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東株理事長郷誠之助手書の扇子

東株理事長郷誠之助手書の扇子写真

上の写真は、大正12年の関東大震災によって倒壊した東京米穀商品取引所(東京穀物商品取引所の前身)が昭和4年に新築した際、東京株式取引所(東株)第10代理事長であった郷誠之助氏が、東京米穀商品取引所理事長(第6代三浦理事長)に、新築のお祝いの品として贈られた扇子で、 「うきことの なお此の上につもれかし かぎりある身の ちからためさむ」という短歌を添えられています。

郷理事長は、明治44年から大正13年まで、東株歴代理事長の中で最長の13年間、理事長を務めました。また、理事長就任とともに、亡父の爵位(男爵)を継承、貴族院議員でもありました。

郷理事長は、大正9年の反動恐慌、関東大震災をはじめとした“ゆらぐ兜町”に直面した一方、混乱した株式市場を復興させるため、銀行首脳、財界有力者などに何度も足を運び、事態の収拾に尽力したことでも知られています。市場の混乱が収まり、立会再開を迎えた郷理事長は、市場全体に響きわたるよう勢い声を大にして、時局の重大性を説き起こし、経済界のバロメータとしての市場関係者の責務に言及し、どこまでも慎重に対処して欲しい旨を力説しました。すると、どっと万雷の拍手と同時に「東株ッ」と声が掛かり、拆を入れる者もいたそうです。

数々の苦難を乗り越えてきた郷理事長であっただけに、東株に寄せる思いは人一倍強かったことでしょう。郷理事長の短歌は、その思いを踏まえ、三浦理事長並びに新装の東京米穀商品取引所に“エール”を贈ったものと思われます。