上場会社トップインタビュー「創」

株式会社グラフィコ
  • コード:4930
  • 業種:化学
  • 上場日:2020/09/24
長谷川 純代(株式会社グラフィコ)

「ものづくりが好き」の一心でデザイン会社を起業

長谷川 純代(株式会社グラフィコ)インタビュー写真

 美しく健康でありたいという欲求に際限はない。さらに2年に及ぶコロナ禍がもたらしたのは、清潔さの高い水準だ。しかしこれらをすべてかなえるには意外とコストがかかる。ドラッグストアの棚には、こうしたニーズに応える多様なサプリメントや日用雑貨、医薬品が品ぞろえされているが、リピート買いするには「ちょっとお高い」と思える商品も少なくない。
 美・健康・クリンネス——トレンドであり、普遍的でもあるこれらのニーズにアプローチした商品の提供で成長を続けているのが株式会社グラフィコだ。ニーズの変化に対する機動力を兼ね備えたファブレスメーカーとして、高い感性の発想力と地道な開発力で勝負する。比較的リーズナブルな商品が多いのも特徴。リピートすることで効果が実感できる美容・健康・クリンネスの分野において、累計出荷数が100万個を超える数々の「ミリオンセラー商品」を生み出すことに成功している。
 同社代表の長谷川純代さんは、かつて日本画を学び、モデルとしての活動経験もある異色の経歴の持ち主だ。最初の就職先である株式会社セビアンでは、アクセサリーのデザイン・企画、営業の仕事などを経験した。「ものづくりが好き」という幼い頃から一貫した思いはかなえたが、体調を崩したことで退職することになる。

「ものづくりが好きという思いは継続していましたので、セビアン退職後は商業デザインを独学で学びました。しかし当時は版下づくりなど手作業の時代。思い描いたデザインをかたちにするまでの作業が膨大で、今後コンピューターが発展したらもっと楽に処理できるのではないかと思いました」

 1990年代初頭、デザイン処理を目的とするアプリケーションが日本にはなかった。そこで、長谷川さんは行動を起こす。

「当時日本ではあまり使われていなかったグラフィックデザインソフトを海外から取り寄せました。日本にはまだその画像編集ソフトの教本はなく、英語のマニュアルもよくわからない。実際に触って理解していくうちに、処理スピードに驚き、描けるデザインのスケール、広がりに可能性を感じました。その後まもなくフリーランスのグラフィックデザイナーとしての仕事を始めましたが、コンピューターでデザインを作ってもデータ入稿ができないのはジレンマでした。データをまた手作業の版下に落とすという非効率さでしたが、面白いデザインをすると評価され、クライアントがついてくれました」

 仕事が増えたことで、社員を雇用し、広告デザイン会社として法人化したのが1996年。この頃から商品企画の仕事も入ってくるようになった。

自社名で発売した食品が大ヒット、販路拡大が転換点に

長谷川 純代(株式会社グラフィコ)インタビュー写真

 会社の設立当初は、広告代理店が営業窓口の二次請けで、「いいものをつくる」仕事に集中した。企画した商品は、メーカーの名前で世に出た。

「私は売り込みが上手なほうではないので、営業しなくてもいい方法を考えよう、圧倒的な結果を出せば、自然に依頼がある、とにかく結果で差をつけようと、商流や自社名が商品につくことに当初はこだわりはありませんでした」

「徐々にですが、当社で商品のマーケティングやプロデュースを一貫して行った中からヒット商品が出始めました。その際に『一通りできるのになぜ自分の会社から商品を出さないのか』と商社の人から問われ、自分たちで作る考え方もあると気づいたのです。フロー型のビジネスからストック型にしたいという意向も、私が描く成長の姿としてありました。ただ、在庫を持つためには相当な資金が必要です。そこで広告代理店やテレビショッピングの会社と組んで、完全成功報酬型を約束してプロデュースするところから始め、機が熟するのを待ちました」

 その第1弾が「ハリウッドミラクルダイエット」。まだファスティング(断食)という言葉は日本にはなかったが、ブームを仕掛けたのがこの商品だ。この1商品で年間約40億円の売上となり、その資金をもとに新たな商品企画に臨んだ。同社名で商品が発売されるのは、それから3年後のことである。

バジルシード入りキャンディ「満腹30倍」

 最初に発売したオリジナル商品は「IQ Mediral」。これは今もある通販専用の美容液でまずまずの売れ行きだったが、大ヒットとなったのは2つ目の商品だった。
「新日本製薬さんが特許を持っている技術の商品化の相談を受けました。つくったのはお菓子です。バジルシード入りでなめているうちに30倍に膨らみ小腹が満たされるというダイエット商品で、当時は何らかの効用を加えた菓子がなくその走りになりました。そのとき証券会社から上場を考えてみないかと初めてお声がかかりました」

 社内体制の強化ができておらず、早期の上場は見送ったが、初めて出した食品がヒットしたことで、販路はドラッグストアやバラエティストアなどに広がった。それがその後の多彩な商品開発に向かう転換点となったと言える。

女性の悩みを解決する商品を世に送り、笑顔を繋ぐ

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 グラフィコの経営理念は「モノ創りで、笑顔を繋ぐ。」
「気持ちにゆとりがありハッピーでなければ笑顔にはなれません。不満があると笑わなくなる。皆で笑って楽しいと思いながら仕事をして、お客様が喜んで笑顔になってくれる商品を作りたいのです。お客様が喜んでくださると、そのお声が私たちに届き、社員もまた元気になります」

 そのために商品をつくるだけでなく、プロモーションにも力を入れている。今ではネット記事や女性誌などで当たり前に見られる「温活」という言葉も元をたどれば、同社がつくりだした登録商標である。以前、温活に関連してユニークなイベントを実施している。

「『優月美人 よもぎ温座パット』という子宮周辺を温めるナプキン型の商品を発売しましたが、当初はプロモーションに苦心しました。女性向け商品でもバイヤーには男性が多く、全然ピンとこないと言われて……。そこで女性たちを楽しくさせてくれそうなキャラクターとして渡辺直美さんを起用し、渋谷で『冷え取り大作戦』というイベントをやりました」
デリケートゾーンに関連する商品を明るく楽しく取り上げたことに話題性があり、報道陣も多く集まったという。

 また、『なかったコトに!』は同社のミリオンセラー商品の一つで、命名は長谷川さん。商品名のユニークさも販売やプロモーションには重要な要素だ。
「発売当時、サプリメントは成分名などが使われたわかりづらいものが多く、商品名もお客様とのコミュニケーションのカギなので、わかりやすくそれでいてふっと笑えるようなものにしたいと思いました。食べ過ぎたり、いろいろなことをなかったことにできればいいなという気持ちから生まれた商品名です」
 入れ替わりが激しいサプリメントだが、2009年5月に発売し、今もドラッグストアなどの売り場で存在感を放つ。長く愛され続ける商品の裏側には「お客様を笑顔にしたい」という強い思いが込められている。

サステナブルな取組みで途上国の女性と子供を支援

長谷川 純代(株式会社グラフィコ)インタビュー写真

 同社社員の女性比率は60%を超え、なかでも商品企画部門は全員が女性メンバーで構成されている。
「当社の商品開発に女性の感性、鋭い消費行動や消費感覚は不可欠です。日常の生活の中で困っていることを明確にわかっていることも強い。男性には言えない女性ならではの悩みもあり、しっかりキャッチアップできます。どんなに困っていてもそれを解決する商品がないのは、男女平等が良しとされる現代社会で、女性だけそれがつらいとは言いにくい環境があるのです。そんな女性たちをサポートする商品が当社では開発できます。そこが大きな強みです」

 とはいえ、昨今のソーシャルメディアの普及と進化で、これまで表に出なかった女性特有の悩みやニーズが顕在化しやすくなっている。こうした情報も敏感にキャッチアップしているという。
「カスタマーサポート部門でSNSのアカウントを持っています。例えば当社のヒット商品の一つ『オキシクリーン』は、ビフォーアフターで劇的に変わるので、ユーザーが『使ったらこんなに真っ白になった、汚れが落ちた』とインスタに上げてくださいます。そのリプライに当社も入っていき、『こうやって使うともっといい』などといったコメントを送ります。ワントゥワンコミュニケーションを重視することで、オキシクリーンはSNSでも広がりを見せ、インスタで検索すると10万件を超えてヒットする状況です」

FEEL PEACEプロジェクト

 また、会社の利益だけでなく、世界規模まで思いやりの心を持ち、社会に貢献していくことが同社の企業理念だ。SDGsの取組みが注目されるようになる前から、同社では先駆的にサステナビリティへの取組みを展開している。
「途上国への支援は、10年以上前から取り組んでいます。アフリカのベナン共和国では、仕事がなく収入を得られず、汚れた水を飲み子供が下痢になる。それだけで命を落とす状況があると聞きました。何かできないかと考え、お金を出す支援だけでなく、継続的に経済を回す仕組みを作りたい、そのお手伝いがしたいと思い至りました。そこで複数の法人、仲間と組み、FEEL PEACEプロジェクトを立ち上げ、現地で生かせる資源を加工して輸出する仕組みを作ったのです。今は現地の女性がシアバターのシアの実を収穫し、加工・製品化して輸出しています。その結果、現地の人たちの生活水準が上がり、子供たちを学校に行かせることができるようになりました。」

 そして輸出されたシアバターは同社の商品を通してお客様に届く。まさに「笑顔を繋ぐ」取組みがここでも体現されている。

会社として信頼関係を築くための上場

長谷川 純代(株式会社グラフィコ)インタビュー写真

 新規上場は2020年の東証JASDAQ。最初に証券会社に声をかけられてから年月が経っている。上場を決断したのは2012年とのことだが、そこから8年。この間の経緯を聞いた。

「実は2015年に一度上場承認をいただきましたが、季節性の商品に予期せぬ返品がありました。上場してすぐに計画未達では、信頼を築きたいと思って上場するのに良くないことだと一度取り下げたのです。季節に偏らない商品をメインにして出直そうと、それが『オキシクリーン』です。また、返品リスクも含めて店頭での売れ行き状況が管理できる体制をさらに強化し、改めて2020年に承認されました」

 クリエイティブさを問われる業種であるため、上場に向けての取組みと相反する要素も多い。にもかかわらず、上場にこだわった理由を聞いた。
「ヒット商品を出していけば、上場しなくても会社は成長していくと思っていました。しかしユーザーはこの商品もあの商品も知っているけど、同じ会社のものであることを知らない。会社としてのブランディングや信用力を上げることができていないことに気づいたのです。商品は一生懸命つくり、プロモートにも力を入れている。その一方で会社も真面目に経営してきています。そして今後も真面目にやっていくという約束をお客様と結びたいという思いが上場の一番の動機です。上場してすべてを詳らかに見せていくことが信頼関係につながるのではないでしょうか」

 実際に上場したことで、業務提携の話をスムーズに進められるようになったという。特に注目されているフェムテック分野での研究開発が加速しているようで、女性にとってのどんなソリューションが生まれるのか楽しみだ。

 しかし期せずして、コロナ禍での上場となった。
「外出自粛が化粧品の売れ行きに大きな影響を与えました。またインバウンドでの売れ筋商品の売上が伸び悩み、最初は愕然としました。大事な上場申請時期にこのような事態になり、影響を見逃さずキャッチアップするのに必死でした。しかしコロナ禍に順調に売れる商品もあります。オキシクリーンや消毒用エタノール、ヘルスケア商品などです。それらの売れ筋商品で落ち込みをカバーできるよう柔軟に取り組みました。このタイミングに上場することにも悩みましたが、社員の命や安全を優先させながら、何とか経済活動を両立させ、上場を再延期することはありませんでした」

 個人株主にはグラフィコ商品のファンも多い。株主優待では商品の詰め合わせを贈り、株主から喜びを伝えるメッセージを受け取った。まず商品のファンになっていただき、会社全体を応援していただけることはありがたいと長谷川さんは言う。

社会への支援活動と仕事を一体化し働く原動力に

長谷川 純代(株式会社グラフィコ)インタビュー写真

 創業当初から幾度もの会社の転換期を乗り越えてきた長谷川さん。チャレンジすることも喜びだと、その笑顔が語っている。そんな長谷川さんに上場を目指す方へのアドバイスを聞いた。
「先輩経営者から言われた言葉なのですが、『上場した会社にしかわからないことがある。上場するために上る階段が会社を強化していく』と。それならやるべきだと強く思いました。会社を強化したりクリーンにしたりすることは、会社の継続成長のためには必要なこと。その結果が信頼の証になります。社会もどんどんチャレンジを認める空気になればいいと思います。」

 上場後のグラフィコのビジョンを強い信念を持ってこう話す。
「今後は、上場準備中にはなかなか没頭できなかった研究開発に投資していきたい。フェムテック分野に力を入れていくことは決定事項です。結婚しても働き続ける女性が多数を占める現代社会で、働きながら不妊治療を受けている人がいますが、非常に大きな負担です。不妊治療の前に妊娠の可能性を広げられないか。先進国の多くで少子化が進んでいる今、開発し商品化に至れば大きな社会貢献にもなります。もう一つ、現在当社の大きな柱に成長しているハウスホールド(日用雑貨)分野についても、着眼点を変えた新たなブランドの投入を目指しています。オキシクリーンで拡大した販路を生かし、経営基盤をさらに確かなものにしていきたいと考えています」

 さらに長谷川さんは続けた。
「今後はこれまでもやってきたことですが、サステナブルな社会をつくるための支援活動を仕事と一体のものとして続けていきたい。そうなることで、働く意義につながり、社員が働く原動力になります。貢献意欲の高い人の採用にもつながり、人のためになると実感したときに社員と一丸となれる。それが私にとっても目指すべき会社の風土です。私は本当に人に恵まれていると思います」

 ソフトな語り口でありながら、そこはかとないエネルギーを感じる長谷川さんを癒してくれるのは愛犬の存在。大の動物好きを自称し、帰宅後愛犬とじゃれ合うとぽんとオフのスイッチが入るという。
 宵越しの怒りや悲しみは持たず、次の日は絶対に笑顔になると決めている。その晴れやかな笑顔が繋げる、女性を、社会を幸せにするモノ創りに今後も期待したい。

(文=吉田香 写真=岡村享則 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2021/11/22

プロフィール

長谷川 純代(株式会社グラフィコ)プロフィール写真
長谷川 純代
株式会社グラフィコ 代表取締役社長CEO
1967 年
群馬県生まれ
1990 年
株式会社セビアン入社
1993 年
クリエイティブ事務所グラフィコとして独立(代表)
1996 年
有限会社スタジオグラフィコ(現当社)設立
2020 年
東京証券取引所 JASDAQ市場へ株式上場

会社概要

株式会社グラフィコ
株式会社グラフィコ
  • コード:4930
  • 業種:化学
  • 上場日:2020/09/24