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AI inside 株式会社
  • コード:4488
  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2019/12/25
渡久地 択(AI inside 株式会社)

いち早くAI事業に着手 誰もが利用できる高品質のAIを提供

渡久地 択(AI inside 株式会社)インタビュー写真

 AIビジネスの市場規模が急速に拡大していることは周知の事実だ。2020年度の市場規模は1兆1,000億円超、2025年度にはその規模がおよそ2兆円にまで膨れ上がると予測する調査*もある。そのような市場にあって、近年、存在感を高める企業のひとつがAI inside だ。同社の強みは手書き文字の高精度デジタル化(AI-OCR)やAIを搭載したクラウドサービスなどで、2020年3月期には前年比3倍超の売上15億9,145万円を達成。また、2021年度3月期も第3四半期までにすでに前年を大幅に超える売上高・利益で推移し、とどまるところを知らぬ勢い。今年は本格的に海外での顧客獲得に向け、営業活動も加速している。ディープラーニングにおける論文が世に出たのは2012年のことだが、2015年の会社設立以降、まさに機を見るに敏といった足取りでAIの事業を推し進めてきた若きCEOの渡久地択さん。AIに着目し、起業しようと意図した経緯について、こう話す。
*富士キメラ総研 2020 人工知能ビジネス総調査による

「高校を卒業した後、これから社会に何が起こるかと考えて200年先の未来の年表を書いたんです。その結論として、私の寿命の中で最も人類にインパクトを与えられるだろうと思ったひとつのテーマがAIでした。私がやらなくてもきっと誰かがやるでしょう。でも誰かがやらないと、そのような未来にはならない。だから自分でAIに関わる仕事をし、人類の進化に貢献できればと考えたんです」

 こうして、渡久地さんはAIの理解、勉強、研究を自力で始めることになる。当時は、ディープラーニングがAIの進化における技術的特異点を迎える前の時代で、AI自体、商品として成立するものではなかった。そのため、インターネットビジネスの展開を入り口とし、まずはポータルサイトの運営に着手、プログラミングスキルなどを身に付けていく。

渡久地 択(AI inside 株式会社)インタビュー写真

 その後、AI inside を創業した2015年まで、渡久地さんはいくつかの事業を手がけ、バイアウトなどによって資金と経験と知恵を蓄積していった。そんな過程で得たひとつの大きな気づきが「スケール」という、今につながるキーワードだった。ビジネスにおいてスケール(拡大)と聞けば当然のようにも思えるが、渡久地さんは商材・事業をスケールさせるため、高品質のAIを誰でもすぐに簡単に利用できるサービスとして提供する道を選択した。

「以前、設立した会社でビッグデータの解析を受注していました。顧客は大企業が多かったですしやりがいもあったのですが、一件ごとのプロジェクトにいくら最大限の力を注いでも、スケールしないなと感じるようになったんです。自分の会社が稼ぎ続けることはできても、このやり方ではAIが世の中に広まることは絶対にないなと。であれば、高品質のAIをできるだけ安く、誰でも使える形で提供すればいいのだろうとシンプルに考えました。そうすれば私たちの作る優れたAIが自然とスケールし、社会も進化していけると」

 会社のビジョンである「AI inside X」には、こうした渡久地さんの思いが込められた。Xの部分に「世界中の人や物」を代入することで、誰もが当たり前のようにAIを使い、その恩恵を受けられる未来を目指すという意味になる。人口が減少しても日本の生産効率を維持、向上させるには、高度なAIが社会に浸透することが必要不可欠なのだと、渡久地さんは説く。

AIビジネスの好循環サイクル

「誰でも」「簡単に」AIを作れる発想と技術

AI inside の主力商品であるAI-OCR「DX Suite」は誰でも迅速かつ簡単に、書類をデジタルデータ化できる画期的なソリューションだ。これはAI活用を身近なものにし、「AIを使う」ということを一般化させるものだ。活字、手書きなど多様なスタイルの文字を正確に読み取り、フォーマットが異なる書類でも自動で読み取るべき項目をサーチするなど充実の機能を搭載。導入によって膨大な手入力の負担を削減可能なこのプロダクトの契約件数は現在、1万2,900件以上(2020年12月末時点)、AI-OCR市場のシェアトップを独走する人気商品だ。

手書きの書類を読み込む『DX Suite』の画面

「日本の生産年齢人口は減る一方で人の作業量は増えており、近年、長時間労働や働き方改革といった課題が挙げられています。なかでも、手作業のデータ入力を請け負う日本のBPO市場は、年間およそ5,800億円程度に上るとされています。であればその部分をAIにやってもらおうというシンプルな発想です。」

 それでは、誰でも、迅速かつ簡単に「AIを作れる」という商品の中身はどのようなものなのか。不燃物のゴミ処理場で使われているシステムを用い、渡久地さんが説明してくれた。ベルトコンベアに載せられて次々とゴミがやってくる。その流れを捉えるカメラからの映像。消火器は青、ノートPCはオレンジの四角いマークが画面上に点灯する。動画を判別したAIが危険物と認識し、それを知らせてくれるのだ。

『AI inside Learning Center』でゴミ処理場の現場担当者が危険物のモデルを選択している様子

渡久地 択(AI inside 株式会社)インタビュー写真

「これは顧客自らが作ったAIです。私たちが開発した『AI inside Learning Center』というAI学習ツールソフトを使って、動画中の流れてくる様々なゴミから、顧客が特定の危険物を選んでクリックするだけ。この作業を重ねていくと、AIが次第に学習して自動的に危険物を画像認識できるようになるんです。このツールを使えば、開発者でなくとも、スマートフォンが触れる方であれば誰でも簡単にAIを作ることができます」

 さらにAI inside はこうしたソフトウェアだけでなく、AIをオンプレミスで動かすためのハードウェア『AI inside Cube』シリーズを展開。誰でも使えるAIの利便性をより向上させるため、シンプルな操作性やコンパクトなサイズ感、セキュアな環境、サブスクリプションでの提供などをすべてパッケージングし、どんな企業でも迅速にAIを導入、使用できる形態を整えた。ハードまで開発したのはサービスの質向上において「必然」だったと話す渡久地さん。社会のニーズありき、顧客ファーストの思想で、思惑通り、同社のAIはジワジワと世の中の至るところへ浸透してきている。

一枚岩の組織を支える社員とのコミュニケーション

渡久地 択(AI inside 株式会社)インタビュー写真

 今でこそ、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けるAI inside だが、研究開発時や事業黎明期に苦労した経験はあったのだろうか。

「もちろん、事業を開始してから苦しい時期もありました。2015年の設立から2年ほどでAI-OCR『DX Suite』を発売したのですが、その頃はOCRの精度が高くなかったので、顧客には実験的にサービスを利用していただいていました。サービス提供を開始した当初も課題は山積みだったのですが、なかでも大変だったのは社員にAI-OCRの実現を信じてもらうことでした」

 OCRの歴史自体は100年以上前から存在するものの、依然として精度の高い文字の読み取り技術は実現していなかった。また、AI-OCRの前例がなかったため、その当時、社員とは方針に食い違いもあったという。まだ世に無いものを形にしていく中で不安や齟齬が生じるのは仕方ないことであるが、こうした問題を解決した背景にはフレキシブルなコミュニケーションをとれる社風があった。

「当時から、毎週月曜日の朝に私が全社員に向けて20分くらい話をする場を設けています。そこでは、世界一の企業になるための方針や定量的な売上の目標、最近反省したことなどを伝えているのですが、改めて自分が思ったことは社員にきちんと伝えなくてはと感じています」

 AI分野でのプラットフォーマーとして、世界一の企業を目指すAI inside。その揺るぎない信念は、渡久地さんの声が届きやすい風土ゆえ、社員全員に浸透しているようだ。

世界一という目標に向かうため、必要な素養とは

渡久地 択(AI inside 株式会社)インタビュー写真

 OCRのニーズは書類の取り扱いが多ければ多いほど高まる。加えて事業規模が大きければ大きいほど、AI-OCRによる費用対効果は高い。ゆえに、渡久地さんがAI-OCRを販売する顧客の理想としたのは主に大企業だった。そんな戦略において、上場は言わば必定でもあったという。そこでAI inside は設立から4年でマザーズ市場に上場した。

「そもそも、データ入力は機密性を伴う日々のオペレーションにかかわるので、導入に際して弊社の信用度が重要視されますし、やはり大企業とのビジネスにおいて上場は大きな意味を持ちます。また弊社の情報が開示されることで、これまでの顧客も一層、心置きなく私たちとお付き合いしてくださるようになったと感じています。その結果、ご一緒させていただく取り組みが一歩進んだということもありました。弊社の信用度が向上することで、さらに多くの顧客が興味を持ってくれるというチャンスも生まれますしね。AIを世に広めるため、上場は必要な過程だったと改めて思います」

 上場によって採用面でも大きなアドバンテージを得た。非上場時も入社希望者は多かったが、上場後は希望者が4倍以上にも増えた。結果、採用できる人材の質は明らかに高くなったという。そんな状況でどのような人材を求めているかについて問うと、渡久地さんはこう答える。

「専門性や人間性は大前提ですが、言ってみれば"まだこの世に存在しないものを信じる力"がある人が理想です。弊社には世界一になるという目標があって、これを信じて頑張れる人、信じていないが頑張れる人、信じられずに頑張れない人がいるわけです。私が一緒に働きたいと思うのは、世界一という目標を信じて頑張れる人。いま目の前にないものを信じて、壮大な目標に向かって突き進む力を求めているんです」

 魅力的な商品ならより高く売りたいと考えるのが一般的な考え。これとは逆行した方向を見定め、安くすることでスケールを狙う同社。AI inside のスタッフはすべて、この戦略のもと突き進み、AIを世の中の隅々まで浸透させる「AI inside X」というビジョンを実現しつつ、明らかな結果を出し続けている。

「私自身、自分にはこういう能力があって何ができるからとか、趣味嗜好や性格からこれがやりたいといった考えをビジネスに持ち込むことは一切ありません。世の中のため、社会が求めることをベースとしてビジネスを興す、それに尽きます。そうすれば自然と結果はついてくるはずです。」

幅広い読書が支える人としての佇まい

渡久地 択(AI inside 株式会社)インタビュー写真

 これまでの生活は読書とともにあったと話す渡久地さん。幼い頃から祖父の指導により、夏休みなどは朝から昼まで本を読むのがルーティンだったという。歴史、哲学、物理学、宇宙、テクノロジーなど、多様なジャンルの読書を習慣化することで、自身の基本が形成されたという。

「目的はなく、とにかく読むと(笑)。この習慣は今でも続いています。とくに古書を探して本屋を巡るのは楽しみのひとつです。今にして思えば幅広い読書の経験が、どう生きていけば良いのかといった思索や、倫理観の形成などにつながっていったんでしょう。誰でもAIを作れるということは、作り手である誰もが責任を持たなければならないということでもある。つまり作り手にはきちんとした倫理観が求められるということですね。そうでなければ社会に役立つAIにはなっていきません。こう考えると、AIを広く提供する私の今の仕事は、幅広い読書によって得た知識や知恵、思想に支えられているんですよね」

 高価な車が欲しいとか、豪華な邸宅が欲しいといった、消費にまつわる欲求はほとんどないという渡久地さん。仕事がオフの日でも、いつの間にか何かを作ることに集中しているとか。

「オフの時は特定の病気を治すためのアルゴリズムを作ったり、無心でDIYを楽しんだり。何かを作るのがやっぱり好きなんだと思います。昔は音楽家を目指していたので曲づくりなども一所懸命やっていました。今では思いついた旋律をピアノで弾くくらいですが」

 自らが存在する意義は「人類を進化させること」だと言い切る渡久地さん。地球が有するエネルギーだけでは賄えない未来に、求められるのは宇宙への進出とAIであると確信に満ちた表情で言葉を紡ぐ。ひょっとするとその眼には、100年先、200年先の世界がはっきりと見えているのかもしれない。

(文=宇都宮浩 写真=朝岡吾郎 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2021/01/25

プロフィール

渡久地 択(AI inside 株式会社)プロフィール写真
渡久地 択
AI inside 株式会社 代表取締役社長CEO
1984 年
愛知県生まれ
2010 年
socialwave株式会社設立、代表取締役就任
2011 年
IQUE株式会社設立、代表取締役CTO就任
2012 年
SPACEBOY株式会社設立、代表取締役就任
2013 年
think apartment株式会社設立、代表取締役就任
2014 年
一般社団法人データサイエンス総合研修所設立、代表理事主任
Asia Post pvt.ltd CEO就任
2015 年
LUZ-D株式会社設立、代表取締役就任
Pulse Evolution Japan株式会社設立、代表取締役CEO就任
Toguchi Estate株式会社設立、代表取締役(現任)就任
AI inside 株式会社設立、代表取締役社長CEO就任(現任)
2019 年
東証マザーズ上場

会社概要

AI inside 株式会社
AI inside 株式会社
  • コード:4488
  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2019/12/25