東証 アジア スタートアップ ハブ
Korea Development Bank
左から:Sang Hyeon Baek氏(KDB NextRound 部門代理)、Kyuhwan Rah氏(KDB NextRound 部門次長) Photo credit: Growthstock Pulse
投資だけではなく、エコシステムを育てる——韓国産業銀行(KDB)のスタートアップ育成戦略
韓国のスタートアップエコシステムは、この10年で目覚ましい成長を遂げた。その成長を支える重要な役割を果たしているのが、韓国産業銀行(KDB)(注1)である。1954年の設立以来、韓国政府が100%出資する政策金融機関として国の基幹産業育成に深く関わってきた同行は、1990年代からベンチャー投資に本格参入し、現在では韓国最大級のベンチャー支援機関となっている。
KDBの特徴は、単なる投資機関にとどまらない点にある。投資を通じた資金供給だけでなく、スタートアップと投資家をつなぐプラットフォームの運営、大規模なスタートアップイベントの主催、アクセラレーションプログラムの提供など、ベンチャーエコシステム全体を育てる包括的なアプローチを取っている。その中核を担うのが「KDB NextRound部門(注2)」だ。
今回、同部門のNextRoundチームで次長を務めるRah Kyuhwan氏と、代理のBaek Sang Hyeon氏に、韓国ベンチャーエコシステムの現状、3つのチームが担う役割、そしてグローバル展開の最前線について話を聞いた。
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- KDB NextRoundのウェブサイトは、こちらをご覧ください。KDB NextRound
韓国最大級のベンチャー支援機関——KDBの全貌
ソウル・汝矣島(ヨイド)にある韓国産業銀行(KDB)本店 Photo credit: Korea Development Bank
KDBは1998年からベンチャー投資に本格参入し、直接投資では現在までに1,400社のスタートアップに投資してきた。毎年約100社に新規投資を行い、韓国最大の直接投資機関として有望企業の成長を直接支援している。
「1994年から直接投資を始め、現在までに1,400社のスタートアップに投資してきました。毎年約100社に新規投資を行っています。」(Rah氏)
直接投資にとどまらず、VCファンドへの間接投資の分野でも大きな存在感を示している。2010年に間接投資を開始して以来、累計375を超えるファンドに出資し、現在も290のファンドへの参画を継続している。その総額は54兆ウォン(約5兆7,700億円)に達し、毎年1.6兆ウォン(約1,710億円)を新規ファンドに投資し続けている。間接投資の規模は韓国国民年金公団(国民年金)に次ぐ第2位であり、個別スタートアップへの直接支援と合わせて、エコシステム全体の資金循環を促進する中心的な役割を担っている。
KDBが投資において重視するのは、韓国政府が指定する12の国家戦略技術だ。半導体・ディスプレイ、二次電池、先端モビリティ、次世代原子力、先端バイオ、宇宙航空・海洋、水素、サイバーセキュリティ、人工知能(AI)、次世代通信、先端ロボット・製造、量子がその対象として指定されており、韓国経済の競争力を左右するコア分野への集中投資を政策的に推進している。
「特にディープテック分野——半導体、モビリティ、宇宙航空、バイオテクノロジーに注力しています。これらは韓国経済の成長を牽引するコア産業です。」(Rah氏)
2025年からは「国民成長ファンド」の運営も開始した。政府の先端戦略産業基金からの75兆ウォン(約8兆200億円)と、民間・公的・金融セクターからの75兆ウォン(約8兆200億円)によって構成されるこのファンドにより、KDBのエコシステムへの影響力はさらに拡大している。
3つのチームでエコシステムを支える
Image credit: Korea Development Bank
KDB NextRound部門は3つのチームで構成され、スタートアップの成長段階に応じた多角的な支援を提供している。
一つ目の「KDB NextONEチーム。」(ONEはOpportunity for New Entrepreneursの略)は、アーリーステージのスタートアップを対象としたアクセラレーションプログラムを運営している。民間のアクセラレーターとは異なり、特定の業界に偏ることなく、韓国経済全体にとって重要な分野のスタートアップを幅広く受け入れる。財務的支援としてはKDB NextRoundプラットフォームを通じた資金調達機会や直接投資、非財務的支援としては専門家による企業診断・コンサルティング、大手企業との事業連携機会、KDBの国際ネットワークを活用したグローバル市場参入プログラムなどを提供している。
二つ目の「NextRiseチーム」は、毎年6月に開催される韓国最大級のスタートアップフェア「KDB NextRise」を主催している。数百社のスタートアップが一堂に会し、投資家、事業会社、一般の人々が集まる総合的なイベントで、展示ブース、ピッチセッション、ネットワーキングイベント、パネルディスカッションなど多彩なプログラムが用意される。スタートアップにとっては自社をアピールする場、投資家にとっては有望企業を発掘する場、大手事業会社にとってはオープンイノベーションのパートナーを見つける機会となっており、エコシステム全体の活性化を年に一度のイベントとして体現している。
「KDB NextRiseは、韓国版のSusHi Tech Tokyoのようなイベントです。年に1回、大規模なスタートアップの祭典を開催しています。」(Rah氏)
三つ目の「KDB NextRound」は、IRプラットフォームを運営している。2016年に始動し、毎週火曜・水曜・金曜の週3回という高頻度でピッチイベントを開催することで、スタートアップと投資家を日常的につなぐ「場」として機能している。NextONEがアーリーステージのスタートアップを育て、NextRiseが年に1回の大舞台を提供する一方、NextRoundは継続的に出会いの機会を創出する。3つのチームが相互に補完し合うことで、成長段階に応じた包括的な支援体制が整っている。
「我々(NextRound)チームは、ベンチャーエコシステムを育てることに特化しています。投資だけではなく、スタートアップと投資家をつなぐ場を提供し、エコシステム全体の活性化を図っているのです。」(Rah氏)
「つながり」を創出するKDB NextRoundの仕組み
韓国産業銀行(KDB)が、ソウル・汝矣島(ヨイド)の本店で定期開催しているNextRoundのピッチイベント。写真は2025年2月に開催された「Opening Day」の様子。 Photo credit: Korea Development Bank
「Jump up through connectivity(つながりを通じた飛躍)——これが我々のプラットフォームの哲学です。キーワードは『つながり』です。」(Rah氏)
KDB NextRoundの運営モデルは独特だ。VC、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)、アクセラレーター、金融機関など130を超えるパートナー企業と提携し、各セッションをいずれかのパートナーがホストとなって運営する。ホストは自社のポートフォリオ企業から3〜5社を推薦し、毎回異なるパートナーと異なるスタートアップが登壇する仕組みだ。
「各セッションはパートナー企業が主催し、彼らのポートフォリオ企業から3〜5社を推薦します。つまり、毎回異なるパートナーが登場し、異なるスタートアップがピッチを行うのです。」(Rah氏)
この仕組みが多様性とコミットメントの両立を実現している。毎回異なるパートナーがホストとなることで様々な業界・ステージのスタートアップが登壇し、ホストとなること自体がパートナー企業に質の高い推薦への動機を与える。そしてチームはわずか4人だが、パートナー企業との協力により年間80〜100セッション、年間300〜500社のスタートアップがピッチ機会を得るという、韓国国内でも他に類を見ない規模の運営が可能となっている。
「我々のチームはわずか4人です。それでもこれだけの数のイベントを運営できるのは、パートナー企業との協力があるからです。」(Baek氏)
また、セッションは誰でも参加可能で、全セッションがYouTubeでライブ配信される。この開放性もKDB NextRoundの哲学を体現している。マッチングの機会を創出するためには、門戸を広く開き、多様な参加者を受け入れることが重要だという考え方が根底にある。アーリーステージから一定の売上を持つレイトステージまで幅広い企業が登壇するため、投資フェーズの異なる多様な投資家にとっても効率的な場となっている。1つのプラットフォームで様々な成長段階の企業に出会えることは、国内外の投資家双方にとって大きな魅力だ。
政府系機関としての独自性
2025年6月、ソウル市内のCOEXで開催されたオープンイノベーションをテーマにした年次イベント「KDB NextRise」。 Photo credit: Korea Development Bank
KDBが韓国のベンチャーエコシステムにおいて果たす役割は、政府系機関であることと切り離せない。
「政府系機関として、我々は特定の業界に偏ることなく、韓国経済全体にとって重要な企業を支援します。これは民間VCとの大きな違いです。」(Baek氏)
民間VCが自らの投資テーゼに基づき特定の分野に集中するのとは対照的に、KDBは研究開発期間が長く商業化リスクの高いディープテック分野も含め、幅広いセクターへの投資を長期的な政策目標に基づいて行う。半導体、バイオテクノロジー、宇宙航空など、研究開発から商業化まで10年以上かかることも珍しくない分野を、民間VCが難しいと感じる時間軸で支援できることがKDB固有の強みだ。短期的なリターンよりも産業全体の発展を優先できるこの姿勢が、韓国のディープテックエコシステムを下支えしている。
KDBに政府の後ろ盾があることにより、エコシステム内での信頼性が高まっている。大手企業のCVCや国際的な投資家など、多様な参加者がNextRoundイベントに集まるのもその証だ。多くの民間VCはKDBを競合ではなく共同投資のパートナーと位置付けており、KDBが先行投資することで他の投資家のリスクが低減されるとして、協調投資が頻繁に行われている。こうした公民連携のアプローチが、韓国のベンチャーエコシステムの継続的な成長を支える構造的な強みとなっている。
グローバル展開——日韓連携の最前線
2025年11月12日、韓国産業銀行はKDB NextRound in Tokyo 2025を東京で開催した。写真中央は、同行会長のSang-jin Park氏。 Photo credit: Korea Development Bank
韓国のスタートアップにとって、国内市場の限界は常に課題だった。コロナ禍以降、リモートワークの普及による心理的距離の短縮、国内市場の成熟化、グローバル資金調達の活発化という3つの要因が重なり、海外展開への意欲は急速に高まっている。
「コロナ禍以降、特にこの2〜3年で、海外市場への関心が明らかに高まっています。」(Rah氏)
こうした潮流に呼応して、KDB NextRoundは2018年以降「グローバルラウンド」を通じてその活動を世界へと広げてきた。中国(深圳・上海)、インドネシア(ジャカルタ)、シンガポール、アメリカ(シリコンバレー)、日本(東京)など各都市で開催されるこのイベントは、韓国のVC代表団が現地のエコシステム機関を訪問する1日目と、韓国・現地双方のスタートアップが投資家に向けてピッチを行う2日目の2日間で構成される。韓国のスタートアップエコシステムをグローバルなベンチャーエコシステムと直接接続する場として機能しており、参加スタートアップにとっては国際的な投資家・事業会社との出会いの機会となっている。
中でも日本市場はKDBにとって特別な位置を占める。地理的・文化的な近さと大きな市場規模が魅力的なターゲットにしている一方、言語の壁や商習慣の違い、規制の複雑さが参入障壁にもなっている。KDBは東京にオフィスを構え、日本企業とのネットワーク構築に力を注いでいる。2024年に東証 アジア スタートアップ ハブのパートナーとして参加し、東京イベントを通じて、韓国スタートアップの日本市場参入および将来的な上場支援に向けた連携を開始した。このイベントの成果として資金調達に成功したスタートアップや、日本市場に特化した投資戦略を打ち出した韓国VCも現れている。
「韓国にとって、日本は最も近い市場であり、ベンチャーエコシステム自体も近年急成長しています。」(Rah氏)
KDB NextRoundの国際展開は、韓国から海外への一方向ではない。2025年には韓国最大級の民間VCであるIMM Investmentの日本法人が、初めて外国VCとしてプラットフォームでイベントをホストし、日本のスタートアップが韓国の投資家にピッチを行った。KDB NextRoundが韓国スタートアップを支援するだけでなく、韓国のVCに海外投資の機会を提供するプラットフォームとしても機能し始めていることを示す象徴的な出来事だった。
「これは外国のVCが我々のプラットフォームでイベントをホストした初めての例です。非常に意義深い出来事でした。」(Baek氏)
「我々が韓国のベンチャーエコシステムを育てると言うとき、それはスタートアップだけでなく、VCも含まれます。韓国のVCにも海外投資の機会を提供したいと考えています。」(Rah氏)
日韓スタートアップエコシステムの未来
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KDBと東証の連携が目指すのは、韓国スタートアップの日本市場参入から将来的な東証への上場まで、一連の道筋を作ることだ。韓国のスタートアップの多くは韓国取引所(KRX)への上場を目指すが、日本市場への上場に関する知識は限られている。上場要件や会計基準をはじめとする日本市場特有のルールの理解から、ビジネスパートナーの開拓、現地人材の採用、規制への対応、商習慣への適応まで、多岐にわたる障壁の解消を連携の柱に据えている。東証は日本の金融・ビジネスコミュニティの中心に位置し、幅広いネットワークを持つ。この連携が韓国スタートアップにとって、日本市場における信頼できるパートナー開拓の大きな足がかりとなることが期待されている。
「東証との連携を通じて、韓国のスタートアップが日本市場で成功する事例を増やしたいと考えています。」(Rah氏)
日本と韓国のスタートアップエコシステムは、高い技術力、成熟した市場、豊富な人材という共通点を持つ一方で、国内市場の限界という課題も共有している。
「早い段階から海外市場を視野に入れる韓国のスタートアップが増えています。我々はその手助けをしたいのです。」(Rah氏)
韓国から日本へ、日本から韓国へ、そしてアジア全域へ——この双方向の流れの中心にKDB NextRoundを位置付けるビジョンは、単なる理想ではなく、グローバルラウンドや東証とのパートナーシップという具体的な行動として着実に実現されつつある。
「我々はKDB NextRoundを、韓国国内だけでなく、グローバルなスタートアップエコシステムをつなぐプラットフォームにしたいと考えています。」(Rah氏)
本稿は、Growthstock Pulse に掲載された記事の要約です。全文は、Growthstock Pulse の記事(前編と後編)をご覧ください。