商品先物取引について

商品先物取引の基本的な仕組みは、「先物取引とは」における「取引事例」で紹介した内容と同じです。ここでは、商品先物取引の代表的な取引手法であるヘッジ取引の具体例をご紹介します。

ヘッジ取引とは

先物価格が現物価格と連動した動きをする性質を利用して、現物市場と反対の取引を先物市場で行うことによって、価格変動によるリスクを抑制または排除することができます。このような目的の取引を「ヘッジ取引」といいます。ヘッジ取引の基本的なメカニズムは、現物市場で発生する損益を先物市場で発生する損益で相殺するところにあります。ヘッジ取引を行うことによって、その後、価格がどのように変動しても、ヘッジ取引を行った時点の価格で、将来の購入価格または売却価格を確定することが可能になります。

買いヘッジとは

現物商品の売り契約をした事業者が、契約後の現物の値上がりによる損失を補うため、先物を買い付けることをいいます。また現物商品の買付けを予定している場合は、今後の価格変動(特に値上がり)に係わりなく、先物市場において現時点での先物価格で商品を手当てする目的で用いるのが「買いヘッジ」です。現時点で将来の買付数量に相当する先物の買いポジションを建てておき、将来、現物の買付けを行うときに、この先物の買いポジションを転売することによって決済する方法が一般的です。
こうしたオペレーションによって、実際に価格が上昇した場合には、現物取引ではコスト上昇が生じますが、先物取引では利益が発生するので、先物取引の利益で現物取引のコスト上昇を相殺することができます。
逆に、価格が下落した場合には、先物取引では損失が発生しますが、現物取引ではコストが下がるので、先物取引の損失は現物取引のコスト低減で相殺されることになります。
後者の場合、「ヘッジしなければ現物取引(値下がり)の利益を享受できたのに」という意見が後から出ることが多々ありますが、買いヘッジの目的はあくまで、ある時点の価格で将来の商品の調達費用を確定する点にあるわけですから、これで目的は十分に達成されているのです。

買いヘッジの具体例

具体例として、ある商社が金地金を半年後に10kg調達して、メーカーに納入しなければならないケースを考えてみましょう。現在の金価格は5,000円/gですが、納入価格は5,100円/gで、実際に金地金を納入するのは半年後だとします。金地金の価格がずっと5,000円/gのままであれば、このビジネスは十分採算がとれる(100円/gつまり10kgで100万円の利益が得られる)のですが、半年後には金価格は採算のとれない水準まで上昇してしまうかもしれません。かといって今から金地金の現物を10kg購入して半年間保管するのでは、5,000万円もの資金を半年間も寝かせておくことになりますし、また地金の保管費用も無視できません。そこで、現時点において10kg分相当の金先物のポジションを買い建てておくのです(以下では先物価格と現物価格は同じ動きをすると仮定して、5,000円/gで先物の買いポジションを建てたとします)。

このとき、半年後に金価格が5,500円/gに値上がりした場合には、どのようになるでしょうか。ヘッジをしていなければ、時価5,500円/gで金地金10キログラムを調達して、当初の約束の5,100円/gで納入しなければならないので、現物取引に係る手数料等を無視しても、400円/g、つまり10kgで400万円の損失が発生してしまいます。しかし5,000円/gで買い建てた先物ポジションは、先物価格も現物価格と同じような動きをするので、その先物価格も5,500円/gあたりまで上昇しているはずです。したがって、この買いヘッジのポジションを転売して差金決済すれば、500円/g(=5,500円/g-5,000円/g)、つまり10kgで500万円の利益が先物取引から得られることになります。この先物取引から得られた利益500万円で、現物取引で発生する損失400万円をカバーすれば、差引き全体として100万円の利益(当初の思惑どおりの利益)が確保されたことになります。

反対に、半年後、金価格が4,500円/gに値下がりした場合には、先物取引では500万円(=(4,500円/g-5,000円/g)×10kg)の損失が発生しますが、現物取引では4,500円/gで調達して5,100円/gで納入すればよいので、600万円(=(5,100円/g-4,500円/g)×10kg)の利益を上げることができます。全体としては差引きで、この場合もやはり100万円の利益が確保されたことになります。

売りヘッジとは

ある商品を保有しており(または将来確実に入手することになっており)、将来、その商品の売却を予定している場合に、今後の価格変動(特に値下がり)による損失を回避するため、現時点での価格で将来の一定期日に商品を売りたい場合に用いるのが、「売りヘッジ」です。現時点で将来の売却数量に相当する先物の売りポジションを建てておき、将来、現物の売却を行うときに、この先物の売りポジションを買戻しにより決済する方法が一般的です。

こうしたオペレーションによって、価格が下落した場合には、現物取引においては売却代金が下がり損失が発生しますが、先物取引では利益が発生するので、先物取引の利益で現物取引の損失を相殺することができます。 反対に、価格が上昇した場合には、先物取引では損失が発生しますが、現物取引においては利益が生じるので、先物取引の損失は現物取引の利益で相殺されることになります。

後者の場合、「ヘッジしなければ現物取引(値上がり)の利益を享受できたのに」という意見が出ることが多々ありますが、ここでも売りヘッジの目的はあくまで、ある時点での価格で将来の商品の売却収入を確定する点にあることを再度確認しておきます。

売りヘッジの具体例

ある鉱山会社が自社生産の金地金を半年後に10kg、そのときの市場価格で商社に販売する契約を結んだケースを考えてみましょう。ここでこの鉱山会社の生産採算価格は4,800円/gだと仮定します。現在の金の市場価格は5,000円/gですが、実際に金地金を渡すのは半年後だとします。金地金の価格がずっと5,000円/gのままであれば、このビジネスは十分採算がとれる(200円/gつまり10kgで200万円の利益が得られる)のですが、半年後には金価格は採算のとれない水準まで下落してしまうかもしれません。そこで、現時点において10kg分相当の金先物のポジションを売り建てておくのです(先物価格と現物価格は同じ動きをするという仮定にしたがって、5,000円/gで先物の売りポジションを建てたとします)。

このとき、半年後に金価格が4,500円/gに値下がりした場合には、どのようになるでしょうか。ヘッジをしていなければ、採算価格が4,800円/gの金地金を4,500円/gで10kg販売しなければならないので、現物取引に係る手数料等を無視しても、300円/g、つまり10kgで300万円の損失が発生してしまいます。しかし5,000円/gで売り建てた先物ポジションは、先物価格も現物価格と同じような動きをするので、その先物価格も4,500円/gあたりまで下落しているはずです。したがって、この売りヘッジのポジションを買い戻して差金決済すれば、500円/g(=5,000円/g-4,500円/g)、つまり10kgで500万円の利益が先物取引から得られることになります。この先物取引から得られた利益500万円で、現物取引で発生する損失300万円をカバーすれば、差引き全体として200万円の利益(当初の思惑どおりの利益)が確保されたことになります。

反対に、半年後、金価格が5,500円/gに値上がりした場合には、先物取引では500万円(=(5,000円/g-5,500円/g)×10kg)の損失が発生しますが、現物取引では4,800円/gが採算価格のところ5,500円/gで販売できるので、700万円(=(5,500円/g-4,800円/g)×10kg)の利益を上げることができます。全体としては差引きで、この場合もやはり200万円の利益が確保されたことになります。