結局流動性は低いままです」(Kuo氏)

では、なぜ台湾のスタートアップが近年、日本市場に注目するようになったのか。Kuo氏は、その答えを具体例とともに説明する。

「KKdayを例に取りましょう。彼らは日本で既に大規模なビジネスを展開しています。日本で上場すれば、上場企業としての信頼性が得られ、日本の他の企業との提携がより容易になります。これは、単に資金調達ができるという以上の価値があるのです」(Kuo氏)

Kuo氏によれば、過去2年間で台湾スタートアップの市場選好に明確な変化が見られるという。

「2年前までは、アメリカ市場が第一の選択肢で、日本は第二でした。しかし、昨年からその順位が逆転しました。今では、多くの台湾スタートアップにとって、日本が最優先の市場となっています」(Kuo氏)

この変化の背景には、台湾企業のグローバル戦略の進化がある。多くの企業が、アジア太平洋地域でまず地位を確立し、そこから段階的にグローバル展開を図るという戦略を採用するようになった。その中で、日本は市場規模、購買力、そしてビジネス環境の成熟度において、最も魅力的な市場の一つとなっている。
さらに、東証の上場基準も、台湾スタートアップにとって現実的だ。

「評価額が2億米ドル程度であれば、十分に対応可能です。もちろん、2億米ドル未満では流動性に課題が残るかもしれませんが、日本でビジネスを展開している企業であれば、ある程度の規模には到達しているはずです。加えて、日本で上場企業となることで、優秀な人材の採用も容易になります。優秀な日本人人材を採用しやすくなり、彼らが事業拡大を支援してくれることで、さらなる成長が可能になるのです」(Kuo氏)

一方、地元台湾での上場はどうだろうか。Kuo氏は台湾市場の利点も認めつつ、重要な問いを投げかける。

「日本と比較すれば、台湾でのIPOの方が容易です。台湾企業にとっては地元市場ですから、規制にも精通していますし、上場基準も比較的緩やかです。実際、台湾では評価額が1億米ドルを超えていれば、赤字企業であっても上場が可能です。しかし、台湾の資本市場は、台湾域外でのビジネス拡大を支援してくれるでしょうか?台湾域内でのみビジネスを展開する予定であれば、台湾市場での上場は合理的な選択です。しかし、グローバル展開、特に日本市場への進出を視野に入れているのであれば、日本での上場を検討する価値があります」(Kuo氏)

日本市場進出の現実——成功への3つの壁

Ryan Kuo(郭大経)氏 Photo credit: Growthstock Pulse

Ryan Kuo(郭大経)氏 Photo credit: Growthstock Pulse

日本市場の魅力について語った後、Kuo氏は、台湾スタートアップが直面する現実的な課題についても率直に語った。

「我々自身にとっては、これらは課題というより機会です。ただし、我々の投資先企業にとっては、多くの挑戦があることは認めなければなりません。日本での事業拡大において、ローカルビジネスの構築は極めて重要です。そして、それを実現する鍵は人材です」(Kuo氏)



外国企業にとって、日本での人材採用は想像以上に難しい。特に、ビジネス開発や営業において即戦力となるシニアレベルの人材の確保は大きな挑戦だ。

「外国企業として日本で優秀な人材を採用することは、本当に困難です。特に、日本市場を理解し、ビジネスを開拓できるシニアレベルの人材を見つけることは、大きな挑戦です」(Kuo氏)

第二の課題は、日本企業特有の組織文化だ。

「日本では階層的な組織が一般的です。問題は、現場レベルのビジネスパーソンと最初に接触すると、彼らは外国製品やサービスを採用することに消極的な傾向があることです。彼らは常に国内製品を選好します」(Kuo氏)

これは、多くの外国企業が日本市場で経験する典型的な課題だ。日本企業の意思決定プロセスは、多くの場合ボトムアップで進むが、最終的な決定権は上層部にある。しかし、現場レベルで門前払いされてしまえば、提案が上層部に届くことすらない。
Kuo氏の提案は、より戦略的なアプローチだ。

「より上層部の人々、長期的な視点で物事を考えられる人々と直接つながることが重要です。彼らは、短期的な利益ではなく、長期的な価値を理解できます。そのためには、適切なネットワーク、紹介、そして信頼関係が必要です」(Kuo氏)

台湾スタートアップが日本で直面する第三の課題は、意外にも資金調達に関するものだ。

「日本のベンチャーキャピタル、特に日本企業は、日本のスタートアップへの投資を好む傾向があります。外国のスタートアップに投資する日本のVCを見つけることは、非常に困難です。日本のVCには、ファンド設立時にLPとの間で、日本国外への投資を行わないという合意を結んでいるところも少なくありません」(Kuo氏)

これは、日本市場に参入しようとする外国スタートアップにとって大きな問題だ。通常、スタートアップが新市場に参入する際には、現地VCから投資を受けることが、市場での信頼性を確立する上で重要な役割を果たす。しかし、日本ではその道が閉ざされていることも多い。

「現在、日本で外国スタートアップに投資しているのは、主に外国のベンチャーキャピタルです。これは良い状況とは言えません。日本の地元VCが外国スタートアップに投資できるようになれば、ポジティブなサイクルが生まれます」(Kuo氏)

東京から福岡へ——地方展開という戦略

福岡市を百道浜から望む Photo credit: Nryate via Wikimedia CC BY-SA 4.0

福岡市を百道浜から望む Photo credit: Nryate via Wikimedia CC BY-SA 4.0

CCIAの日本戦略を語る上で欠かせないのが、福岡への進出だ。多くの外国企業が東京に集中する中、CCIAは九州地方の中心都市である福岡にもオフィスを構えるという、一見すると意外な選択をしている。しかし、Kuo氏にとって、これは十分に計算された戦略的な動きだ。

「我々は現在、東京と福岡の両方にスペースを持っています」(Kuo氏)



福岡は、日本政府が推進する「スタートアップ・エコシステム拠点都市」の一つに選定されており、東京と比較してビジネスコストが低く、地方自治体からのサポートも手厚い。また、地理的にもアジアの主要都市に近く、台湾からのアクセスも東京と比較して遜色ない。
CCIAが福岡に進出したもう一つの理由は、九州地方全体のポテンシャルだ。九州には、半導体産業の集積地として知られる熊本や、バイオテクノロジーの拠点である北九州など、特定分野で強みを持つ地域が点在している。台湾のスタートアップが、これらの地域の企業や研究機関と連携することで、新たなビジネス機会が生まれる可能性がある。

「福岡は、東京とは異なるエコシステムを持っています。東京では、大手企業やグローバル企業との連携が中心になりますが、福岡では、地方の中堅企業や、特定分野に強みを持つ企業とのパートナーシップが可能です。台湾のスタートアップにとって、これは新たな成長機会となります」(Kuo氏)

この地方展開戦略は、CCIAの「単なる資金提供者ではない」という姿勢を体現している。東京と福岡という2つの拠点を持つことで、投資先スタートアップに対して、より多様な市場参入オプションを提供できる。

ベンチャーキャピタルの進化——資金を超えた価値

Photo credit: Growthstock Pulse

Photo credit: Growthstock Pulse

Kuo氏の話を聞いていると、現代のベンチャーキャピタルの役割が、単なる資金提供者から、総合的な成長パートナーへと進化していることがわかる。CCIAの戦略は、この進化を体現している。
まず、市場理解の提供だ。日本市場は、多くのアジア諸国とは異なる独特の特徴を持つ。CCIAは、数年間の日本市場での経験を通じて、このような「暗黙知」を蓄積してきた。
第二に、ネットワークの提供だ。大手銀行、大手会計事務所、そして東証とのパートナーシップを通じて、CCIAは日本のビジネスエリートとの広範な人脈を構築してきた。投資先スタートアップは、このネットワークを活用することで、通常であれば何年もかかるような関係構築を、数ヶ月で実現できる場合もある。
第三に、戦略的アドバイスの提供だ。どの市場で上場すべきか、どのようなタイミングで日本市場に参入すべきか、M&Aと有機的成長のどちらを選ぶべきか。これらの重要な意思決定において、CCIAは単なるアドバイザーではなく、共同で戦略を構築するパートナーとして機能する。
CCIAの特徴的な取り組みの一つが、台湾スタートアップ向けの教育プログラムだ。

「これは一種の投資です。参加企業のすべてが最終的に日本で上場するわけではありません。しかし、このプログラムを通じて、台湾のスタートアップ・エコシステム全体の日本市場への理解が深まります。長期的な視点で見れば、この教育への投資は、台湾と日本の資本市場の架け橋を強化することにつながります」(Kuo氏)

もう一つ、Kuo氏が重視しているのがコミュニティの構築だ。日本に進出した台湾スタートアップは、共通の課題に直面する。これらの企業をつなぎ、知識や経験を共有できるコミュニティを作ることも、CCIAの役割の一つだ。

次の10年へ——M&Aファンドという新戦略

2017年8月、CCIAが開設された。写真はその開設式典の際のもの。 Photo credit: CDIB Capital Group(中華開発資本)

2017年8月、CCIAが開設された。写真はその開設式典の際のもの。 Photo credit: CDIB Capital Group(中華開発資本)

インタビューの最後、Kuo氏は今後の展望について語った。CCIAは今年、設立8年目を迎える。これまでに達成してきたことを基盤に、次の段階に向けた新しい戦略を描いている。

「8年という期間で、我々は着実に実績を積み上げてきました。我々は、早期段階のスタートアップへの投資から始めました。今では、東京と福岡にオフィスを持ち、日本と台湾を結ぶ重要なプレーヤーとなりました」(Kuo氏)

この期間で、CCIAは台湾で50社以上のスタートアップに投資してきた。その中には、次のユニコーンと目されるKKday(酷遊天)のような事例もあれば、まだアーリーステージのスタートアップも含まれる。
CCIAの次なる戦略の核心は、M&Aファンドの設立だ。これまで同社は主に早期段階のスタートアップへの株式投資に注力してきたが、今後はグロースステージ企業向けのM&Aファンドを立ち上げる計画だ。

「我々は現在、クロスボーダーM&A専門のファンドを計画しています。このファンドは、日本と台湾のスタートアップが互いに買収し合うことを支援します。台湾では既にM&A専門のファンドを持っていますが、日本と台湾の間でのクロスボーダーM&Aに特化したファンドは、まだ存在していません。我々が最初になります」(Kuo氏)

この戦略の背景には、明確な論理がある。早期段階のスタートアップが成長し、IPOに到達するには、通常10年程度の時間がかかる。しかし、戦略的なM&Aを活用すれば、このプロセスを5年程度に短縮できる可能性がある。

「例えば、台湾のテクノロジー企業が日本の販売チャネルを持つ企業を買収すれば、一から市場参入するよりもはるかに迅速に、日本市場でのプレゼンスを確立できます。逆に、日本企業が台湾のテクノロジー企業を買収するケースも想定されます。日本企業は、台湾のスタートアップが持つ技術やイノベーションを求めています。一方、台湾のスタートアップは、日本市場へのアクセスを求めています。M&Aは、両者のニーズを同時に満たせる解決策です」(Kuo氏)

これは、前述した人材確保の課題に対する有力な解決策でもある。日本企業を買収すれば、優秀な日本人人材をチームごと獲得でき、同時に既存の顧客ベースや市場知識も手に入る。

「1+1>2にしたいのです。我々が仲介するM&Aは、単に企業を買収するだけではありません。技術、市場、人材、そして企業文化をどのように統合し、新しい価値を創出するか。それが我々の専門性です」(Kuo氏)

CCIAは、両市場での豊富な経験とネットワークを活かし、適切なM&A対象の発見、デューデリジェンス、そして統合後の経営支援まで、包括的なサポートを提供する計画だ。

「5年後には、我々の投資先から複数のIPOストーリーが生まれているでしょう。重要なのは、それらのIPOの多くが、我々のM&A戦略から生まれるということです。アーリーステージスタートアップが自力でIPOに到達するには、時間がかかりすぎます。しかし、M&Aファンドを活用すれば、5年という短期間で、多くの企業をIPOに導くことができます。これが我々の次のマイルストーンです。 我々の目標は、日本で15社、台湾で15社の投資先を持つことです。しかし、それは単なる数の問題ではありません。重要なのは、これらの企業間でシナジーを創出することです。最適な組み合わせを探すことで、より多くの成功事例を創出できると考えています」(Kuo氏)

アジアの新しい資本市場エコシステムに向けて

CCIAが福岡オフィスを開設したCIC Fukuokaのオープニングイベントで。後方中央がRyan Kuo氏 Photo credit: CDIB Capital Group(中華開発資本)

CCIAが福岡オフィスを開設したCIC Fukuokaのオープニングイベントで。後方中央がRyan Kuo氏 Photo credit: CDIB Capital Group(中華開発資本)

Kuo氏との対話を通じて浮かび上がってくるのは、アジアの資本市場における新しいダイナミズムだ。これまで、アジアのスタートアップにとって、最終的な目標は常にアメリカ市場、特にNASDAQでの上場だった。しかし、その構図が変わりつつある。 日本市場は、単なる「代替案」ではない。多くの台湾スタートアップにとって、日本は最優先の市場となっている。それは、地理的な近さだけでなく、市場規模、ビジネス文化の親和性、そして何よりも、実際の事業成長につながる効果によるものだ。 しかし、この新しい流れを本格的なトレンドとするためには、解決すべき課題も多い。人材確保の難しさ、階層的な組織文化への対応、日本のVCによる外国スタートアップへの投資促進。これらは、Kuo氏が指摘した具体的な課題だ。グローバルなスタートアップを真に呼び込むためには、これらの課題に真摯に向き合う必要がある。 Kuo氏が描くビジョン——東京と福岡という2つの拠点、資金を超えた総合的な成長パートナーとしての価値提供、M&Aを通じた迅速な成長、日本と台湾のスタートアップ・エコシステムの統合、そして5年以内の複数のIPO実現——は、決して夢物語ではない。すでにその基盤は築かれており、次の5年間でそれが現実のものとなる可能性は高い。

「我々は長期的な視点で取り組んでいます。今日蒔いた種が、5年後、10年後に大きな木となる。それを信じて、我々は日本と台湾の架け橋としての役割を果たし続けます」(Kuo氏)

アジアの資本市場は、新しい時代を迎えようとしている。その中心で活躍するRyan Kuo氏とCCIAの今後の展開から、目が離せない。

(取材日:2025年12月9日)

 

本稿は、Growthstock Pulse に掲載された記事の要約です。全文は、Growthstock Pulse の記事(前編と後編)をご覧ください。